LOGINかつて大地には、高度な文明を築き栄えた国があった。 科学者達は、長く続く争いを無くそうと人々の善と悪の思念を制御する研究を続けてきた。 そしてついに、それらを別の空間に蓄積し隔離する術を生み出した。 しかし、その思念は人の手に負えぬほど膨張、暴走し、二つの異なる次元は全ての生命を飲み込んだ。 二つの次元はそれぞれ「魔」と「天」と呼ばれた。 魔と天のコメディバトルここにあり!
View More時を同じくして、お父様が封印された古城では幹部たちによる会議が開かれていた。
テーブルの中央には手下が一足先に調達してきた動物や人間が盛られた巨大な皿。 それぞれ手にはワイングラスを持ち、中には血色の紅い液体が入っていた。(グルルル・・・)
「辺境の村アルメリアに送った貴様の半身とやらは、未だにエンシェントアイテムを持ち帰っていないそうだが」
獅子の唸り声とともに一匹が語り出した。 「君が自身の魔力を半分切り離して生み出したヤツ? 裏切り者は処刑だよ」 全身を黄金色の鎧に包んだ一人があけすけに訊く。 「人間も馬鹿ではない。簡単にはいかぬさ」 片手に杖を持ち、片腕が干からびた一人が答えた。 「グルル…手ぬるい! 村を襲い人間どもを根絶やしにして奪えば良い。なぜそうしない?」 「長い年月をかけようやく突き止めた天界の装備。必ず繋がりがある。闇雲に滅ぼしてしまうのは愚策だ」 「でもお父様はお嘆きになるだろうなー」 「ふん。その通りだ! 動向が手に取るように分かるそうだが、人間どもに混じり、媚びて情報を探るなど」「クックックッ……」
黙って聞いていたヘドロスライムが笑い出した。 「何がおかしい?」 「いえ、つい。お三人とも気の長いことだなと思いまして。失礼」 「ガルルッ! 貴様、何か文句があるのか? グラスも持てないスライムごときが」 「幹部の新参。一番下っ端の分際でちょっと生意気だね。ボクがお仕置きしてやろうか」 「いえいえお詫び致します。私のようなスライムが、お父様に次ぐ力を持つあなた方に敵うはずがない」 「なるほど、素早いお前は既に新しい情報を掴んでいると見える」 「ええ。もちろんです」 「我々はまだ他の武具の所在を探し出せていない。お前の命は預けておこう」 「……さすが冷静かつ賢明なご判断。感謝いたします」 (ニヤニヤ。かつて魔王を滅ぼした天使がどのような"モノ"であったか。魔に染まりきったあなた方には分かるまい)」手下のモンスターたちが狩りから帰ってくる。
″お父様″と呼ばれた存在がその凶大な力の全てを取り戻すための封印。 その解放は目前に迫っていた。◆
城に帰還したバルガを待っていたのはお父様ではなくヘドロスライムであった。
「失敗したようねバルガ」
「……申し訳ございません。人間どもの中になかなか強力な技を持つものがおりまして」 「それで持ち帰ったのがその汚く錆びれた斧だけか。それが天使の斧とでも?」 ニヤニヤと笑う口元。だがその眼は笑ってはいなかった。 「おっおそらくは! 他にそれらしき武具は見当たらず……」 「そうか。ところで、その手練れの息の根はちゃんと止めてきたんだろうな」 「い、いえ、お父様より伝心が入りましたゆえ、即刻戻って参りました。しかし奴には致命傷を与えており長くは持たないかとおもわr」≪セバルチュラx≫
ヘドロスライムの二つの眼から紅蓮の炎が際限なく吹き出し、バルガの全身を包む。
「ぐぎゃあああ! た、助けて、お赦し、お赦しを!!」 「そういうところが詰めが甘いと言っている!」 「あっあっ、ベホ、マ、ベホ……」 灼熱に飲み込まれバルガは呪文を唱えられない!黒焦げとなり床に崩れ落ちるバルガ。
しかしHPはわずか1残り、まだ息があった。 「クックク。大した生命力だよバルガ。もう一度だけチャンスをあげる。再び村に赴きその手練れを捕らえて城に連れて来なさい。そいつは生きている」 「な……な…ぜ、あん…な…にん、げんを」 「そいつは人間ではない」 そう言うとヘドロスライムの身体が光り輝きバルガに注がれ、焼け爛れた傷を少しずつ癒していった。セーラは天を仰いで雨のシャワーを浴びていた。 装備を脱ぎ捨て、服はびしょ濡れであった。 木陰に隠れたカイはやましい気持ちになり、後を追ってきたことを少し後悔した。「……!!?」 セーラは恐ろしく巨大な二つの気配に気づき、キョロキョロと辺りを見回した。「やばい、ばれた」 カイがそう思った瞬間、大きな体躯をした魔物が二匹、空から飛び降りて地に着地した。 