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もう会う必要がない、裏切者
もう会う必要がない、裏切者
作者: 匿名

第1話

作者: 匿名
かつて小林啓介(こばやし けいすけ)が白野美穂(しらの みほ)を追いかけていたころ、危うく命を落とすところだった──それは周知の事実だ。

だが結婚八年目、美穂は啓介が自分に隠れて外で若い秘書を囲っていることを知ってしまった。

十八歳の時、「一生、美穂を愛する」と誓った。その男が、今では他の女に妊娠させているのだ。

啓介が彼女とその女の間を行き来しているのを見ても、美穂は泣き叫ぶこともなく、静かに去ることを選んだ。

二人の家を出て、自分の痕跡をすべて消し去り、国外行きの飛行機に乗り込んだ。

……

「フライトを予約して。できるだけ遠いところへ」

「啓介さんと別れて、A市を出るって言うの?」

美穂は胸の奥に湧き上がる痛みを必死に押し殺し、ゆっくりと口を開いた。「あなたなら、手伝ってくれるでしょう?」

周囲の空気が一瞬で静まり返った。向かいの女性がため息をつき、「本当は彼、あなたのことをすごく愛してるのよ。少しは大目に見てあげたら?」と言った。

彼女は何も答えず、ただ立ち上がって個室を出た。少し歩いたところで、スマホにメッセージが届いた。

【半月後にS国行きのフライトを予約しておいたわ。すべてうまくいきますように】

胸のつかえが取れたように、美穂は目的地もなく街を歩きだした。すると、ふと横の大型電子スクリーンが目に飛び込んできた。そこには今日のトップニュースが流れている。

【小林グループ社長・小林啓介、千億級ピンクダイヤで愛を告白】

啓介はマイクを片手に、楽しそうに笑いながら、表情に隠しようもない愛情を浮かべていた。「そろそろ妻との結婚記念日でしてね。このプレゼント、きっと気に入ってくれると思います」

オークションが終わると、その話題は瞬く間に各アプリのトレンドランキングを席巻し、多くのネット民が議論に加わった。小林グループの株価も勢いよく上昇を続けている。

ステージで自信満々に話す啓介の姿を見つめながら、美穂の思考はあの冬の日へと引き戻された。

車のタイヤが滑り、ガードレールに激突した瞬間、啓介は一瞬の躊躇もなく、彼女の前に身を投げ出した。「美穂、怖がらないで、俺がいるから!」

冷たくなっていく彼の体を抱きしめながら、美穂の心は逆にゆっくりと溶けていった。そう、ある意味では、彼は本当に非の打ちどころのない夫だ。

「この女、ほんと運いいよね。あんな金持ちの男捕まえるなんて」

背後から聞こえた通行人の会話に、ふと現実へと引き戻された。運がいいのか?そうかもしれない。

彼女がまだ幼い頃、両親は交通事故で亡くなった。身よりのない彼女は施設に引き取られるが、美しい顔立ちがゆえに、ほかの子どもたちからいじめや仲間外れにされることが多く、満足に食事も取れず、こっそりとゴミをあさって空腹をしのぐ日々が続いた。

美穂は、この世界で頼れるのは自分だけだと痛感していた。

しかし啓介と出会ってから、そんな思いは少しずつ揺らぎ始めた。どんなに突き放しても決して離れようとしない彼は、まるでくっつくと簡単にははがれない湿布のように彼女のそばに寄り添い、限りない優しさで包み込んでくれた。共に過ごす時間のひとときひとときが、彼女の心の不安を少しずつ癒していった。

プロポーズを何度断られても、啓介は一切責めず、むしろ自分が至らないと感じていた。彼は全てを懸け、彼女に寄り添おうと努め続けた。

彼女は今でも、華やかな花火の下で、啓介が震える手で指輪を差し出し、愛に満ちた眼差しを向けていた瞬間を覚えている。

「美穂、愛してる。お願い、チャンスをくれないか。君を愛し、守りたい。ご両親の代わりに、ずっと君のそばにいるから」

否定できないほど、彼女の心は揺らいだ。これ以上、誰も寄せつけないようにする必要は、もうないのかもしれない。啓介は心から彼女を愛し、彼女もまた啓介を愛していた。だから、一度だけ──彼にチャンスを与えよう。そう決め、彼女はついにプロポーズを承諾した。

半年分の給料を貯めて啓介が買ってくれたその指輪を見つめながら、美穂は泣きじゃくった。

「啓介、いつか私に飽きる日が来ても、隠さずに伝えてね。きちんと話し合い、お互いに後悔のない別れ方をしよう。でも、騙すことだけはやめて。もし騙したなら……私はあなたの世界からきれいに消えるから」
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