Partager

そよ風の中、また君に
そよ風の中、また君に
Auteur: にがうり玉子

第1話

Auteur: にがうり玉子
情事の終わり際、白石葵(しらいし あおい)は早川涼太(はやかわ りょうた)が避妊をしていなかったことに気がついた。

慌てて声を上げる。

「ねぇ、いつ外したの?こんな真夜中だったら学校の周りに薬も売ってないのに、もしも……もしも私、妊娠したらどうするの?」

涼太は彼女の腰を掴み、低い声で笑った。

「心配するなよ。妊娠したら産めばいいじゃん」

葵は呆然とした。反応する間もなく、涼太の長い指が彼女の下腹部に触れてくる。

「でも先輩、このお腹、小さすぎるよ」

彼は悪戯っぽく笑った。

「こんな小さいお腹で、本当に俺の子供産めるのかな?」

葵の顔は真っ赤に染まり、そっぽを向いた。

涼太は軽く笑い、彼女の耳元に唇を寄せる。

「先輩、顔を赤らめる姿、好きだって言っただろ?

まだ足りないんだ。さあ、おとなしく……」

その夜、涼太は彼女を四度も求めた。

夜が明けかけた頃、葵はこっそり寮に戻った。

だが、寮に着いた途端、携帯が鳴る。涼太からの着信だった。

「もしもし……」

電話に出ると、向こうは騒がしい雑音ばかり。

どうやら涼太はポケットの中で誤って発信してしまったらしく、本人は気づいていないようだ。

葵が切ろうとした瞬間、涼太の友人の声が聞こえてきた。

「涼太、大学院推薦の締め切りまであと少しだぞ?葵さんを確かに妊娠させられるのかよ?」

葵の手が凍りつく。

すると、涼太の怠惰な声が返ってきた。

「焦るなよ、まだ時間はあるだろ」

さらに男たちの下品な笑い声。

「さすが涼太は女に甘いよな。玲奈(れいな)さんと別れたって、未だに忘れられないんだろ?葵さんが玲奈さんの大学院推薦の資格を奪うのが心配で、自分から体を張ってるんだからな!」

