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004話

last update publish date: 2026-10-04 16:51:29

 入口のすぐ近くにある内側のでっぱりを指で強く押され、私は堪らず男の胸に顔を埋めた。その瞬間、お兄ちゃんと同じ、あの清潔で上品な香水の香りが鼻先を掠め、私は無意識にそれを思いきり吸い込んでしまう。

 脳がお兄ちゃんだと勘違いしたかのように麻痺し、そこからは堰を切ったように蜜が濡れてくる。

(イっちゃう……っ、でも、絶対にイクもんか……!)

 見知らぬ男の手で汚される悔しさに必死で堪えるけれど、その拒絶を見透かしたかのようなタイミングで、クリトリスをきゅっと指先で摘ままれ、同時に内側のでっぱり――Gスポットを強く押し込まれた。

「ん、……っ!!」

 堪えきれず、私は一瞬でイってしまった。男の分厚い胸筋に顔を埋めた状態で、躰がガクガクと小刻みに震える。声を漏らさないよう、痛いほど唇を噛み締めて耐えた。

 けれど、休む間もなく、熱くて硬い、ぐっしょりと濡れたものが足の間に滑り込んできた。下着を隔てているというのに、恐ろしいほどの熱量が肌に伝わってくる。それがなんなのか、混乱した私の頭ではもう分からない。

 ロングスカートの内側だけが、別の空間みたいだった。男は乗客の目の前で、ズボンの前を寛げ、剥き出しにしているのだ。

 男はその熱い何かを、私の薄い下着を隔てた割目の正面にピタリと嵌め込んだ。そして、電車の小刻みな揺れに合わせて、その大きな塊を割目にゴリゴリと擦りつけてくる。

 男は私の両尻をガッチリと掴んでもみくちゃにしながら、有無を言わせない力で腰をガツガツと押し付けてくる。電車の小刻みな揺れに合わせて、下着越しに擦りつけられる生身の熱い隆起は、私を壁へと縫い付けていた。

 私の背中は冷たい壁、前からは男の質量。どこにも逃げ場はなかった。

 正面から生身の熱が押しつけられるたび、脳は知らない男だと叫んでいるのに、躰は鼻先を満たす匂いだけで「お兄ちゃんに守られている」と錯覚し、壁に押しつけられたまま緊張を解いてしまう。

「っ……!」

 あろうことか、私は壁に背中を張り付けられたまま、見知らぬ男の腕の中で、お兄ちゃんへの安心感に抱かれながらまたも卑しくも絶頂を迎えてしまった。

 私が快感の波に呑まれ、男の胸の中でぐったりと躰を震わせた、その瞬間だった。

 男の体が獣のように一度、大きく強張る。

 お尻を掴んでいた男の手が、強引に私のショーツのゴムを引き下げ、隙間から自身の熱い塊を私のショーツに捻じ込んできた。

(え……っ!? やだ、なにか熱いのが――)

 挿入こそされないものの、ショーツの内側の布地と私の肌の間に、男の生身が強引に滑り込んでくる。

 恐怖で叫ぼうとした瞬間、逃げ場のない冷たい壁に向かって、男の腰がひときわ激しく叩きつけられた。

「……っ、ふ……!」

 男の喉から、低く押し殺した熱い吐息が漏れる。

 同時に、私のショーツの内側で、ドクドクと脈打つような熱い衝撃が溢れた。

 男が身を引いた後、残されたショーツの中で、重く不快に肌にへばりついていく感覚が生々しく私を絶望させた。

 次の駅についてドアが開いた瞬間、私は力が入らない足で半ば転がるようにしてホームへと飛び出した。

(……最低だ、私)

 恥ずかしかった。

 怖かったのに、途中から躰が言うことを聞かなくなっていた。そのことが、痴漢に遭ったこと以上に、自分を惨めにさせた。

 立ち上がろうとしても、膝がガタガタと震えて力が入らない。

 何より、動くたびにショーツの内側でドロリとしたものが太腿を伝って落ちていくのが分かって、余計に動けない。

 パニックな頭で、スマートフォンを握り締める。液晶に浮かぶ「健くん」からの通知を見た瞬間――私の頭の中に浮かんだのは凌さんだった。

『痴漢に遭ったりでもしたら、すぐに俺に連絡するんだぞ』

 涙で視界が歪むなか、私は縋るような思いで、健くんの通知を無視して凌さんの番号をタップした。

 コール音が二回鳴っただけで、すぐに繋がる。

「……もしもし?」

 自分でも情けなくなるほど、声が掠れていた。

『どうした』

 凌さんの低い声。いつもと変わらない、落ち着いた声。それだけで、目の奥が熱くなった。

「あの……電車で、痴漢に……」

『今どこにいる』

「S駅の、ホーム、のベンチ……っ、う、ぅく……っ」

 私はただ、子供のように泣きじゃくった。

『分かった、動くな。今すぐ行くから、そこで待ってろ』

 いつもの冷静な声を少しだけ乱して、凌さんはそう言って電話を切った。

 ――それから、本当にすぐだった。

 数分もしないうちに、人混みを掻き分けて凌さんが走ってきた。息を切らし、彼は私の前に膝をつくと、何も言わずに私をその大きな腕で力強く抱き締めた。

 凌さんの広い胸に顔を埋めると、朝の玄関で嗅いだ清潔で上品な香水の香りが、私の鼻先を掠めた。

(ああ……お兄ちゃんの、匂いだ……)

 痴漢とは違う、私を包み込んでくれる優しい匂い。

「怖かったな」

 低い声が、頭の上から降ってくる。

「……うん」

 泣いた。声を押し殺して、凌さんのスーツを握り締めて、泣いた。

 この手に守られている限り、私は安全だ――。

(お兄ちゃん……。よかった、お兄ちゃんが来てくれて……)

 不思議だった。

 さっきまであんなに震えていたのに、凌さんの腕に包まれた瞬間、強張っていた体の力が、嘘のように抜けていく。

「今日は大学を休め」

 凌さんが私の顔を覗き込み、親指で涙を拭う。私は、擽ったさに目を細めた。

「家でゆっくり休もうな。今日はずっと、俺が傍にいる」

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