All Chapters of お持ち帰りした異世界の皇子を返品したい: Chapter 1 - Chapter 10

58 Chapters

1.人生最良の日に異世界へ

「お嬢様、起きてくださいませ。お嬢様」目が覚めると見慣れない天井だった。天井?いや、天蓋だ!私は勢いよく目覚める。「今日は皇太子殿下とお食事のお約束ですよね。準備を始めましょう」全く、理解できない。皇太子?どういうことだろう。私は日本の高校生で、今日は東大の合格発表で合格を確認した帰り道だった。私は親に合格を報告しようとカバンからスマホを出していたら車に轢かれそうになったんだ。「え! どういこと?」「どうしました? お嬢様そろそろご準備をはじめませんと」周りを見渡すと西洋風の煌びやかな家具に囲まれていた。洋館? そうだ帰りにこの合格の余韻に浸りながら浅草の芋羊羹でも買って帰ろう。それから、美容院で髪の毛を染めて、ピアスも開けたりして。オシャレな服も買いたい。長い受験勉強生活から解放されたんだ。そんなことを考えているうちに私は美しいドレスに着替えさせられていた。鏡台の前の椅子に座らせられ、長い髪を結い上げられている?え! 長い髪? 長い髪であるはずはない。私はヘアケアなど受験の邪魔だと思い、ばっさりショートカットにしていたはずだ。それとも急激に髪が伸びたのか? いやいや、それはない。艶々の金色のウェーブヘアーにルビーのような赤い瞳。かなりの美人なんだけど、これが私?ビフォーアフターが別人なんですが。メイクの力ってコレくらいなのだろうか?メイクなどしたことがないから分からない。特殊メイクに近い気もするが。えっと、大学デビューを目指して金髪にしてカラコン入れたんだっけ。そんなわけはない。「夢か⋯⋯」思わず、私は呟いていた。「そうです。お嬢様は、全ての女性の夢でございます。お美しく、聡明で、未来の皇后陛下でございます」このメイド服のお嬢さんは何を言っているんだろう。新手のサービスかしら。私、合格に興奮しすぎて無意識に秋葉原まで歩いて貴族お嬢様なりきりサービスを受けてる?「お嬢様では参りましょう」ノックとともに黒髪に翡翠色の瞳をもった真っ白な騎士服の男性が入ってきた。なかなか良い生地を使っている。「本格的ね」思わず呟くと。騎士は不思議そうな顔を一瞬したが、すぐに真顔に戻った。エスコートをされて馬車に乗る。外の風景は立派な庭園が広がっている。もしかして、VRの仮想空間かしら。馬車が揺れに揺れる。気持ち
last updateLast Updated : 2025-05-09
Read more

2.未来の花嫁に挨拶したらどうだ? (アラン視点)

エレナ・アーデン侯爵令嬢、彼女と初めて会ったのは私が6歳の時だった。完璧な礼法を身につけ、美しく実年齢より大人びて見える彼女は兄上の婚約者になる予定であった。兄上は立太子すると同時に彼女と婚約することになっていた。立太子することが、アーデン侯爵家がエレナを婚約者として差し出す条件だったと聞いている。ライオット・レオハード、このレオハード帝国の第一皇子。彼女の一つ年上で当時13歳になる兄上は燃えるような赤い髪に光り輝く黄金色の瞳を持ち、すらりとした長身に、武芸に長けていた私の憧れであった。兄上の赤い髪とエレナの赤い瞳、そしてエレナの金色の髪に兄上の黄金の瞳。兄上とペアで作られた金糸をまとった真っ赤なドレスを着たエレナ。成人をしていてもおかしくないように大人びた2人はお似合いで、並び立つと、その神々しさに周りは息を飲んだ。初対面のエレナと軽い挨拶だけを交わした日から1週間後、両陛下と私、アーデン侯爵夫妻とエレナでお茶の席が設けられた。「本日は皇帝陛下がお話があるということで、庭園の方へお越しください」帝国歴史の授業を終えた私が言われるままに庭園へ向かうと、美しく整えられ、赤いバラが咲き誇った庭園の真ん中のガーデンテーブルに、両陛下、アーデン侯爵夫妻と銀糸をまとった紫色のドレスを着たエレナがいた。「アラン・レオハード皇子殿下に、エレナ・アーデンがお目にかかります」見惚れるような美しい動作でエレナが挨拶をする。兄上の隣にいた時に着ていた彼女の瞳と同じ赤色のドレスに比べて、紫色のドレスは似合ってなかった。「あら、侯爵令嬢の美しさに見とれているのかしら。素敵でしょう?令嬢の美しさが際立つように私がプレゼントしたのよ」母上の言葉に少しづつ状況が理解できてきた。皇室の仲間入りをするから皇室の象徴である紫色のドレスを着せているということか。しかし、続いて聞こえてきた父上の言葉は私の理解の範疇を超えていた。「未来の花嫁に挨拶したらどうだ? 」「は、花嫁?」言葉が続かなかった。だってアーデン侯爵令嬢は兄上と婚約するはず。表情管理は得意なはずが、この時の私はおそらく皇子とは思えない間抜けな顔をしていただろう。聞きたいことはたくさんあったのに、拒否権などないと言いたげな皇帝陛下の視線に掻き消され出てこなかった。そのあと、どのような時
last updateLast Updated : 2025-05-31
Read more