涼太の声が冷たく響く。

「誰が玲奈と別れたって言った?彼女は大学院推薦の前に勉強に集中したいから、一時的に距離を置いてるだけだ」

友人たちがからかう。

「ははは、涼太のことは誰も逆らえないよな!たとえ玲奈さんが学内一の美人だって、涼太のこと忘れられるわけないし!」

「そうそう、葵さんだって、まじめで大人しいのに、涼太の手にかかればあっさり落ちたもんな!毎晩グラウンドでやってるらしいぜ?」

「でもよ、涼太。正直、葵さんってめちゃくちゃ可愛いよな。玲奈さんに負けてないぜ。毎晩あんなことしてたら、マジでちょっとは感情湧いてるんじゃねえの?」

誰かが唾を吐くように言った。

「バカ言うなよ!涼太の心中は玲奈さん一色なのは周知の事実だろ!葵さんを追いかけたり、寝たりしたって、全部玲奈さんのためだ!」

「ああ、玲奈さんは大学院推薦が第一で、金融学科の推薦枠は一つだけ。葵さんがトップだから、涼太はわざと近づいてるんだよ!」

「締め切りまでに葵さんを妊娠させて、自主的に進学を諦めさせりゃ、玲奈さんの推薦は確定だ。そうだろ、涼太?」

一瞬の沈黙の後、涼太の冷たい声がはっきりと響いた。

「ああ、その通りだ」

電話の向こうで、葵の顔から血の気がすっかり引いていった。

彼女は生真面目で、ずっと学業一筋。大学三年になるまで恋愛なんて縁がなかった。

しかし一年前、情報学科二年の涼太が彼女の人生に突然現れた。

彼は奔放で、グラウンドにキャンドルで彼女の名前を描き、教師に追われながらも、女子寮の葵に向かって叫んだ。

「先輩!お前は俺の将来の彼女だ!情報学科二年、早川涼太!絶対覚えとけよ!」

葵は昔から可愛いと言われ、多くの男子に追われてきた。

だが、涼太のような常識外れのアプローチは初めてだった。

彼女は知らず知らずのうちに攻略され、長い時間をかけて交際を承諾した。

付き合って半年後、涼太の甘い言葉に押され、彼女は全てを捧げた。

初めての夜、涼太は熟練した動きで彼女の呼吸を奪い、スカートに手を滑り込ませた。

震える葵に、彼は耳朶を噛みながら笑った。

「先輩、照れてるの、可愛いよ。

先輩ってほんと純情だな。これからも、俺だけに見せてくれよ」

葵は運命の出会いだと思っていた。全てを捧げても構わないと。

だが、全ては嘘だった。

涼太が接近した理由は、元カノの黒木玲奈(くろき れいな)。

同じ金融学科で、成績では常に葵の後塵を拝していた彼女のため。

たった一つの推薦枠のため。

馬鹿みたい。

彼女の初めても。

評判も。

本心も。

全てが推薦枠にすら及ばなかったのか?

葵は俯き、声を殺して泣いた。

……

彼女は一睡もできなかった。

夜中の行為を思い出し、葵はタクシーで校外の薬局に駆け込み、緊急避妊薬を飲んだ。

そしてコンビニの前で夜明けを待ち、母親に電話をかけた。

「お母さん……やっぱり、海外の大学院に進学する」

実は涼太の読みは最初から外れていた。

葵は元々内部推薦を受けるつもりなどなかった。

優秀な成績で学部時代から論文を発表し、とっくに海外の有名大学院から合格通知を受け取っていた。

当初から海外進学を考えていたが、涼太と出会ってからは国内に残ることも考え始めたのだった。

だが今は……

電話の向こうの母親は驚きつつも、すぐに受け入れた。

「分かった。でも海外は学期が早く始まるから、単位ももう取れてるし、早めに渡航して慣れたらどう?来週出発で大丈夫?」

葵は俯いたまま答えた。

「うん……早い方がいい」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Dernier chapitre

  • そよ風の中、また君に   第24話

    車が急停車した。涼太は目の前の広告看板を見て、信じられない表情を浮かべた。そこには葵が映っていた。 スクリーンの中の葵はスーツ姿でインタビューを受け、自信に満ちた笑顔を浮かべていた。 涼太の運転手は彼が小さい頃から面倒を見てきたため、涼太が刑務所に入った理由も知っていた。 涼太の様子を見て、運転手は複雑な表情で言った。「葵さんは卒業後すぐに帰国され、今では国内有数のファンドマネージャーとして活躍されています。これは金融関係のインタビューでしょう」 涼太はうつむいた。 やはり、彼女はうまくやっていた。 当然だ。学生時代から、葵は何でも完璧にこなす人間だった。 家族と外見以外、何一つ彼女に及ばない自分とは違って。 涼太は自分の姿を見下ろした。10年の刑務所生活で、若き日の鋭さはすっかり消え失せ、今の彼はただの信託基金で生きる敗残者でしかなかった。 30分後。 涼太の車は中心街のオフィスビル前に停まった。 車内で涼太は不安でたまらなかった。 このビルが葵の職場だと知っていた。 長いしゅん巡の末、それでも彼女に会いたいという気持ちに勝てなかった。 もう完全に釣り合わないとわかっていても、ただ一度会いたかった。 ふと見ると、ビルからなじみのある人影が駆け出してくるのが見えた。 葵だ! 涼太の目が輝き、無意識にドアを開けようとした。 しかし次の瞬間、黒いベントレーが止まり、中から男性が降りてくると、葵はその腕に飛び込んだ。 二人は楽しそうに笑い合っている。 さらに次の瞬間、車のドアが開き、5歳ほどの女の子が飛び出してきて葵に抱きつき、嬉しそうに叫んだ。 「ママ!ママ!」 涼太のドアを開けようとした手が完全に固まった。 そして、彼は力なくうつむき、自嘲的に笑った。 そうだ。10年という時間は、彼にとっては刑務所での単調な日々だった。 しかし他の人にとっては、真実の愛を見つけ、結婚し、子をもうけるのに十分な時間だった。 葵はとっくに自分の人生を歩んでいた。 涼太はかつて深く愛した女性をもう一度見つめると、最後に運転手に言った。「行こう」 車は再び動き出した。 こうして、涼太と葵の人生は永遠に交わることなく、遠ざかっていった。

