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冒険者ギルド②

last update Last Updated: 2025-03-30 18:00:22

アレンさんのいうアテというのが何か分からなかったが、僕の知らない付き合いなどもあるのだろうと無理やり自分を納得させた。

「じゃあ金貨五十枚で依頼を出すぞ。まあ、まずは魔神が今いる場所を特定する必要があるからな。占星術師に依頼を出してからになるが」

「ああ、それで構わないよ。その間にカナタに教えておく事も多いだろうからさ」

教えておく事ってなんだろうか。

もう結構この世界の事は学んだつもりだけどな。

「それでカナタ。その眼帯の下は赤眼だったな。あまり他のやつに見せるなよ」

「はい。アレンさんからも忠告されています」

「ならいいが。禁忌に触れた者は悪魔に身を落としたなどとのたまって襲いかかってくる輩もいるからな」

それは怖いな。

こちらから眼帯を捲らない限りバレることはないだろうけど気をつけておこう。

VIPルームを出ると受付嬢であるカレンさんが近づいてきた。

「アレンさん、そちらの男性は冒険者登録をされますか?」

「よく分かったね」

「まあこの辺りでは見たこともない方でしたので」

一目見ただけで冒険者か否か分かるものなのか。

ギルドの受付嬢って凄い目利きをしてるんだな。

「ではこちらへどうぞ」

カレンさんの案内に着いていくと受付へと通された。

「アレンさんのお知り合いなのは存じておりますが、冒険者登録したばかりですとランクは一番下のC級となります」

「はい、大丈夫です」

「それでは登録表に必要事項の記入をお願いいたします」

おっと、これは不味いぞ。

僕はこの世界の文字が書けない。

なぜしゃべれてるかは謎だが、多分魔法的な何らかの力が働いているのだと無理やり納得している。

しかし文字だけは勉強しなければ書けやしない。

「カナタ、私が代わりに書く」

「ありがとう。助かるよ」

僕が受付で困った表情を浮かべているとアカリはすぐに察したのか代わりに記入してくれることになった。

「カナタさん、と仰いましたよね?カナタさんはどこからか来られたのでしょうか?」

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