ログイン神隠しに遭ったクラスメイトたちが一年ぶりに帰還した──彼らは異世界での経験を携え、魔法を使える存在となっていた。 元クラスメイトの玉水秋雨は、ただ一人、異世界に召喚されず平凡な学生生活を送ると同時に、遠縁にあたる五行神家の血筋により、神水守家当主としての役割を担っていた。 異世界から帰還したクラスメイトと異世界人、国家間の思惑、「頂点捕食者(エルダーワン)」等々、秋雨もまた五行神家当主の一角として面倒事に立ち向かうことになる。 魔法と異世界が交錯し、騒乱が巻き起こる世界で、その裏で蠢く存在の悪意が秋雨へ牙を剥く――。 ※表紙画像はAIにて出力しており、あくまでイメージとなります。
もっと見る神隠し事件の被害者が一年後に帰還した。
それから二ヶ月の時が経ち、今は七月。 もうすぐ訪れる夏休みに教室内が連日浮足立つ、とある日の昼休み。「なあなあ、異世界人のリファちゃんだっけ? めっちゃ可愛いよな!」
とある男子生徒の声が耳に届く。
「ノヴァク様ってイケメンだよね~」
「わかる~」女子生徒たちの会話も異世界人のもの。
現在、この高校に異世界人が数名在籍している。 高校側としては面倒事を避ける為に本来は在籍を断る予定だった。 しかし、異世界帰還者のクラスメイトたちの威圧と政府からの圧力により渋々受け入れざるを得なくなったらしい。 これは秋雨の現在の担任がHR中にボヤいていたので間違いないだろう。 異世界を巡る情勢については日本が一歩リードしているが、他国も何とか異世界人との接点を得るために現在各国から留学話が多々舞い込んでいるようだ。「……先生たちには強く生きてもらいたいもんだ」
「確かに。それには俺も同感だな」ボソッと呟いた秋雨の独り言に、答えを返したのは一人の男子生徒。
「
秋雨の前の席に座りながら宗助は言う。
「……むしろ二ヶ月連続で飽きないのかよ?」
「美味いものは飽きないんだよ」秋雨としては同意できないが、宗助が良しとしているのなら良いのだろう。
「でも、二ヶ月も異世界組追っかけて飽きないもんかねぇ?」
「……俺はその台詞をそのままお前にプレゼントしたいよ」 「それとこれとは話は別だぜ、秋雨。でも、まあ……異世界組とお近づきになりたい気持ちはわかる。元々は同学年だったんだから何とかならねぇかな? 元クラスメイトの秋雨なら接点あるんじゃないのか?」 「残念ながら接点はないよ。一年も一緒じゃなければ、ただの知り合いみたいなもんだ。異世界で何があったかは知らないけど、それなりに濃い日々を過ごしてたんだろうし、見るからに団結力が違うだろ?」その言葉に「確かにな」と宗助がメロンパンを齧りながら頷く。
秋雨としても一年生の時は勿論、神隠しまではそれなりに仲良くしていた。だが、一年という時間は、関係が変わるには十分だった。「でもよ、これからどうなるんだろうな?」
「どうなるって?」 「ほら、異世界と魔法が実在したじゃん? 異世界組も魔法が使えるみたいだし、俺たちも魔法が使えるようになるんじゃないか?」 「……さあ、どうだろうね。魔法の力がどの程度なのかは知らないけど、そう簡単に広がるとも思えない」秋雨は面倒臭そうに言う。
日本政府としては未知の力である魔法が広まることを恐れており、各国としては魔法の力を手にしたい。留学の打診も魔法の力を手にする為の手段に過ぎない。 特にアメリカ、中国は露骨で、政府に強烈な圧力をかけているという噂まである。「実力行使に出ようものなら、それこそ魔法でねじ伏せられるみたいだしね」
一週間前に起こった異世界人の誘拐未遂事件。
とある外国籍の者が異世界人であるリファ・メルクストーリアを誘拐しようとした事件だ。 結果としては未遂に終わり、誘拐を試みた者が見るも無残にボコボコにされたという結果だった。「なるほど、だから留学生を送り込んで友好的に魔法を手にしようって魂胆なのか」
宗助は「ほへー」と感心した表情を浮かべながら、二個目のメロンパンに手を付ける。
