愛した男が黒幕でした。

愛した男が黒幕でした。

last updateLast Updated : 2025-07-02
By:  専業プウタCompleted
Language: Japanese
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ルカリエ・セリアはスグラ王国の侯爵令嬢でクリス王太子の寵愛を一身に受けていた。しかし、突然現れた謎の男爵令嬢モリアにクリスは夢中になる。モリアの懐妊の知らせと共に、ルカリエは婚約を破棄するよう王家から要求される。絶体絶命な場面に現れたのはマサス王国の王レオナルドだった。彼は彼女の地位も名誉も回復して、彼女を妃とした。しかし、初夜の翌日、寝室に突撃してきたクリスは自分は洗脳されていて愛しているのはルカリエだと主張する。

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Chapter 1

1.君はもう僕のものだ⋯⋯。

 私の故郷では見られない雪が降っている。

 キラキラ光る宝石のように見えるのは、空気が澄んでいるからだろう。

 乾いた空気が本当に気持ちが良い。

思わずバルコニーに出ると、私の愛しい人が追いかけて来た。

「ルカリエ、そんな格好で外に出たら風邪をひく⋯⋯」

 後ろから抱きしめてくるのは、今日私の夫になったレオナルド・マサスだ。

 彼の温もりは私を包み込み、私も少しでも自分の温もりを返そうと身を捩った。

 彼が私の銀髪の髪を愛おしそうに撫でてくれる。

「もう、レオったら、そんなに早く私を自分のものにしたいの?」

 私の質問に静かにレオはうなづいた。

 彼の黒髪が夜風に他靡く。

 彼の暗い、深淵を見つめるような瞳が好きだ。

(愛しい⋯⋯)

 私はこれ程に自分を求めてくる男を前に、味わったことのない感情を抱いていた。

私は1年前にスグラ国の王子に婚約破棄を言い渡されたばかりだ。

 クリス・スグラとは心が通じ合っていると信じていた。

 しかし、それは私の思い上がりだった。

 彼はモリア・クーナ男爵令嬢が現れるなり、彼女に夢中になっていた。

 彼は彼女の言葉を全て信じて、私との婚約を破棄した。

 私は誰もが憧れる王子の婚約者から悪役令嬢に一瞬でなった。

 覚えのない嫌がらせの冤罪までかけられて、私は遠い島国マサスに流された。

 地位も名誉も失った私を救ったのがレオだ。

 豪雪地帯でもあるマサス国は、今日も雪景色だ。

 レオはマサス国の王でありながら、罪人とされる私を求めた。

 私の名誉を回復させ、爵位を与え自分の婚約者とした。

 その時、バルコニーから1隻の船が桟橋に接岸するのが見えた。

 船の先頭にはスグラ国の王章が見える。

 ブリザードの吹き荒れるこの時期のマサス王国に上陸するのは命懸けだ。

 周囲を氷山で囲まれていて、船がいつ挫傷するとも分からない。

 船から降りてきた、小さい影は私が10年以上も思い続けたけたクリスだった。

(結婚式にも呼んでないのに、何しに来たの?)

 私が動揺していると、急にレオが私の耳をはんできた。

「な、何するの?」

「君はもう僕のものだ⋯⋯」

 寒さで凍え切った私の体はレオによって寝台に運ばれた。

 ベッドに寝転がされて見上げた彼の顔は少なからず、焦っているように見える。

 「レオ! スグラ国の船が⋯⋯!」

私の言葉は彼の狂おしい程の口付けに塞がれて続かなかった。

「もう、忘れて⋯⋯クリスのことも⋯⋯スグラ王国のことも⋯⋯」

私は彼が絞り出すように伝えてきた言葉に少なからず動揺した。

 スグラ国での出来事は私にとって人生の根幹を築いたような経験だ。

(あの理不尽な出来事がなければ、私はずっと守られるだけの弱いお嬢様だったわ)

