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15・3年後

Author: 泉南佳那
last update Petsa ng paglalathala: 2025-07-27 06:41:01

 東の空に、昇ったばかりの大きな月が明るく輝いている。

 思わず見とれてその場にとどまっていると、心はまた、思い出に浸りはじめた。

 安西さんに会うまえのわたしは、自分で決断を下したことが一度もなかった。

 コーラス部で歌の楽しさを知り、本当は音大で歌の勉強がしたかった。

 でも、反対されると決めつけて、結局、親や先生に勧められるまま偏差値に見合った大学を受験した。

 そして親のこねで就職。

 職場で俊一さんに出会って、彼から告白され、プロポーズされて。自分を選んでくれたひとだからと承諾して……

 人生の節目の大事なときでさえ、主体性がまるでなかった。

 波風を立てずに生きるしか他に道はない、と思い込んでいた。

 そんな自分が『生きている』と、強く実感できたのは、安西さんと出会って恋に落ち、俊一さんに後ろめたさを感じながらもモデルをしたときがはじめてで……

「藤沢センセー。どうかしたー?」

「あっ、もう、いきまーす」

 中から呼ばれて、門を閉めて建物に入ろうとした時。

 一瞬、あたりがまぶしい光で満たされた。

 通りに目を向けると、車が一台、対向車線を通り過ぎていくのが見え
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    「あ……っ」 「こんなに感じてくれてるんだ……。嬉しいな。でも、そんなに固くならないでリラックスしてごらん」 少し掠れたぞくっとする声でつぶやく。「文乃が行ったことのないとこまで、連れてってあげるから」  それから、指と唇でさんざん弄られて…… もう声を抑えることなどできずに、わたしは快楽の波に翻弄されるまま、あられもない声をあげていた。 頭が真っ白になって、気が遠のいていきそうになったとき、安西さんがわたしのなかに入ってきた。   「……はあっ、あや……の」  彼も抑えきれない欲望に声をあげてわたしを突き上げる。 好きという気持ちが心から溢れだして、わたしの全身に漲っていく。  その想いを注ぎ込みたくて、わたしは自分から彼の唇を求めていた。   「す、き……あなたが……好き」    発火しそうなほどの熱い口づけで、彼はその想いに応えた…… *** ふと目を覚ますと、窓の外が白んでいた。 新聞配達のバイクの音が遠くから聞こえてくる。  その音さえ、まるで祝福の鐘の音のように聞こえる。 隣で眠る安西さんの安らかな寝息も聞こえる。 わたしはそっと、彼の背中に口づけ、また微睡(まどろみ)のなかに引き込まれていった……〈the end〉*お読みいただきありがとうございました😊

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     ふわふわと宙に浮き上がっているような覚束なさに全身が支配される。 彼の唇はしばらくそこに留まっていたが、顔をあげて、今度はじっと見つめてくる。「頬が上気して薄紅色に染まってる。ああ、カメラに収めたいぐらい綺麗だ」  そんなことを言いながら、彼の手はわたしの足をさすりあげてくる。「でも……やっぱり誰にも見せたくない」  太腿に置かれていた手に力が加わって、左右にゆっくりと押し開かれた。   「あっ……いや……」  思わず閉じようをすると、さらに強い力で押さえられてしまう「そう? そんな蕩けそうな声出してるのに?」  そして、少し意地悪な口調でそんなことを言われる。  「……だって、恥ずかしい……です。そんなふうにじっと見られたら」   「商売柄かな。いつでも見ていたいんだ。美しいものは特にね」  安西さんはわたしを見つめたまま、内腿に舌を這わせていく。そして言った。「……今度は時間をかけて、たっぷり愛してあげるよ」    彼の舌がわたしのもっとも敏感な部分に触れた。「……!」  これまで味わったことのない快楽の波が襲ってくる。   「い、や……やめ……」  わたしは安西さんの髪をかき乱しながら、執拗なその舌を引き離そうとした。    彼の唇が離れた。  ほっと息をつくと、今度は彼の指がわたしのなかを弄りだす。