「何で二個買ってるのさ?」
「え、美味いじゃん」 「えぇ……」人の趣向は様々だ。
◆
「本格的に表舞台に上がることになりそうよ」
建前上はバイト先である骨董品屋に足を踏み入れるや否や、店主である
「俺――
どうやら圧倒的な力を持って黙らせた様子。
「相変わらずの傍若無人っぷりですね。流石は生きる天災ですか」
「その呼び方には個人的に少々文句があるのだけど、まあいいわ。とりあえず異世界との境界が拓かれた以上、魔法は直に浸透するでしょうし、別の問題も勃発するわよ」別の問題。
それは五行神家の成り立ちに関することであり、その問題の主たる要因が目覚めないように監視・対応すること。「元は異世界に属する
頂点捕食者とは、各世界に存在する生きた天災。
遥か昔、後に五行神家を興すことになる者たちにより封印され、五行神家が担う使命の要因こそ、異世界の頂点捕食者だ。「この際、異世界交流を深めるのは良いわ。だけど、奴だけは目覚めさせるワケにはいかない。下僕の出現も多くなってきているし、水面下で動くにも限界があるしね」
「まあ、それはそうですけど……最悪、玲香さんが動けば何とかなりません?」レジの隣に置かれている椅子に腰を下ろしながら、秋雨は問う。
しかし、玲香は首を横に振りながら答える。「何とかなるか、ならないかで言えば、何とかなる可能性はあるわ。ただ、それは周囲の被害を何も考えないことが前提だけど」
「ですよねぇ……」玲香の答えに、秋雨はガックリと項垂れる。
頂点捕食者に対抗できるのは、同格の存在のみ。 過去に異世界の頂点捕食者と相対した者たちの中に、同格の存在がいたのだろう。 だが、結局は討伐できず、封印に留まったあたり、その力の巨大さが窺い知れる。「一応、海外の連中も表舞台へ上がることを決めたみたいよ」
「マジっすか……。こっちとしても無関係ではないですけど、それなりの厄介事を抱えているだろうに……」 「まあ、こそこそ動くよりは大々的に動けるようになった方が楽だからね。異世界関連で便乗しようって魂胆が丸わかり」それぞれの国家のトップとしても、魔法の対抗策が公になることは是とするだろう。
ただし、金で買収できない癖の強い彼、彼女らを制御できるかは別問題ではあるが……。「で、これからどう動くことになるんです?」
「一先ずは各当主総出で政府と話し合いね」 「……嫌な予感しかしねぇ」不敵な笑みを浮かべる玲香に、秋雨は口元を引き攣らせる。
ただ、近いうちに世界は大きく動く。 隠れていた者たちが、自ら表舞台へと上がる。それは異世界以上の衝撃を持って、世界を駆け巡るだろう。 そして、秋雨も五行神家の一角である神水守家の当主として動くことになる。「……玲香さん、今からでも神水守家の当主って辞退できません? ほら、元々俺って玉水って一般家庭の出身ですし、幾ら遠縁の血筋だからってやっぱりおかしいと思うんですよ」
これまで何度も抵抗してきた秋雨であるが、ダメもとで最後の悪あがきを行う。
が、その悪あがきはバッサリと一刀両断された。「うん、無理ね!」
それは見惚れてしまうような満面の笑みを浮かべながら、玲香は断言する。
わかっていたとは言え、あまりの無慈悲さ加減に秋雨は思わず天井を仰ぐのだった。◆
政府との会談の日程調整を玲香を筆頭に他の五行神家が行うことになり、現状として特に役割が無い秋雨はいつも通りの日常を過ごしていた。 五行神家の一角である「回転率はいいとは聞いているし、食べたら席を空けるように注意喚起されているから大丈夫か……」
秋雨はゲンナリしつつもそう呟き、券売機に並ぶ列の最後尾に立つ。
すると、秋雨の後ろに生徒のグループが並んだ。「リファ、今日は何を食べようか?」
「そうですね……私は唐揚げ定食にしようと考えています。背後から聞こえてくる名前に、秋雨は振り返る前から誰なのかを察した。同時に周囲の視線が集まるのを感じる。
「僕はきつねうどん」