3.あーもう、ネタバレ禁止!

アーデン侯爵邸まで送っていくというアランの提案を断り、宴会場を出て庭園を散歩した。とりあえず冷静になりいつもの自分を取り戻したかった。ただ、第一皇子ライオット・レオハードとレノア・コットン男爵令嬢の姿に、松井えれな時代に見た、とある日の光景を思い出し震えが止まらなくなってしまったのだ。東大受験の前日、私はいつものように電車で参考書を読んでいた。「あー、それ最終巻出たんだ。私も後で買いにいこー」向かいの茶髪の女子高生の大きな声が電車内に響いた。すると向かいのオシャレメガネをかけた女子高生が本から目を離さず答える。「ライオットとレノアがハッピーエンドでよかった」「あーもう、ネタバレ禁止! 」茶髪女子が拗ねたようにいうが、表紙が明らかに赤髪男とピンク髪女のウェディングの絵だ。すでに表紙でネタバレをしている。それにしても参考書を読んでいる私がブックカバーをかけているのに、恥ずかし気もなくあんな俗本を電車で読むなんて。「一番良かったのは、アランとエレナが破滅したとこかな」メガネ女子はネタバレに余念がなかった。「だからネタバレ禁止って言ったじゃん。アニメも楽しみだね」2人のオタク女子高生が楽しそうに話していた。私は、自分の記憶力に感謝した。友達同士楽しそうに話す女子高生が羨ましくて聞き耳を立てたわけではない。昔から一度聞いたことは忘れないところがあった。しかし、何であの時あの本に興味を持って購入しなかったのか今は悔やまれる。あの時の私はしょーもない本、読んでないで勉強しろよと思ったのだ。視野が狭かった。こんなことになるのなら見識を広める為に読んでおくべきであった。まあ、今となってはあとの祭。「私は今、あのライトノベルの世界にいるんだ」現実主義だと自負しているが、状況がそのファンタジーな事実を認めさせた。キラキラした紫色の瞳をした実年齢よりも成熟した精神をもつ優しい少年アランのことを思い出す。「小学生を破滅させる
last updateLast Updated : 2025-06-01
Read more

4.卑しい踊り子の血を引いているではありませんか。

私は昨日のメイとの話を部屋で整理していた。一番驚いたのは私のこの世界の母にあたるミリア・アーデン侯爵夫人が、皇后陛下の妹君であり、つまりはアランは私の従兄弟にあたるということだ。「まったく、どこのハプスブルグ家よ」6歳近くも年下の従兄弟と結婚なんて自分の価値観とは離れすぎていて、エレナはよく受け入れていたものだと思った。そして、アランと婚約する前はライオットが侯爵邸に度々訪れていたらしい。「お嬢様、メイには分かっておりましたよ。ライオット様といらっしゃる時ご無理をされているということ。政略的なものとはいえお嬢様のような完璧なお方があのような下賎な血筋のものと結婚だなんてありえませんもの」彼女は差別意識が強い人のようだった。「ライオット皇子殿下は皇族よ」皇族に対して、平気で侮辱するのは酔っているとはいえ危ない。「卑しい踊り子の血を引いているではありませんか」メイは平民でありながら、平民の血を嫌悪しているように思えた。「お嬢様、私はお嬢様にどこまでもついていきます」そして、エレナにものすごく心酔している。私の住んでいた世界では、差別は恥ずべきことだった。その価値観が染み付いている私には、メイの発する差別意識の染み付いた言葉の数々は居心地が悪かった。なぜ、他に爵位を持つメイドやベテランのメイドがいるのにメイがエレナの専属になったのか疑問だった。エレナが12歳の時にメイを専属のメイドに指名したらしい。おそらく私が違和感を感じる彼女の価値観はエレナにとっては心地よかったのだろう。そうでなければ、酔っていたとはいえ皇族の血を咎めたりしない。ライオットの血筋を卑しいと感じるであろう差別主義者。それが、メイから見たエレナなのだ。アランの兄であるライオットと婚約するはずだったのに、6歳近くも下の従兄弟と結婚というのは彼女にとって納得のいくものだったのだろうか。婚約当初12歳のエレナが6歳のアランに恋するとは思えない。親に言わ
last updateLast Updated : 2025-06-02
Read more

