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第12話

Author: ルーシー
食事会に来たのは多くなく、だいたい7、8人だった。みんな学校関係者だ。

ある生徒が怪我をしたので、玲奈は少し遅れて最後に食事会へやって来た。

店員が個室を開けた時、その中にいた人はみんな玲奈のほうへ向いた。

玲奈が一人一人その場の人を見ていった時、智也と勝がいるのに気付いた。

阿部はこれが寄付募金の食事会であるとは彼女に伝えていなかったし、彼女からも特に詳しいことは尋ねずに、食事会に来ることにしたのだった。

それに智也が普段行くのは5つ星レストランばかりだったし、ホテルも高級なところにしか泊まらなかったから、そんな彼がこんな田舎で食事をするとは思ってもいなかったのだ。

智也も玲奈のほうを見て、少し意外に思っていた。しかし、少し考え、この食事会で彼に会うために、彼女も彼と同じように寄付でもしたのだろうと思っていた。

阿部は玲奈が入り口に立って動かないのを見て、すぐに立ち上がり彼女を迎えた。「春日部先生、さあ、早くこちらにお座りください」

先生?

智也はその呼び名を聞いて、さらに不思議に思った。

だが、玲奈が個室に入ってきた時、彼は無意識に立ち上がったままの勝のほうを向いて言った。「座れ、なにぼけっと突っ立っているんだ?」

勝は驚いた。「え?」

そしてこの時、玲奈はその席をサッと見渡して、智也から一番離れた席に腰をかけた。

智也はそれをちらりと見て、眉をひそめた。

勝はこの状況を見て、智也の言いたいことをようやく理解した。

彼は玲奈が来た時に智也の横に座るかと思っていたのだが、彼女が智也から一番遠いところの席を選んでしまったのだ。

勝もそんな玲奈の行動に驚いていた。

彼は智也の元で何年も働いている。玲奈が智也のことを狂ったように愛していることを知っていて、そんな彼女がどうして彼に近づける機会を無下にするのか理解できなかった。

これは……

これは一体どういうわけなのだ?

勝はどうしても理解できなかった。

智也は彼がまだ突っ立っているのを見て、顔を上げて彼を一瞥した。

勝はようやく座った。

阿部は全員揃ったのを確認し、グラスを持ち上げてみんなで智也に乾杯し、智也は数口だけお酒を口にした。

この場は智也が主役なので、玲奈は大人しく黙々と食事をした。乾杯の時に一緒にお酒を飲み、ほかの人たちが違いに乾杯し合っている時、彼女は下を向い
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Comments (1)
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煌原結唯
いつもなぜ絶妙のタイミングで電話が鳴るのか。 玲奈の声、智也には聞こえてなかったけど 勝にも聞こえてないのかな
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