로그인聞くところによると、美咲はまた逮捕されてから、精神的におかしくなったらしい。時々、自分はすごい人間なんだから、みんなにチヤホヤされて当然だってわめき散らしてるんだと。美咲の家族も完全に見放したみたい。一度は精神病院に入れたらしいんだけど、脱走してからは、もう放置してるんだって。あちこちうろついて、真司のところにも何回か行ったみたい。真司は命の危険を感じたんでしょ。それで怖くなって、仕事も辞めて別の街に引っ越した。同僚とそんな世間話をして、私たちはそれぞれ家に帰った。それから数日は、こっちにいる親戚や友達のところに顔を出した。でも、休暇が終わるまでまだ数日あったから、他の街にも行ってみようかって話になった。この提案に、子供たちはもちろん大賛成。哲平ももともと出かけるのが好きだから、反対するはずもない。私たちは別の観光地へ移動して、数日遊んだ。だいたい見て回ったから、明日にはまた次の街へ行こうと計画していた。まさか、出発する前日に、真司と再会するなんて思ってもみなかった。最後の観光スポットに向かう途中、哲平が二人の子供を連れて前を走っていて、私は荷物を持ってその後を急いで追いかけていた。「ちょっと、哲平!私のジュースを持ってっちゃったでしょ?ひどくない?」前方から哲平の声が返ってきた。「全然ひどくないよー」もう、待て、今捕まえてやるから。私たちがバスを降りた場所は、ちょうどオフィスビルが立ち並ぶエリアで、人通りがものすごく多かった。いくら気を付けていても、案の定、誰かとぶつかってしまった。その人が抱えていた履歴書が、あたり一面に散らばってしまった。ぶつかったのは私の方だし、私は急いでしゃがんで、相手と一緒に履歴書を拾い始めた。何枚か拾ったところで、履歴書に書かれた見慣れた名前に気づいた。真司の名前だ。思わず相手の顔を見上げた。相手は少しイライラしているようだったけど、目が合った瞬間、私たちはお互いに声を上げた。履歴書を手に、忙しそうに歩いていたこの人は、まさしく真司だ。そこで私は同僚の話を思い出した。真司は、おかしくなった美咲に危害を加えられるのを恐れて、仕方なく街を離れたのだと。まさか、こんな場所に来ていたなんて。私が呆然としている間に、哲平が子供たちを連れて駆け寄ってきた。「どう
同僚は笑って言った。「便利じゃないって?谷口さんが、使ってるんだから、役に立ってるってことじゃん?」ひとしきり笑ったあと、同僚は美咲のその後の話を始めた。美咲の実家は、本人が不幸自慢してたのとは大違いで、かなりの金持ちだったんだ。だから実家が何度も弁護士を頼んで、色々手を尽くして罪を軽くしてもらったおかげで、年末にはもう仮釈放されてたんだ。でも、執念なのか何なのか分からないけど、美咲、また真司に会いに行ったらしい。真司は、彼女に刺されて死にかけるほどだった。やっとの思いで意識を取り戻したと思ったら、今度は仕事を失い、新しい仕事もうまくいかない。恨んで当然なのに、よりを戻すなんてありえない。真司に何度か断られるうちに、美咲はだんだん腹が立ってきた。それで真司に言ったんだ。「絶対見返してやるから。その時にあなたが戻りたいって泣きついてきても、もう遅いから」って。ここまで話すと、同僚は吹き出した。「でさ、新井さんがなんて言い返したと思う?」「なんて言った?」私は先を促した。同僚は咳払いを一つして、真司の口真似で冷たく笑った。「二人合わせてもういい歳なのに、まだ『これから』とか言ってんのか?そもそも、そんな甲斐性があるなら、刑務所に入るようなことにはなってないだろ?」って。これを聞いて、私も思わず笑ってしまった。同僚は話を続けた。「それから、谷口さんはあれこれ動き出したんだって。絶対に新井さんを後悔させてやるって決めたみたい。でも、谷口さんってどんな人間か、あなたも知ってるでしょ?プライドばっかり高くて、実力が全然伴わないタイプじゃない?引きこもってると、飯を食うだけの口が増えるだけ。外で頑張って稼ぐどころか、家にあるものを全部使い果たしちゃうのよ。実家はもともと裕福だったのに、彼女のせいで、すっかり貧乏になっちゃったわ。しまいには、住んでる家一軒しか財産が残らなくなって。さすがに親も我慢の限界がきて、勘当して家から追い出したんだって」私は息をのんだ。「それじゃ、刑務所にいたほうがまだマシね、家の財産も守れたのに」同僚も頷いた。「本当にそう。谷口さんのご両親、今ごろ後悔でいっぱいでしょうね。でも親に見放されて、生活できなくなったんだね。それでまた新井さんのところに押しかけて、『あなたがやれって言った
