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あいにくその時が排卵期でした。 ソハは3か月間、北京への長期出張中でした。 もう半分くらい過ぎた時点です。
その夜、寝ようと横になったら、体が熱くなりました。 エロ映画をいろいろ探していたら、マッチングアプリの広告が出てきました。 ‘tan tan‘ Tinderのような中国式のマッチングアプリだからです。 うん、やってみようか ダウンロードして認証を待ちながら、電気ポットに水を入れました。 雲南省出身の社員が家で送ってくれたと贈られたプーアル茶を開けました。 香りがちょっと濃いですか?? 匂いを嗅ぎながら、認証が完了したタンタン画面を見つめました。 はぁ、これで合ってるのかな? クラブにも行ったことがないソハとしては、何か拒否感を覚えました。 ええ、まあチャット程度なら大丈夫でしょう。 スワイプします。 何人か良い男性が目に付きます。 特にジムで運動している写真に目が行きます。 ソハがスワイプしている間に、私の写真を見て押した「いいね」が積み重なっていきます。 その中には、金を払って送るスーパーライクを送った人もたまに見受けられます。 いいねが多すぎます そのため、精神がありません。 まず、スーパーライクを送った人のプロフィールを確認しました。 最初のスーパーライクは20歳の男の子でした。 教室で友達と肩を組んで撮ったようです。 チベット山を見ている後ろ姿の写真もあります。 はぁ、でも20歳だって、私と同い年だよね。 ソハは呆れながらチャットウィンドウを開きます。 男: hi(ハイ) 男の子からメッセージが来ています。 ソハ: hi(ハイ) 男: What are u doing here?(今、何してたの?) ソハ: just drinking tea, how about u?(お茶飲んでる?あなたは?) 男: watching movie, do u have a bf?(映画見て、彼氏いる?) 'bf?bfって何ですか? boyfriend?(彼氏)ですか ソハは感情的に叩きのめします。 ソハ: no, u?(いや、君は?) 男: cool, me too(いいね、私も) 「そうだね、同年代と遊んで」 ソハが別のスーパーライクを送った男と会話を交わそうとウィンドウを閉じようとした瞬間、 南:もしかして韓国人ですか? 韓国の子でした。 なぜか嬉しくもあり、警戒心が湧いてきます。 もともと良い韓国コミュニティです。 これくらいの年齢なら駐在員の子どもである可能性もありますし、留学生なら少しのつながりがあればみんな知っています。 ソハ:あ、はい。 大学生ですか? 男:なぜか英語名が韓国人のように思えました。 今回、1年生になります。 駐在員ですか? ソハ:あ、まあ似ていますよ。 ソハは、あまり個人情報を露出してはいけないという警戒心が芽生えます。 男:サムスン?LG?ポスコ? ソハ:それはノーコメントです 男:ハハ、はい、でもこのアプリはどれくらい使っていますか? ソハ:今が初めてです そちらはですか? 男: お、グロクナ、前はちょっと前だよね、3年くらい? ソハ:わぁ、長いことやってますね。 直接会ったこともありますか?? ソハは突然好奇心が湧き上がります。 20歳の男の子が3年前からこのアプリを使ってきました。 何か面白い話を聞くことになりそうです。 ソハはプーアル茶を一口飲みながら姿勢を正して座ります。 男: まあ、3人くらい会ったことありますよね ソハ:お、会えたら普段は何をしますか? 男: 映画も見てカフェにも行って ソハ:あは、健全に遊びましたね 徐々に力が抜けてしまいます。 ただの子供の出会い遊びみたいなものですか 男:笑 どこまでお考えですか? ソハ:うーん、成人だからお互いに 男: 笑、やることは全部やってみましたよ お、何だっけ? やはりバランまでですか?‘ ソハ:そう? 例えば? ここ中国では、主にどこでやっていますか? ここでも何して過ごしてるの? いや、こいつは未成年だったじゃない 男: 映画館でもカラオケでも、そうそうでしたよ おい、こいつは一体何だよ?‘ ソハは好奇心が湧きました。 