Se connecter「誘ったのは、さっきたまたま会って、いい機会だからと思ったからだけど。一度今話しておきたいと思ったのは、元々思ってたことよ」「どうして、私に……?」「あなたのとこの社長のことで、あなた落ち込んでいるんじゃないかと思って」「えっ!?」すると、まさかの藤代さんからのダイレクトなその言葉が飛んでくる。「いえ、あの、それは……」当事者でもある藤代さんからそれを尋ねられるとは思ってなくて、思わず動揺する。「フフ。図星かしら」藤代さんは余裕ある微笑みと表情で声をかけてくる。「あの……藤代さんは、大丈夫ですか……?」さすがに今回は慧さんだけじゃなく藤代さんの名前も出てたし、少なからず藤代さんにも影響はあったはず。だけど、それにしては、あたしほど落ち込んでも気にかけてもいないように見える。「えっ? あたし? あたしなら全然大丈夫よ」「そ、そうなんですか?」そう言い放つ藤代さんが、特に嘘ついてるとも誤魔化してるとも思えず、ホントに平然と答えるその姿に、少し拍子抜けする。「フッ。こんなの気にしてたらまともに仕事なんて出来ないわ」「です、よね……」すごい。全然気にしてない感じだ……。「まぁこうやって顔出して、それなりに人に知られてる仕事してるんだから、それなりに話題にされることは元々覚悟はしてるわ」「そんなもんなんですね……」ただの一般人のあたしには到底わからないことだけど、でも藤代さんの立場にもなると、こんな風に騒がれてもそんなに気にはならないということだろうか。それとも気にしててもキリがなくて仕方がないということだろうか。どちらにしても今の藤代さんは、とても強く見える。それも別にそうしようとしてるんじゃなく、自然にそうなっている、みたいな。「こういう業界にいるとね、いい話題も悪い話題も自分が知らないところで、好き勝手に騒がれるの。そこには嘘も真実もそれぞれ存在するけど、だけどいちいちそれを否定して言い回ることも出来ないし、する必要もないと、あたしは思ってる」「悪い話題も否定せずそのままですか?」「結局どんな話題でも真実を話したとこで、それが真実と信じてもらえるかもわからないし、嘘のままにしておくことの方が時には良かったりもする」「そういうものなんでしょうか……」でも、真実を話さずに、誤解されたままなんて、少し悲しいな……。
そんな不甲斐ない自分に落ち込みながら、あたしはトボトボと肩を落として帰宅しようと会社の廊下を歩いていると。たまたま会議室から出てきたある人と鉢合わせする。「あら。お疲れ様」「あっ、お疲れ様です」その人は、今まさに話題になっている藤代さんだった。なんかこの人とは、気まずいとこばっかりで会っちゃうな……。でも特に話すこともなく、「失礼します」と伝えて、その場を去ろうとすると。「ねぇ、ちょっと待って」なぜか藤代さんに背後から呼び止められる。「はい?」「今日この後、予定ある?」と、なぜかこの後の予定を聞かれる。「えっ、いえ、特には……」「そう。なら、この後、付き合ってくれない?」「え!?」藤代さんのその言葉の意図がわからず思わず聞き返す。「ご飯ご馳走するわ。一度あなたとゆっくり話がしたかったの」「えっ? はぁ……」ますます意味がわからない。だけど、まっすぐにあたしを見つめてくる藤代さんになぜか断ることが出来ず、あたしは「はい」と頷いていた。それから藤代さんに連れてきてもらった場所は、ちょっとした和食の料亭。VIPが行きそうな奥の個室へと案内され、テーブルを挟んで向かい合わせに座る。うわ~なんかめちゃ高そうな店だけど。こんなとこ、ご馳走してもらっていいのかな。てか、なんで ご馳走してくれるのか全然わかんないけど。「好き嫌いはある?」「いえ。なんでも食べられます」「そう。じゃあ、ここのおすすめのコースでもいいかしら?」「はい」そして料理も藤代さんにお任せして、あたしはただどうしていいかわからずいると。「フフ。なんだか落ちつかないみたいな表情してるわね」「あっ、いえ。はい」わかりやすくそれが出ていたのか、そのままのことを藤代さんに指摘される。だけど、やっぱりここにいる理由がわからず。「あの、今日はどうして誘っていただいたんでしょうか……?」と、藤代さんに尋ねてしまう。