「アタシは……孝也と同じきつねうどんかな?」 「自分はリファと同じ唐揚げ定食を考えている」 異世界組五人の会話を周囲の生徒たちが耳を傾けている中、秋雨に気付いた
「お、玉水じゃないか。久しぶりだな」
声を掛けられた以上、無視するワケにもいかない。秋雨は内心で舌打ちしながら振り返る。
「ああ、庄司か。顔を合わせるのは一年ぶりだっけ?」
「そうだな。まったく俺たちが留年したとは言っても、同じクラスメイトだったんだから尋ねて来いよ」フレンドリーに肩を組んでくる奏多に困り顔を浮かべる秋雨。
そんな様子を見ていたリファとノヴァクは何やら怪訝な表情を浮かべていたが、直ぐに取り繕う。「えーっと、彼は?」
リファは問う。
「リファとノヴァクは初めましてだったわね。彼は玉水秋雨。元々はアタシたちと同じクラスメイトだったのよ」
志乃がリファとノヴァクに秋雨の紹介をする。
「リファ・メルクストーリアと申します。よろしくお願いいたしますね」
「ノヴァク・ノエイランだ。よろしく頼む」 「あー、玉水秋雨だ」互いに軽く自己紹介を済ませる。
「気になってたけど、どうしてあの日一緒にいたはずの玉水君は異世界に召喚されなかったのかな?」
「そうそう、孝也の言う通り気になってたのよね。そこのところどうなのよ?」志乃の言うあの日とは、異世界召喚されることになったHRの時を言っているのだろう。
さて、困ったことになった――秋雨は内心でボヤく。 現状、異世界召喚の魔法の干渉を意識的に弾いていたとは言えないし、言う気もない。 そうなると答えは自ずと絞られる。「……俺も知りたいんだが?」
とりあえず秋雨はすっ呆けることにした。
馬鹿正直に神水守としての力を話す気もなければ、そもそも意味もない。「じゃあ、偶然玉水だけが外されたってこと?」
「まあ、そう考えるのが妥当だろうね。魔法が使えるならまだしも、あの時は僕ら含めて魔法を知らないからね」秋雨の答えに、志乃と孝也は結論を出す。
ほう――内心で一息を吐き安堵したも束の間、何故かリファとノヴァクの二人がジーっと秋雨を見ていた。「……何か?」
怪訝に思い、秋雨は問う。
「いえ、特に何もありませんよ」
「不快にさせたのなら済まない」リファとノヴァクはそれぞれ秋雨にそう答える。
そうこうしている内に券売機に並ぶ列は前へと進んでおり、秋雨の順番になっていた。「じゃ、俺は行く」
「いやいや、せっかくだし一緒に食べようぜ?」ササっと券売機で生姜焼き定食の食券を購入し、立ち去ろうとした秋雨を奏多が引き留める。
「勘弁してくれ。ただでさえ目立っているのに、これ以上はゴメンだ」
異世界組に背を向け、そそくさと秋雨は立ち去る。
「せっかく誘ったのに」
「まあ、前から彼は物静かだったから、大人数は苦手なんだよ」不満を口にする志乃を孝也が宥める。
と、リファとノヴァクが遠くなる秋雨の背をジッと見つめている。 それを不思議に思った奏多は二人に問う。「どうしたんだ?」
「いえ、彼は魔法を知らなかったのですよね?」リファの言葉に奏多は首を傾げる。
「どういう意味だ?」
「彼に魔力ではないが、それに近い残滓が漂っていた。それに妙に警戒されていたように思う。あとは――」ノヴァクは秋雨の背から視線を逸らさずに続けた。
「死線を潜り抜けた強者の気配。奏多、日本では戦闘はないのだろう? なら、彼はいったい何者だ?」
「流石は天災の愛弟子やね。師匠にてやる事も人騒がせやないの」 「別に騒がしくしたかったワケじゃないんですけどね。それよりもご足労いただきありがとうございます、遥さん」 たおやかな足取りで和服に身を包んで現れた神土守遥に秋雨は困り顔を浮かべつつ、お礼を述べた。 現在、小倉駅は封鎖され、警察官が慌ただしく動いている。 規制線の向こう側にはカメラを構えたマスコミや野次馬たちがガヤガヤしていた。「まったく政府との話し合いの前に勘弁してしかったわ。お陰様で天災が意気揚々と政府を脅しとったよ。ま、これで予定よりも早く大手を振って動けるのだから、結果オーライってやつやね」 扇子を口元に当てながら、含み笑いを浮かべる遥。 