真の引きこもりたるもの自分の食い扶持くらい家にいながら稼ぐのである。家から出たくないだけで働きたくないわけじゃないからそこんとこ勘違いせんでもろて。え?ここどこ?異世界!?まぁいいやとりあえず引きこもろ。ふむふむ、ここには魔法があるなら魔法使って身代わりを作れば……分身体一号、二号よ!俺の代わりに外で働いてこい!魔法って便利~!
View More俺はどこにでもいる普通の在宅ワーカー。またの名を引きこもり。自室という名の城があるというのにどうしてわざわざ外に出て仕事をせねばならない。誰が何と言おうとサラリーマンになどなるものか!これは俺の自論、それも少々過激なものなのだがあえて言おう。「人生における墓場は就職である」と。
無職やニート、社会不適合者、親のすねかじり、親不孝者。そんな心ない言葉が耳に入ることだって当然ある。実際自宅に引きこもってはいるし、そういうような世間からの見られ方をするのも承知の上だ。同居中の母には肩身の狭い思いをさせてしまって申し訳ないと思っている。
だけど、これが俺の生き方だ。極力人との接触を避けて、話すときはいつも端末越し。これが俺だ。この生き方のどこが恥ずかしいというのか。どこに陰口を叩かれるべき要素があるというのか。自ら稼いだ金で家を建て、そこに女手一つで俺を育て上げてくれた母親を呼んで一緒に住む。しかも27歳でだ。引きこもりだから他の人がどうかはわからないがこれでも十分早い方だろう。たぶん……。
同年代よりしっかり働いているし、親孝行もしている。まぁ孫とかは……うん。それ以外は結構うまくやれているし、陰口を叩かれるのは世の偏見のせいだろう。俺は悪くない。今時自宅で稼ぐ方法などいくらでもあるというのに……。
「家から出たくないから」と言って働きもしないで引きこもって親にかねをせびるのはダメだとは俺も思う。家から出たくないのなら、家を出なくても仕事ができる仕組みを作ればいい。俺はネットを介してたくさんの人と繋がり、仕事も貰えて生活もできるようになった。その努力も無視してあーだこーだ言いやがって。苦情入れてやろうか。こちとらそれなりに弁護士との伝手もあるんだぞ!
そんな俺は今、何の因果か真っ白のだだっ広い空間にいた。
「これって、まさか!異世界召喚ってやつー!?」
――告、違います。転生です。
あ、俺死んだっぽい。
結論から言うと五号くんのたどたどしい口調はそのままということになった。これもまたイメージの産物で今後増えるであろう分霊くん達の貴重なサンプルにもなるし、時間の経過で五号くんへの認識が変化することでたどたどしいも改善されていくだろうからね。 何より可愛い!可愛いは正義!男色とかは趣味じゃないけど小さい子は可愛いから好きだ。ショタコン、ロリコン扱いはやめてくれよ?子供は宝で、可愛いもの。おーけー? 話は変わるんだけどさ、明日三次試験らしいんだよね。え?急すぎるだろって?父様の書類に埋もれてましたよクソが!誰も悪くない。誰も悪くないんだけど、うーんモヤモヤするなぁ……。これでもそれなりに社会経験ありますし?面接とか余裕っすわ。 前回のアレを見た感じ模擬戦の方も余裕そうだしなんとかなるっしょ!◇◇ なんとかなると思っていた時もありました。そんな僕の目の前には今、化け物がおります。『坊主、どこからでもかかってこい!』 す、隙がねぇ……。どこを攻めろといいんで?とりあえず飛ぶか。「んじゃ、手始めに……ファイヤーボール×1000!」『ふははははっ!何だこのマッチの日みてぇのはよぉ!効かねぇなぁ!!』 払うな払うな!一応バスケットボールくらいのサイズあんだぞ!マッチ扱いは無茶だろ!「じゃあこれでどう……だっ!スターフォール!」 時短の簡易版でサイズ的には微妙だけどまぁ対人的には大丈夫で……しょ?は?「おいおいおい!魔力ゴリ押しだから魔力密度だけはクソ高ぇんだぞ?」 もうなんなの!試験にこんな化け物連れてこんなよ!