空を見上げるととびきり大きなグリフォンがばさばさと羽ばたきしており、数十匹の魔物が降りてきた。「あなたたち…」 セーラはその中の二匹の魔物をキッと睨みつけた。 その少し離れた場所の洞穴で野宿していたバルガも、気配を感じとり飛び上がった。「やべえ。幹部の誰かが俺を殺しに来やがった。やっべえ…やっべえええええ!」 オロオロするバルガを見て手下の小虎たちも「どうします? どうします? 」と、あたふたし始めた。「むっ?」 干からびた片腕の魔導師はすぐに察した。(あやつらめ……) 魔導師が他の幹部に詳しい話をしていないことには理由があった。 娘の身体を生み出す術はその触媒として、天使の頭骨が必要であった。体内に取り込み長い年月を共にして魔物の個体として育てあげた。 そのような話をすれば面倒なことになるだろう。 頭骨の持ち主は名前をルーテと言った。 ルーテは天界産の高級馬車の名前でもあり大変に希少な車種であった。 我らは馬車好きが集まる祭りに人間に化けて参加しており、そこで知り合った。 車のフォルム同様に美しい容姿をしたルーテはすぐに我が魔性を見抜いたが、離れてはいかなかった。 百年以上昔の話だが、車のマニアックな知識を嬉々として語るルーテの姿は昨日のことのように思い出せる。「こんなに車について深いお話ができたのは久しぶりで嬉しい。どうも有難う。貴方さまは内に多くの光を宿した良い魔物。天使の私が言うんだから間違いありません!」「良い魔物……?そんなものが存在するのか」「どんな生き物にも、植物にさえ善と悪の両面があります。この私にも。そしてそのどちらが強いか弱いかによってその人の色が違って見えるだけなのですよ。私は貴方さまのこと、好きです」 それから程なくして、我はルーテを殺して天使の頭骨を手に入れた。 最期の時、ルーテは少しだけ涙を流したが、説得も命乞いも抵抗もしなかった。
獅子の魔物と黄金の鎧騎士がチェスの駒ではさみ将棋をしていた。 台には巨大なゴーレムの頭部が使われている。 幹部の中では仲が良いほうの二人は、こうしてたまにボードゲームを嗜む。「盾を取りに行ったガネーシャも帰らないそうだね」 黄金の鎧騎士が駒を動かしてポーンを取った。「やっぱ君の手下は弱いんじゃない? アラブ系だし」「グルル! ガネーシャなどに期待したオレが間違いだった。今度はオレ自ら行ってやる」 獅子の魔物は指笛でグリフォンを呼ぼうとした。「待て、冗談だよ。恐らくガネーシャはエデンの盾を装備したその者に返り討ちにあったんだろう。ならばそいつが地上に降り立った稀少な天使でほぼ確だ。奴らパーティはどんな構成?」「戻った部下に聞いたところ、天使以外はゴミのようだな」「なるほど。だがボクも同行しよう。君の力なら敵が何人いようが関係ないが用心に越したことはない」 鎧騎士は取ったチェス駒を手のひらに乗せてジャラジャラと動かした。「君はこのルークのように直情的だからね」「ふん。いらぬ心配だ。オレ一人で充分!」「いや駄目だよ。君がいつかのように思わぬ深手を負って再生まで時間がかかると困る。君とは一番気が合うんだ。ゲームは弱いけどさ」「余計な一言を…付いてくるのは良いが手は出すなよ」「オーケー。あと斧のほうだけど、天の流れをくむ者に装備させないと錆びが取れないから一緒に持っていくよ」「お父様がまだ殆どお言葉を発せられないのはそういうことか」「長年手がかりさえ掴めなかったのに、最初の斧を探し当ててから盾もすぐに見つかった。とすれば悔しいがあいつの言葉は正しい。残りの装備も集めてもらうまで天使は泳がせて生かしておかなくちゃいけない」「グルルルル…天使は盾だけ奪い半殺し、仲間どもは八つ裂きにして殺す!!」「復讐に燃えて早くエンシェントマターを探してもらわないとね。最後の装備を手にした時が」 鎧騎士が獅子の魔物のキングをナイトで挟んで取った。「天使が死ぬときだ」◆ ガネーシャを倒した一行は戻る途中で突然の雨に見舞われたため、森の中でテントを開いた。「少し雨に当たってくるね」 セーラは一人で外に出ていった。「マリア、アレフ、後をつけてみないか」 カイがそう言うとマリアが激昂した。「馬鹿ね! セーラは戦いのあとの汗を気にしてるの! っ