5.エレナ、お前も乗れ。

馬車に揺られてもう2日目だ。隣国のエスパル王国での国王陛下崩御にともない、新国王の戴冠式が行われるとのことだった。アランと共に参加することになるが、彼は帝国内の視察中でいわゆる現地集合という形になった。「きゃー!!」ものすごい勢いで馬車が揺れて馬車の窓に頭をぶつけた。「奇襲です。私がお呼びするまで馬車の中で身を潜めてください」少し焦ったようにエアマッスル副団長が窓を覗き込んで私に言った。外を覗くと武装した騎士たちが馬車を包囲している。「誰なの?」窓に飛び散ってくる血の間から、敵の剣の柄の部分に紋章のようなものが見えた。私はひき逃げの車のナンバーを記憶するかのようにその紋章を記憶した。道中が長いこと、エスパル王国と帝国は実は今にも戦争になりそうな緊張状態であることから、私について来たアーデン侯爵家の騎士は50人程いた。しかし、ざっと見た感じ敵はその3倍はいる。かといって、私にできることは何もない。無力程、恐ろしいものはない。「こんなところで死ぬのは嫌、でも⋯⋯」死への恐怖と追い詰められたことでおかしな考えが浮かぶ。「死ねば元の世界に戻れるかも、これから楽しい大学生活を送れるじゃない」「侯爵令嬢申し訳ございません。我々もこれまでです。令嬢だけでも私がなんとかお守りします。馬車を出てください。私が抱えてお逃げします」扉の外は敵も味方も血だらけだった。怖い、ここから出ても安全だとは思えない。私は首がもげそうなくらい首を振った。「帝国軍だー! 赤い獅子だ! 退散しろ!」帝国軍? 味方が来たの?私を抱えようとするエアマッスル副団長の肩越しにみると、燃えるような真っ赤な髪が見えた。「ライオット!」いつの間にか敵は退散し、ライオットが私を呆れたような目で剣をおさめながら言った。「耳をつんざくような、貴族令嬢とは思えない金切り声の正体は侯爵令嬢でしたか。」「皇子
last updateLast Updated : 2025-06-03
Read more

6.機会をみて皇子殿下を誘惑してきなさい。腐っても皇子だ!(レノア視点)

「レノア! ライオット・レオハード第一皇子殿下がリース子爵領でおきてる反乱の制圧に向かわれるらしい。お前も救援支援として参加しなさい」コットン男爵、血が繋がっていることさえ恥ずかしくなるような私の父は、娘がどうなろうとどうでも良いらしい。リース子爵領はうちの領地と同じくらい田舎で貧しい。鉱山などの資源もなく土壌も悪く食物を育てるにも向いていない。そこで私の父と同じくらい欲が深いリース子爵が自分が贅沢がしたいがためにしたことは、土壌に対し何ら対策を施すわけでもなく、領地の税率を上げたことだった。そこに暮らす民も貧しく他の領地に引っ越すような余力もない。どうしようもなく追い詰められ、反乱を起こしては制圧されるそんなことの繰り返しだ。下位貴族の領地の反乱などに駆り出される不遇の皇子、それがライオット・レオハード皇子殿下だった。「機会をみて皇子殿下を誘惑してきなさい。腐っても皇子だ」本当に下衆な父親で吐き気がする。私の母は男爵邸で働くメイドだったが、私を産んだ後、数少ない男爵邸の宝飾品を持って逃げてしまった。逃げ出した母が惜しいのではななく失った宝飾品が惜しくてたまらないコットン男爵は、私を換金したくて堪らないらしい。貧乏男爵令嬢で平民の血が混じった私は周囲から卑しい血筋などと心無い言葉を浴びさせられてきた。しかし、そんな私から見てもライオット・レオハード皇子殿下の境遇は失礼ながら可哀想に思えた。弟君が生まれて以来、皇太子の座も、母親も、婚約者になる人も全てを奪われ、死を望まれ、戦地に送られる皇子。「了解しました」子爵領の反乱は、生きるか死ぬかの激しいものだと聞いた。父は私が戻って来なければ食い扶持が減ったと喜び、皇子の誘惑に成功したら大喜びするだろう。しかし、反抗したところでムチで打たれるだけだ。ならば、父から離れられる機会と思い皇子軍に参加しようと思った。「レノア、こっちをお願い」救援に参加しているのは平民の娘ばかりで苗字がなく、
last updateLast Updated : 2025-06-04
Read more