つっかれた〜!しっかり寝たはずなのに全然疲れが取れてないや。やっぱりいつものと枕が違うからしっかり寝たつもりが眠り浅かったのかなぁ…… ま、とりあえず適度に分霊くんに観光と買い出しをしてきてもらおうかな。枕の件はその間に何とかすればいいしね!いっそ僕の枕維持専用の分霊を作ろうかな。成長に合わせてピッタリの枕も変わってくるだろうしね!自分用にこだわるなら一から作るべきだよね。 そんなことは後回しにして……いや、枕は大事なんだけどね?一旦五号くんに指示出さなきゃだからね!「さて分霊くん五号よ。君には僕の目、そして手足になってもらいます。僕はテストもあってそれなりに疲れてるからね。この身体を一旦休めようと思う。だから、今から渡すお小遣いの範囲内で観光して美味しそうな物を買ってきて欲しい!わかったかい?」『うん!わかったよミシェルさま!』 ま、そんな風に話しかけてもまだこの子に喋らせることは出来てないんだけどね。まぁ分霊くんたちにはフリップ芸仕込んだから不便はないんだけ……ど?「ん?」『ミシェルさまどうしたの?どこかいたいの?だいじょうぶ?』「しゃ!」『しゃ?』「喋ったァァァァァァ!!!」『どうしたの?ボクもことばくらいはなすよ?ミシェルさまがそういうイメージしてつくったんだよ?はなすのなんてあたりまえのことでしょ?』 イメージ……か。僕にはそれが足りなかったのかもね。僕はずっと分霊くんたちのことを指示通りにだけ動くロボットかなんかと勘違いしてたみたいだ。そうだよね、魔法は幻想を現実にする技術だもんね。 彼らは操り人形なんかじゃない。僕と同じ時間を過ごす相棒たちだ。なんでそんな簡単なことに気が付けてなかったんだろう。でも……僕は気が付けた。これで運用の幅も広がったはず。 あれ?五号くんが幼い雰囲気なのはなんでだろう。もしかしてこれも僕のイメージの問題なんだろうか。いや、それ以外にはありえないよね。魔法はイメージ。固定概念は自由な発想の邪魔になる。「五号くんの言葉がたどたどしいのも僕のイメージに五号くんが幼くなっちゃうような雑念が混じっちゃったから?」『うん!ミシェルさまがボクをあたらしくうみだすイメージしたからボクのねんれいが0さいに設定されたんだよ!だからちょっぴりはつおうがたどたどしいかんじになっちゃってるんだよね。』 やっぱりか…
私は魔法学校入試課の職員だ。今年で18年目でなかなかのベテランだと自負している。これだけ長く働いていればイレギュラーはそれなりに経験しているし、今更慌てることもない。そう思っていた……◇◇ 今日は入試課の仕事の山場とも言うべき入学試験、その初日だ。私たちの仕事は説明、監視、記録の大きくわけて三つだ。「試験、始め!」 何回言ったか分からなくなるほど言ったこの言葉。それでも気を抜く訳にはいかない。いくら優秀とは言っても受験を受けに来た彼ら彼女らの年齢なんて所詮十歳かそこらでまだまだ幼い。試験会場で感じる孤独感と極度の緊張によって何をしでかすか分からない。試験官として未然に防ぐのも私たちの仕事。 そんな私たちをかいくぐって問題行動を起こした受験生はその場で退場となる。まだまだ幼い彼ら彼女には少々厳しい処置だが、規則は規則。来年以降の挑戦に期待したい。先程も言ったが麒麟児、天才、神童などと持て囃されていようと幼い子供。試験の結果は皆似たり寄ったりとなることが多い。毎年一人か二人ほど頭一つ抜けた子もいるにはいるが、それも早熟の範囲内。 真に天才と呼ばれる者になるかを今の段階で見分けることなど不可能。学校という競走の場で切磋琢磨して初めて真の才能の片鱗を見ることができる。才能とは一生をかけて磨いていくものであり、せいぜい十数年しか生きてない彼らから才を見出すのは土台無理な話。