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第318話

Author: 雪八千
玲が眉を寄せ、思わず佳苗の去っていったほうを見やると――その先から、ひとりの男性が足早に現れ、無言のまま佳苗の車椅子を押し、急いで連れ去っていった。

その後ろ姿がどこか見覚えがあり、胸の奥に、ざらつくような嫌な違和感が広がる。

玲は衝動のまま、そっと後を追おうと足を踏み出した――その瞬間。

すっと、誰かの影が目の前に立ちはだかり、進路を遮った。

玲は驚いて顔を上げる。そして、相手の顔を確認した途端、表情が一気に冷えた。

弘樹だった。

会いたくない人に限って会ってしまう。玲は今日、次から次へと予想外の人間に出くわしてばかりだ。

ただ、弘樹もまた偶然ここに来ていたらしく、傍らには秘書らしき男性が付き添っている。だが、その薄い色の瞳は、玲だけをまっすぐ見ていた。「玲、どうして病院に?何かあったのか?」

「別に、何もない」

玲は深入りされたくなくて、そっけなく返すと身をかわした。「それじゃ」

「待って、話はまだ終わってない。何もないなら、病院に来た理由ぐらい言えるはずだ。今持ってるの、受付票か?見せて」

弘樹は落ち着いた声ながら、妙な執着をにじませたまま、玲の手元へと手を伸ばしてくる。

だが、さっき佳苗に情報を覗かれたことで、玲は完全に警戒していた。伸びてきた弘樹の指が触れる前に、玲は素早く受付票をポケットへ押し込み、ぐっと弘樹を押し返す。

「どんな理由で来たって私の自由でしょ?そんなに詮索しないでもらえる?私、あなたが何で病院に来てるかなんて一言も聞いてないけど」

「社長は手を怪我されていて……」

次の瞬間、弘樹の秘書が慌てて前に出て、押し返された弘樹を支えながら、困ったように玲へ訴えた。「玲さん、あまり強く押さないであげてください。社長、今すごくお身体が弱っていて……」

玲は一瞬かたまり――その時ようやく、弘樹の不自然な姿勢に気づいた。彼はずっと、片手を背中に隠していたのだ。

さっきよろめいた拍子に、その手が前へ出る。包帯が何重にも巻かれ、そこからじんわりと血が滲んでいた。

秘書は、待ってましたとばかりに一気にまくしたてた。

「玲さん、社長は……少し前に怪我をされたんです。でも全然病院に来ようとしなくて、傷がどんどん悪化してしまって……今日、無理やりお連れしたところなんです。

たぶん、傷が感染しているかもしれません。陶器の人形の破
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