翌日、私と哲平は飛行機に乗った。良い思い出も、そして耐え難い苦しみもあったこの街に、別れを告げたんだ。あれから月日が経ち、過去はもう過去のこと。ようやく、私は全てを乗り越えることができた。真司と美咲のことを再び耳にしたのは、もう7年も経ってからのことだった。青斗と花梨がもうすぐ中学生になる。二人とも中学受験でいい成績をおさめたから、そのご褒美に、哲平と一緒に国内へ遊びに連れてきた。ついでに国内の親戚や友人にも会おうと思う。そして、昔の同僚から聞いて初めて知ったのだが、なんと真司は2年前に目を覚ましていたらしい。まさに医学の奇跡だとか。でも、真司は意識を取り戻したものの、仕事はもうとっくになくなっていた。当時、私たちが美咲を告発したことは、ちょっとした騒ぎになったから。美咲の悪事が次々と明るみに出ると、当然みんな彼女の素性を調べ始める。どうやって入社したのかとか、初めて他人の成果を盗んだ時、誰が美咲をかばったのか、とか。そうなると、美咲の入社を手引きして、試用期間中も彼女をかばって、私の成果を盗むのを手伝った真司のことも、明るみに出ちゃったわけ。真司が、会社にいられるわけがなかった。人を助けようとして重傷を負って、長いこと生死の境をさまよっていなかったら、真司の評判も地に落ちていたはず。この大怪我が、ある意味では真司の評判を守ったってこと。ただ、世間的な評判は守られても、業界内の大手企業はどこも情報が筒抜けなんだ。だから、真司のやったことは表沙汰にはならなくて、世間から袋叩きにされることはなかったが、もう同じレベルの大企業で働くのは無理だ。しかも今の技術の進歩は目まぐるしい。真司は6年もの間、意識がなかったんだから、社会とのブランクもそれだけ大きい。それに、真司は美咲に刺された時で、もう33歳だった。目を覚ました時には、38歳になっていた。会社では、もう肩を叩かれやすい年齢なのに、そこから新しい仕事を探さなきゃいけない。結果は、まあ、お察しの通り。聞いた話では、プライドが邪魔して仕事を選り好みしていたらしい。しかし、半年ほどで諦めたようで、結局は基礎的な仕事に就き、20代の新卒たちに混じって働いている、とのことだった。うまくいっているとはとても言えないらしい。この結末も、別に驚きはしない。真司は、
哲平が保証人になってくれたこともあって、私のことをすごく心配して、何度かお見舞いに来てくれたんだ。他愛もないおしゃべりをするうちに、私たちは予想外のことと話が合うことに気づいた。好きな本や映画も、すごく似ていて。そこから、私たちの距離はどんどん縮まっていった。でも、新しい仕事や恋愛が始まっても、昔受けた心の傷が完全に消えたわけではなかった。私の生活は元通りになり、以前よりもっと穏やかで幸せになった。でも、あの時の嘲笑うような言葉や、丁寧だけど疑いに満ちた態度を思い出すと、よく眠れなくなった。時々感情がフラッシュバックして、私は本当の意味であのショックから立ち直れていないんだ、と気づかされた。表向きは、濡れ衣を着せられる前と同じように見えた。一生懸命に仕事をして、同僚にも親切で、気持ちも落ち着いていて。でも一人になると、みんなの前で罪を着せられたときのことを思い出せなくて。自分からその話題に触れることもできなかった。哲平は私のそんな様子にすぐ気づいてくれた。だから、昔のことにつながる話題はなるべく避けて、私が嫌な気持ちにならないようにしてくれた。哲平と一緒に暮らす時間が長くなるにつれて、この出来事が私に与える影響も、だんだん小さくなっていった。でも、それが完全に消えることはなかった。そんな中、この間、哲平が決定的な証拠となる録音データを見つけるのを手伝ってくれたんだ。そのとき初めて、自分の潔白を証明して、悪い人たちにはそれなりの報いを受けてもらおう、という気持ちになった。そして、それは効果てきめんだった。いつの間にか、心のもやもやがすっかり晴れていた。やっぱり、やり返すことこそが、自分にとって一番の癒やしになるんだ。どんなに腕のいいカウンセラーよりもずっと効果があって、根本的な解決になった。そう思うと、心からの笑顔になって、そっと哲平を抱きしめた。「ずっとそばにいてくれて、ありがとう」哲平は笑いながら私に尋ねた。「今度は、俺のこと気持ち悪いって言わないんだ?」私は何も言わずに、ただ微笑んだ。私たちは抱き合ったまま。子供たちは庭で遊んでいて、家の中には二人きりだ。部屋の中はしんと静まり返っていて、お互いの心臓の音が聞こえてくるようだった。しばらくして、私はまた小さな声で言った。「あな
