LOGINとあるカラオケ店の一室。
神妙な面持ちで話し合いをしている一団の姿があった。「
誰よりも神妙な面持ちの奏多は告げる。
今、この場にいる者たちは件のニュースを知っている。 勿論、奏多の身に起こったことも本人から話を聞いていた。「それに玉水の奴もムカつくし」
志乃が不満そうな表情を顕わにしながら、ポテトを摘まみながら言う。
それをリファとその他の男子女子が宥めている。「でも、玉水も魔法が使えたんだね」
孝也が感慨深そうに言った。
だが、その言葉をリファは即座に否定した。「アレを魔法と言っても良いのか、私は疑問に思っています」
「何故そう思う?」 「ノヴァク、アレは魔法とは別のベクトルで発動されている力としか思えません。私たちは大気中のマナを収束し、内の魔力と結合させて魔法を発動しています。それに高難度の魔法については呪文を詠唱することによって精度を高めているはずだ。ですが、玉水さんの力は無詠唱であり、発動も早い。更に魔法とは違い、具現化したものが残り続けている――あまりにも異常なんです」リファは難しい顔をしつつ、あの日見た秋雨の術の見解を述べる。
本当はあの力について話を聞きたいと思っていたリファ。だが、秋雨と奏多との衝突と男の爆散などが重なりタイミングを逃して聞けず仕舞いとなっていた。 そして、現状として秋雨とリファたち異世界組との間に大きな亀裂が生まれてしまっていた。「魔法ではない何か……それに玉水は五行神家に属しているのだったな」
「その通りだ、ノヴァク。玉水は五行神家の一角、神水守家当主と名乗っていたはずだ」奏多は秋雨の言っていた言葉を思い出しながら言う。
「五行神家……奏多や志乃、孝也は何か心当たりはないのか?」
「残念だけど僕は何も心当たりがないかな。それにニュースを見る限り、政府との間で何らかの取引があったみたいだよ」孝也はニュースで報道されていた内容をスマートフォンに移して、全員に見えるようにテーブルの上に置いた。
「この神木守玲香って人が総理大臣と話をしていたみたいだね。しかも内容は開示されないって話だ」
「確か小倉駅にやって来た遥って人も五行神家の人だったわね」 「はい。確か……神土守でした」志乃とリファが小倉駅で出会った遥を思い出しながら言う。
その話を聞きながら奏多は顎に手を当てながら、口を開く。「五行神家――もしかして五行思想がかかわっているのか?」
「あー、木、火、土、金、水のアレだね。確かに奏多の言う通り、家名からしても間違いなさそうだね」奏多の言葉に、孝也が同意を示す。
とは言え、それがわかったところで意味はない。「ま、今は置いておこう。問題は頂点捕食者だ」
奏多はリファとノヴァクへと顔を向ける。
「ルクシャ・ハーナ。あの男と玉水の会話を聞いた限り、元はリファたちの世界にいた存在みたいなんだが、何か知っていることはないのか?」
「頂点捕食者、ルクシャ・ハーナについても、あの日が初耳でしたね」リファは答える。
が、ノヴァクは「ふむ」と何やら考え込んでいる。「ノヴァク?」
「ああ、済まない奏多。実は奏多たちと出会う前、騎士団の遠征中にとある集団と一線を交えた事があったんだが、確かその時に誰かがルクシャ・ハーナという名を口にしていた覚えがある」ノヴァクは「関連があるかはわからないが……」と前置きをし、話を続ける。
「割と昔から活動している集団のようで、妙な力――そこまで強力ではない使い魔を召喚していたはずだ」
「確かあの男も化物を召喚していたわね」志乃が男の召喚した下僕について話す。
「しかし、志乃たちが戦った奴はアルデネイラと同格だったのだろう? 自分が戦った使い魔は良くてワイバーン程度だったぞ」
「そうなるとあまりにも差がありますね。ですが、まったくの無関係とは思えません」ノヴァクの言葉に、リファは考え込みながら言う。
「明日、私は一度向こうに帰ろうと思っています」
「え、何で?」 「志乃、この一件は私とノヴァクの世界が関係していると思うのです」 「確かにな。ならば、自分もリファと共に一度戻るとしよう。騎士団の詰め所に何かしらの情報があるかもしれない」こうしてリファとノヴァクの一度元の世界へ帰ることが決定する。