しかし、それとは反対にまぶたはだんだん下がっていきます。 もう午前1時です。 男: ところで、お姉さんは何時に寝ますか? お前、今すぐドキドキする。 ソハ:今寝ようと思います 男: ええ、私ともっと話してください ソハ:どんな会話? 男: もっとエッチな会話? ソハはくすりと笑いが出ました。 子どもはまだ幼くて難しいです。 男: お姉さん、今エロい写真を送ってくれる? 「えっと、ちょっと危ないんだって」 ソハ:うーん、でも気軽に話してもいいかな? 年の差がある子に敬語を使うと、しつこく寄ってくるみたいです。 男: うん、リラックスして いや、私だけが言いやすいってことだよ 呆れますが、どうせ長く付き合う間でもないので、そのままにすることにします。 男: お姉さんがよければ、私たちやりますか? ソハ:いや、私たちの年の差、分かってるよね? 男: どうだ、俺は性欲が燃え盛る20代だから、お姉さんのほうがもっといいだろ? 突然体が熱くなります。 いや、これってあり得ます。 首を横に振りながら冷めたプーアル茶を一気に飲み干します。 ソハ:とりあえず明日また連絡しよう。今日はとても眠い 男: ああ、じゃあ写真だけ どうして怒ってるの ソハ:あとで送りますね そんなことはないよ 男: じゃあ、姉さんのWeChatを交換しましょう。 IDをください ソハ:了解です ***sgc 男: ありがとう、WeChatで連絡するね、おやすみ ソハ:そうだね、あなたも はぁ、頭が痛いです ほんの短い間に世界が変わったようです。 たった二十歳の経験がこの程度だなんて。 ソハは、これまで自分だけの儒教社会に閉じ込められて生きてきたという感覚に、やや敗北感さえ抱きました。 20歳のとき、何してたの。 とりあえず寝ます。 ソハは枕に頭を当てた瞬間に倒れ込みました。けれど、すぐにユゴンは首を横に振った。――いや、違う。自分の知っている父親は、そんな人間ではなかった。パク・ジェヒョクは、一度決めたことをめったに覆さなかった。いや、めったにどころではない。ユゴンの記憶にある限り、一度もなかった。考える時間が長いことはあった。何も言わず、何か月でも考え続ける人だった。けれど、いったん結論を出すと、恐ろしいほど早かった。必要のないものは捨て、終わったことは終わったものとして扱った。刃物で断ち切るように。未練があるからといって、一度下した決断を覆すような人ではなかった。幼いころは、そんな父親を冷たいと思ったこともあった。今は少し、羨ましかった。――俺も、そういうところを少しは似ればよかったのに。そうすれば、今こんな状況にはなっていなかったはずだ。ソハと会い、彼氏のいるチェウォンとも会っている。ソハと一緒にいるときは、ソハのことしか考えられなかった。けれど、ソハと離れていると、チェウォンが気になった。チェウォンがほかの男と一緒にいるのを見ると腹が立ったし、だからといってソハのところへ行かずにいられるわけでもなかった。どちらか一方を手放せば済む話だった。それなのに、その簡単な決断ができなかった。こっちの女のところへ行ったかと思えば、今度はあっちの女のところへ行く。まるでピンポン玉のように。ユゴンは自嘲気味に笑った。「馬鹿みてえ」父親なら、そんなことはしなかっただろう。終わらせるなら終わらせたはずだし、手に入れるなら手に入れたはずだ。少なくとも、二つの選択肢のあいだを行ったり来たりしながら、自分の気持ちさえわからないまま、ずるずると関係を続けたりはしなかっただろう。だからこそ、余計におかしかった。そんな父親が、終わらせると決めた母親と、また済州島へ旅行に行くなんて。『お母さんもすごく若く見えたし』ユゴンの眉間に、ゆっくりと皺が寄った。確かに母親は若く見えた。実年齢より若く見えると、よく言われてもいた。――でも、そもそも前提が間違っていたとしたら?チェウォンが見た女が、母親ではなかったとしたら。父親にも母親にも、別の異性がいておかしくはない。それ自体、不思議なことではなかった。それなのに、何かが引っかかった。ごく小さな棘が一本、頭の中に刺さっているような気がした。
