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004.変わらぬ朝2

Author: 小嵩 名雪
last update Last Updated: 2025-10-01 22:15:11

「ミリーもとうとう高等部か。勉強がますます難しくなるだろうが、公爵家の人間なのだから頑張りなさい。」

「もう!わかってますわ、お父様!」

「ふふ。ミリーゼは今までも頑張ってきたのですから大丈夫ですわ。あなた。」

「それもそうだな。」

ミリーゼはつい先日高等部に進学したばかりで、今日から本格的に授業が始まる。

中等部の制服から高等部の制服へと衣替えをし、髪形も以前はツインテールにしていたのだが、髪を腰まで流し、ワンポイントに真珠の髪飾りをつけている。

「そういえば、お父様。この前入学祝にいただいたこの髪飾り、つけてみましたのよ?いかがですか?」

「うん。ミリーに似合っているよ。」

「本当。ミリーゼの髪の色に合いますわね」

…入学祝い…そうかそれが…

フィルエットは少し前にミリーゼが自分の部屋に来て、入学祝いをもらったとかどうとか…くだらない事を言いにきていたな。

っと思い出していた。

――あの時はそれだけで終わったから何事かと思っていたけど…自慢したかっただけか…

「ミリーゼ姉さん。容姿が変わっても中身が変わらないと意味ないって知ってる?」

「おだまり!オルカ!!」

「だって本当のことじゃないか」

「あなたはもっと女心を理解した方がよろしくってよ!そんなんじゃ社交界でモテないし、婚約者だって無理じゃないかしら…」

「姉さん喧嘩売ってるの?」

――また始まった…

ミリーゼとオルカはとにかく仲が悪い。

よくこうした場で姉弟喧嘩をしている。

「二人とも、行儀が悪いですよ!」

「オルカ。お前ももう少ししたら高等部だ。気を引き締めて学んできなさい」

「わかってますよ。お父様」

「もう!お父様はオルカに優しすぎますわ!!せめてオルカが殿下みたいに誠実な人なら私も姉として誇らしいのに!」

「それをそっくりそのままミリーゼ姉さんに返すよ。社交界の花と言われているセレナ・ウィルソン公爵令嬢みたいにおしとやかにしてほしいね」

「なんですって…」

「なに?」

「二人ともいい加減になさい!学園に遅刻してしまいますよ!」

二人の言い合いが続き、少し騒がしい朝食の席だが、フィルエットは黙々と目の前に出された食事を胃の中に詰め込んでいた。

――この味…さっぱりしていてとても食べやすいな。

――それにしても…私がここにいる理由はあるのかしら?

目の前の皿より少し視線を上げると、二人の姉弟の喧嘩を義母が止めている。

「ごちそうさまでした」

そんな騒がしい中、フィルエットは一番最初に朝食を採り終え、小さな声で食事が終わった事をつげた。

目の前で繰り広げられている口喧嘩には目もくれず、フィルエットがその場を一人立ち去ろうとした時、珍しくあの男に声をかけられた。

「フィルエット。」

その男に名前を呼ばれたのはいつ振りか…

そして今この全員が揃っている時に呼ぶとは、何かの嫌がらせではないかと心底私はそう思ってしまったのだが、呼ばれてしまったからには無視はできない。

まがりなりにもこの男は現在この家の当主なのだから。

「はい。なんでしょう。」

私とあの男の間になんとも言えない空気が流れ、そしてさっきまで騒がしかった義母達が静まり返り、全員の視線が私に集中した。

「今までは中等部と高等部で校舎が別々だったが、ミリーも高等部となる。公爵家の者として恥ずかしくないように振舞いなさい」

「姉であるお前の行動がミリーに迷惑をかけるのだからな」

つまりこの男は、私に全てにおいて完璧を求めたいのだろう。

今までも成績は上位に入るようにし、社交もそれなりにしてきたと思う。

先生方に迷惑をかけた事もないと思う。

しかしこの男は…いつも私には関わらないようにしてきたこの男が、義妹が同じ校舎になる事により、今まで以上に行動には気をつけろとわざわざくぎを刺してきたのだ。

だがこの男との会話に付き合うつもりもないので、無難な言葉を返す。

「日々精進してまいります。それでは学校がございますのでこれにて失礼いたします。」

私はカーテシーと共に退室の挨拶をし、その場を後にした。

「お姉様。」

食堂を後にした私はミリーナから鞄を受け取り玄関を出ようとしたその時、またしても声をかけられた。

――今日は珍しい事ばかりね…。そんなに高等部に進学できたのが嬉しいのだろうか?

私はゆっくりと声がした方に振り向くと、声の主であるミリーゼと目があった。

ミリーゼの隣には義弟のオルカも立っている。

「どのようなご用でしょうか?」

「お義姉様が出発される前でよかったですわ。」

「?」

妹が言いたいことがいまいちわからない。

この義妹に限って「新しい環境になるめでたいこの日に、お義姉様と登校したかったの!」なんて言うとも思えないし、考えてもいないだろう。

妹がなにを言いたいのか次の言葉を待っていた私に届いたのは新手の嫌がらせであった。

「私、今まではオルカと一緒に登校しましたが、今日から高等部。中等部のオルカとは校舎が別なのでもう一緒の馬車に乗る事はできませんわ」

「ですから今までお義姉様が使っていました馬車を私に…とお父様がおっしゃってくださいましたので、お義姉様は【歩き】で学園に登校してくださいませ」

「お姉様と一緒の馬車なんてご遠慮したいので…それでは、失礼」

妹は言いたいだけ言って、私の横を通り過ぎ玄関から出て行った。

――…なるほど…。

私が今まで使っていた馬車を丸ごと奪い取り、私は徒歩で…という事ね…。

まぁそうなるのではないかと思っていたけど…。

私が義妹の言葉を理解しようと思考を巡らせている中、弟が私に近寄り、鞄を持ってない方の手をとり指を絡ませてきた。

「まったくミリーゼ姉さんには困ったね。フィルエット姉さんさえよければ、僕と同じ馬車で登校しよう。もちろん高等部の入り口までしっかり送るよ。」

なぜかオルカは満面の笑顔で語りかけてきた。

しかし幸いなことに我が家から学園の道は決して遠くないので、今から徒歩で出たとしても余裕で間に合う時間だ。

「お気持ちだけいただきますね。オルカ。」

私はそっとオルカに握られた手を離し、玄関に向かった。

そして外に出ようとしたその時、外からミリーゼの悲鳴に近い驚く声が邸の玄関ホールに響き渡った。

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