  • そよ風の中、また君に   第23話

    涼太はこれまで、山田の持っていた写真に他のバックアップがないか、あの悪友たちが写真を持っていないかと気になっていた。たとえネットに流されなくても、下品な男たちが葵の姿を見ていたと思うだけで、腹が立って仕方なかった。 しかし今、それらの写真がすべて偽物だと知り、やっと安心した。山田はただ、以前のあのデブより上手に写真を合成していただけだった。当時、涼太は興奮しすぎていて、削除する時に偽物だとは気づかなかったのだ。 父親はこの話を聞き、怒りで声も出ないほどだった。 「どうして俺がこんなバカ息子を……」 冷たい目でそう言い放ち、「お前は弟とは比べものにならない」 涼太の表情が一瞬でこわばった。 世間は涼太を早川家の唯一の後継ぎと思っていたが、彼は知っていた。父親にはもう一人、外で産まれた弟がいることを。その弟は彼よりいくつか若いのに、すでに海外の名門大学に通い、優秀で評判も良い。 ただ、涼太が正妻の息子である以上、弟がいくら優秀でも後継ぎにはなれなかった。 だが今、すべてが変わる瞬間だった。 父親は冷たく言い切った。 「お前の母親への配慮で、これまでお前を後継ぎにしようとしていた。だが、殺人未遂の犯罪者を跡継ぎにはできない。山田家への説明も必要だ。これからは弟を正式に認め、早川家を継がせる」 涼太の顔が真っ青になった。 自分はもう捨てられたのだと悟った。 父親はため息をつき、最後に言った。 「それでもお前は俺の息子だ。最低限の生活費は保証する。だが、それ以上を期待するな」 そう告げると、父親は振り返りもせずに去っていった。 月日は流れ、葵の海外生活は順調になっていた。 涼太が連絡してこなくなったことに、彼女はすぐ気づいた。だが特に驚きはしなかった。元から涼太は遊び男だった。彼女が去ったことで一時的に執着しただけだろう。時間が経てば、きっと新しい女性を見つけて興味を失うに違いない。 葵はそのことに何の感慨も抱かなかった。 彼女は真面目に勉強し、無事に卒業するとすぐに帰国して働き始めた。そして努力が実り、一流のファンドマネージャーとして成功していた。 そして、10年後。 涼太は刑務所から出所した。 「外に出たら、真面目に生きろよ」 看守が所持品を渡すと、涼太