あの頃の私は、仕事でどん底にいた上に恋人にも裏切られて、世間の風当たりも強かった。それに、勝ち馬に乗ろうとする嫌な人たちからは、冷たい言葉を浴びせられる毎日だった。だから、私はカッとなって、半ば意地になるように仕事を辞めて海外へ逃げたんだ。意地になっていたのか、それともただ逃げたかったのか。自分でもよく分からなかった。あるいは、ただ自分を責めていたのかもしれない。だって、あんなにたくさんの前兆があったのに。真司が美咲をひいきしていたことや、美咲の名前のイニシャルが刻まれた財布。それに、発表会前の真司の妙な態度。そして、真司が唐突に投げかけた、「優里、もし俺がお前を怒らせるようなことをしたら、俺のそばからいなくなってしまうかな?」っていうあの言葉も。これだけの前兆があったのに、私はそれを見て見ぬふりをしてしまった。別れを切り出した後でさえ、真司が泣きつくからって、私はつい情にほだされてしまった。そして、別れ話なんてなかったことにしてしまったんだ。私の不注意と甘さが、あの二人に私を傷つける隙を与えてしまった。それが、今のこの最悪な状況を招いたんだ。どうしようもない憤りを感じたり、自分を責めたり。心は、どうやっても落ち着かなかった。海外に着いて、見慣れない街並みや言葉に囲まれていると、少しだけあの頃の苦しみから解放された気がした。もう一度自分の専門分野で成果を出して、自分の潔白を証明しようと決めた。でも、再出発は思っていたほど簡単じゃなかった。「他人の成果を横取り」という汚名は晴らせていないから、まともな研究所が私を雇ってくれるはずもなかった。私は他人の成果を横取りしたりなんてしていないし、むしろ被害者は私の方だと何度も訴えた。これまでの実績を見せて、自分の能力を分かってもらおうともした。でも、全部無駄だった。確たる証拠がなければ、私がどれだけ言葉を尽くしても、誰も信じてはくれなかった。誰かを信じることにはリスクが伴うから。見ず知らずの人間のために、そんなリスクを負いたい人なんていないんだ。それは理解できる。けれど、当時の私には、それが絶望を深める出来事だった。何度も壁にぶつかって、すっかり打ちのめされてしまった。着いたばかりの頃の解放感はもうどこかへ消えてしまって、もっと大きな不安とプレッシャー
「じゃあ、私と他の同僚の差っていうのは、才能じゃなくて、努力の差ってこと?」私は口の端を吊り上げて言った。「いや、そういうわけじゃないわ。あなたと他の人たちの間にあるのは、正真正銘、才能の差よ。同じだけ努力しても、周りの人はちゃんと報われるから、次も頑張れる。でも、あなたの場合は……」私は肩をすくめた。「まあ、これ以上言うのはやめとくわ。大人の対応ってやつよ」背後で美咲がわめき散らすのが聞こえたけど、私は晴れやかな気分でその場を後にした。家に帰る頃には、空はもう薄暗くなっていた。哲平は家で私の帰りを待っていてくれた。「どうだった?」哲平は心配そうに聞いてきた。その緊張した顔を見て、私は思わず笑ってしまった。「なによ、谷口さんのことで私が傷つくと思ったの?平気よ。私は自由の身で、彼女は囚われの身。私は勝ち組、彼女は負け犬。私にはこんなに素敵な夫も子供もいるのに、彼女は長年追いかけた相手にも、結局、相手にされなかったじゃない?今さら谷口さんのことで心を乱されるなんてことあったら、私の人生、なんだったのって話よ」そう言うと、私は買ってきた肉まんを取り出した。「これが前に話してたお店のよ。子供の世話で忙しくて、なかなか連れてってあげられなかったでしょ。今のうちに食べとかないと、もう気軽には来られなくなるから」哲平はにこやかに肉まんを受け取ると、それを食べながら私の話に耳を傾けた。「谷口さんは今回、刑務所行きは確実だよ。彼女はまだくだらないことで逆上してるみたいだし。あの精神状態じゃ、自分の弁護士を探すなんて、当分考えられないでしょ。どうせなら、最後までお人好しを演じきってあげようかしら。真司の家族のために、優秀な弁護士を探してあげるの」哲平はちょうど肉まんを食べ終えたところで、私の話を聞いて笑った。「なるほどね。こういうのは早く腕のいい弁護士を見つけた方が、断然有利だからな!」まさにその通り。何事も先手を打った方が有利に決まっている。そう思うとすっきりして、私はすぐに弁護士の友人に電話をかけた。その友人に事件のあらましを説明すると、話が終わる頃にはすっかり乗り気になっていた。面白いゴシップを間近で見られるなら、と喜んでこの案件を引き受けてくれた。電話を切って顔を上げると、哲平がにこにこしなが