それが私の持論だ。「二次試験用意、始め!」 彼は神童と呼ばれる今回最年少のミシェル君か。とはいえ彼はまだ四歳だ。四歳はいわゆるなぜなぜ期だ。そんな時期の彼が天下の魔法学校の入学水準に達することなどまずないだろう。 あの侯爵閣下(笑)の目も息子への愛ゆえに濁ってしまったのだろうか。水準に達したとすれば幼い頃から虐待とも言うべき過剰な教育を施した可能性も……いや、あの親バカに限ってそれはないか。やはり試験の対象年齢が低すぎるのだ。これではまともに受験生を測れない。 長年の経験からこの考えもあながち間違っていないだろうと私は考えていた。だが、私はこの日……本物を見た。無論、持論が間違っているとは考えているわけではない。 私の見ている世界と彼の見ている世界が別物だった。ただそれだけの話だ。
「この世を覆う魔の力よ、全てを壊す破壊の力よ。我が手に集い、脈動せよ。」 集中……集中……僕本体はただひたすらに詠唱と魔力操作に集中しろ。足りない魔力は死ぬ気でかき集めろ。そのために4人分も人手を割いてるんだ。頼むぞ御分霊たち!失敗したら飯抜きな?「それは偉大なる星々の輝き。破壊は創造。創造は破壊。森羅万象の始まりにして終わり。闇に閉ざされし深淵を今ここに解き放たん。」 圧縮し続けろ。一度やめればおそらく暴走して制御を離れるだろう。止まるな乱すな。「今一度目覚め、我が元に現界せよ!」 まずい、これ以上は!残念だけど、今の僕じゃここら辺が限界か。「ステラ……ノヴァ。」 僕がその魔法の名を言うと同時に手のひらから指先程の大きさの漆黒の球体が放たれた。完全な状態で発動することこそ叶わなかったもののそのエネルギー量は絶大……のはず。自信がないのは師匠に止められていたからまだ撃ったことはないから。 今気付いたけど……まともな結界ないから無造作に放つのまずかったのでは?フレンドリーファイアとか気を付けてるとこ見せないと倫理的にまずい!的に当てた後も爆発させずに制御して魔力を散らしながら上にかっ飛ばす!アッ…… わぁ〜いい天気だなぁ。アハハハハ〜!さてと……ちゃんとコントロールはしてたし威力に関しては申し分ないはず。威力重視にした関係でちょっと詠唱に時間かかっちゃったけど、そこは許容範囲内だと信じたい。「試験官さん、ありがとうございました。この後って帰っていいんでしたっけ。」「…………はっ!そ、そうですね。この後、一次試験と二次試験の結果を総合的に判断して三次試験参加者を選びますので今日はこれで終了となります。後日試験通過者の方に通知をします。通知の約二週間後に行われる模擬戦形式での試験と面接試験をもって入学試験の全日程が終了いたします。」「ところで座学と実技で一次、二次と別れてるのはなんでですか?」「それは、昔カンニングや替え玉受験が横行していた時の名残りですね。二代目校長が"お前らなんか怪しい動きしたら最初の試験で切るからな!"という思いを込めてこの分け方にしたそうです。」「教えていただきありがとうございました!それでは失礼します!」 これで試験はひとまず終わりか。つっかれた〜!いやぁ〜それにしても天気悪くなりそうだったけど大丈夫みたいだね。雨
座学試験が簡単過ぎて少し焦りを感じているミシェルは実技試験に向けて入念に身体と魔力の体操をしていた。これは少しでもいい結果を残すための悪あがきだ。少しでも力強く、そして繊細に身体と魔力を動かせるように。そんなおまじないみたいなもの。でも、ずっと続けてきたことだからルーティンという意味でもなかなかバカにできないと思う。「受験番号1番から10番、前へ!的に向かって放つ魔法は各自呼ばれるまでに決めておけ!呼ばれたら試験官の合図でその魔法を構築して撃つことになるからスムーズな試験の進行のためにもよろしく頼む。」 