隣国に着いて、私は路銀も足りなくなり正直なところ困っていました。
今後出産のためにお医師にもかかるでしょうし、住む場所もままならない状態で大丈夫かなぁ?
そんな事を考えていたら、暑さと疲労で道の真ん中で倒れてしまったようです。幸いにも通りすがりのお食事処『大喰らい』の女将さんが私を拾ってお医師様に見せてくれました。
お食事処の2階は生活空間になっており、そこで私は意識を取り戻しました。
「あんた、身重の体で無茶し過ぎだよ。過労だってさ。名前は?」
「えーっと、クリステ…、いえっクリスと申します。男みたいな名前で恥ずかしいわ」
「そうかい?私はこの食事処『大喰らい』の女将だよ。クリスは行くところがないのかい?まぁ、詳しくは話さなくてもいいよ。人間言いたくない事の一つや二つあるもんさ。とりあえずは簡単な過労にいい食事を作るから休んでおくれ」
―――女将さんはいい人みたい。詮索もされないし。
女将さんが持って来てくれた過労に言い食事はとてもおいしかった。
「あの……よろしければ、私をここで雇っていただけませんか?できれば住み込みで」
「まぁ?うちとしてもクリスのその後が気になるところだし、その方が気が楽かな?よしっ、そうと決まれば、クリスはよく休養をして早く働けるようになっておくれ。ここは食事処だけど、注文スピードとか速いから結構体力勝負だよ!」
そんな中私の様子を見に来てくれていると思うと女将さんには頭が下がる思いがする。
「女将さん。新しく女の子雇ったの?」
「そうだよ、クリスってんだ。彼女は身重だから、優しくしてくんな」
「可愛いのに残念。旦那がいるのかぁ」
「いいえ、いませんよ?」
「コラコラ、人のプライベートに踏み込むんじゃないよ。訳アリみたいなんだから。それはそれ、これはこれだ。ところで、ここは無駄話をするところじゃないよ?注文がないなら帰っておくれ!」
「違う違う!俺は今日はAセットを頼む!」
「2番テーブルA一つ」
女将さんが厨房の方へ大声で叫ぶ。なるほど、注文の取り方とか勉強になったわ。
「クリスは4番テーブルの片付けを頼むよ」
えーっと、食器を厨房の方に持って行くのよね。そして、テーブルを拭くのよね。昨日女将さんに習ったもの、できるはず!
「4番テーブル片付け終わりました」
「報告しなくていいよ……。次の客を案内しておくれ。ほら、店の前で待ってるだろ?」
「お客様、テーブルが空きましたので、中の方へどうぞ」
「女将さん、ずいぶんと別嬪さんを雇ったね。あ、俺はCセット」
「俺はA」
「Aが1。Cが1。オーダー入りました!」
私も声を張り上げました。
「クリスは声が小さいなぁ。A1C1オーダーです!」
流石は女将さん。声の張りが違う。私の淑女教育じゃ大声を出すことなんかなかったもんなぁ。
カイエイ王国の国王が謎の絵を額に入れているという噂はベルーナ王国にまで聞こえてきた。そこまで突飛な絵じゃないと思うんだけどなぁ。 ダミアンが王宮で生活するようになった頃、もうダミアンは10才を越えていたんだけど―――ダミアンの部屋の壁紙は犬の模様だった…。「俺はもうガキじゃないんだけどなぁ」 とか言ってたけど、私から見たらまだまだ子供。可愛らしい。ところで、王宮で生活をするようになり、私は王太子妃として生活をするようになったわけで……。 つまるところはダミアンの弟妹を妊娠しました! ダミアンにはいつ言おうかな?とドキドキしています。アーノルド様は早く伝えた方が喜ぶんじゃないか?って言ってるから、早い方がいいのかな?「ダミアン、あのね母さん」「‘母さん’じゃなく‘母上’だろ?」 ダミアンに言葉遣いを訂正されました。立派になったねダミアン。「ゴホンっ、母上は実はダミアンの弟か妹を妊娠しました!」「マジか?俺は今10才だから11才になったら産まれるのか?」「多分そうだろうってお医師様は言っているわよ?それにしても、言葉遣い悪いわねぇ」「仕方ないだろ?王宮生まれの王宮育ちじゃねーんだから。安心してよ、公の場ではちゃんとするから」 焦った時とか出るのよ、素の言葉遣いが……。 とか言ってるけど、皆王宮で生活できてるし、初恋も実り幸せです♡