 8歳で当時スグラ国の侯爵令嬢だった私は婚約者クリスと引き合わされ、彼に捨てられる18歳のその時まで彼を愛した。

しかし、それは私の一方通行な愛だったと18歳の時に知ることになる。

「忘れさせる程、夢中にさせてくれるんでしょ。レオ⋯⋯」

私が彼の首に手を回し、口づけすると彼はそれに応えてきた。

 クリスの姿を見ただけで、胸がざわついて仕方がない。

私が10年以上思いを寄せた金髪碧眼の王子様だ。

 ずっと仲良くやって来たのに、彼が私に冷たくなるのは一瞬だった。

「レオも私に飽きたりして⋯⋯」

感じるままに発した一言は、私の本音だった。

 クリスは私と10年以上いることで、飽きたのではないだろうか。

今、目の前にいるレオもいつ私に飽きるか分からない。

「飽きさせてくれるつもりはあるの? ルカ⋯⋯本当に悪い女だな⋯⋯君を知ってしまったら、君以外欲しくないよ」

彼はそういうと私に覆い被さってきた。

私は今日彼の妻になった。

 クリスがどうして、突然私を拒絶し非難し始めたかなんて今は考えたくもない。

 今は、私を求めるレオにただ溺れていたい。

♢♢♢

「体は大丈夫か?」

「そんな柔じゃないわよ」

 翌朝私を気遣う言葉を発するレオに、私は照れ臭くてそっけなく返した。

 レオは美しくて、性格も穏やかな男だ。

(私を求める時だけは人が変わったように獰猛になるけれど⋯⋯)

「はぁ、可愛いよ。ルカ!」

朝食の時間で、ダイニングに行かなきゃいけないのにレオがベッドに私を押し倒してきた。

「ちょっと、レオ! ダメだったら」

私の抵抗する声に反応するように、寝室の扉が開かれた。

「ルカ! 帰ろう! 俺と一緒に⋯⋯」

まるで、私を助けに来たヒーロのように振る舞うクリスがそこにいた。

ここは王妃の寝室だ。

 よくここまで、入って来られたものだ。

 レオの計らいで、私を傷つけたスグラ王国の人間はマサス王国には出禁になっていた。

 もちろん、その筆頭が私の元婚約者である、クリス・スグラだ。

 彼は、私の乱れた格好を見て固まっている。

(初夜の後なんだから当然じゃない⋯⋯おかしいのはあなたよ)

 彼は私を言われのない罪で追い詰めた人間で、私の敵だ。

 ただ、10年以上思いを寄せて結婚を考えていた相手ではある。

「モリアの元に戻って! もうあなたは私に必要ないわ」

 モリアは突然現れて、私から何もかもを奪っていた女だ。

 そして、私にはない可愛らしさを持った女で、とんでもない嘘つきだ。

 ありもしない誹謗中傷と攻撃を私から受けたとクリスに吹き込んだ。

 そんな信じがたい事実を信じたのはクリス自身だ。

(私との10年ってなんだったのよ。本当に笑っちゃう⋯⋯)

 私はクリスの気持ちが離れて初めて、自分の持っていたものはいつ失ってもおかしくないものだと気がついた。

 まあ、それは今も同じかもしれない。

 私を寵愛しているとされる人間がクリスからレオに変わっただけだ。

 このような生き方をしていては破滅をすると分かっていている。

 クリスを信じて裏切られ、今はレオを信じて裏切られる日を恐れている。

(だから、私は誰にも負けない力を手に入れないと⋯⋯)