その妙な色っぽさに周囲の警察官は勿論、マスコミに野次馬の男女問わずに視線を一身に集めてしまう。 そんな様子と遥の言葉に秋雨は何とも言えない表情を浮かべざる得なかった。「なあ、玉水。彼女は誰なんだ?」 秋雨と遥のやり取りを見ていた奏多が痺れを切らして口を開く。 遥か到着まで奏多たちの追及をのらりくらりと交わし続けていたこともあり、とにかく情報を引き出したいのだろう。「あー、彼は俺と同じ五行神家の一角である神土守家の当主、神土守遥さんだよ」 秋雨は奏多、志乃、リファへ、遥の紹介を簡単に行う。 が、秋雨の言葉を聞いた三人は「え?」という表情を浮かべて、遥の顔を見ていた。「ちょっと玉水? 彼女のことを彼って言った⁉」 志乃が秋雨に詰め寄ってくる。「やめろ。肩を掴んで揺らすんじゃない。気持ちはわかるがやめてくれ」 グワングワンと肩を掴んで揺らす志乃に、秋雨は顔を顰めて両手で突き放す。「えーっと、玉水さん? 神土守さんって女性ですよね?」 リファが困惑した顔つきで恐る恐る言う。 いつの間にかバタバタしていた警察官もその足を止めており、規制線の向こうにいる人たちもシーンとなっている。 秋雨は額に手を当つつ、一度宙を仰ぐ。そして
「この世界の人間は魔法を知らないと聞いていたがガセだったか?」 男は眉間に皺を寄せながら、新たに下僕を召喚する。 奏多、志乃、リファはそれぞれ構え、迎撃の体制をとる。 一方、秋雨は自然体のまま、ジッと男へと視線を向けていた。「ま、アンタの言う通り、一般的に魔法は存在していない。世の中には表舞台には上がらない存在ってのもあるんだよ」「そうか。だが、先ほどの魔法の攻撃。それなりの準備が必要だったはずだ。そう連発できるものでもないだろう?」 男は更に下僕の数を増やす。 それに奏多、志乃、リファが焦ったように口を開く。「これだけの数、俺たちだけじゃ対処できないぞ!」「このままだと、周りの人たちも危ないわ!」「どうすれば……」 一見すれば圧倒的な物量さだ。 普通ならば勝ち目は薄いと言わざるを得ない。 奇襲などが可能であれば何とかなるのだろうが、この状況では作戦も何もない。 奏多たちの表情が歪む。「あのさ。確かに下僕らは頂点捕食者の力の一端だ。だけど、この程度で勝ち誇られても困惑なんだが?」「アンタ、何言ってんの⁉」 ゲンナリとした表情を浮かべ、空気を読まない発言をする秋雨。 志乃が思わず叫ぶように突っ込む。「信奉者として一部の権能を利用しているみたいだけど、随分と格が落ちている。何だっけ異世界の神と同格って言ってたか? にしては弱過ぎないか?」 背伸びをしながら秋雨は言う。「それは強がりか?」 そんな秋雨の様子に、男は嘲笑うかのように言う。「さあ? とりあえずアンタらの仲間はどれだけ来ている?」「答えると思っているのか?」「いや、正直そこまでは求めていない。こちらとしてはちょっかい出してる奴を何とかすることが仕事だからな」 秋雨が右手を高く上げる。「それじゃ、ちゃちゃっと終わらせるか」 水之業・陽型――水天球。 秋雨の頭上に直径二メートル程度の水の球体が顕現する。 球体の中では水が渦を巻く。 誰もがその光景に視線を逸らさない。「それで周囲丸ごと巻き込むつもりか?」「そんな脳みそ筋肉なワケないだろ。確かに本来の使い方はそうなんだが――」 水天球・変形――水串。 秋雨の頭上に浮かぶ水天球からあまたの槍が