いつしか笑い声は消え、互いを見つめる眼差しだけが残った。ソハがジェヒョクにそっと触れると、彼もまた彼女を抱き寄せた。二人は口づけを交わしながら、互いの温もりを確かめ合った。「……あ、ん」ソハの唇から、短い吐息が漏れた。「すごく……いい」ジェヒョクは彼女をさらに強く抱きしめた。まだ眠気の残っていた身体が、熱に浮かされるように目覚めていく。布団の中で二人は何度も抱き合い、ソハはジェヒョクにいっそう身体を寄せた。肌に伝わる体温。耳元に聞こえる吐息。窓の外で規則正しく響く雨音。それらが一つに溶け合っていた。ソハはジェヒョクの顔のあちこちに口づけた。唇、顎、頬、そしてもう一度、唇。ふと、奇妙な衝動が湧き上がった。――全部、塗り替えてしまいたい。最初は、身体だけのことだと思っていた。けれど、違った。済州島に来て初めて知ったジェヒョクの過去が、どうしても心に引っかかっていた。結婚していた女。二十歳の息子。自分の知らない長い年月。その女がジェヒョクとともに過ごした、数えきれない夜と朝。二人だけが知っている場所と記憶。ソハは、それが嫌になっていた。嫉妬だと認めるには、まだプライドが許さなかった。けれど、何でもないこととして片づけるには、もう気になりすぎていた。だからだろうか。ジェヒョクの泥にまみれたような記憶を、自分の存在ですっかり洗い流してしまいたかった。広安里も、済州島も。彼がこれから目にする海も。いつかパク・ジェヒョクがどこかの場所を思い浮かべたとき、真っ先に思い出すのが自分であってほしかった。ソハはそんなことを考えた自分に驚いた。――いつからだろう。この男の身体を求めることと、この男の心からほかの女の居場所を追い出したいと思うことが、同じ欲望になってしまったのは。雨音と、二人の重なる息遣いだけが、部屋の中を満たしていた。ソウルへ戻る飛行機でも、ソハは窓際に座った。滑走路は雨に濡れていた。ジェヒョクは隣の席でメッセージを確認していた。ソハはそっと彼の横顔を眺め、それから再び窓の外へ視線を戻した。済州島に来たときも、帰るときも、確かに同じ二人だった。それなのに、何かが変わっていた。初めてここへ来たとき、ジェヒョクは自分が欲望する男だった。けれど、今は違った。欲望だけでは説明できないほど、彼は
「怪しいな」「何が?」「ジェヒョクさん」「俺がどうしたの?」「昔の女の人と来た店でしょう?」ジェヒョクが答えないので、ソハは笑った。「やっぱり」「それが重要?」「いいえ」ソハは水を一口飲んだ。本当なら、気にすることではないはずだった。結婚までしていた男に、過去がないほうがおかしい。けれど、さっきの店員の言葉が耳に残っていた。――いつもこちらのお席がお好きでしたからね。いつも。一度ではなかったということだ。ソハは窓の外を眺めながら、できるだけ何気ない口調で尋ねた。「元奥さんと?」今度はジェヒョクがすぐに答えた。「うん」ソハの指が、水の入ったグラスをゆっくりと回した。「何度も来たんですか?」「何度か」「旅行で?」「うん」「仲がよかったんですね」ジェヒョクの視線がソハに向いた。「どうしてそんなこと聞くの?」「別に」「またそれ?」ソハが笑った。「今日の私、質問が多いですよね?」「多いね」「嫌ですか?」ジェヒョクはしばらくソハを見つめた。「いや」その答えに、かえってソハの言葉が止まった。料理が運ばれてきて、二人はしばらく静かに食事をした。やがてソハが尋ねた。「綺麗な人でした?」ジェヒョクの箸が止まった。「誰が?」「元奥さん」「……」「何ですか。それも答えたくないんですか?」ジェヒョクが呆れたように笑った。「今日の君、どうしたの?」「気になるんですってば」「綺麗だったよ」あまりにもあっさりした答えだったので、ソハのほうが戸惑った。「すごく?」「うん」「私より?」ジェヒョクがじっとソハを見つめた。ソハは口にしてから、自分が何を聞いてしまったのか気づいた。「あ、今のなし」ジェヒョクの口元が上がった。「どうして取り消すの?」「なんか、私がすごくみっともないから」「もう遅いけど」「忘れてください」ソハは酒のグラスを持ち上げた。ジェヒョクが笑った。「嫉妬してるんだ」「違います」「してるでしょう」「違うってば」「じゃあ、どうして比べるの?」ソハは答えられなかった。ジェヒョクはしばらく彼女を見つめてから言った。「違うよ」「何がですか?」「二人は」ソハが顔を上げた。ジェヒョクはそれ以上説明しなかった。それが妙に気になった。「何が違うんですか?