それから数日後。慧さんがシンガポールへ移動した頃。また慧さんの新たな報道が持ち上がった。しかもまた熱愛記事。もちろん、今度もあたしが相手ではない。今度の相手は、藤代さんだった――。どこでどう二人の関係が漏れたのかはわからないけど、二人が昔恋人関係であることが、今度は取りざたされていて。尚且つ、その前に報道された美山さんとの三角関係かと、更に白熱した記事になっている。その記事も話題にしたいからなのか、少し悪意を感じる記事で、美山さんの時は、慧さんとあたしの気持ちがちゃんとしていたら大丈夫だと思っていたのに、今回は少し自分の気持ちが乱されているのもわかる。多分その記事の内容について、それに便乗した女性がいる。それはあたしと付き合う前に、慧さんがお酒を飲んだ時に、酔っぱらってそれなりに仲になっていた女性の人たち。それが数人。記事の内容からして、きっと慧さんに本気になってもらえなかったこと、相手にしてもらえなかったこと、その口約束を守ってくれなくて付き合いもできなかったこと、そんな昔慧さんのしてきてしまったことが、ここに来て全部明るみに出てしまったのだ。きっと美山さんが報道されて、今まで関係してきた数々の女性が悔しくなってきたのだろう。ここに来て、そんな報道に乗っかって、そんな暴露するなんてありえない。そんなのずるい。きっと少なからず慧さんはその女性たちを傷つけることはしていない。でも、あたしが出会う前の慧さんは女性に対してどんな慧さんだったのかは、正直わからない。だからそうあたしが思ってても、ホントはその女性たちはそれぞれ何かしら傷ついてることがあるのかもしれない。好意を持った相手に、それなりに気持ちを返してもらえて、だけど最終的には酔っぱらった故の言動だったと説明したところで、やっぱり納得出来る人は少ないのかもしれない。あたしが慧さんとこんな風に始まったのも、そのやり取りは続いていたし、実際あたしがあの彼女役をやっていない時は、どんな風に慧さんがそれを終わらせたのかもわからない。だから、ただその想いを受け止めてもらえなかっただけでも、その女性たちは傷ついてしまっているかもしれない。だけど……、それで慧さんを陥れるようなことをするのは違うと思う。こんな状況になって、初めて昔の慧さんを知らないことが悲しくなる。悔しくなる。も
「ありがとうございます」『ん? 何が?』「電話、かけてきてくれて。慧さんの言葉を、声を、届けてくれて」だから、今あたしはその嬉しさを伝えるだけ。『オレが依那の声が聞きたくて、話したかったから』「嬉しいです。これで慧さん帰ってくるまで、また頑張れます」『オレも。依那と出会ってから、依那が当たり前にいてくれてたから。やっぱ長く離れるとオレも頑張れる力出ないみたい』「ホントですか?」『もちろん。依那がそばにいてくれて、メシ作ってくれて、ずっとオレを気にかけて支えてくれたことで、オレは日々頑張れてたんだなぁって、離れてまた初めて実感した』あたし自身が望んでしてくれることを、慧さんはそうやって感じてくれるなんて……。だけど、きっとそこには、あたしが慧さんを大好きで、その想いと共に存在してるのは確かだから。だから、あたしのその想いが、慧さんに届いてるのだとわかって、また嬉しくなる。「あたしの当たり前が、慧さんにとっての当たり前になってくれて嬉しいです」『そうだな。オレにとって依那はもう当たり前にいる存在だから。だからこそ、オレにとって、それだけ依那が大切な存在なんだってことだからわかっておいて』「はい」きっとその当たり前はマイナスの意味じゃなく、プラスの意味なんだと慧さんは伝えてくれているように感じた。いつか当たり前は慣れて飽きてしまう時がくる。