「違うんだ! 俺はモリアに洗脳されてただけなんだ。本当に愛しているのは、ルカ⋯⋯君だけだ」

新婚初夜の後の寝室に乗り込んで、クリスは何を言っているのだろう。

「そうね、あなたは恋の病にかかってたかもね。モリアに飽きたのなら、次の女にいったら? ただし、私以外で宜しくね!」

 冗談じゃない。

 クリスが王権を振り翳して、言われなき罪で私を罰して地位も名誉も失った。

そ んな私を守り地位を回復させ、癒してくれたのは間違いなくレオだ。

 クリスは何をしに来たのだろう。

 島流しをされた私がレオと出会わず、全てを失ったままなら彼の手を取ってたかもしれない。

 でも、私には今レオがいる。

 だから、もうクリスは必要ない。

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1.君はもう僕のものだ⋯⋯。
 私の故郷では見られない雪が降っている。  キラキラ光る宝石のように見えるのは、空気が澄んでいるからだろう。  乾いた空気が本当に気持ちが良い。思わずバルコニーに出ると、私の愛しい人が追いかけて来た。「ルカリエ、そんな格好で外に出たら風邪をひく⋯⋯」 後ろから抱きしめてくるのは、今日私の夫になったレオナルド・マサスだ。  彼の温もりは私を包み込み、私も少しでも自分の温もりを返そうと身を捩った。  彼が私の銀髪の髪を愛おしそうに撫でてくれる。「もう、レオったら、そんなに早く私を自分のものにしたいの?」  私の質問に静かにレオはうなづいた。  彼の黒髪が夜風に他靡く。 彼の暗い、深淵を見つめるような瞳が好きだ。 (愛しい⋯⋯) 私はこれ程に自分を求めてくる男を前に、味わったことのない感情を抱いていた。私は1年前にスグラ国の王子に婚約破棄を言い渡されたばかりだ。 クリス・スグラとは心が通じ合っていると信じていた。  しかし、それは私の思い上がりだった。 彼はモリア・クーナ男爵令嬢が現れるなり、彼女に夢中になっていた。 彼は彼女の言葉を全て信じて、私との婚約を破棄した。 私は誰もが憧れる王子の婚約者から悪役令嬢に一瞬でなった。 覚えのない嫌がらせの冤罪までかけられて、私は遠い島国マサスに流された。 地位も名誉も失った私を救ったのがレオだ。  豪雪地帯でもあるマサス国は、今日も雪景色だ。 レオはマサス国の王でありながら、罪人とされる私を求めた。  私の名誉を回復させ、爵位を与え自分の婚約者とした。 その時、バルコニーから1隻の船が桟橋に接岸するのが見えた。  船の先頭にはスグラ国の王章が見える。 ブリザードの吹き荒れるこの時期のマサス王国に上陸するのは命懸けだ。  周囲を氷山で囲まれていて、船がいつ挫傷するとも分からない。 船から降りてきた、小さい影は私が10年以上も思い続けたけたクリスだった。 (結婚式にも呼んでないのに、何しに来たの?) 私が動揺していると、急にレオが私の耳をはんできた。「な、何するの?」 「君はもう僕のものだ⋯⋯」 寒さで凍え切った私の体はレオによって寝台に運ばれた。  ベッドに寝転がされて見上げた彼の顔は少なからず、焦っているように見える。 「レオ! スグラ国の船が⋯⋯!」
last updateLast Updated : 2025-06-10
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2.お前が愛しているのは王妃の座だろ!
 1年前、モリア・クーナは突然現れた。 ピンク色のウェーブ髪に、澄んだ空色の瞳を持った女だ。アカデミーでも、お茶会でも私は彼女に出会したことがなかった。 彼女は、ほとんど平民と言って良いような貴族だった。そんな彼女が建国祭の舞踏会に現れた時は、周りはざわついた。 誰も見たこともない、噂も聞いたことがない少女だ。 貴族には義務と課せられているアカデミーの教育さえ受けていない。私は妃教育で王国の貴族令嬢については把握しているはずだった。しかし、彼女の名前を見たことはない。 彼女の存在を知って、慌て貴族名鑑を見たら彼女の名前が今現れたように存在した。 