話をしている間にレイたちは洞窟に着いた。「ここが魔物のボスのすみかやで」 一行は中へ入り、魔物たちを倒しながら進んでいく。だが突然現れた魔物に両腕を取られたレイは、身動きが取れなくなった。 それを見たカイが二人にささやく。「どうする? 逃げ出すなら今だぜ」「で、でもレイが……」「大丈夫さ。あいつはあのぐらい一人で切り抜けられる」 三人が迷っていると、レイが話しかけた。「ええよ、行っても。でも例えわい一人になってもこここの魔物は絶対に倒したる」 三人はレイの目に固い決意を見た。 アレフが魔物を剣で切り裂きレイを助けた。 レイが不思議そうに聞いた。「どうして逃げなかったん?」「ここの魔物退治までは付き合ってやろうと思ってね。逃げるのはそれからだ」 道中でレイがとつとつと話し始めた。「わてはじいさんに育てられた。でもじいさんは魔物に襲われて亡くなってもうたんや。何もできんかったわては悔しかった」 レイは話を続けた。「わては以前から自分がエデンの盾を装備できることを知っていたんや。でも天使の力は何も現れなかった。そんな時、ある人がこの朱い珠をくれたのや。この珠を使えば強くなれるってな。それからや、わてが変わったのは」 三人は黙って聞いている。「わては攻めてくる魔物を倒し続けた。そして呪文を覚え、ライオットまで使えるようになった。望んでいた天使の力を手に入れたんだ。わいはこの珠をくれた人に感謝しているよ」 話を聞いた三人は何も言えなかった。 やがて一行は洞窟の最下層にたどり着いた。 奥にはボスと思われる魔物がいる。 魔物は胡座をかいて象の頭を持っていた。 その不気味な魔物は話し出した。「わたしの名はガネーシャ。おまえたちが来るのを待っていた」 そう言うと突然ガネーシャは沈黙の笛を吹いた。 レイたちの呪文は封じられてしまった。 さらにガネーシャは爆裂呪文を唱え、レイたちに大ダメージを与える。 四人も応戦するが、ガネーシャの爆炎系の魔法によりダメージを受け続け、瀕死状態になってしまった。 勝利を確信したガネーシャは、勝ち誇ったように話しだした。「冥土の土産に教えてやろう。レイよ、おまえにその朱い珠を与えたのはわたしなのだ」「そ、そんなばかな!」「その珠は魔力でおまえの力を増幅している。つまりその珠の力がなくなれ
街を追い出されたセーラは途方にくれていた。 彼女は天使であることにこだわってはいなかったが、自分の存在理由を否定されたようで悲しかったのである。 誰か相談できる人がいればと考えながら、ふと以前碧い珠の呪いを解いてくれたオルドを思い出した。(そうだ、あのおじいなら助けてくれるかもしれない) セーラはそう考え、オルドの家が近いミラの街へ飛行魔法で飛んで行った。 オルドに会ったセーラは、セテロの街での出来事を話した。「ふむ、事情はわかった。ちとその碧い珠を見せてくれんか」 セーラは珠をオルドに渡す。「ふうむ。よく見ると珠にくすみが見えるのう。多分魔物に細工をされたんじゃろ」「細工?」「以前の呪いのようなものじゃ。この細工をした魔物の近くにいると、碧い珠の力が封印されてしまうようじゃの」 そう言うとオルドは再び碧い珠を浄化してくれた。「ほれ」「おじいさんありがとう!」「あとお主は電撃の呪文を、不完全な形で覚えたようじゃな」「え?」「ちとじっとしておれ」 そういうとオルドはセーラに喝を入れた。 セーラの頭の中で不完全な呪文が消え去り、新しい呪文が浮かび上がる。「これでお主も電撃系の魔法も使えるはずじゃ」「それじゃ私、天使なの?」「そういうことになるかのう。まあ自信を持つことじゃ」 だがセーラには以前から気になっている疑問があった。 それをオルドに聞いてみる。「私、以前の記憶がないの。これも何かの封印なのかな」「おそらくそうじゃろう。だがわしにはその封印の正体はわからぬ。残念ながらわしにはお主の記憶を戻すことはできんのじゃ」「そうなんだ……」 セーラは肩を落とした。「それよりお主の仲間が気になる。早く行ってやるのじゃ」「はい!」 セーラは礼を言って再び飛行魔法を唱えて飛んで行った。「なぜあやつらが動き出したのじゃ」オルドはそう呟いた。 そのころマリアたちはレイと話をしていた。「この街にあるエデンの盾を狙って、以前から魔物たちが攻めて来てたんや」「この街には城壁があるじゃないか」「ああ。ただいくら周りに壁があるといっても、魔物たちを迎え撃つのは大変でな。ちょうどその住処がわかったんで、君らと一緒にやっつけに行こうと思うのや」「その前にセーラを返して!」「セーラ? ああ、あの偽物のことか。彼女のことはいま