だけど、あたしも慧さんとは、その当たり前がそういう意味じゃなく、いて当たり前の幸せを、ずっと感じ合える関係でいたい。当たり前だからこそその幸せにまた幸せを感じられたり、もっとその幸せが増えたり、大切に感じたり、そういう当たり前を、あたしは慧さんと作っていきたい。だからこそ、慧さんに好きでいてもらえる努力はし続けなければいけないし、好きだというその気持ちを、ちゃんと慧さんに伝えていかなければいけない。「慧さん。大好きです」だから、遠く離れている時だからこそ、会えない日々が続くからこそ、この言葉を伝えよう。不安だとか、寂しいだとか、そういう気持ちも全部ひっくるめて、結局その気持ちが一番大事だから。『ん。オレも』自分の想いをなかなか言葉にしない慧さんが、ここまで伝えてくれるだけで十分。あたしのその想いに対して、そうやって返してくれるだけで、ちゃんと届いてるのだと感じられる。そして、その言葉
『それ以外は?』「えっ?」『なんか不安だったり伝えておきたいことある?』「えっ……!?」慧さんからそう言われ、一瞬美山さんとの記事や、さっきのやり取りを思い出す。だけど、慧さんのこの言葉がそれを指してるのかはわからない。そもそも海外で忙しくしている慧さんが、今そんな情報を知ってるのかもわからない。でも、情報通の慧さんだから、もしかしたらもうすでにそれも知っているのかもしれない。だから、もしかしたら、あたしが不安で寂しくなったタイミングで、電話をかけてきてくれたのは、それを気にかけてなのかもしれない。だけど、もしかしたら、本当に同じタイミングで、あたしが慧さんを思い出して恋しくなってたのと同じように、慧さんもそう感じて、ただ電話をくれただけなのかもしれない。「いえ。大丈夫ですよ。慧さんは、お仕事頑張ってください」今慧さんが何を思って、何を知って、何を感じているかはわからない。だけど、今あたしが不安を伝えたところで、慧さんは出張中でどうにか出来るわけでもない。結局はその場しのぎの言葉になるかもしれない。だから、やっぱり今それを慧さんに伝えることはしないでおいた。『うん。ありがとう。依那の声聞けて、依那と話せてまた頑張れそう』「あたしもです。慧さんちょっと恋しくなってたんで、こうやって話せて嬉しかったです」だけど、恋しかったその気持ちは、伝えたくなった。それくらいは大丈夫だよね?だって、どんな時だって、あたしは慧さんをずっと恋しく想ってるのは確かだから。『ん? ちょっと……?』「え?」『ちょっとしか恋しくなってなかったってこと?』すると、電話越しから、慧さんの少し嬉しい意地悪な言葉が返ってくる。「あっ! いえ! めちゃめちゃ恋しいです! めちゃめちゃ慧さんに会いたいです!」そして、そんな慧さんにまんまと流されて、勢いよくあたしはその想いを伝えてしまう。『ハハ。よかった。出張で離れてる間に、オレへの気持ちも離れていってるのかと思った』「えっ!? そんなことあるはずないじゃないですか! 逆にこの会えない時間で慧さんの想いも強くなってます!」『なら安心した』やっぱり今日の電話での慧さんは、いつもと違う言葉をあたしにくれる。ほんの少しかもしれないけど、慧さんがこんな後ろ向きな言葉をあたしに対して、こんな言葉を伝えるのは
「あたしも……。同じことさっき思ってました」『依那も?』「はい……。仕事終わって慧さんどうしてるかな~って考えてて。慧さんの声が聞きたくて、電話しようとしてたんですけど、仕事の邪魔もしたくなくて……」『そんなの気にしなくていい』すると慧さんはその言葉を打ち消すように、すぐにそんな風に言葉を返す。「えっ?」『依那が声が聞きたいと思ったら、電話してくれたらいいから』そしてそんな言葉を返してくれる。「でも……。迷惑になるんじゃ……」『迷惑なら言ってないよ。てか、依那がすることで迷惑なんて一度も思ったことないから』「慧さん……」電話の向こうで優しく響くその声と言葉に切なくなって胸がキュンとなる。