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第2話

作者: アカリ
私は同僚に、美咲は誰の採用なのかと尋ねてみた。

すると同僚は不思議そうな顔で言った。「清水さんじゃないのか?この前、新井さんが、あなたの名義で人事部に直接履歴書を持ってきたよ。谷口さんはすごく優秀だから、絶対に採用すべきだって力説してたそうよ」

私はその場で固まってしまった。まさか真司がそんなことをするなんて、夢にも思わなかったから。

ただの友人のために、会社のルールを破ってまで、私の信用をダシにするなんて信じられない。

でも、今さら怒ったところで、もうどうしようもない。

入社の手続きはすでに完了し、美咲は無事に研究所の一員となった。

もう決まってしまったことだ。今ここで騒ぎを起こせば、私と真司の社内での立場が悪くなるだけだった。

その日、家に帰ってからも私は不機嫌なままで、口をきく気にもなれなかった。真司は私の様子に気づいて、静かに言った。

「美咲にとって、今回のチャンスはどうしても必要だったんだ」

私は眉をひそめて、「私と関係あるの?」と言い返そうとした。

しかし、真司は静かにため息をついた。

「美咲の家がすごく貧しいんだ。両親が何年も病気で寝たきりでね。奨学金でなんとか大学院に行ったんだよ。ずっとアルバイトでお金を稼いできたから、授業を休まなくちゃいけなくて、単位もいくつか落としたらしい」

真司は、病気で苦しむ美咲の母親の写真と、美咲が住んでいる古いアパートの写真を私に見せた。

私と真司も、家庭環境には恵まれていなかった。特に、真司の母親は長い間病気を患っていて、満足な治療も受けられずにいたから。

真司がこの会社に入って、給料が上がってから、ようやく母親の病状も少し良くなったんだ。

多分、そういうわけで真司は美咲に人一倍同情しているのだろう?

結局、私は情にほだされて、これ以上何も言わなかった。

こうして私は、真司の勝手な行動を許してしまった。そして、研究所に美咲がいるという事実も受け入れたのだ。

それから、美咲が私を見るときの目に、いつもどこかトゲがあるように感じていた。

真司は私の考えすぎだと言う。美咲はこれまでたくさん傷ついてきたから、警戒心が強いだけなんだと説明した。

私には理解できなかった。「傷つけられたから警戒心が強い」って、それって人を噛む野良猫や野良犬の言い訳じゃないの?

美咲は人間なのに。今の世の中で、猫や犬みたいに誰彼構わず警戒する必要なんてあるのだろうか?

でも、その頃は研究所も忙しくて、真司といつまでも議論している気分じゃなかった。

私はしぶしぶ納得し、それからは毎日自分の時間を割いて、美咲の実験を手伝うようにした。

美咲が壁にぶつかった時は、一番効率の良い実験方法を教えた。何とかして美咲の成功率を上げ、無事に試用期間を終われるように手助けした。

美咲は一応、私の紹介という形で入社した。もしあまりに仕事ができないと、私の評判まで悪くなってしまうから。

美咲を手伝うのは、いわば自分のため。私はそう思っていた。

こちらが誠意を見せれば、たとえ美咲が感謝してくれなくても、せめて期待を裏切らないように頑張ってくれると思っていた。

でも、まさか美咲を助けることが、自分を地獄に突き落とす第一歩になるなんて、思いもしなかった。

美咲が入社して、私はすぐにおかしなことに気づいた。

私が徹夜で残業した翌朝、決まって美咲のデスクの上には、きれいに処理された実験データのレポートが置いてあるのだ。それは本来、美咲自身が仕上げるべきものだった。

前の日の夜、美咲が帰る時には、そんなものはなかったはずなのに。

しかも、美咲はそんなに朝早く出社するタイプじゃない。だから、彼女が朝に来てやったとも考えにくかった。

最初は、どこかの親切な同僚が手伝ってあげたのだろうと思っていた。

というのも、うちの研究所は昔から雰囲気が良くて、新人が困っていたらみんなで助ける文化があるからだ。

でも、それが何日も続くと、さすがに何かがおかしいと思い始めた。

美咲が誰かと特に親しくしている様子はない。それに、誰かに感謝している素振りも全く見せないのだ。

一体、誰が美咲を手伝っているんだろう?

しかも、この謎の「助け」は、その後もずっと続いた。

うちの研究所は仲が良いけれど、基本はやり方を教え合って、お互いに成長していくスタイルだ。誰かの仕事を丸ごと引き受けてあげるような人はいない。

その疑問は、ある日の退勤後、思いがけない形で解けることになった。

その日、私は一度会社を出た後、忘れ物を取りに戻った。すると、真司が美咲のデスクに座り、手慣れた様子で機器を操作してデータを処理していたのだ。

そうだったのか。美咲の仕事を、真司が手伝っていたんだ。

真司が言っていた「残業」は、自分の部署の仕事じゃなかった。ここで、美咲をこっそり手伝うことだったのだ。

私はその場で、ぽかんとしてしまった。

真司は私を見ると一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻して、こう説明した。

「美咲は、まだ仕事に慣れてないだろ。チームの足を引っ張るんじゃないかと思って心配で。それに、お前がコネで美咲を入れたなんて噂されたら嫌だから、こっそり手伝ってあげてたんだ。

お前の評判を守りたかっただけなんだ」

真司の言葉は、とても誠実に聞こえた。でも、私はその言葉を素直に信じることができなかった。

しかし、真司の手助けは、彼が言うような効果をもたらすことはなかった。
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