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第8話

Penulis: 白団子
夜になり、南は離婚協議書を手にして、開人の書斎の扉を開けた。

開人はイヤホンをつけて何かを聞いていたが、彼女が入ってくると軽く言った。

「南、今ネット会議中なんだ。後にして?」

会議?南の視線は彼の下半身に移った。

ベルトは外され、ズボンはだらしなく腰にかかっていた。

会議なんて嘘だ。

明らかに、羽彌とリモートでいちゃついていた。

彼女が入ってきたのが早すぎて、彼はズボンを上げるのがやっとで、ファスナーを閉める暇すらなかったのだ。

「ただのサインだから、すぐ終わるわ」

南は離婚協議書を取り出し、サインのページを開いて彼に差し出した。

開人はイヤホンを外さず、羽彌に誘惑されて心ここにあらずだったのか、何も確認せずにそのまま署名した。

南は思わず笑ってしまった。

書類をしまいながら、笑顔で尋ねた。

「中身も見ずにサインするの?」

「見る必要なんてない。君が差し出したものなら、何でもサインするよ」

開人は情熱的に言った。

「たとえそれがナイフでも、君が望むなら命だって差し出すよ」

彼は羽彌とリモートでいちゃつきながらも、南に深く愛を告白していた。

南の目には涙が浮かんだ。

どうして人間は、ここまで恥知らずになれるのか。

もう関わりたくなかった。

彼女は涙がこぼれる前にそっと背を向け、書斎を後にした。

おそらく一時間後、用を済ませた開人が寝室に戻ってきて、南の隣に横になり、背後から抱きしめてきた。

「南、最近仕事が忙しくて、なかなか一緒に過ごせなかったね」

開人は優しく言った。

「明日の夜、ディナーに行かない?ちゃんと埋め合わせしたいんだ」

奇しくも、明日は南が予約していた催眠療法の当日だった。

ちょうどいいわ。

催眠を受ける前に、離婚届を渡して、きれいに終わらせましょう。

翌日も、羽彌からの電話攻撃は止まらなかった。

彼女は延々と、開人との情事を映した動画を送りつけてきて、言葉でも挑発してくる。

【ねえ、見た?私たち、あなたたちの寝室でもやったのよ。あなたのパジャマ、私も着たよ】

南はクローゼットの服をすべて取り出し、庭に放り出して火をつけた。

【見覚えある?開人の書斎よ。私、あの机にうつ伏せになって、後ろから彼が入ったの】

今度は、書斎に火を放った。

【ふふふ、ここはあなたたちのガレージよね?どの車でもやったの、車の中で】

車が多すぎて一台一台焼くのは面倒。

なら、いっそ、家ごと全部、燃やしてしまおう。

どうせ去るなら、跡形もなく。

郊外にある家だったので、燃やしても他人に迷惑はかからない。

火を放ったあと、南は自ら消防に通報した。

計算では、消防車が到着するのは1時間後。

それまでにすべて燃え尽きれば、近隣の草木に延焼する心配もない。

通報後、南はタクシーでレストランへ向かった。

開人はまだ到着していなかった。

だが、彼を待つ気はなかった。

テーブルの上に離婚協議書を置き、彼女はそのまま席を立った。

そのとき、スマホが震えた。

羽彌からの最新メッセージだった。

【ふふっ、あなた今日、開人とキャンドルディナーの予定?やめた方がいいわよ。だって彼、今『私を食べてる』最中だから】

そして、またしても卑猥な動画が添付されていた。

動画を開く前に、今度は開人から電話がかかってきた。

「南、ごめん、遅れた。もうすぐ着くから......あと――」

男の息遣いは荒く、何をしていたのか想像に難くなかった。

「もう来なくていい」

南は彼の言葉をさえぎり、電話を切った。

そして、そのままスマホをゴミ箱に投げ捨てた。

スマホも、車も、もういらない。

汚れてしまったから。

その後、彼女はタクシーで病院へ向かった。

医師の指示に従い、フロイト式のリクライニングチェアに身を預ける。

医師が特製のアロマを焚き、照明を落とした。

「結城さん、こちらの懐中時計を見つめながら、私の声に従ってください」

「1」

「2」

「3」

「催眠、開始します」

薄暗い光の中、南は医師の手の中の懐中時計を見つめながら、静かに涙をこぼした。

ごめんね、お姉ちゃん。

命を懸けて妹を守ってくれたのに、妹は相変わらず臆病なまま。

この世界は広くて、人の心はあまりにも複雑。

精一杯頑張ったけど、自分はやっぱりついていけなかった。

ねえ、もしあのとき、生き残ったのが自分じゃなくて、お姉ちゃんだったら、

どれほど良かっただろう。

でも、もう大丈夫。

この身体、お姉ちゃんに譲るね。

きっとお姉ちゃんなら、自分より何倍も強く、美しく生きられるから。

南は静かに目を閉じた。

そして、医師の言葉に導かれるまま、意識は深い闇へと沈んでいった。

そして再び目を開けたとき、その優しい瞳に、もう温かさは残っていなかった。

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