『だからオレもこうやって依那の声が聞きたいって思ったら電話する』「はい……」こんなにストレートに伝えてくれる人だったっけ。逆に距離が離れてるから会えない分、伝えやすくなって素直に伝えくれてるのかな。『でもまぁ、どうしても出れない時もあるかもしれないから、その時は着信か留守電に入れておいてくれたらいいよ』「留守電に入れておいてもいいんですか?」『もちろん。その時話せなくても逆に留守電に声残しておいてほしい』「えっ、逆に?」『うん。あとから何度でも依那の声聞けるのも嬉しい』あぁ、そんな風に思ってくれるんだ。ホントだ。それも逆に嬉しいかも。いつでも自分だけのメッセージや声聞けるの、いいな。「じゃあ、慧さんも、もしあたしが出れなかったら、声入れてほしいです……」『うん。わかった。オレもちゃんとメッセージ残しておく』「はい」『ちゃんと着信かメッセージ残してくれたら、時間出来た時また返すから、安心して』「はい」慧さんは、あたしが全部言わなくても、ちゃんとあたしが伝えたいこと・望むことを感じ取ってくれて言葉にしてくれる。そこにちゃんと安心を感じられる。
「依那。おはよ」「あっ、桜子おはよ~」会社に入るとすぐ桜子が声をかけてきた。「えっ、なんで依那こんな早いの? 今日朝からなんかあったっけ?」「いや~別にそういう訳ではないんだけど~」そう。普段のあたしは会社から自宅が少し遠いせいで、タイミング合う電車がなくてもっといつも出勤時間が遅くて。 桜子のが大体早く着いていることが多い。 だけどたまに仕事で朝早くから何かしなければいけない時とか外回りする時とかは早かったりする。でも今日は社長の家からの出勤でこんなに早く着いたとは……、さすがにまだ桜子にも言えない……。 というのも、社長の家からどれくらい会社まで時間かかるかがわからない
「あとこれ。登録しといて」「ん!?」「オレの連絡先」「えっ!!??」目の前に出されてるこの携帯の画面は社長の連絡先!「いや、一緒に住むのに連絡先交換しとかなきゃ困んだろ」「あっ、そっか……。てか、いいんですか? そんなのあたし聞いちゃって」「いいから教えてる。ほら早く。登録しろって」「あっ、わかりました」社長は連絡先までも抵抗なくあたしに教えてくれる。この人ガード固いのか固くないのか全然わかんない。 っていうか自分が少しでも信頼出来ると思った人にはこうやって心開いてくれるってことかな。 あたしは急なそのやり取りに戸惑いながらも少し嬉しくなる。そして、社長の連絡先を登
「あっ、おはようございます」「はよ」翌朝。 起床してリビングに顔出した社長にキッチンから挨拶する。「お前もう起きてたの?」「はい。朝強いんで自然と目覚めるんです」「マジか。健康的だな。オレは断然夜派で朝弱いから羨ましいわ」「そうなんですね。確かにまだ眠そうですね」「うん。眠い」Tシャツとパンツ姿で髪も少しボサッとしたラフな社長が、まだまったりした表情で呟く。いや、とろんとした顔可愛いな。 いつもはビシッとした姿の社長しか知らないから、正反対のこんな姿新鮮。 髪も寝起きでセットしてないからか、ちょっといつもより幼く見える。 というかカッコいい感じから可愛い感じ? ほ
「っていうか、そんなあざとい女性の感じわかるくせに、なんで毎回それに引っかかって面倒なことなってるんですか?」うん。そもそもそれわかってんなら普通引っかからないよね? なのになんで酔って口説いて結婚の話までなってんの?「ほとんど仕事関係の流れだからだよ」「仕事関係の人とそんなんなっちゃってんですか?」「オレだってなりたくてなってんじゃねぇよ」「ならなんで」「基本取引先とか新しい顧客とか、どうしてもメシと酒の付き合いは外せねぇんだよ。そこから紹介だとか姉ちゃんいるとこ連れてかれたりすること多いというか。さすがににうちの社員には手出すことは絶対ないけど、酒の付き合いではちょっと気







