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第2話

Author: ちびっこパンチ
7日後。その日は智也の誕生日。

そして、私が彼ときっぱり別れる日でもある。

次の日の朝、ごそごそという物音で目が覚めた。

まだ眠い目をこすりながら見てみると、智也がドレッサーに散らかった化粧品を片づけていた。

一晩会わなかっただけなのに、彼の目には隠しきれない疲れがにじんでいた。

「由理恵、起きたんだね。また化粧品を出しっぱなしにしてたから、片づけておいたよ」

私は何も言わず、智也の整った顔をただ静かに見つめていた。

彼はいつも、こういう気遣いができる人だった。

化粧品を片づけるような小さなことから、私が気づかない生活の細かいことまで、いつも先回りしてやってくれた。

15年間ずっと変わらず、何よりも私のことを一番に考えてくれていた。

でも、そんな私のことばかり考えてくれる男が、私の誕生日にほかの女の人と体を重ねたなんて。

私の気持ちの変化に気づいたのか、智也はポケットから小さな箱を取り出した。

彼は片ひざをつき、その目には今にもこぼれ出しそうなほどの優しさが宿っていた。

「由理恵、昨日の誕生日に帰れなくてごめん。君のためにオーダーメイドの指輪を取りに行ってたんだ。このダイヤは、俺が必死で探した『永遠の愛』っていう名前でね、世界にたった一つしかないんだ!」

智也は少し間を置いて、続けた。

「これが俺たちの永遠の愛のしるしだよ。由理恵、永遠に君を愛してる」

その言葉を聞いて、私は口の端を少しだけ上げた。

彼の手から指輪を受け取ると、私はそれをじっくりと眺めた。

智也は甘えるように私の腰を抱きしめ、期待に満ちた声で言った。

「由理恵、昨日は君のために一晩中、指輪のことで頑張ったんだよ?何かご褒美、くれないの?」

そう言いながら、彼の声は低くなり、大きな手が私の腰をなで始めた。

私は顔色一つ変えずに、その手を止めた。

こんな下手な言い訳でも、もし智也の浮気に気づいていなければ、私は信じてしまっていたんだろうな。

だって、楓が現れるまで、この15年間、彼は私に一度も嘘をついたことがなかったから。

結局、何だってありうるんだ。起こらなかったのは、ただ、タイミングが合わなかっただけなんだ。

私は気持ちを落ち着けて、淡々な声で言った。

「一晩中大変だったでしょ。まずはゆっくり休んで」

それを聞くと、智也はぎゅっと私を抱きしめてきた。甘える大きな犬みたいに、私の首筋に頭をすり寄せてくる。

「君はどうしてこんなに優しいんだ!俺は世界で一番幸せな男だよ!」

彼がそう言うので、私も微笑み返した。そして、そばにあった綺麗な箱を手に取った。

智也はそれを受け取ると、不思議そうな顔をして、すぐに開けようとした。

私は彼の手をそっと押さえて、ゆっくり言った。

「ちょっと早いけど、誕生日プレゼント。誕生日当日に開けてね」

智也はすごく喜んでいた。

「6日も早いプレゼントだって?君が何を用意してくれたのか、もう待ちきれないよ!」

彼の笑顔は、嘘偽りのない喜びで輝いていた。私たちは、どこにでもいる幸せな夫婦のようだった。

でも、これが全部うわべだけだって、私は知っている。

智也も、知っているはずだ。

だから、彼は必死に演じている。

箱の中身は、この1年間に楓から私に送られてきたメッセージ。

彼らの甘いやりとり、親密なツーショット写真、智也が彼女に買い与えた品物の数々……

楓が送ってきた動画まで、全部USBメモリにまとめて入れてある。

それから、私がサインした離婚協議書も。

6日後の誕生日、彼がこのプレゼントを気に入ってくれるといいな。

……

午後になって、智也から会社に書類を届けてほしいと頼まれた。

「由理恵、ごめん、今朝急いでて忘れちゃったんだ。今日の外資との契約に使う大事な書類なんだけど、会社まで持ってきてもらえるかな?」

彼はだんだん小声になって、最後には申し訳なさそうな声で言った。

「俺が悪いんだ。俺がうっかりしてなければ、君にこんな手間はかけさせなかったのに」

以前なら、智也がそんなふうに謝ってきたら、私はきっと優しくなぐさめてあげたはずだ。「会社に行くだけなんだから、たいしたことないよ」って。

でも今は、ただ小さく返事をしただけで、それ以上何も言わなかった。
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