私とクリスはいつも2曲続けて踊るのに、その日は1曲終えると彼は彼女のもとにいった。「モリア・クーナ男爵令嬢。あなたと踊れる幸運を私にくれますか?」 王太子である彼が男爵令嬢でしかない彼女に愛を乞うように跪く様は異様だった。 周りの人間が私を憐れみの目で見つめてくる。 彼と彼女がダンスをしている間、私は自分が地獄の縁に追い込まれていくのを感じた。(どうして、私に恥をかかせるの?) 私が戸惑いながら2人を見つめていると、2人は会場の外へと消えていった。その後、2人が男女の関係になったと噂がたった。 私は一気に憧れの令嬢から、婚約者に捨てられた令嬢になった。 そのあとはクリスは私を避け続けた。 私は訳が分からず、王宮に出向いた。「お約束のない方のご来訪は、ご遠慮させて頂いております」私を次期王妃として扱っていた城壁を守る騎士さえも冷たくなっていた。私はここで自分の立場を初めて知った。 私は、王太子の婚約者で侯爵令嬢だったが、クリスの関心を失ったら誰も私を尊重しないのだ。「そう、それなら仕方ないわね⋯⋯」縋るのはプライドが許さない。私は馬車に乗り込み帰途につこうと思った。「アカデミーにも通えない貧乏人と、ルカリエ様になじられて⋯⋯」 私がふと聞こえた自分の名前に、横を見るとクリスとモリアが寄り添いながら歩いていた。 私とクリスは立場もあり、人前であまりくっついたりはしない。しかし、クリスはそんな制約も守れないくらい彼女に夢中に見えた。「私、そんなこと言ってないわ。今日、会うのも2回目よね。クーナ男爵令嬢⋯⋯」私の言葉はそれ以上、続かなかった。クリスが私の頬を思いっ
last updateLast Updated : 2025-06-10
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3.小蝿がいたから追い払いに来ただけだ。
「懐妊? ですって?」 驚きのニュースがスグラ王国を駆け巡った。クリスがモリアに夢中になって半年、モリアがクリスの子を孕ったという。 私は、クリスが正式な婚姻前にそのようなことをしたことが理解できなかった。私とクリスは10年以上連れ添っていたが、肉体関係はない。 朝食の席で父である、ミリアン・セリア侯爵が頭を抱えている。 彼はスープを掬うスプーンをゆっくりとテーブルに置くと、私に諭すように言ってきた。「ルカリエ⋯⋯王家からクリス王太子との婚約を破棄するようにとの打診が正式にあった⋯⋯」私は父の言葉に息を呑んだ。「どうして! 男の心1つ満足に掴めないの? もう、あなたは終わりよ!他国なら側妃になれたかもしれないけれど、スグラ国は一夫一妻制! 王太子の手垢のついたあなたはどこにも行けない⋯⋯うぅ⋯⋯」母が目の前の皿を突然投げて金切り声をあげたかと思えば、泣き出した。 私が何をしたというのだろう。 スグラ王国では王族の言うことは絶対だ。 だから、私の努力も私の立場も実はクリスの気持ち1つで失うものだった。「クリスは私に手垢1つ付けてないわよ⋯⋯」私たちが理想のカップルだと思っていたのは、思い上がりだったのだろうか。「そんな事は関係ないって分かっているわよね、ルカ⋯⋯」泣き声を押し殺しながら話してくる母の言う通りだ。 クリスが私に手を出してようと、出してなかろうと10年私たちが婚約していたのは周知の事実。 他から見れば私はクリスの立派なお古だ。「モリア・クーナ男爵令嬢が次期王太子妃だ。今日には花嫁修行に王宮入りするらしいぞ」父が諦めかけたような顔で私に告げてくる言葉は、私を絶望の縁に追いやった。 10年近く励んできた孤独な妃教育はなんだったのだろう。 結局、妃教育はおろか義務であるアカデミーの教育も受けていないモリアが次期王太子妃だ。 私はどうしても納得がいかなくて、王宮に出向いた。「クリス王太子殿下に会いに来ました」城壁を守る騎士に告げると彼らは私を嘲笑った。「セリア侯爵令嬢、美しいですね。クリス王太子殿下は本当に見る目がない。私ならあなたを受け入れられますよ」チャラそうな門番の1人が私の銀髪をすくって口付けをしながら私を口説いてきた。 まるで、娼婦を相手にするような態度に心が沸騰するのを感じた。 私はもう彼ら
