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第561話

Autor: 雪八千
玲は、もともと泳ぎが得意なほうではなかった。

先ほどまで弘樹に強く引きずられ、海の中で揺さぶられていたときも、必死に足先で海底を探り、なんとか踏ん張っていただけにすぎない。

だが、弘樹に乱暴に引かれたうえ、追い打ちをかけるように大波にさらされ、玲はまるで巨大な網に絡め取られ、そのまま深海へ引きずり込まれるような感覚に陥った。

冷たく、塩辛い海水が一気に全身を包み込み、目を開けることも、声を出すこともできない。視界は闇に閉ざされ、感覚だけが急速に遠のいていく。

「玲!」

「玲――!」

朦朧とする意識の中、暗闇の向こうから、焦りを帯びた二つの男の声が続けて聞こえた。後から響いた、聞き慣れたその声には、隠しきれない恐怖と動揺が滲み、今にも泣き出しそうなほど切迫していた。

その声に縋るように、玲は苦しさの中で腹部に添えていた手を必死に動かし、上へ、上へと浮かぼうとする。たとえ波に逆らえなくても、せめて一瞬でも顔を出し、秀一に自分の居場所を伝えたかった。

けれど、海は甘くなかった。

うねり続ける潮の力は、玲ひとりがどうにかできるものではない。どれだけ必死に手足を動かしても、体は
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Comentarios (2)
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明日香
救出してからのその後が見たかった
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りょん
え、ここで終わり? 雨音ちゃん心配して待ってるよね?赤ちゃん無事?? 赤ちゃん産まれて幸せ3人家族なお話まで読みたかった。
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  • そろそろ別れてくれ〜恋焦がれるエリート社長の三年間〜   第561話

    玲は、もともと泳ぎが得意なほうではなかった。先ほどまで弘樹に強く引きずられ、海の中で揺さぶられていたときも、必死に足先で海底を探り、なんとか踏ん張っていただけにすぎない。だが、弘樹に乱暴に引かれたうえ、追い打ちをかけるように大波にさらされ、玲はまるで巨大な網に絡め取られ、そのまま深海へ引きずり込まれるような感覚に陥った。冷たく、塩辛い海水が一気に全身を包み込み、目を開けることも、声を出すこともできない。視界は闇に閉ざされ、感覚だけが急速に遠のいていく。「玲!」「玲――!」朦朧とする意識の中、暗闇の向こうから、焦りを帯びた二つの男の声が続けて聞こえた。後から響いた、聞き慣れたその声には、隠しきれない恐怖と動揺が滲み、今にも泣き出しそうなほど切迫していた。その声に縋るように、玲は苦しさの中で腹部に添えていた手を必死に動かし、上へ、上へと浮かぼうとする。たとえ波に逆らえなくても、せめて一瞬でも顔を出し、秀一に自分の居場所を伝えたかった。けれど、海は甘くなかった。うねり続ける潮の力は、玲ひとりがどうにかできるものではない。どれだけ必死に手足を動かしても、体は前へ進まず、むしろその場で空回りしているような感覚ばかりが募る。顔を上げても、水面は相変わらず遠いまま。距離が縮む気配などなく、体力が奪われるにつれて、玲の体はじわじわと沈んでいった。――このまま、終わりなの?胸が締めつけられる。彼女には、まだ守らなければならない命があった。お腹の中の小さな命は、まだこの世界を一度も見ていない。そんな結末、受け入れられるはずがない。玲は涙をにじませ、必死に腕を振りながら、心の中で何度も秀一の名を叫んだ。だが、ここは海の中だ。酸素は尽きかけ、ついに口元から、意思とは関係なく泡がこぼれ出る。視界は急速に暗くなり、玲の身体は、そのまま深い闇へと沈んでいった。――その瞬間。見慣れた、大きな手が、突然、彼女の身体を強くつかんだ。次の瞬間、顎を支えられ、冷えきった唇に柔らかな感触が重なる。一気に温かな空気が流れ込み、玲のまつ毛が小さく震えた。耳元では激しい水音が渦を巻き、身体が勢いよく上へ引き上げられていくのがわかる。やがて――閉じたまぶたの向こうに、ぼんやりとした光が差し込み、鼻腔いっぱいに新鮮な空気が流れ込んだ。

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  • そろそろ別れてくれ〜恋焦がれるエリート社長の三年間〜   第556話

    「そうだ。お前にこの無様な姿を見せたのは、わざとだった」そう切り出してから、弘樹は少し息を整え、続けた。「玲……これまで俺は、お前に自分の弱い部分を見せたくなかった。この身体のことがずっと引け目で、三年も付き合っていながら、距離を縮めることも、ちゃんと触れ合うこともできなかった。でも、今は違う。傷だらけのままでいいから、俺をそのまま見てほしい。そして――俺が別れを選んだのには、理由があったんだ。それだけは、どうしても伝えたい」弘樹はベッド脇から立ち上がり、視線を逸らすことなく玲を見つめた。「もう気づいていると思うけど、俺が綾と付き合ったのは、好きだったからじゃない。今度こそ、その理由をきちんと話させてほしい」一拍置き、静かに言葉を続ける。「俺がお前を裏切ったのは、弱かったからでも、父に逆らえなかったからだけでもない。一番の理由は……お前の存在だった」弘樹は自分の身体を示すように、視線を落とす。「見ればわかるだろ。父は支配欲が強く、やり方も容赦がない。俺が物心ついた頃から、思い通りに動かすためなら、平気で傷つけてきた。体罰なんて、日常だった。もし俺とお前の関係が、父の計画の邪魔になると知れたら……きっと、お前にも同じことをした。当時、父は俊彦さんへの復讐を考えていて、そのために藤原家と深く関わろうとしていた。できるなら、内側から引っかき回したい――そう考えて、真っ先に目をつけたのが綾だった。俺が彼女と結婚し、藤原家の婿になれば、状況は一気に動く。父は、そう踏んだんだ。最初は、断固として拒んだ。その頃の俺は、もうお前と想いを通わせ、付き合っていたから。殴られて血まみれになっても、他の女と関係を持って、お前を傷つけることだけはできなかった。だが……ある時、気づいた。父の視線が、少しずつお前に向き始めていることに」弘樹は、玲を守るために、あえて人目を避ける形で交際を続けていた。だが、茂は決して油断する男ではなかった。彼が玲に関心を向け始めた頃、弘樹は悟ったのだ。自分と玲の関係がすでに露見し、そして――自分が茂の思い通りに動かない理由が、玲にあることまで、すべて見抜かれてしまったのだと。その瞬間、恐怖が胸を締めつけた。弘樹は、抵抗することも、感情を表に出すこともやめた。への想いを完全に隠し、何も感じていないふ

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