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2章 様々な初めて 2-1 初めてのお出かけ

Author: 青サバ
last update publish date: 2026-06-17 20:03:43

 週末。

 午前中の部活を終え、駿は家に戻るとすぐシャワーを浴びた。

    ◆◆◆

 髪を洗って、流して。

 念のためもう一度首元にシャワーを当てる。

 絶対に汗の匂いが残らないよう、念入りに身体を綺麗にする。

(気にしすぎだろ)

 そう思ったが、手は止められない。

 

 今日は、果奈と二人きりで出かける。

 考えるだけで、落ち着きを保てなくなっていた。

 シャワーを終え、家にある姿鏡の前で服を広げる。

 候補が何着も並んでおり、着てみては脱ぎ、鏡を見る。

 しっくりくるやつもあったが、すぐに違う気がして、また着替え直す。

「……何やってんだ、俺」

 服選びがただの繰り返し作業へと変わり始めようとしたなか、たまたま通りかかった結が足を止めた。

「柄でもないことやって、今日何かあるの兄さん?」

 柄でもないって失礼だなと思いながらも、女の子である結に質問してみる。

「結、ちょっと見て欲しいものがあるんだけどいい?」

「別にいいですよ」

「今着ている服と持ってる服どっちがいい?」

 結は一瞬固まり、次に呆れたような深いため息をついた。

「それを普通、妹に聞く?」

「女子としての意見が聞きたくて……」

「だったら、美生姉さんに聞けばいいじゃん」

「別に美生に聞くほどでも無いしな~」

「もう、知らない!」

 呆れを通り越して怒りへと変わり、不貞腐れながら結はその場を離れる。

「そこまで怒らなくていいじゃん……」

 結局。

 迷いに迷い、鏡の中の自分と相談して、これだと思う服を選んだ。

 正直これでいいのか分からない。でも、これ以上考えても答えは出ない。

 一旦深呼吸をし、少しは冷静さを取り戻したところで、家を出て待ち合わせの場所へと向かった。

 待ち合わせは十五時なのに、着いたのはまだ十四時半を少し過ぎたところだった。

 早く着き過ぎてしまったけど、遅れるよりはマシかと思いつつ、待ち合わせ時間まで何しようかと考えながら辺りを見渡す。

 すると、知っている人影を見て驚く。

 