last updateLast Updated : 2025-06-10
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4.元婚約者が処刑される席で、よくもイチャイチャと⋯⋯。
牢にいる間の生活は最悪だった。私には魔女である疑いがかかっていて、危険であると足を鎖に繋がれた。小太りに無精髭の看守が私が全く食事に手をつけていないのを指摘する。「また、食事をとってないのか⋯⋯」「お腹が空いてないので⋯⋯」お腹なんか空くわけがない。モリアが現れてから、信じられないことばかりで食事が喉を通りづらくなっていた。「にしても、良い女だな」急に私の唇を指でなぞってきた看守にゾッとする。このような無礼をはたらかれていると言うことは、私は地位を失う可能性が高い。「おやめ下さい! 無礼ですよ⋯⋯」私は言葉が続かなかった。看守が突然私を押し倒してきたのだ。「や、やめて!」私が叫んだ瞬間、看守が火だるまになり転がった。牢からの焦げ臭い匂いに、騎士たちが押し寄せる。「魔女だ!」私は、やってきた騎士に地面に押し付けられた。(本当になんでこんなことに⋯⋯)私の管理はより厳重になり、鎖に繋がれた上に目隠しをさせられた。何日経ったかもわからないある日訪れたのは私の父だった。「なんて様だ。お前が魔女の血を引いているという事はお前は私の子ではない⋯⋯リリアはとんでもない不貞を働いていたんだな」「待ってください。お父様! 私は魔女ではありませんし、お母様も不貞を働くような方ではありません」母は人目を引く派手な見た目とは裏腹に真面目な女性だ。不貞を働いた上に、托卵するような人ではない。万が一、私が父の子ではないとしても、母がすすんで他の男と関係を持ったとは考え難い。お父様が、母が告白できないような恐ろしい目に遭って私を孕った可能性を少しも見出してないのが悲しい。「ルカ! お前も王太子殿下がいながら、多数の男と内通していたそうじゃないか。血は争えんな。お前のような女は極刑で良いと陛下にもお伝えしたよ」私は急に父より怒鳴りつけられて驚いてしまった。「私は殿下以外の男性とは、ほとんど会話さえした事がありません」私の返した言葉に返事はなかった。足音が遠ざかっていくのが聞こえて、私は父が私の弁明を聞く気がなく去ったのだと悟った。(どうして出鱈目な情報ばかりが出回っているの? それに極刑って)何日か経った時、私は目隠しをされたまま髪を切られているのが分かった。おそらく王族の命を狙ったことで斬首刑との判決がくだったのだろう。後ろ
last updateLast Updated : 2025-06-10
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5.飽きさせてくれるつもりはあるの?(レオナルド視点)
 敗戦国であるマサス王国は、植物も育たない凍てつく孤島を残し全ての領土を奪われた。 それは俺、レオナルド・マサスが生まれる30年も前の話だ。 それからずっと、マサス王国は大陸から離れていることを逆手に取り魔法の研究を進めていた。 世界的には失われたとされる魔法の力を我が国は手に入れることに成功していた。 魔女の一族を捉え、その血を採取し研究を重ねた。 やがて、魔法の力を得る薬の開発に成功した。  他国に露見せぬよう地下に魔法学校を建設し、魔法の力を得た者をそこで教育した。 彼らは大陸侵略の際には魔法学校の生徒から、マサス王国の兵隊になる予定だ。「早く飲め! モリア!」 「あの⋯⋯でも、人によっては飲んだら呼吸困難で死を招くと⋯⋯」 「俺の為に力を得たくないのか? 役に立ちたいと言っていただろう」 「レオナルド様の力を分けて頂きたく⋯⋯」 モリアは図々しい願いを申し出てきた。 己の力を分け与えられる人間は生涯1人だ。  俺は炎の能力を持っていて、その能力を分け与える相手を既に決めている。  魔法の力が得られる薬はリスクが高かった。 