奏多も他の異世界帰還者たちと協力し、こちら側で情報を集める方向で動くことにした。「一番は玉水と直接話せればいいのだけど……アイツの連絡先は誰も知らないのよね?」
この場にいた全員が大きく頷いた。
元々は同じクラスだったはずの秋雨だったが、誰も連絡先の交換をしていなかったのだ。 秋雨自身が連絡先交換をしないことを徹底していたことも原因なのだが、普段から目立つような存在でもなく、遊びに誘おうにもいつの間にかいなくなっていたりと、放課後以降の接点が少なかったこともあった。「今思えば、アイツって徹底的に隠していたのね」
志乃が苛立ち交じりの声音で吐き捨てるように言う。
「今更どうしようもない。とりあえずリファとノヴァク以外は使える手をすべて使って、五行神家と頂点捕食者について調査しよう。あと並行して玉水の調査、可能であればコンタクトを取ろう」
奏多の言葉に皆が頷き、異世界組の夏休み期間中の行動予定が確定したのだった。
水之業・陰型――水泡記視。 残された血に手を突っ込み、秋雨はその血に刻まれた情報を引き出す為に術を行使する。 昨夜の記憶、今朝の記憶、そして――殺害時の記憶。 流れ込む情報の波を咀嚼しながら、秋雨は実行犯の存在を視た。「この女……あの男の記憶の中にも……」 男の記憶上ではリーダー格と思われる三人の内の一人。 そして、秋雨は確信する。 今回に限っては既に起こっている五件の事件とのような無差別の偶然ではなく狙ってやられたと……。「秋雨、何かわかった?」「はい。小倉駅で爆殺された男の記憶で見たリーダー格の三人の内の一人が犯人です。恐らくその他の事件についても同一かと……」 血から手を放し、赤く濡れた自身の掌をジッと見つめながら秋雨は答えた。 そんな様子に玲香は何かを言いたそうにしたが、首を横に振って一つ息を吐いた。「そう。外に私が呼んだ警察が来ているわ」「……意味あるですか?」「ま、私たちが公になった以上、一応は表向きに正規の手続きは踏むべきでしょ」 下手な疑いを掛けられないようにする為にも重要よ――と、玲香に諭され、秋雨は外で待機する警察を家の中へと招き入れた。 直ぐに始まる現場検証。 同時に家の周囲に集まり出す野次馬。 訪れた警察官らは秋雨へ「遺体が見つかっていない以上、希望を捨てないように」と励ましの言葉を口にする。 しかし、水泡記視により両親の死を知っている秋雨には、励ましどころか、気休めにもならない。「…………」 秋雨は無言で玄関の扉へと向かう。「玲香さん、ちょっと外へ出てきます」「そう。こっちは任せておきなさい。ただ、何かあったら直ぐに知らせること」「わかってますよ」 秋雨は玄関の扉を開け、外へ出る。 と―――
調査をするとは言ったものの、実際どうすればよいのか――太陽が頂点に昇ったお昼時、奏多と志乃、孝也の三人は歩きながら知恵を絞っていた。 幾ら異世界帰還者とは言え、政府筋から得ることの情報にも限りがある。 それこそ、実際に五行神家についてお世話になっている政府関係者に聞いてみたが、何一つ回答を得られなかった。「ガッチリ情報統制されているみたいだし、本当に何かヤバい案件かもしれないわね」 「なら、俺たちの力は必ず必要になる。五行神家以外を除けば、いざという時に戦えるのは俺たちくらいのはずだ」 志乃の言葉に、奏多は力強く言う。 弱い――圧倒的な力を持って、その言葉を告げた秋雨に恥ずかしくも奏多は恐れを抱いた。 だが、それでも神アルデネイラを討ち、異世界を救ったという自負はある。 今は及ばなくても、仲間たちの力があれば戦える。 奏多と他の異世界帰還者はそう思っていた。「そう言えば、謎の失踪事件の話は知ってるかい?」 「あー、血痕だけ残って、遺体が見つからないってヤツだっけ?」 最近巷を騒がせている話題を孝也が口にすると、志乃は「当然でしょ?」と言わんばかりの様子で答える。 寧ろ、知らない人がいない方が問題だ。「あれ、正直一般人が起こした事件ではないと、僕は予想しているね」 「そうなのか? 