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10.髪は私の命じゃない。

last update Last Updated: 2025-06-08 21:54:23

「皇子殿下、すぐにでも帰宅したいのですがお送りいただけますか?」

私がライオットを訪問し、微笑みながらそう言うと彼は驚いたように返してきた。

「アランは? それに、その髪!」

彼は驚いたように私の髪を凝視していた。

「まだ日程が残っております。皇太子殿下はまだお残りになるようです。私は負傷した私の騎士も気になりますし、先にお暇することにしました」

驚くのも当然だ、私は髪をさらに短くショートカットに切ってしまっていた。

「分かった準備するから、少し待ってくれ」

ライオットはすぐに数名の皇子軍の騎士と馬車を準備してくれた。

「私の騎士たちの様子が気になりますので、コットン男爵邸に立ち寄っていただけると助かります」

騎士たちの様子が気がかりだった、容態が急変したりはしていないだろうか。

「分かった⋯⋯」

私を心配するような揺れる瞳で彼が見つめてくるので、すぐに馬車に乗り込みカーテンを閉めた。

主人公だから魅力のパラメーターが200くらいあるのかもしれない。

気がつくと彼のことを考えている。

(それは今考える必要のないことなのに⋯⋯)

せめて、彼を見ないようにして視覚からの情報をカットしないと。

帝国貴族は、みんな表情管理が得意で能面のような顔をしているのに、彼は表情管理がほとんどできていない。

笑わないようにしよう、感情を読み取られないようにしようとしているのは分かる。

しかしながら黄金の瞳に感情が出てしまっていて、その面白さが私のツボにはまり魅力的に見えてしまっているだけかもしれない。

今回も、彼の側が一番安全だから彼にアーデン侯爵邸に送るようにお願いしただけで側にいたいわけじゃない。

私は馬車の中で情報を整理した。

早く私の予想の答え合わせがしたい。

エレナの部屋に戻り、メイから情報を聞き出そう。

他にも有効な情報が侯爵邸に戻ればあるだろう。

私はこの世界のエレナと違って、帝国で権力を持ちたいとは思っていない。

ついこないだ来た帝国に対して愛着もない。

しかし、元の世界に戻れる手段を探すにしても生き延びなければならない。

死んだら戻れるなんてギャンブルをするつもりはない。

「親を殺された子は殺した相手を殺しても良い」

エレナがライオットに言っただろう言葉、ここでいう殺した相手とは誰だろう。

平民とはいえ、皇子の実母を殺しても咎められない人物。

(皇后?)

ありえる選択肢だ。暗殺をさせても良いし、何らかの罪を着せ処刑をした可能性もある。

おそらく、死に方に疑義があっても周りは何も言えないはずだ。

それほど、レオハード帝国の身分制度は厳しい。

上の身分の者が下の身分のものをどう扱おうと咎められることはまずない。

でも、夫の浮気に5年も引きこもったたことから考えるとそんな攻撃的なことをする人物だろうか。

(皇帝⋯⋯)