  • そよ風の中、また君に   第22話

    山田は一瞬呆然とした。「涼太、お前マジで……」 山田は涼太と長年付き合いがあり、涼太がどれほど浮気性か知っていた。 これまで涼太が本気になったのは黒木玲奈くらいだが、彼女のために跪くことなど絶対にあり得なかった。 なのに今、涼太は白石葵という女のために本当に跪いた! 山田は状況を理解すると、哄笑を上げた。 「ははは!涼太め、まさかこんな姿を見られるとはな!さあ!『俺が悪かった』と言え!『俺はお前の犬だ』と言うんだ!」 涼太の拳は固く握られ、爪が掌に食い込んでいた。 目は充血し、山田を殺そうとする衝動に駆られたが、葵の顔を思い出すと堪えた。 結局、葵がこんな目に遭うのは自分のせいだ。もし彼女の名誉を本当に傷つけたら、男として失格ではないか? そう考え、涼太は深々と頭を下げた。 「俺が悪かった!殴ったのが間違いだった!葵を許してくれ! 俺はお前の犬だ!」 尊厳をズタズタにされるような言葉が、高慢な涼太の口から次々と零れ落ちた。 「バカめ!」 山田は笑いで涙を浮かべた。 「跪けばそいつを許してくれるとでも?結局俺の足が不自由になったのはそいつのせいだ!絶対にぶっ潰してやる!」 そう言いながら、山田はスマホの送信ボタンに指をかけた。 「やめろ!」 涼太は理性の糸が切れ、立ち上がると傍らの花瓶を掴み、ためらわず山田の頭に叩きつけた。 血しぶきが飛び散った。 ボディーガードが止めようとしたが、間に合わなかった。 ほかの人が駆けつけた時には、既に手遅れだった。 山田は涼太に花瓶で撲殺され、ボディーガードも気絶していた。 涼太は全身血まみれで、顔も血に染まっていたが、それでも山田のスマホを握りしめ、必死に削除を続けていた。 削除しても不安は消えない。今の技術なら復元可能だ。 山田が他にバックアップを取っていないとも限らない。あらゆるクラウドを確認しようとしていたが、 警察が彼を押さえつけた。 「放せ!放せ!」 最後の最後まで抵抗した。 「写真を全部消さなきゃ!」 だが警察は聞く耳を持たない。 カチャリ。 手錠がかけられた。 涼太は連行されていった。 その頃、地球の反対側。 葵は母と家具店を回っていた。 「もうすぐ母さん帰国するから、

  • そよ風の中、また君に   第21話

    涼太は慌てて帰国し、山田が問題を起こしたことを知った。 山田は涼太の幼なじみで、山田家も名家だった。早川家には及ばないが、無視できる存在では決してない。 あの日からオケで、涼太が「葵を好きにしろ」と言った時、真っ先に葵の服を引き裂こうとしたのが山田だった。 涼太が戻ってきた時、目の前が真っ赤になり、山田を集中治療室送りにした。今では退院したものの、足は不自由になった。 山田家がこの屈辱をどうして甘受できよう? 山田家はあらゆる手段で早川家に圧力をかけ、涼太の父親も噂を聞きつけ、国外から戻ってくるらしい。 しかし今の問題は両家の争いではない。山田が直接「葵さんのプライベート写真を持っている」と宣言し、ネットに公開すると脅してきたのだ。 涼太は急いで山田の病室へ向かった。 ドアを蹴破り、怒鳴った。「山田!その写真はどこから手に入れた!」 ベッドに横たわる山田は、涼太を見る目に憎悪をたたえていた。 「どこからだと思う?」 冷笑しながら続けた。 「お前は寮で毎日のように自慢してただろ?『今日は葵をどこどこに連れて行った』って。適当な場所を予め調べて写真を撮るなんて簡単だったよ」 涼太の顔は鉄色に変わった。拳を固く握りしめ、「死にたいのか!」と叫ぶと、山田に殴りかかろうとした。 しかし山田が廃人同然になった今、山田家が無防備なわけがない。 複数のボディーガードが飛び出し、涼太を押さえつけた。 「やっぱりな」 山田は冷ややかに笑った。 「お前が葵さんに本気だって噂は本当だったのか。どうした、玲奈さんはもう要らないってか?今度は葵さんのために命懸けか?残念ながら、俺が持ってる写真を公開すれば、葵さんは確実に人生終了だ!あの合成写真とは違って、本物のネタだぜ?ははは、写真の中の葵さんは本当に魅力的だった。お前が本気になるのも無理ない。味見できなかったのが残念だがな……このクソ野郎が!」 下品な言葉に涼太はさらに激怒し、訓練されたボディーガードを振り切り、山田の首根っこを掴み上げた。 山田は恐怖に叫んだ。「警告する!殴れば即座に写真を公開する!」 涼太の拳は空中で止まった。 山田は涼太を手中に収めたと悟り、さらに得意げに笑った。 「葵さんの写真が公開されるのが怖い?簡単だ。今すぐ跪