翌朝、先に目を覚ましたのはソハだった。カーテンをきちんと閉めずに眠ったせいで、部屋の中は眩しいほど明るかった。ソハは目をしかめながら寝返りを打った。隣は空いていた。しばらくぼんやりと見つめてから、上体を起こした。ジェヒョクは窓際にいた。ホテルのバスローブを適当に羽織り、テーブルに座ってノートパソコンを見ている。傍らにはコーヒーが置かれていた。ソハは枕を抱きしめた。「仕事してるんですか?」ジェヒョクが振り返った。「起きた?」「休むために済州島に来たんじゃなかったんですか?」「そうだよ」「なのに?」「俺にとっては、これが休みなんだよ」ソハは枕を投げつけた。ジェヒョクが片手で受け止めた。「朝から本性が出てるね」「休暇にまでノートパソコンを開いてる人に言われたくないですけど」ジェヒョクはノートパソコンを閉じた。「これでいい?」「最初からそうすればいいのに」ソハは再びベッドに倒れ込んだ。その姿をしばらく眺めていたジェヒョクが尋ねた。「朝食、食べる?」「何時ですか?」「九時」「嫌です」「じゃあ?」ソハは布団の中から顔だけを出した。「ラーメン」ジェヒョクはしばらく何も言わなかった。「何ですか?」「五つ星ホテルに来て、ラーメン?」「済州島ですから」「それと何の関係があるの?」「知りません。ただ食べたいんです」ジェヒョクがふっと笑った。「出かけよう」「どこへ?」「ラーメンを食べに」ソハは目を丸くした。「本当に?」「食べたいんでしょう?」「ルームサービスで頼めばいいじゃないですか」「せっかくだから、本場の済州島のラーメンを食べないと」ジェヒョクはバスローブを脱ぎながら言った。「シャワー浴びて。海を見ながら食べよう」ソハはベッドの上から、じっと彼を見つめた。この男は、ときどき妙だった。たった一時間ほどのフライトのためにプレステージクラスを予約し、運転手つきの車を手配し、スイートルームを何でもないことのように押さえる。それなのに、ラーメンが食べたいと言えば、わざわざ車で食べに行こうと言い出すのだ。ジェヒョクがソハを連れていったのは、海辺に近い小さな軽食堂だった。ジェヒョクは昨日とはまるで違う格好をしていた。黒いウインドブレーカーの下にボーダー柄のポロシャツ、コットンパンツにサング
ソハが再び目を開けたとき、窓の外はほとんど暗くなっていた。どれくらい眠っていたのかわからない。海と空の境目はぼんやりと溶け合い、水平線の果てに最後の茜色がわずかに残っているだけだった。隣ではジェヒョクが横になったまま、携帯電話を見ていた。ソハが寝返りを打った。「何時ですか?」「七時を少し過ぎたところ」「もう?」「お腹すいた?」「うん」「何が食べたい?」ソハは掛け布団を顎の下まで引き上げた。「せっかく済州島に来たんだし、太刀魚とか?」ジェヒョクがふっと笑った。「そう言うと思った」「どうしてですか?」「わかりやすいから」「じゃあ、済州島まで来てハンバーガーでも食べるんですか?」ジェヒョクは携帯電話で店を探し始めた。ソハは枕に顔を半分埋めたまま、その姿を眺めていた。ふと、不思議な気持ちになった。この男の裸の身体は、もう見慣れないものではなかった。肩に小さな傷痕があること。眠るとき、どちらを向いて寝返りを打つのか。コーヒーをどう飲むのか。機嫌がいいとき、口元のどちら側から笑みが浮かぶのか。そんなことまで、少しずつわかるようになっていた。