「お帰り。クリス、ダミアン。変わりはないかい?」「うん」「ダミアンは元気だねぇ」「女将さん、ちょっとお話構いませんか?」 ダミアンは常連客さんと楽しく遊んでいる。その隙に女将さんに話をした。「えーと、まず。私はカイエイ王国の侯爵令嬢のクリスティーン=ウィリアムズです。本名が長いですよね」「やっぱりねぇ。そこらの女の所作とは違う気品みたいなものがあったからなんとなくわかったけど」 追求しないでいてくれた女将さん優しさが嬉しい。「それで…その…ダミアンなんですけど、カイエイ王国の王太子様との間の子でして」「ありゃまぁ、ダミアンは王子様だったのかい?これは驚きだねぇ。本人も知りません。教えたけど、わかってるのかな?って感じです」「まぁ、産まれながらの王宮育ちってわけじゃないからねぇ。ここで産まれたわけだしね!」「それで、この度カイエイ王国の王太子様にプロポーズをされまして、私一人なら即OKなんですけど、ダミアンの気持ちを尊重しようというカイエイの王家とも意見が一致しまして週末のみカイエイ王国の王太子様がここに滞在することとなりました」「それは光栄なことだね。女将さんには変わりなく接していただきたく思います。王太子様の名前はアーノルド様です」「そうだねぇ、‘ルド’とでも呼ぶかい?名前を呼ぶたびに寿命が縮む思いだけどね」「助かります。そのようにお願いします。少しずつアーノルド様とダミアンの距離を縮めていこうという意見です」「わかったよ」 女将さんが話の分かる人で助かった。とても気が軽くなった。 その後はいつものように『大喰らい』で働いた。「ダミアンはもう寝る時間でしょう?お部屋に一人で行ける?」「ひとりでいけるもん!」 寝つきもいいし、大丈夫よね。 その週末さっそくアーノルド様が『大喰らい』へとやって来た。「初めまして、女将さん。私の事はそうですね…‘ルド’とでもお呼びください」「私に敬語なんか使わないで下さいな」「…とおたん?とおたんがきたの?」「そうよ。週末だけ来てくれるって言ったでしょ?ちゃんと約束守ってくれるのよ」 アーノルド様はちゃっかりとダミアンに犬の縫いぐるみのお土産を持って来ていた。ダミアンは大興奮で喜んでいた。「こらこら、誰かに物を貰ったらキチンとお礼を言わなきゃダメでしょう?」「ありがとうございまち
「それがですね、先ほどアーノルド殿下よりプロポーズを受けまして……」「うーん。ダミアンを逃すのは惜しいが、王家からの申し出だからな。それにだ。二人が想い合っているのだろう?」 お父様にそう言われると、なんだか照れてしまいます。「かあたん、とおたんとけっこんちちゃうの?」 それをダミアンに言われると、正直困ります。「ダミアンは父さん嫌かなぁ?」と聞くと、照れたように頬を染めて首を左右に振るのです。 少しずつ慣れるってのはダメかな?いきなり王宮で生活するって困るよね?「それじゃあ、父さんに頼んで週末だけ一緒に過ごすことにしようか?残りの日は『大喰らい』でいつものように二人で過ごすの!どうかな?」「ちょれなら、がんばる!」 がんばる事なのかなぁ?アーノルド様と陛下に相談しましょう。 それから王宮に戻り、アーノルド様と陛下に相談しました。「やはり急にアーノルド様が父親と言っても受け入れるられないようで……。週末にアーノルド様が私達が暮らす『大喰らい』へやって来てもらえませんか?隣国となってしまうのが心苦しいのですが」「了解した。ベルーナ王国にはその旨の書状を送っておこう。アーノルドは心してダミアンに父親として慕ってもらうように!」 王命?「ダミアンは可愛い我が子ですからね。私も父親として慕ってもらいたく思います」「えーと、ダミアンは騎士様に憧れているのと猫派ではなく犬派です。