試験官さんが十人いてそれぞれ違う人に見られながら違う的を狙うのか。これは何を測るんだろう。威力?精密性?速度?まぁ、試験で撃つ魔法は合図されてからとは言っていたが試験で撃つ魔法以外の行使に関しては特に言われてないし少し準備をしておくとしようか。 とりあえず御分霊を出しておこう。注意されたら注意された時だな。怒られたら謝って魔法を解除すれば許されるだろう。なんてったって完全実力主義の学術都市だからね。 あ、そうそう!この第三試験会場にいるのは二百人くらいらしい。何個あるのか分からない屋外訓練所がそれぞれ試験会場になっていて受験番号の前の記号で割り振られているらしい。だからそろそろ……「試験番号180番から190番前へ!」 やっとチームミシェル(ミシェルの御分霊4体を自らの周囲に配置している。)の出番か!さてさてさ〜て!的を消滅させるくらいの気持ちで頑張っちゃうぜ!どんな的をぶち抜けばいいのか。それ次第だよね。御分霊含めて5人いて今の僕にぶち抜けない物はないとは思うけどどうなることやら。 御分霊たちとの意思疎通よし!自分への各種強化魔法及び祝福よし!魔法の構築イメージよし!座学の結果のこともあるし不安材料はいっぱいあるけど実技に関しては同じ受験者と比べて飛び抜けた実力を持ってる自信あるし大丈夫……なはず!よし!「二次試験用意……始めぇ!」
(あぁ……ダメかもしれない。) 緊張でもう何が何だか分からないまま試験会場に入ったミシェル。そんな彼の前に配られた試験問題は僕にとって最悪の問題だった。 (簡単すぎる……。なんだこの低レベルな問題は!こんな問題で受験者の能力が測れるのか?受験者の中で一番高度な学習をしているであろう殿下もこれくらい余裕で解けるはずだしこの問題はどうなっている!いや、ここは実力主義の学術都市。まさか……これは最低ラインすら超えてない記念受験者を足切りするためなのでは!?) そんなわけはない。腐ってもここは世界最高峰とも言われる学術都市。いくら初等部とは言っても入学してくるのは各地域で神童と呼ばれてきた者たち。その試験内容も彼らが受けるのに相応しいものとなっている。となると誰がおかしいのか。それはもちろん大賢者ヴェルムートの魔力体であるマイクとその弟子のミシェルである。 ミシェルの肉体自体のスペックもさることながら中身の檜木の能力も高い。効率の良い勉強の仕方を知っており、学習意欲もある。そこに莫大な知識を蓄えたマイクが指導をするのだ。どうなるかは明らかである。乾いたスポンジの用に知識を取り込んでいった結果がコレだ。 これはミシェル自身に非はない。比較対象がいなかったのと、マイクが初めての教え子であるミシェルが優秀なあまり調子に乗ったせいである。「僕何かやっちゃいました?」系の主人公ではないのだ。おそらく学校に入って人と交流することでこの認識の偏りは矯正されていくことだろう。罵倒するならマイクにして欲しい。是非とも調子乗んなバカ師匠と罵って欲しい。 (ひとまず全部解き終わったか。一応後半にかけて難易度が上がっているようだが誤差の範囲だな。やはり足切り用でまともな問題は最後のみか。やはり本番は実技のようだな。アーシャにも書き間違いをしないよう言われたことだし残りの時間で見直しをするとしよう。) ◇◇ 「ふっふっふ……今年の受験者は粒ぞろいと聞くがどんな結果になることやら。今年の受験者のレベルの高さを鑑みて平均が五割になるように調整した。その結果今回の問題は歴代最難関と言っても過言じゃない。」 「校長、最終問題はさすがにやりすぎなのでは?あれはかの大賢者が提唱したものの理解できる者がいなかったという例の理論を使う必要があるんですよ?」 「なぁーにあれはた
Comments