現場で殺害して遺体を何処かに遺棄したって考えるのが普通じゃないか?」 「甘いよ、奏多。問題は数日――正確には二日間で札幌、仙台、東京、大阪、広島で起こっている。報道され始めたのも同時期だから、模倣犯の線は薄いかな。状況から考えると恐らく同一犯。だけど、普通に考えれば移動があまりにも無理があり過ぎる」 「ふーん。じゃあ、孝也は私たちと同じ魔法が使える奴が犯人だって考えてるわけね?」 「或いは玉水と同じような力を持っている奴ってところか?」 三人はまだ知らないが、SNS上では『魔法使いが犯人では?』と噂されている。 これは異世界人の存在は勿論、小倉駅の事件が全国で報道されたことにより、空想が現実となったことが多く反映された結果。
「――――は?」 家の鍵は開いていた。 そして、玄関の扉を開いた先に広がっていた光景を知った秋雨は、そんな声を溢した。 鼻を劈く鉄の臭い。 床に広がる血の海が玄関の側とリビングの扉の前の二ヶ所。 感情が理解を拒んだ。「…………妙な力の痕跡があるわね」 玲香は冷静に状況を分析する。 が、隣に立っている秋雨はそれどころではなかった。「――――は?」 これが現実であることを確かめるように、或いは違うことを願うように、秋雨は再び声を溢す。 しかし、目の前の光景は変わらない。変わるはずもない。「母さん! 父さん!」 秋雨は土足のまま、リビングへと走る。 バシャバシャと血の海を踏み越え、リビングへと飛び込む――が、そこに二人の姿は無い。「何だよ、これ……意味がわかんねぇよ……」「この出血量だと恐らく――」 死んでいる。 玲香はそう続けようとしたが、口を噤んだ。 覚束ない足取りでフラフラとリビングのソファへと向かい、秋雨は腰を抜かすように座り込む。「おかしいだろ。何処のどいつだよ」 ソファで天井を見上げ、右腕で両目を隠しながら、驚くほど低い声で秋雨は呟く。「ふざけんなよ。母さんと父さんが何をしたって言うんだよ!」「秋雨、落ち着きなさい」「……いや、無理です。こんな状況で落ち着けるワケがない」 玲香の言葉に、目を見開きながら秋雨は立ち上がり言う。 その声は感情の起伏を感じられないほどに冷えていた。 が、そんな声にも怯むことなく玲香は続ける。「気持ちは理解できるわ。だけど、今は冷静になりなさい。感情のまま無暗に動いたところで、決して良い結果にはならない。これは断言できるわ」「――――」 言葉にならない唸り声を漏らしながら、秋雨は
「おはようございます」 挨拶をしながら骨董品屋にやって来た秋雨に、レジカウンターに座り書類に目を通していた玲香はチラリと視線を向ける。「おはよう、秋雨。店内の掃除は終わっているから、適当に過ごしてなさい」「わかりました。でも、お金に困らないとは言え、毎日閑古鳥が鳴いているのも考え物じゃないですか?」「いいのよ。繁盛しちゃうといざという時に動けなくなるでしょ」 資料を読みながら玲香は言う。 ふと、玲香が読み進めている資料が気になり、秋雨は尋ねる。「何の資料ですか?」「ん? ああ……ここ数日間の報告書よ。どうやら奇妙な事件が起きているようなのよね」 何やら難しい顔をしながら玲香は手に持っていた資料を差し出す。 秋雨はその資料を受け取り、目を通す。 内容は『致死量の血溜まりはあるが、その要因が見当たらない』ことが記されている。「……ただの殺人事件なのでは?」「それがこの数日で五件。そして、目撃者どころか、その全てで表向きの痕跡は何も残っていない。捜査が始まったばかりとは言え、警察もお手上げみたいでね。異世界やらの情勢の兼ね合いもあるから政府から直々に調査を依頼されたのよ」 事件現場は札幌、仙台、東京、大阪、広島――地域はバラバラであり、被害者同士の関係性は皆無。 それぞれ現場間の距離も離れており、普通の人間が数日で事を起こすには少々無理があるようにも思える。 「札幌、仙台には神火守。東京には神金守。大阪、広島に神土守。それぞれの黒子が調査に入っているわ。ちなみに真っ先に調査に入った神金守から『何らかの力の痕跡』があったと報告があったわね」 その報告から警察が取り扱う普通の事件ではないことが確定する。「あれ、神木守から黒子は出さないんですか?」「それなのだけど、順当に進むなら次は九州になりそうでしょ?」 確かに――と、秋雨は頷く。 北から順に南下してきていることから考えると、次は九州で