「果奈!?」

 そこには、待ち合わせ場所の前で、きょろきょろと辺りを見渡している果奈の姿があった。

 白いバックリボンニット。

 揺れるスカート。

 チャームポイントの一つであるポニーテールには、白いシュシュ。

 今まで制服や体操着の姿しか見てこなかったから凄く新鮮で、同時に見惚れてしまう。

「駿!?なんで居るの?」

「それはこっちのセリフ。待ち合わせ三時でしょ?」

「そうだけど……」

 果奈は少し視線を逸らしながら、照れたように口元を緩めた。

「駿だったら待ち合わせ時間よりも早く来ると思ったし、それに……早く駿に会いたかったから」

 最後の一言に嬉しさあまり、一瞬、心臓が止まった気がした。

 そして、言葉の意味が遅れて胸へ届き、叫びそうになるのを、なんとか飲み込む。

「ありがとう。果奈が今日を楽しみにしていたことを知れて俺も嬉しい」

 果奈は言葉を返せず、頬がみるみる赤くなっていく。

 その姿が可笑しくて、でも愛しかった。

 二人でショッピングモールの方へと入り、有名なカフェへ向かった。

 カフェには女性客が多く、甘い匂いと賑やかな声に囲まれて、ここに居ても大丈夫なのかと感じ始める。

「この店は特にショートケーキが美味しいよ。でも、チーズケーキも侮れないんだよね。でもでも、季節限定ケーキも捨てがたいな~」

 だけど、果奈が目をきらきらさせながら、スイーツを選ぶ様子を見て、不安は自然と消えていった。

「果奈ってほんと、スイーツ大好きなんだね」

「あ……ごめん。私ってスイーツのことになるとつい」

「謝らなくていいよ。スイーツをオススメする時の果奈の幸せそうな表情は初めて見たし、それに……」

 一瞬迷ったけど、ちゃんと言葉として伝えたかった。

「……可愛かった」

 果奈は固まりながらもゆっくり頷く。

 耳まで真っ赤になっていた。

 結局。

 俺はショートケーキと紅茶を注文し、果奈は季節限定のケーキと紅茶を注文した。

 ケーキが来ると、果奈はつかさず写真を撮る。

 嬉しそうに写真を撮る横顔を見ていると、それだけで満たされた気持ちになった。

 季節のケーキはメロンのケーキでケーキの上だけではなく、生地と生地の間にもメロンが入っており、鮮やかな緑が映えていた。

 ショートケーキも贅沢に苺が使われていて凄く美しい。

 そんなケーキに心躍らせながら、口へと運ぶ。 

「うん、美味しい」

「そう?満足してくれたみたいでよかった。私もいただきます」

 安心したような笑みを浮かべた後、果奈もケーキを口にする。

「うん、美味しい~」

 ケーキを口にした途端、天に登りそうなくらい幸せな表情をし、見ているこっちも頬が緩んでしまう。

「メロンの風味と甘さが口いっぱいに広がって食べてるだけで幸せ」

 美味しそうなメロンのケーキと果奈の反応を見て一か八かの賭けにでる。

「あのさ、果奈」

「ん?」

「無理だったらいいんだけど、一口貰ってもいい?」

 

 ケーキを食べ進めていた果奈が止まり、そのまま動かなくなる。

 そして、沈黙が流れ、発言に後悔した。

「急に変なこと言ってごめん……」

 反射的に謝り、慌てて引っ込めようとした時だった。

「……いいよ」

 小さな声。

「本当に?」

「……うん」

 本当に食べさせてくれるとは思わず、自分から貰いたいと言ったのに、果奈のケーキに手を出せないでいた。

 

「……食べないの?」

 そう言われて食べることを決意し、まだ手がついてないケーキの端の方を取って無心になって口にする。

「ど、どう?」

「……ショートケーキとはまた違う甘さで、美味しかった」

 そうは言ったが、実際は緊張のあまり、ケーキの味なんて分かる筈もなく、反応するだけで精一杯だった。

「ショートケーキも少し食べてみる?」

 流石に自分だけ貰う訳にはいかないので、同じようにショートケーキを差し出す。

「……うん」

 果奈も手がついてないケーキの端の方を取って口にする。

「……美味しい」

 そう言っているが、メロンのケーキを食べた時よりも明らかに反応が違う気がした。

 その後は互いに無言になってしまい、さっきまでの自然な空気が、少しだけ変わってしまう。

 ケーキを食べ終えてカフェを出ても、その空気は変わらなかった。

 隣を歩いているだけで、妙に意識してしまう。

 さっきの一口の衝撃がまだ頭から離れない。

 果奈もまだ頬が赤く、まだ動揺しているのが分かった。

「……駿」

 沈黙を破るように果奈が名前を呼ぶ。

「っ、どうしたの……早川さん?」

 場の雰囲気と急に声をかけられたことで、反射的に最初の呼び方で呼んでしまう。

 しまったと思った時には遅かった。

「もう」

 頬を膨らませる。

「果奈って呼んでって言ったでしょ」

「ごめん。急に呼ばれてつい……」

「次、そう呼んだら帰るからね」

「絶対に気をつけます……」

「絶対だからね」

「はい……」

 そんなやりとりをしてると、果奈が小さく笑い始める。

 それを見て、さっきまでの重たさがふっとほどけたかのように、つられて笑ってしまう。

「ごめんね。駿とこういう会話をしていたら、さっきまでのモヤモヤが無くなって、つい笑っちゃった」

「俺も、果奈が笑ったから、安心した」

 間違えて早川さんと呼んだことが結果的に果奈との間にあった重苦しい雰囲気を解くきっかけとなった。

 付き合う前にはなかった沈黙。

 付き合ったからこそ生まれる戸惑い。

 それすら今は、少し愛おしかった。

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