「貴方は、玉水さん?」「……どうも、メルクストーリアさん」 玲香に押し付けられた依頼の為、電車に乗って北九州市小倉区にやって来た秋雨は改札を抜けたところでバッタリとリファと遭遇していた。 なぜ彼女が此処に? 秋雨は脳内で思考を巡らせていた。「どうして此処に?」「奏多たちと一緒に漫画ミュージアムを訪れに来ました。今は個別で行動中で、私は食べ歩きです」 今日はイベントで改札を抜けた広場に飲食店が出店されており、彼女はそれが目当てだったのだろう。 リファの両手には唐揚げやケバブなどが入ったビニール袋が握られている。「それ、全部食べるのか?」「はい! 外にあるベンチで楽しもうかと思っています」 一人で食べるには多過ぎる量を全て食べると言い切るリファに、若干引きつつ「へ、へぇ……」と秋雨は声を溢す。「玉水さんは今日は何をされるのですか?」「ちょっとした観光だよ。ま、遊びに来たって感じだ」「そうですか! なら、一緒にこれ食べませんか?」 リファは手に持つビニールを持ち上げながら言う。 秋雨は頭を悩ませる。 断るのは容易い。 だが――と、秋雨に視線を泳がせる。 周囲の注目が集中している。 要因は間違いなく目の前にいるリファ。テレビでも連日取り上げられているだけあり、全国的にも有名人の仲間入りをしている。 ただ、遠目から見ているに収まり近寄ってこないのは、いつかの事件が原因かも知れない。「あー、この後ちょっと予定が……がぁ……」「ダメでしょうか?」 秋雨が断ろうすると、どうしてかリファがシュンと落ち込む様子を見せる。 同時に何故か周囲からの殺意が増幅する。 チッ、と内心で舌打ちしながら、秋雨は頭を痛める。(一応、多少は警戒はされている。だが、一緒に食べたいということに嘘はなさそうだ。さて、どうしたもんか) 秋雨の本心としてはさっさと仕事を終えて帰りたい。 だが、情報収集にある程度の時間を有する以上、今日一日で何とかなるものでもない。 それに――、(異世界で頂点捕食者を信奉する者の有無を聞き出すのも手か?) 思考を巡らせた結果、秋雨はリファの申し出を受けることにした。「はぁ、オーケー。一緒に食べよう。ただ、お金は出すよ」 なお、このお金はすべて経費で落とす気満々の秋雨だ。「お金は大丈夫ですよ。ほ
政府との会談を一週間後に控え、高校も夏休みに突入。 連日、朝から晩まで骨董品屋に入り浸りながら、秋雨はレジテーブルに突っ伏していた。 閑古鳥の鳴く店内。 そもそも立地も非常に分かりづらい。「玲香さん、くっそ暇なんですが?」 「まあ、骨董品屋としてはほぼ機能していないからね。来客なんて見込んでないし、来たとしても普通の客じゃないわよ」 カラカラと笑いながら玲香は煙草に火を点け、「ぷはぁー」と豪快に一服する。 そんな玲香の加える煙草の先端から燻る紫煙に視線を向け、秋雨は口を開く。「そう言えば、最近異世界組に目をつけられているっぽいんですよね」 「あら、もしかしてバレた?」 「いや、バレてはないとは思います。ただ、違和感を認識されたかも知れないです。あ、一応ここに来る時は、適当に撒いて来ているので心配は不要です」 とは言え、秋雨としては鬱陶しいことは間違いない。 厄介なことに監視が使い魔らしきもので行っているらしく下手に手を出すワケにもいかない。 使い魔を消したら、それはそれで怪しまれる可能性があるからだ。「もう、諦めてさらけ出してしまえばいいんじゃない?」 「……嫌ですよ。絶対に面倒な事になるじゃないですか。下手に首を突っ込まれても厄介ですし、彼らもそれなりに修羅場を経験しているみたいですけど、正直足りないです」 秋雨は溜め息混じりに言う。「秋雨が言うのなら、足りてないことは間違いなさそうね。あー、ちょっとした面倒事を押し付けてやろうと思ってたけど、死なれたら目覚め悪いか」 吸い終えた煙草を灰皿に擦り付けながら、玲香は「使えないわね」とゲンナリとした表情を浮かべる。 そして、玲香は一枚の資料を秋雨に突き出す。「……何です?」 「やんごとなき御方からのご依頼よ」 「あぁ、なるほど」 資料を受け取り、秋雨はその中身にサラッと目を通す。「異世界人の流入?」 「そうね。異世界との境界が拓かれて、魔法のある向こう側の奴らが徐々に流入してきている。身元の判明している奴は良いのだけど、問題は身元不明の異世界人ね」 「要は不法入国ってことですか」 「ええ。この場合は不法入界かな? まあ、この際異世界人なんて、ぶっちゃけ犬の糞程度にはどうでもいいのよ。問題は頂点捕食者