それなのに、肝心のパク・ジェヒョクという人間については、ほとんど何も知らなかった。ソハは少し考えてから、不意に尋ねた。「ジェヒョクさんって、何歳なんですか?」携帯電話を見ていたジェヒョクが顔を向けた。「急にどうしたんですか?」「考えてみたら、正確な年齢も知らないなって」「今まで年齢も知らずに俺と寝てたんですか?」「そういえばそうですね」ソハが笑った。「私、ずいぶん危ないことしてたんだ」ジェヒョクが年齢を告げた。ソハは少し目を見開いた。「思ったより年上なんですね」「……」「何ですか?」「わざわざそれを言う必要あります?」ソハは吹き出した。「ごめんなさい」「全然悪いと思ってなさそうだけど」「でも、そんなふうには見えないですよ」「もういいです」ジェヒョクは再び携帯電話に目を落とした。ソハはしばらく笑っていたが、また彼を見つめた。今度は少し違う質問が浮かんだ。「家族は?」ジェヒョクの指が止まった。「家族?」「うん」「急に身辺調査ですか?」「違いますよ」ソハは横向きに寝返りを打った。「考えてみたら、私、ジェヒョクさんのこと本当に何も知ら
空港の前には、黒いセダンが待っていた。運転手が降りてきて、ジェヒョクのボストンバッグを受け取り、トランクに積み込んだ。そこでようやく、ソハが尋ねた。「レンタカーじゃなかったんですか?」「そうですよ」「でも、運転手さんまでいるんですか?」「自分で運転したら、酒が飲めないでしょう」「ああ」ジェヒョクが後部座席のドアを開けた。「乗って」ソハが車に乗り込むと、少ししてジェヒョクも隣に座った。車は空港を離れた。目的地は、空港の反対側にある五つ星ホテルだった。窓の外の景色が少しずつ変わっていく。ヤシの木に似た木々が通り過ぎ、建物の隙間から青い海がちらちらと姿を見せた。ソハは窓の外を眺めながら、そっと手を横へ動かした。指先がジェヒョクの手の甲に触れた。ジェヒョクが視線を落とした。ソハは何も言わず、ただその手を握った。ジェヒョクも何も言わずに指を開き、彼女の指に絡めた。そして、繋いだ二人の手を自分の太ももの上に置いた。どこか危うい距離だった。ソハはしばらくその手を見つめていた。ふと、笑みがこぼれた。「何がおかしいんですか?」ジェヒョクが尋ねた。「別に」「別に、って何ですか」ソハは答えなかった。束草へ向かうバスでも、こうして手を繋いでいた。けれど、同じように指を絡めているのに、感じるものはまるで違っていた。ユゴンの手を握っていると、不思議と心が安らいだ。ジェヒョクの手を握っていると、何もしていなくても緊張した。窓の外に、海が長く広がった。水平線が陽の光を受けてきらめいている。そこでようやく、本当に済州島に来たのだと実感した。ソハはジェヒョクの手を少し強く握った。ジェヒョクも同じように握り返した。二人を乗せた車は、海岸道路を南へと走っていった。そして空港のロビーには、ついさっき二人を仲睦まじい夫婦だと思い込んだ、二十歳の女が残されていた。⸻海を一望できるスイートルームだった。ドアを開けると、真っ先に視界を埋め尽くしたのは窓だった。壁のほぼ一面を占める大きなガラスの向こうに、済州島の海が広がっている。午後の日差しが水面で砕け、きらきらと輝いていた。ソハはバッグもろくに置かないまま、窓辺へ歩いていった。そして、ふと笑った。広安里。ジェヒョクと初めて出会ったホテルでも、こうして海が見えた。あの