犬が大好きです。犬のパンツにしたら汚したくなかったのかな?おねしょをしなくなりました」「「すごいな……」」 平民の暮らしがでしょうか?「おねしょなんて王宮だったら違う克服のさせ方でしょうね」「うむ、そうだな。アーノルドの時はなぁ……」「父上っ」「陛下だと言っておろうが、動揺しおって全く。その件についてはあとでじっくりクリスティーン嬢と語り合う事にしよう。他に何か問題はあるかな?」「今はありません」「では、週末はアーノルドがクリスティーン嬢の元へと通うようにしよう。慣れてきたら、その日にちを増やす方向でというのはどうだ?」「「それでお願いします」」 そのように決まった。「ダミアン、週末だけ父さんが『大喰らい』のところに来てくれるわよ!一緒に働きましょうね。ダミアンのカッコよく働く姿も見せないと!」「うん!」 アーノルド様を嫌っているわけじゃないみた
ついに王宮まで着いた。 ここまでの道のりは長かったけど、喉元過ぎれば熱さを忘れるというのかしら?ダミアンは王城の大きさに感動している。「おっきいね。きょじんさんがすんでるの?」「たくさん人がいるから、大きいのよ」 と、訂正しておいた。 謁見の間まで辿りついた。 国王はダミアンを見て、一目で「アーノルドの幼き頃にそっくりだ」と感動してらした。 そういえば、アーノルド様とはあの夜以来初めての対面となる。「ベルーナ王国のお食事処で給仕をしておりますクリスティーンとその息子のダミアンと申します。この度は招待にあずかり誠に光栄なことです」「よいよい。そのような挨拶は。ダミアンと申すのか。可愛いなぁ。じぃじだよぉ」 かなり驚いた。国王がいきなりダミアンに対してじぃじ発言。「久しいな、クリスティーン。元気だったか?」「食事処は元気でないとやってられませんからね。ダミアンも看板息子として頑張ってましたよ」 ダミアンは人見知りが発動しているようで、ちっとも口を開かない。「そういえば、クリスティーンは勘当を解かれたらしいから、家名を名乗ってもいいんじゃないか?」「ダミアンはウィリアムズ家の世継ぎとなるのでしょうか?私としてはこのまま伸び伸びと成長してほしいのです。知識は最小限でいいから。世継ぎとなれば、いろいろと勉強しなければならないでしょう?向いていないと思いますし」「かあたん、‘じぃじ’って何?」「えーと、まずこちらのアーノルド様がお父様なの。それで、お父様のお父様よ?」「とうたんのとうたん?」「そうよ。わかった?」「うん。かあたんはとうたんとけっこんしちゃうの?」「それはわかんないなぁ」「ぼくだけのかあたんだもん!」 ダミアンがヒシっと私にしがみつく。「クリスティーン、できるなら私と結婚してほしい。シャロンとの離縁も決定している私にもうためらう事は何もない。私の初恋の君」 ダミアンをつけたままの私にアーノルド様はプロポーズしてくれた。「クリスティーン嬢は勘当を解かれたわけだし、侯爵令嬢として申し訳分ない。アーノルド一途だったという貞淑さもある。あの女と違って」 ここまで言われると断れないじゃない!「では、その申し出お受けします。一度ウィリアムズ侯爵家に行ってもよいでしょうか?」「それなら構わんぞ。閣下もダミアンに会いた
「残念だが、貞淑ではないようなものに国母を任せるようなわけにはいかない。シャロン、アーノルドとの離縁を申し渡す」 アーノルドはホッとした。なんだか解放された気分だ。アルバートの方を見ると、全てを失ったような顔をしている。 アーノルドとシャロンの離縁、シャロンの産んだ子の父親についての情報など世界中を駆け巡った。「なんだい、カイエイ王国の王太子妃は尻軽女で御子の父親が誰かもわからないのかい」「ちりがるおんなってなにー?」「女将さん…。ダミアンは知りたがりの年齢なんで発言に気を付けて下さい」「あら、そうだった。お尻が軽くてプカプカ浮いちゃう女の人の事だよ」「ふーん、わかったー」 ダミアンは無邪気で可愛いなぁ。 