東の大陸に着いた一行は、近くにある祠に入り中の人に話を聞いてみた。 するとこの近くのセテロという街に、エンシェントアイテムに数えられるエデンの盾があるという。 さらにその街には天使のような人外がいるらしいということがわかった。 セーラたちはセテロに向かった。 しかし、魔物たちもエデンの盾がセテロにあることを知り、街に攻めてきていた。だがこの街は、回りを山あいに囲まれた城塞都市であるため守りが固く、魔物たちの侵入を許さなかった。 街へ着いた一行は門兵に中に入れてもらった。だが既にこの街に魔物の一味が入り込んでいたことを、セーラたちは知る由もなかった。 中に入りあたりを見渡すと、街の一角に盾を持った少年がいる。彼が天使と呼ばれる人物のようであった。首から下げた珠は赤く輝いている。「あちらの天使さんは朱い珠なのね」「私の碧い珠と何か関係があるのかな」「まあまず情報収集してみよう」 一行は彼のことを街の人々に聞いてみた。 最近までは気の弱い普通の少年だったようである。しかしある日天使として目覚め、呪文やエデンの盾が使えるようになったという話であった。 人々に話を聞いているとき、一人の男が走ってきてセーラにぶつかった。「おっとごめんよ!」そう言うと男はにやりとして去って行った。「なによ、失礼な男ね。セーラ大丈夫?」「うん、大丈夫」「一通り聞き終わったから彼に話を聞いてみるか」 一行は少年に話しかけてみた。「わての名前はレイ。わてこそが魔王を滅ぼす天の使いや」レイはセーラの方を向いて話しかける。「君も天使と呼ばれている女の子やね。でもヒーローは二人もいらないと思わんか? そこで君が本物の天使であるかどうか試させてもらうよ。このエデンの盾を装備できるかな?」 レイは盾をセーラに渡した。 見ると古ぼけた盾である。 本当に天界産の盾なのか半信半疑ながらも、盾を装備しようとした。 しかし盾は岩のように重く感じられ、装備することができない。 そして碧い珠は何の変化もなかった。「やっぱり装備できないようやね。あとわいはこういう呪文も使えるんや」 レイが呪文を唱えると、あたりに電撃が走る。それは人外の物だけが使える電撃系の魔法、ライオットであった。「君はこの魔法を使えるかや?」 セーラはうつむいて黙っている。「さあみ
一行は梵天の鏡を取りに王家の塔を上って行った。 確かに現れる魔物たちは手強い。 五階建ての塔の最上階が果てしなく遠く感じられた。 そんな中、セーラは新しい呪文を覚えた気がした。 頭の中に浮かんだ呪文を唱えてみるが、何も起こらなかった。 どうやら気のせいらしい。 セーラは特に気にしなかった。 さてあっさりと梵天の鏡を手に入れ、一行は王の下へ戻る。 鏡を渡すと王はセーラたちを褒めたたえた。 そして鏡を兵士長に渡しマネモルを退治するよう命じた。 梵天の鏡で元の姿に戻されたマネモルたちは次々と兵士たちに倒されていく。 たとえ魔物といえども、何の危害も加えていないものたちが倒されて行くありさまを、セーラは見ていられなかった。 やがてマネモルたちは全滅し、ブランドールの人々は喜んだ。 人々が魔物を恐れる気持ちはわかる。 だがセーラには納得しがたい結末であった。 セーラたちはブランドールで、マルドックという街に船があるという話を聞き、そこへ向かっていた。 その途中、森の中で獣用の罠にかかっているスライムの子供を見つけた。 幼きスライムは悲しそうにこちらを見ている。 マリアが罠を外し助けてやると、スライムはうれしそうに駆けていった。「ちょっと、何するんだよマリア!」「魔物を助けるとはどういうことだ」「だってかわいそうじゃない」「あいつが人を襲ったらどうするんだよ」「私は悪い魔物だけじゃないと思うの」「セーラまでそんなことを言うのか。俺は知らんぞ」 四人の雰囲気が悪くなってしまった。 そして一行はマルドックに着いた。 街の中で話を聞くと、船は商人のソクラスが持っているという。ソクラスは人がいい男のようで、街のみんなが褒めていた。「ソクラスさんはいい人でねえ。よく街の仕事を手伝ってくれるんだよ」「本当にあんな親切な人はいないね」「あたしゃ前からやさしい人だと思っていたよ」 一行がソクラスの家へ行くと、ソクラスはにこやかに出迎えてくれた。「やあ、いらっしゃい。皆さんの噂はこの街まで届いています。おお、あなた達は魔物と戦ってくれるまさに勇者ですね。世界の平和をお願いしますよ」 そこに幼い少女がやってきた。 彼女はソクラスの娘でタニアという名前である。 マリアがあいさつをするとタニアもあいさつをし、ありがとうと言う。
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