7.こんな髪あんたにくれてやるわよ。

「レオハード帝国、アラン・レオハード皇太子殿下とエレナ・アーデン侯爵令嬢のおなーり」入場を知らせる声と共にアランにエスコートされながら会場に入った。戴冠式には間に合わなかったが、その後の宴会になんとか間に合ったようだ。「奇襲を受けたと聞いたが大丈夫か?」アランが心配そうに聞いてくる。「ドレス以外は無傷です。後ほど詳細をご報告させてください」ダンスをしながら彼の質問に答える。流石に、敵地でするにはリスクがありすぎる内容の会話だ。ダンスを終え周りを見渡す。水色髪がエスパル王国の貴族だろう。その時、殺気を漂わせる視線に気がつく、振り返れば欲深そうな水色の瞳をした老人が私を見ていた。あれが、ヴィラン公爵ね。年齢を重ねるほど顔に内面がでるとはいうけど、一筋縄ではいかなそう。ライオットの話だと現ヴィラン公爵が宰相である間に3代国王が変わっているらしい。そうなると、おそらくエスパル王国での発言力も相当なものだろう。考えを巡らせていると、急に周りが騒がしくなった。なぜだか周りの視線を集めている気がする。「エレナ・アーデン侯爵令嬢。令嬢と踊る栄光を私に与えてくれませんか?」私に声をかけて来た彼は誰だろう。豪華絢爛な衣装に水色髪に水色の瞳、20代後半くらいのその男は周囲の視線から察するにこの宴会の主役。「光栄です、クリス・エスパル国王陛下⋯⋯」私は彼の手をとって踊りはじめた。なんとなく辿々しいステップに感じるのは、戦争に興じて社交には興味がないということなのだろうか。ライオットから前国王は独裁者で、クリス・エスパルも残虐で切れ者だと聞いていた。しかし、先ほどのヴィラン公爵の視線に比べて威圧感を感じない。むしろ、子犬のようとも言える人懐こさを感じる眼差し、見覚えがるようなこの視線。♢♢♢私は高校時代、一番苦手だった人物、三池勝利を思い出してた。高3の時、私の後ろの席に座っていた人物。髪を金色に染め
last updateLast Updated : 2025-06-05
Read more

8.俺の子じゃないだろ、できがよすぎるー(三池視点)

小さい頃から、俺、三池勝利は賢かった。三兄弟の長男として生まれたが、弟たちの自慢の兄であり、両親の自慢の息子であった。小学校5年生の時、学校の前で無料で模試が受けられるというチラシが配られていた。週末一緒にサッカーをする予定だった友達がその模試を受けるというのに誘われて、受けた模試で何と俺は全国で7位をとってしまったのだ。その後、授業料無料で特待生として迎えると言われて塾に通うことになった。サッカーの時間が削られるのが嫌だと感じたのは初めだけだった。その後サッカーが上手い転校生が入ってきて、俺様を讃える声が激減し、俺は勉強に専念することにした。俺はこっち側の人間だったのか、サッカーは脳筋たちに任せよう。塾での勉強は格段に難しかったが、だからこそ攻略しがいがあった。特に、算数はパズルのようでゲームをクリアするような感覚が好きだった。「俺の子じゃないだろ、できがよすぎるー!」派手な金髪の父は俺の成績表を見ては大げさに褒め称えた。「そうよー! 実はこの人の子なのー!」ノーベル賞を受賞した爺さんを指差しながら、派手な赤髪の母が言う。両親は美容師で仕事でも家庭でも24時間一緒なのに物凄く仲が良い。「兄ちゃん本当にすげー!」興奮気味に弟たちが、称えてくる。「兄ちゃん、かっこいー!」俺は弟たちのヒーローであった。中学受験も塾に言われてトップの男子校を受けたが合格。でも、俺は徒歩圏の共学の進学校に進学した。もったいないと言われたら、「近いから」と某少年漫画のキャラクターのようにクールに返した。中学に入学したらモテて仕方ないだろうなと、入学前から悩んでみたりした。そんな俺の快進撃は中学最初の定期テストで撃沈する。お前ら今までどこに隠れていたんだと思うくらい頭の良い奴が多かった。いつも一番で誉められ続けていた俺が上位にくいこんでおらず落ち込んだ。しかし、地元で有名な進学校の制服を着ているだけで家族も近所の人も羨望の目で見てくる
last updateLast Updated : 2025-06-06
Read more

9.どれだけ男好きなんだ?