そんな時にアーノルド様からの使者が私のところへ来た。「アーノルド様、および、カイエイ王国国王陛下がクリスティーン様とダミアン様に会いたがっています。是非王宮の方へいらしてください」「そんなことをおっしゃられても、私は実家に勘当された身ですし、王宮に行くためのドレス等持っていない平民ですので、要望を叶えることはできません」 そのように返事をすると、実家からは「勘当は解く」という内容の手紙が届き、さらにはアーノルド様よりドレスと装飾品一式が私とダミアンの分届いた。 ……どうやって国境を越えたりすればいいのかしら? と、思っていたら、後日お迎えに上がりますので準備の方お願いします。と、言われてしまった。 後日、普段とは違う装いにはしゃぐダミアン。「ああ、あんまりはしゃいではせっかくカッコよくしたのにぐちゃぐちゃになってしまいますよ?」 と、セーブする。私のドレスは侍女なしでも着ることが出来るものでよかった。「かあたん、きれい!」「ああ、クリスはキレイだね。自分で髪とかやったのかい?」「趣味でいろいろやっていたので、できました」 結構暇なのよね。 使者様が迎えに来てくださり、王宮に行くこととなった。「留守の間、すみません」「なーに、クリスの一人や二人大丈夫さ」 私は一人なんだけど……。 こうして私はカイエイ王国の王宮へと向かいました。 慣れない馬車にはしゃぐダミアン。「そんなにはしゃぐと危ないわよ!」 馬車の窓から流れる景色を見て、「アレは何?」といっぱい質問をされた。 好奇心旺盛なのはいいことだけど、馬車の中
「調べて参りました。この結果は陛下と共にお聞きになった方が良いのではと思います」 というので、私とこの男と陛下の3人で話を聞くこととした。「調べた結果、シャロン様はアーノルド様から閨のお誘いがちっともないと、結婚後2年で下町に出るようになりました。その間には専属の侍女を身代わりにして、自分は下町に出ていたようです。下町では王妃殿下に支給される予算から男娼を買い、遊んでいたようです。財務大臣から厳しく問われるようになると、実家の権力でその財務大臣を解雇させたようです。そして、ふらふらと夜の下町を歩き回っては好みの男性を買っていたようです」「まったくもってけしからんな。シャロンの実家カーター侯爵家共々重い罰が必要だな」「アルバート様とも体の関係はあったようですが、他にも護衛騎士など城内の者とも体の関係になっていたようです」「これじゃ、子供の父親なんかわからないじゃないか!シャロンは何故、父親がアルバートだと言い張るんだ?」「アルバート様が立太子し、のちに国王となれば、その際に自分が国母になる可能性があると思っているのでは?と推測します」「そうだなぁ。淑女たるもの貞淑であれとはよく言うものだが……酷すぎないか?いや、放っておいた私にも非があるのだが」***** ついに、シャロンが出産をしました。 女の子だった。茶髪で茶色の瞳の色の。「アルバートが金髪碧眼、シャロンが銀髪茶色の瞳。子供の髪の色が茶髪とはどういうことだ?」 陛下がシャロンを糾弾し始めました。「こ…、これはそう、覚醒遺伝ですわ。私の家系に茶髪の方がいらっしゃるのよ!」「カーター侯爵家に?厳格なカーター侯爵家で茶髪の者はいるだろうか?銀髪であることを誇りとしているような家門だと記憶しているが?」「茶髪の方がいたのよ!そうに違いないわ!そうじゃないとおかしいもの!」「ほう、これは私の興味で調べていたことなんだが、シャロンはアーノルドと結婚して2年、閨の誘いがなかったことにしびれをきらして、夜の下町で男娼を買っていた。財務大臣にそのお金の使い道について問いただされると、その財務大臣をカーター侯爵家の権力で解雇。その後も男娼を買うという行為を行っていた。それに飽きると夜の街を徘徊し、好みの男性をこれまた買っていた。違うか?」「違いますわ。だって、夜はいつも部屋にいたじゃない。侍女達が