  • そよ風の中、また君に   第20話

    今の涼太はこれまでにないほどへりくだっていた。 玲奈に対しても、こんなに懇願するような言葉は口にしたことがない。 しかし葵の目には依然として何の動揺もなかった。 ふと見上げると、近くで男の子たちがアメリカンフットボールをしていた。 激しいプレイの最中、ボールが教室のガラスにぶつかり、ガシャーンと音を立てて砕け散った。 周囲から悲鳴が上がる中、葵は静かに口を開いた。 「涼太、あのガラスが見える?」 涼太はきょとんとし、地面に散らばったガラス片を見た。 葵は続けた。 「一度砕けたガラスは二度と元には戻らない。人と人の絆も信頼も同じよ。嘘はつきたくない。あなたに騙されたことで、もう一生あなたを信じることができない。 信頼が失われた二人は友人ですら無理なのに、ましてや人生を共にするパートナーになれる?」 葵の言葉は極めて誠実だった。 実際、彼女は涼太を責めてはいなかった。 長い付き合いの中で、涼太が過保護に育てられた子供だということは理解していた。 金の匙をくわえて生まれ、何不自由なく育ったからこそ、子供のような無邪気さと残酷さを併せ持っていた。 だからこそ、自分の真心を踏みにじるようなことができたのだ。 責めはしないが、だからといって再スタートを切るつもりもない。 たとえ涼太が今、自分の本心に気づいたとしても、それがどうしたというのか? こんな人間が、もしまた飽きたら、同じように彼女を傷つけるのではないか? 人を見るなら最低な部分を見よ――涼太はすでに自分の最低な部分を晒した。彼女は二度と受け入れない。 涼太はその言葉で顔から血の気が引いた。 しかし葵はこれ以上話す気もなく、きっぱりと背を向けた。 涼太は一瞬追いかけようとしたが、足を止めた。 自分が葵を深く傷つけたことを知っている。今しつこくつきまとえば、さらに嫌われるだけだ。 いい。時間はたっぷりある。 1ヶ月でも、1年でも、10年でも、必ず葵を取り戻してみせる。 その後しばらく、涼太は暇さえあればM国に通った。 週末たった2日のために往復20時間以上かけて飛行機に乗ってもいやじゃなかった。ただひたすら葵に会いに行くが、彼女の迷惑になることは一切しない。 朝食を買ってきてアパートの前にそっと置くだけ。

  • そよ風の中、また君に   第19話

    葵の足が止まった。反応する間もなく、背後から青年が全力で駆け寄ってきた。 距離はそれほど遠くなかったが、涼太はまるで100メートル走のように必死の勢いで走ってきた。 冷たい白い肌が紅潮し、瞳は初めて会った時と同じようにきらきらと輝いていた。 「葵」彼は満面の笑みを浮かべた。「やっと見つけた」 葵はようやく顔を上げ、涼太を冷静に見つめた。 「用事でも?」 平静を保った声、見知らぬ人を見るような眼差し。涼太は完全に呆然とした。 葵のこんな表情を見たことはなかった。 二人が初めて会った時でさえ、葵は先輩としての優しさを少しは見せてくれた。 涼太は胸が締め付けられるのを感じた。 「葵」 高慢な青年は今やへりくだった声で言った。 「謝りたくて来たんだ。ごめん、俺が悪かった」 葵は一瞬驚いたが、涼太は続けた。 「最初から別の目的で近づいたこと、玲奈の推薦枠のために君を騙したこと、いろんな手を使って利用したこと、それに……」 涼太は言葉を詰まらせた。 「あの日カラオケで君を信じず、玲奈を傷つけたと思い込み、それに友達に君を……」 涼太はもう続けられなかった。ただ葵を見上げ、懇願するような目を向けた。 「とにかく、全部俺が悪かった。葵、お願いだ。許してくれないか?」 葵は目の前の少年を見つめ、ついに一瞬の驚きを覚えた。 彼が本当に遥々謝罪に来たとは思わなかった。 ましてや彼の性格で、こんなにへりくだった言葉を口にするとは。 しかし心の動揺は一瞬だけだった。小石が水面に落ちたように、すぐに静まり返った。 「うん」彼女は頷いた。「分かった。許すわ」 その言葉を聞いた瞬間、涼太の目が輝いた。 やはり葵の心には自分がいるに違いない! だからこそ簡単に許してくれたんだ! しかしその喜びもつかの間、葵がまた口を開いた。 「それで、もう行ってもいい?」 涼太は凍りついた。葵を見上げ、気づいた。たとえ許してくれたとしても、彼女の表情は相変わらず冷たいままだった。 涼太は胸がさらに痛むのを感じた。 理解した。葵は口では許したが、心から受け入れていないのだ。 涼太はついに焦り、葵の手を掴んだ。 「許してくれるなら、もう一度チャンスをくれ。もう一度君を追いかけさせて。