この薬を飲んだところで力を得られるのは10人に1人だ。  その他の者は呼吸困難を起こして死んでしまう。  俺にとってモリアは駒でしかないので、役に立たないならいらない存在だ。「俺のことが好きなのか⋯⋯」 「身の程もわきまえない想いとは分かっております」 モリアが空色の瞳を潤ませながら縋ってくる。 彼女はこれで俺の心が動かせるとでも思っているのだろうか。 残念ながら10年以上前から俺の心は、ルカリエに囚われている。 ルカリエは覚えてもいないかもしれないが、10年以上前俺を絶望の淵から救ってくれた女神が彼女だった。 だから、モリアがいくら俺を欲しても俺の気持ちは揺るがない。 ただ、利用できるものとして俺にとってモリアは存在していた。「じゃあ、飲めるよな⋯⋯」
last updateLast Updated : 2025-06-11
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6.魔法学校があるって噂を聞いたの。
 寝室に乗り込んできた、クリスはすぐに捕縛され連れて行かれた。「レオ! クリスをどうするつもり?」 「ここは、マサス王国だ。マサス王国の法が適用される。王妃の寝室に入ってくるなどもっての他だろう。しばらく牢に閉じ込めたら、国に強制送還するよ」 牢とは言っても他国の王族だから、貴賓室のようなところだろう。  クリスは裕福な国で生まれながらの王太子として育てられたから、本当に私が入れられたような牢屋に入ったら卒倒しそうだ。 私の銀髪をいじりながら、レオは余裕の表情を見せてきた。  彼の恋する瞳を見ていたら、昨日まではなかった不安がどっと押し寄せてきた。 クリスも同じような瞳を私に向けてきたのに、突然私に覚めたようになりモリアに夢中になった。  今朝現れたクリスは、モリアが現れる前の彼のように私を愛しむような瞳を向けてきた。 もう、何が本当かわからなくなる。 人の移りやすい気持ちなど何の保証もない。「強制送還は死罪と変わらないかもね。よく、ここまで来たものだわ」 この時期の凍てつくマサス王国に、海を渡って来るだけでも危険だ。春が来る前に強制送還となったら、スグラ王国に到着する前に船が座礁する可能性が高い。「他の男のことなど考えないで⋯⋯俺に集中して」 レオがまた私を押し倒して口づけをしてくる。 彼が私に夢中な姿を見せてくる程、私は彼の隣なら安心だとこの1年は思えていた。しかし、極端な心変わりを見せて私を苦しめたクリスと再会した後は、寵愛だけ頼りにした安寧な日々に恐れを感じている。「レオは私のどこがそんなに好きなの?」 私は手を伸ばして、彼の髪を掬いながら尋ねた。「光輝くルビーのような瞳に、その月の光を閉じ込めたような銀髪。君よりも美しい女性はこの世に存在しないよ」 レオは私が1番欲しくなかった回答をした。  要するに外見が好きだと言うことだ。  外見など時が経つほどに変化する。 それに、私は醜い自分を見たことがある。 クリスに足蹴に
last updateLast Updated : 2025-06-12
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7.僕を誘惑しようとしてましたよね。
 私は地下に建設されている魔法学校へと案内された。「国王陛下からお話は伺っております。魔法学校の校長をしております。キースです」 「ルカリエ・マサスです。本日から宜しくお願いします致しますわ」 藍色の髪に青い瞳をした青年は私と同じ年くらいに見えた。 苗字がないところを見ると平民だと言うことだ。「王妃殿下のご想像通り、私は平民でございますよ。さあ、こちらへどうぞ」 私の手を取ると、彼は私を案内しようとした。 「待って! その前にあなたと2人きりで話したいわ」 私の護衛の騎士たちが困った顔をしている。 「王妃命令よ、護衛の騎士は皆出口で待ちなさい」 昨日、手に入れたばかりの王妃という権力を使った。 (この権力だって、いつ失うか分からないわ⋯⋯) 私の目的は魔法の力をつけて、いつでも逃げ出せる力をつける事だ。 