もし、こちらなら女としては許せない。

皇后の家紋の力で皇帝になったため頭が上がらないとは聞いていた。

皇后のご機嫌とりに浮気相手を抹殺するようならそんなひどい話はない。

いずれにしても、皇帝をライオットが殺していたらと思うとぞっとした。

いくら皇子でも反逆罪として処刑されるだろう。

しかし、エレナが女帝を目指していたとしたら、皇帝と第1皇子を1度に始末できて理想の形にも思える。

帝国法だと少年であるアランでも皇帝に即位できる。

その時点で現皇后は皇太后となり皇后は空位となる。

アンバランスなことに未成年では軍を動かす法などは裁可できない。

来月で成人になるエレナに権限を与えて裁可を任せる可能性がある。

エレナとアランの信頼関係を見るに、彼はもっとたくさんエレナに仕事を任すかもしれない。

帝国を実行支配ができた段階で、アランを秘密裏に処理すれば良い。

婚約者を失った悲劇の女を演じ、多くの実権をその時点でエレナが握っていたとするならば女帝になれるのではないだろうか。

私なら自分が成人する1年前には準備を整え、あとは何もしなくても女帝になれるようにするだろう。

最後の1年はゴールしてからの妄想に費やしたいものだ。

エレナが成人するまであと1ヶ月。

おそらく、もうエレナの仕掛けた仕掛けが動きはじめている。

石橋を叩いて渡るようなことはしない、完璧な石橋をつくってから鼻歌交じりに渡る思考。

きっと、その仕掛けにミスがあるか、ライオットが仕掛けを壊すか。

どちらにしろ私はその仕掛けに気がついておく必要がある。

私がアーデン侯爵邸ではじめに気がついた違和感。

緩慢な警備体制。

危機感の欠落した護衛騎士たち。

私とエレナの思考回路が似ているのなら、あれをほっておくはずがない。

自分が自由にならない環境の中、窓の外で騒ぎ仕事をおろそかにしている騎士をみるのは腹が立つはず。

エレナはあえてほっておいたのだ。

きっと彼女なりの狙いがあって。

もし、この予想が当たっていたとしたら私は自分が今持つ道徳観を捨てないといけないかもしれない。

エレナは親まで切り捨てる予定だったということだから。

無関心な癖に婚姻のコマには使うところが彼女を怒らせたのだろうか。

そして、おそらくエレナはエスパル王国の戴冠式があっても参加するつもりはなかっただろう。

正直、アーデン侯爵邸の騎士たちは軟弱すぎて私もライオットが現れなければ死んでいた。

アーデン侯爵邸の窓から修学旅行のお土産の木刀を振り回すような訓練を見た事はあるが、やはりそのレベルだったということだ。

体調がすぐれないなどと言えば、アランは無理はさせないだろう。

エレナが行かなかったら、エスパルの奇襲攻撃のターゲットは彼になっていた可能性もある。

まあ、侯爵邸の騎士たちが弱小ということが漏れていた可能性は否定できないが。

おそらく、エレナはアランが消えれば消えたでそれを利用し新しいプランを考える。

なぜだか、流れるようにエレナの思考が読めてしまう。

こんなにも自己中心的で賢く、冷酷になれる彼女がいったいどこで失敗したのかも気になるところだ。

馬車が止まる。コットン男爵邸に到着したようだ。

「あの、侯爵令嬢大丈夫ですか? あの髪は女の命といいますし⋯⋯」

ライオットが私をエスコートしながら、心底心配そうに見つめてくる。

私を敵視してきたあなたはどうしたのよ、そうやってお人好しだと利用されそうで心配になるじゃない。

「夏を先取りしただけよ。いっとくけど、髪は私の命じゃない。死んだ細胞だから」

そういって私は彼とは目を合わさず負傷した私の騎士たちのもとへ急いだ。

一通り状態を確認し、コットン男爵邸の方々に礼を尽くし家路を急ぐ。

ライオットが私を馬車に乗せると、手をのばして髪に触れようとした。

少し悩んだような表情を見せた末、手を引っ込める。

長い髪の方が好きなのかしら。

短くなった髪をなでてみると、先刻、ライオットに撫でられた感触が蘇る。

毛先ばかり触っておかしな撫で方だった。

(毛先フェチなのかしら。相変わらず面白い男⋯⋯)

なら、ショートカットでも。

ふと、浮かんだ雑念に首を振り、彼を見ないで済むようにカーテンを閉めた。

私が髪を切ったのにはいくつかの理由がある。

アランに叱責され、私は改めて自分の立場を把握することができた。

皇太子と貴族令嬢の1人に過ぎない私では身分の違いがある。

彼が気にくわない行動を私がとれば、咎められ私は反論することも許されない。

しかし、彼に何の断りもなく切った髪を見れば彼も気がつくだろう。

大好きなエレナの所有権は今、私にあるということ。

彼女は今、私の意向によってどうとでもできるということ。

そういったことを理解してもらうため、明朝になったら私が帰宅したことを彼に伝えるよう伝言を頼んだ。

それに、中世ヨーロッパのようなこの時代の理容師に切ってもらうより自分でカットした方がずっと良い結果になると思った。

髪をカットして気がついた。

自分は元からショートカットが好きなのだろう。

この髪型の方が、ずっと自分らしくいられる気がする。

アランは私に会えない間、私と話さなければと慌てるし悩むだろう。

それは、私に頭を下げさせたあなたへの罰。

あなたは帝国の皇太子、権力のある立場なのだから、もう小学生扱いしてあげるつもりはないわ。

初対面で私に優しいと言ってくれて、初めから協力的だった彼。

もうあのような関係には戻れないだろう。

そして、私はこの窓の外にいるライオットをどうしたら良いのだろうか。

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