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     「ありがとう……。嬉しいです。そう言ってもらえると」 そう呟くわたしの髪を耳にかけて、露わになった耳たぶに戯れにそっと歯を立ててきた。 噛まれたと言っても、ほんの軽く触れられた程度だった。 でも、心も身体も敏感になっているわたしは、それだけのことでも思わず声をもらしてしまった。   「あ、うんっ……」 「……その声も好きだよ。そんな声を聞かされたら」 少しかすれた色めいた声で安西さんがつぶやく。「また……欲しくなってきちゃうじゃない」  安西さんの手がわたしの肩に触れ、静かに押し倒される。    彼の舌が首筋をさまよいはじめる。  そっと、舐めあげられたり、ときおり少し強く吸われたり。   そんなことをされると、背中がぞくぞくしてきて、思わず身をよじってしまう。 そんな反応が彼をまた刺激して、今度は指先が胸乳を弄りはじめる。 尖った先端をさすられると、身体の奥深くで得体の知れない何かが蠢きだす。 わたしは思わずびくっと身をこわばらせる。   「こうされると、気持ちいい?」  恥ずかしさに震えながらも、わたしは小さくうなずいた。 安西さんはふっと微笑みをこぼし、「じゃあ、これは?」と言って、  今度は右胸の乳暈を舌でやさしく舐めあげてきた。「……あん」  指とは違う湿った感触に、新たな快楽を掘り起こされて、自分とは思えないような声を出てしまう。

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     彼の部屋で、安西さんはありったけの情熱を注ぐかのようにわたしを抱いた。「安西……さん」 獣のようにわたしを貪る彼にこたえて、いつしか、わたしもあらぬ声をあげていた。   「まだ夢みたいだ。文乃とこうしているなんて」 「わたしも……同じこと、考えてました。今」 情事の余韻に浸ってぼんやりしているわたしに安西さんがつぶやいた。 彼の腕がわたしの身体の下に滑り込んできて、そのまま引き寄せられる。  背後から抱きしめられて、肩口にそっとキスされる。 こわれものを扱うように優しく。  そうした態度のすべてがわたしを幸福の極みに連れて行ってくれた。 あのときは、その幸福が怖かった。でも、今は違う。  そのことが心の底から嬉しかった。「なんで保育士になったの?」  わたしの髪をもてあそびながら、安西さんが尋ねる。「歌にかかわる仕事がしたくて。保育士になれば毎日子供たちと思い切り歌えるなと思って、それで通信で資格を取って……」「文乃らしいな。おれ、文乃の歌、好きだよ。とっても美しい澄んだ声をしてるから。子供たちが羨ましいよ」 そんなふうに褒められたのは初めてだ。  他でもない安西さんに言われたことも相まって、嬉しさがふつふつとこみあげてきた。

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     そう言うと、今度はこれ以上ないほど真剣な表情に変わった。「会いたかったよ。文乃がどう思ってるかわからないけど、おれは今でも文乃が好きだ。その気持ちは少しも変わっていない」 もう、我慢できなかった。  堰を切ったように涙が頬を伝っていく。    店はほぼ満員だし、店員さんも近くにきそうだし、こんなところで泣いたらおかしいと、自分をいさめるのだけど、どうしても止まりそうになかった。「ご、ごめんなさ……い、お、おかしいですよね……こんなところで」 安西さんは優しい眼差しでわたしを見つめながら、ハンカチを差し出した。 そして、「出ようか」と言った。  それからすばやく立ち上がると、わたしをかばうように肩に手を回して歩き出した。 表に出て、駐車場に向かう途中の壁際で抱きすくめられた。「文乃……会いたかった……おれのあやの……」 そう言って、わたしの顎をすくいあげる。  懐かしい彼の唇の感触がわたしの心に灯りをともしていく。「文乃は? おれを好きでいてくれた? 今も変わらない?」  少し不安げにそう尋ねる彼の顔を、わたしは見あげた。「……変わって……ません。ずっと……ずっと好きでした。ずっと、会いたかった」 唇が重なる。  深く、激しく。 まだ、宵の口だし、誰か通りかかるかもしれない。  そんな考えが、ちらっと頭をよぎったが、それでもかまわない。  そう思った。 名残惜しげに唇を離すと、彼は切羽詰まった声音でささやいた。「もう、死んでも離さないから、覚悟して」  