レオの心変わりで、クリスの時のように何もしてないのに処刑まで追い込まれるのは絶対避けたい。 護衛騎士たちは、一礼すると魔法学校の出口の方へ下がった。「王妃殿下、何を考えているのですか? 僕があなたを害する可能性もあるのですよ」 「どうやら、あなたの魔法って心を読めるわけじゃないみたいね。あなたは私の敵なの? 興味ないふりをしても、一瞬私に見惚れてたでしょう」 先程まで涼しい顔をしていた、キースが一瞬目が泳いだのが見えた。 私は強くなることにした。  今、自分にあるものは全て利用するのだ。  王妃の権力、類稀なる美貌⋯⋯どちらも今の私にはあるが、明日の私にはないかもしれない。「キース、早く2人きりになれるところでお話ししましょう」 私は彼の藍色の髪に指を通した。「分かりました」 キースが私を案内したのは校長室だった。 (寝室に案内されたら、どうしようかと思った⋯⋯) 校長室には大きな机と、客人を待たせる為のソファーがあった。  私はそのソファーに座り、彼も隣に座るように促した。 壁に刻
last updateLast Updated : 2025-06-13
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8.聞いていたより賢くない方ですね。
「ルカリエ様、聞いていたより賢くない方ですね」  私は突然低く響き渡ったキースの私を蔑むような声に怯えてしまった。 私の呼び名も「ルカリエ王妃」から「ルカリエ様」に変わっている。  王妃に足らない人間だと看做されたのだろう。「私のことどのように聞いていたかは存じ上げませんが、私は男に愛されることで生き延びているような女ですよ⋯⋯」 他の人とは違う私を批判するような言葉を発してきたキースに対して、私も自分を着飾る事はしなかった。「賢くないルカリエ様には僕も本音を曝け出します。魔法学校は世界侵略の為に作られましたが、僕はこの魔法学校をマサス王国を滅ぼす為に使うつもりです」  私は彼のとんでもない発言に、思わず身を起こした。「反逆計画を話しているの? 王妃であるこの私に⋯⋯」 「王妃でしたね⋯⋯国王陛下から逃げ出す機会を伺う王妃」  私は思わずキースの頬に触れ、彼の瞳を覗き見た。 海のように深い青い瞳に飲み込まレれそうになるも、彼が何を考えているかは全く分からない。「私のことは好き⋯⋯?」  彼が何を考えているか分からないから、とにかく自分の味方かどうかを見定めたくて尋ねた言葉。 「好きですよ。僕と共犯者になりましょう」  キースはそう一言私に返すと、私に深い口づけをしてきた。 王妃である私にこんな事をしたと露見すれば、タダでは済まないと分かっているはずだ。  だからこそ、この口づけは彼の私に対する忠誠であると私は看做した。「2人の時は敬語もいらない。ルカリエと呼んでくれる? キース!」  長い口づけの間に言った私の言葉に、彼はゆっくりと頷いた。 彼のことを信用しているわけではない。  それでも、反逆計画などと、首が飛ぶような恐ろしい計画を私に話してくれたことに喜びを感じていた。「ルカリエ⋯⋯実は君が理解できない。国王陛下に寵愛されてるのに逃げたいだなんて⋯⋯」 「私のことを知っているのに、本当に理解できないの? 私、スグラ王国の王太子に愛されていたはずのに、ある日突然捨てら
last updateLast Updated : 2025-06-14
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9.もっと私に夢中になるように。あなたに口づけをしてあげる。