「全く何を考えているのですか、侯爵令嬢らしくない。国際問題になりますよ」ライオットがバッサリ切った髪の毛先を撫でて来る。周りを見渡すと人気のない庭園の外れまできたようだ。妖しい光をはなつ王宮が少し小さく見える。「ごめんなさい。感情的になってしまったわ」素直に謝ると頭をポンポンとされた。そんな事、誰かにされた事ないので気恥ずかしくなる。「まあ、大丈夫だよ。何か言われたらお祝いに駆けつけたのに奇襲しされて人質にさせそうになり困惑していたのですわ、って言えばいいよ」ライオットが彼らしくなく私の口真似をしながらおどけたように言うものだから、思わず私もくだけた返事をしてしまった。「うん、わかった」なぜだか彼の前にいると素の自分になってしまう。完璧令嬢エレナとはかけ離れた姿を見せてしまっているようなのに、私の正体に疑問を感じないのだろうか。6年程前までは頻繁に会っていたとメイから聞いた。私が何かおかしな事をしても、それは6年の月日が経ったからだと思っているのだろうか。まあ、婚約者乗り換えみたいな真似をしたエレナを憎むのは当たり前だし、憎まれ口を叩きながらも困った時には助けてくれる彼は優しい人なんだろう。さすが、主人公だな、そんな事を思っていると自分でも場違いな発言をしていた。「コットン令嬢とは長いんですか?」鳩が豆鉄砲をくらったような彼の表情を見て私はおかしな質問をしたことに気が付いて気恥ずかしくなった。「アランと侯爵令嬢よりは短いよ」彼が少し意地悪そうな笑みを浮かべながら返してくる。「優しくて、正義感に溢れて素敵な令嬢ですよね」ヤキモチを焼いていると誤解されてはどうしよう。言葉が明らかに脳を通過してない。これ以上は黙った方が良い。「まあ、そうだな⋯⋯」同意しただけなのに、彼が他の令嬢を誉めている事実に心臓が締め付けられる。「2人ともとってもお似合いです。似たもの同士惹かれ合うのですね」ライオットの表情
last updateLast Updated : 2025-06-07
Read more

10.髪は私の命じゃない。

「皇子殿下、すぐにでも帰宅したいのですがお送りいただけますか?」私がライオットを訪問し、微笑みながらそう言うと彼は驚いたように返してきた。「アランは? それに、その髪!」彼は驚いたように私の髪を凝視していた。「まだ日程が残っております。皇太子殿下はまだお残りになるようです。私は負傷した私の騎士も気になりますし、先にお暇することにしました」驚くのも当然だ、私は髪をさらに短くショートカットに切ってしまっていた。「分かった準備するから、少し待ってくれ」ライオットはすぐに数名の皇子軍の騎士と馬車を準備してくれた。「私の騎士たちの様子が気になりますので、コットン男爵邸に立ち寄っていただけると助かります」騎士たちの様子が気がかりだった、容態が急変したりはしていないだろうか。「分かった⋯⋯」私を心配するような揺れる瞳で彼が見つめてくるので、すぐに馬車に乗り込みカーテンを閉めた。主人公だから魅力のパラメーターが200くらいあるのかもしれない。気がつくと彼のことを考えている。(それは今考える必要のないことなのに⋯⋯)せめて、彼を見ないようにして視覚からの情報をカットしないと。帝国貴族は、みんな表情管理が得意で能面のような顔をしているのに、彼は表情管理がほとんどできていない。笑わないようにしよう、感情を読み取られないようにしようとしているのは分かる。しかしながら黄金の瞳に感情が出てしまっていて、その面白さが私のツボにはまり魅力的に見えてしまっているだけかもしれない。今回も、彼の側が一番安全だから彼にアーデン侯爵邸に送るようにお願いしただけで側にいたいわけじゃない。私は馬車の中で情報を整理した。早く私の予想の答え合わせがしたい。エレナの部屋に戻り、メイから情報を聞き出そう。他にも有効な情報が侯爵邸に戻ればあるだろう。私はこの世界のエレナと違って、帝国で権力を持ちたいとは思っていない。ついこないだ来た帝国に対して愛着もない。
last updateLast Updated : 2025-06-08
Read more
PREV
123456
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status