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     あのとき、自分は俊一さんへの罪悪感を少しでも薄れさせることしか、考えていなかった。 安西さんの、わたしを想ってくれる気持ちを軽んじたつもりはまったくなかったけれど、結果的に彼の気持ちを踏みにじってしまった。  結局、わたしは自分のことしか考えてなかった。  ひどいことをした。  安西さんの顔がまともに見られない。俯いたままで、わたしは言った。「ずっと、ずっと、あなたのことはもう忘れなければいけない、と思ってました。安西さんにとってわたしは、もう遠い過去になっているはずだって。 それに、本当に、わたし、安西さんみたいなひとには、ぜんぜんふさわしくないし……」    言葉が終わらないうちに、安西さんの手がわたしの頬に伸びてきて、軽くつねられた。 思わず顔を上げると、目が合った。  慈しみに満ちた表情でわたしを見つめている。 初めて会ったときから、わたしを惹きつけてやまない瞳。 その美しい瞳と見つめ、ようやくふたたび安西さんに会えたことの喜びが、わたしの心を満たしはじめた。「何言ってるんだよ。ふさわしいかどうかなんて、おれが決めることだろう」  そのまま、わたしの髪を優しく撫でながら、続けた。「おれが愛する女は、文乃だけだよ」  そう言ったとたん、安西さんはあわてた顔をして、自分の口を両手で押えた。  急にどうしたのだろうと思っていると……「うわ、やば。まじで歯が浮いてきた」と真面目な顔で言う。  本気であわててる姿が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。 そんなわたしを見て、安西さんは嬉しそうに言った。 「やっと、笑ってくれたね。その顔が見たかったんだよ」

  • たとえ、この恋が罪だとしても   5・強引すぎる依頼

    〈side Ayano〉なんでわたしなんかに……怪しいもんじゃないから、とその人は何度も口にした。 でも、どこからどう見ても怪しい。紫がかった長めの髪、豹柄のフェイクファーのコートに黒の皮パンツ。べっ甲縁のサングラス。 この辺りでは見かけないド派手な服装。その人はコンサートの片づけが終わるまで、ずっと教会の外で待っていたらしい。わたしが戸口から外に一歩踏みだしたとたん 「ちょっと、ちょっと、ねえ、そこの君」と言いながらよってきた。そして興奮した口調で言った。「おれのモデルになってくれない?」「……えっ?」あまりに唐突な申し出に、唖然として立ち尽くしていると 「ちょっ

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    「なんなんだろう、いったい! 文乃ちゃん、あんな失礼な奴に間違っても関わったらだめよ。そんな時計、送りつけてやればいいわ。嫌ならわたしがやってあげるわよ」 と美紀さんはまだ興奮が収まらない様子でまくし立てた。何事かと遠巻きにしていた合唱団のメンバーも集まってきた。その中のひとり、電気屋の跡取り息子の翔太さんが、その時計を目にして驚きの声を上げた。「そ、それって、ハリー・ウィンストンじゃない。おれなんかじゃとても手が出ないような超高級品だよ」買えはしないけど、ちょっと時計にはうるさいんだと言いながら、翔太さんは手にしたそれをうれしそうに眺めている。「うひゃー。三百万は越えるよ、これ

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    驚いた。 がらっと印象が変わったから。ぜんぜん強面(こわもて)なんかじゃなかった。 とても大人の男性とは思えない人なつっこい笑顔の持ち主。ひときわ惹きつけられたのは、その瞳。 濃茶色の瞳が、まるで貴石のようにきらきらと輝いていて。なんて、綺麗な目をしているんだろう。そう思ってつい見とれていると、その人は嬉しそうな顔で目を細めた。初めて会った男の人だったと思いだして、わたしはあわてて目をそらした。「とにかく、一度スタジオに来て、話を聞いてほしいんだ」 わたしにはこの人が悪人とは思えなかった。でも、モデルなんてまったく考えたこともない話で、青天の霹靂(へきれき)以外の何物で

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  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    「ありがとうございました」 椅子から立ち上がると、店員の女の子が挨拶した。軽く会釈を返すと頬を赤らめた。バリスタ風の制服がよく似合っていてちょっといい感じだけど、モデルにするにはインパクトが足りないし、イメージにも合わない。  さて、これからスタジオの近くをぶらついてモデルを物色するかな。 幸い天気もいいし、今日みたいな日は女子たちが大挙してあの辺りを闊歩しているはずだ。   そんなことを考えながら、駅に向かっていると、坂道の途中に小さな教会があった。 入口の横に立て看板があって『クリスマスコンサート』と書いてある。もう、そんな時期だよな、とそのまま通り過ぎようとしたら、

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