「子を成さないように魔法を掛けたよ」 ため息をつきながら言ったキースの言葉に私は彼の目をじっと見た。「結婚している以上、愛してなくても子を成す行為をしなくてはならないでしょ⋯⋯」 私から目線を外しながら言うキースに、私は彼がレオの罪を確信していると思った。 流石にクリスの心変わりと、突然現れたモリアの存在は不自然だった。 「そうね⋯⋯でも、恋とか愛とか、平穏な暮らしの前では無意味に感じるわ」 私を愛しているというレオは予想通りなら、私を側に置くことに気を取られても私の幸せは願ってくれていない。 私がスグラ王国で絶望に遭っていたのも彼の企みの一部だとしたら、私は自分の幸せを願ってもくれない男と一緒にいられるだろうか。「キース、私は火の魔法がつかるかもしれないんだけど、あなたはどんな魔法が使えるの?」 子を成さないような魔法なんて器用に使え、若くして魔法学校の校長になっている彼はきっと特別な存在なのだろう。 私は彼がどれだけの種類の魔法が使えるかが気になった。「全て⋯⋯僕はここにいる魔法使いとは違う。僕の力は魔女の忘形見なんだ。後天的ではなく先天的に魔法の力を持っているんだよ」 キースは明るく言っているが、私は彼が他とは違うただ1人の存在ということが気になった。 私は長期に渡る王妃教育で誰とも違う孤独な時間を過ごしてきた。 取り巻きはいても、友人など1人もいなかった。 だから、次期王太子妃の立場を失ってからは誰も私を気にかけなかった。「キース、私と共犯関係になろう。友達になろう。お互いだけが本音を明かせる唯一無二の友達に」 私は反逆計画を王妃である私を前に明かしてくれた彼を信頼した。 それだけではない、決まった運命を辿る人が多い中で突然ハシゴを外された存在。 そう言った意味で私は彼にシンパシーを感じていた。「友達⋯⋯そんなものいた事ないからピンとこないな」「実は、私もないのよ。友達なんていたことは一度も⋯⋯」 私たちはそう言い合うとお互
last updateLast Updated : 2025-06-15
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10.時には恋とかしたりして学校生活を楽しみたいと思います。
 キースが、魔法学校を案内してくれると言うので、私は地下に続く階段を降りて行った。 スグラ王国にもアカデミーという貴族の為の学校があったが当然地上にあった。 このように、地下に秘密組織のようにある学校を私は知らない。 そして、レオは魔法学校の存在を教えることで、私をモリアを使って陥れたことに気づかれないとでも思ったのだろうか。(気が付いたところで、私がレオから離れて生活することは不可能だわ) スグラ王国の罪人である私を、大陸に渡るのも難しい島国である敗戦国マサスが管理するという形で私の身柄は引き渡されている。 大陸の情報もあまり入って来ないマサス王国で、私を罪人呼ばわりするものはほぼいない。 ただ、国王陛下が寵愛する女として私はこのマサス王国で存在している。 だから、私の身分はレオの寵愛に頼って成り立っている。(スグラ王国の時と変わらないわね⋯⋯)「ほら、ここが教室。ここは地下2階だから、主に魔力のコントロールについて学ぶ授業が行われているよ」 そこに広がっていたのは、私の知っている教室風景とは違っていた。 スグラ王国のアカデミーが12歳から15歳の貴族が通っているのに対し、ここの教室にいる生徒は年齢も様々だ。 そして魔法学校の紋章の入った青いポンチョの下は、みなくたびれた服を着ていた。(貴族じゃないわ⋯⋯ここにいるのは、平民ばかり)「平民が多いなって思った? 皆、薬によって後天的に魔力を得ているからね。相性が悪いと死ぬような薬を飲んで力を手に入れたんだ。お貴族様は自分たちじゃ絶対そんな危険なもん飲まないよ。ここにいるのは、使い捨てても良い兵隊⋯⋯」「黙って⋯⋯たとえ、それが真実でも彼らの聞こえるように言うのはやめて」 ナイフのように突き刺さる言葉を浴びた経験のある私からすれば、その内容は実は元から心の内にあったものだとしても一生口に出さないで欲しいと思う。 口を閉ざすことが相手を尊重するということもある。「遠目で見ている時は、クールなお姫様に見えたけど、実はセンチメンタルなお姫様だったんだな
last updateLast Updated : 2025-06-16
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