  • そよ風の中、また君に   第6話

    葵はドアを開ける手を止めた。 部屋の中では、涼太の友人たちがしゃべり続けていた。 「しょうがないよ、大学院推薦のリスト確定まであとわずかだ。葵さんを涼太に惚れさせるには、強烈な一手が必要なんだ」「まず葵さんの写真をちょっと合成してネットに流し、彼女が苦しんでいるところに涼太がヒーローみたいに現れて犯人を懲らしめる。これで彼女の心を鷲掴みだ!」 「でも涼太、お前手加減しなさすぎだろ!あのデブとは事前に話をつけてたとはいえ、入院させるなんて!報酬もっと上げなきゃだめだろ?」 医務室の中、涼太は暗い表情でしばらくしてから口を開いた。 「俺は控えめな写真でいいって言っただろ。あ

  • そよ風の中、また君に   第5話

    葵は警察への通報を中断した。 「涼太が?」 「そうよ!」 ルームメイトは焦った声で続けた。 「彼氏さん、ネットに投稿されたあなたの写真を見たら、コンピューターの専門だからすぐに相手のIPと寮を突き止めて、殴り込みをかけたんだって!早く行った方がいいわ、相手を半殺しにしているって聞いたから!」 葵は警察に通報するのを後回しにし、急いで男子寮へ向かった。 寮の前には既に人だかりができていた。 人々は葵を見ると噂話をしつつ、道を開けた。 葵が見た光景は―― 涼太がメガネをかけたデブ男を地面に押さえつけ、真っ赤な目をして顔を殴り続けている姿だった。 デブ男

  • そよ風の中、また君に   第4話

    涼太の瞳が一瞬縮んだ。 「俺は……」 何か言おうとしたが、葵はすでに皮肉っぽく唇を歪めていた。 「冗談よ。妊娠なんてしてない。ただの健康診断だったわ」 涼太は一瞬呆然とし、すぐに眉をひそめた。「健康診断?どうしたんだ?」 葵は冷静に答えた。「ちょっと調子が悪くて。それより、玲奈の付き添いで来たの?」 涼太は気まずそうに咳払いした。 「誤解するな。たまたま会ったから送ってきただけだ」 なんの意味もない言い訳。 それでも葵の体調についてこれ以上尋ねようとはしない。 葵はすでに感覚が麻痺していた。淡々と言った。「授業があるから、先に帰るわ」 そう言って振り

  • そよ風の中、また君に   第3話

    玲奈の顔が一瞬で青ざめた。──ガチャン! 涼太が突然立ち上がり、テーブルをひっくり返した。 グラスが床に散らばり、誰もが凍りつくように見つめる中、涼太の険しい表情が浮かんでいた。 「女の子にそんな質問するなんて、恥ずかしくないのか?」 先程質問した男子はすっかり酔いが覚め、青ざめて声も出せない。 玲奈が震える声で立ち上がった。 「ちょっと気分が悪いから、先に帰る」 そう言うと彼女は去っていった。 涼太は床のグラスを蹴り飛ばし、冷たく言い放つ。 「タバコ吸ってくる」 彼が去ると、場は騒然となった。 「なんだよ?さっきまで冗談言ってたくせに、急にどう

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status