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あの日の来ない日常を(エピローグ)

last update Last Updated: 2025-08-06 17:00:43

アレンさん達と最後の別れから一年が過ぎた。

僕はというと五木さんの口添えもあってか単位を失うことなく、卒業を迎えることができた。

「明日から五木さんのとこでお世話になるんだっけ?」

卒業式は姉さんも見に来てくれた。

フォーマルな格好に身を包み、そんな質問を投げ掛けてくる。

「そうだよ。就職はどうしようかと思っていたけど五木さんが是非ウチにって言ってくれてさ」

「ふーん。でも五木さんってその業界では権威って言われているほどの人でしょ?そんな人からなんで声がかかったの?」

姉さんは知らない。

異世界のことも魔神のことも、もちろんアカリのことも。

姉さんを巻き込むわけにはいかないだろう。

何も覚えていないのなら、そのまま平和に暮らして欲しい。

だからアカリとの出会いは大学で知り合ったことにしておいた。

彼女だと紹介したらとても喜んでくれた。

そういえば春斗は警備会社に就職が決まっていたな。

彼ほどの身体能力の高さがあれば暴漢に襲われても返り討ちにするかもしれない。

フェリスさんはレディース専門の服屋に就職していた。

夢が叶ったと喜んでいたが、売上も高く今では副店長を任されているらしい。

あの人は怒らなければめちゃくちゃ人当たりのいい方だからな。

しかも綺麗な人だ。

多分それが売上につながったのだろう。

アレンさん達は元気にしてるかな。

たまに異世界が恋しく感じることもあるけど、それも次第に薄れてきた。

この世界で魔法はほぼ使えないし、今までの日常が戻ってきている。

「どうしたの?ボーっと空を眺めて」

「ああ、いや何でもないよ。それよりこれからアカリと出掛けるから、先に帰っててよ」

「デートね!?アカリちゃんを泣かせたりしてはダメだからね!」

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