「秋雨、本当に大丈夫なのね? お父さんも心配しているのよ?」 朝、今日も骨董品店に向かう為、秋雨が玄関で靴を履いていると背中へそんな言葉を投げかけられる。 少しだけ溜め息を吐き、秋雨は顔だけ振り替える。「何度も言うけど大丈夫だよ、母さん。俺もそれなりに強いし、玲香さんはそんあ俺よりも強い。百歩譲って怪我をすることはあっても、死ぬことはないよ」「死ぬ死なないじゃなくて、親としては怪我をしてほしくないのよ」「わかってるよ。だけど、神水守の血筋で当主になれる奴が俺しかいない以上、どうしようもないだろ?」 秋雨の返答に、母である美波子は難しい表情を浮かべる。 このやり取りも小倉駅の事件から毎日繰り返されている。 勿論、美波子だけではなく父である永礼からも同様の話をされているので、秋雨としてはうんざりしている節もある。 だが、本気で心配している事も理解しているので、無下にもできないので非常に困っていた。「お父さんはまだ寝ているけど、もうすぐ起きてくるから偶には家族みんなで出かけない?」「母さん……今日の今日は難しいよ。次に父さんが休みの日に出かけよう」 秋雨は立ち上がると、側に置いていたリュックを背負う。「じゃ、行ってくるよ。帰りはちょっと遅くなるから、晩御飯は済ませて帰るよ」「ちょっと待ちなさい、秋雨」 美波子の制止を振り切って、秋雨は玄関を開け、出掛けてしまう。 そんな息子の姿を見送った美波子は「はあ」と溜め息を吐いた。「遠縁だから半ば忘れていたし、気にもしていなかったけど、まさか今になって神水守の名前を聞くことになるなんてね」 美波子の家系図を遡ると神水守に辿り着く。 特殊な家計であり、美波子も曾祖母から力の存在は聞き及んでいた。しかし、血も薄れ、その力を引き継いでいないことから「巻き込まれることはない」はずだった。 だが、息子である秋雨はその力を持っていた。「……先祖返りってやつなのでしょうね」
時は小倉駅の事件において、男が爆破された直後に遡る。「あ~あ、迷いなく爆破させちゃうなんて、相変わらず酷いことするよねぇ。確か彼、信仰心の深いルクシャ・ハーナの信者だったんじゃないのぉ?」 宙に映る現地の映像を眺める二つの人影。 癖っ毛のある薄紅色の髪の少女は、隣に立つ金髪長身の男を流し目で見る。「狂信者は後々邪魔になるだけだ。盲目的な信仰に意味はない。そういう愚か者は早々に切り捨ててしまった方が目的の為にも無難だ。そもそも、我々はルクシャ・ハーナを復活させることが目的ではなく、あくまでも頂点捕食者としての力を利用することだ」「酷~い人ぉ。元の教主を爆破させて、自ら教主にすり替わるなんて趣味が悪~い人は、人の心が無いんだねぇ?」「それを貴様に言われたくないな、アンネリーゼ」「それは心外だよぉ、アレクシス」 互いに嫌味を言い合いながら、現地の映像の行く末を眺める。「件の勇者君は思ったよりも弱そうだねぇ? あと聖剣フィニステラだっけ? アレも大したことなさそうだねぇ」 アンネリーゼは前髪を弄りながら言う。「近いうちにリファ・メルクストーリアが一度向こうに戻って調べようとするだろう」「確かにね。あとイケメン騎士のノヴァク・ノエイランだっけ? 彼も同行するんじゃな~い?」「問題ない。予定通り、信者共は近々切り捨てる。ルクシャ・ハーナの権能についても粗方理解した。折角だ、その二人には無駄足を踏んでもらうとしよう。勇者も我々が警戒するほどの存在でもない。だが――」 映像に映る少年――秋雨の姿を見ながら、アレクシスは目つきを鋭くす。「奴について……いや、五行神家については警戒する必要がありそうだ」 本来は奏多たちを敵対存在として仮定していただけに、秋雨たち五行神家の存在は想定外だった。「だったら、その役目を私が担っても良いかなぁ?」「…………何を考えている?」「うーん……ちょっとしたサプライズ~







