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第4話

Author: ご飯ちょうだい
外で激しい雷鳴が轟き、稲妻が辺りを白く照らした。

怒りで顔を歪める直樹と、その腕の中で勝ち誇っている莉奈を見ていたら、不意に笑いがこみ上げてきた。首を横に振り、声を立てて笑う私に、直樹は呆気に取られる。

「お前……」

その先を聞く気はなかった。ゆっくりと口元を拭い、バッグを手に立ち上がると、私は玄関の扉を開けて外へ出た。

直樹に貸さなかったあの傘を差し、降りしきる雨の中を歩いていく。体の半分は濡れてしまい、寒さで震えが止まらない。それでも、ここを去る足取りに迷いはなかった。

再び、稲妻が走った。

稲光にはっと我に返った直樹は、窓の外の激しい雨に、さすがに言いすぎたと思った。咲は身重なのに、こんな土砂降りの中を出ていかせてしまったのだ。

急に不安になり、連れ戻そうと身を離しかけた途端、莉奈がまた抱きついてきた。

「直樹、行かないで。また雷が鳴りそうで、怖いの」

直樹は、すがりつく莉奈の腕をそっと自分の体から離そうとしながら、優しくなだめた。

「大丈夫だよ、家には使用人が大勢いるだろ。咲は身重なんだし、ちょっと様子を見てくるだけだから」

ところが莉奈は、かえって強くしがみついた。涙を浮かべ、声を震わせる。

「もう私のこと、好きじゃないの?あなたのお父さんと無理やり結婚させられたときも、ずっと好きだったのはあなただけよ。

私のことは守るって言ってくれたじゃない。咲さんにあんなことを言われたのに、私を置いて、あの人を追いかけるの?」

直樹は長いことためらった末、外へ出るのをやめた。

「そんなことないよ。俺はここにいるから」

低い声で莉奈をあやしながらも、窓の向こうの雨をぼんやりと見つめていた。

莉奈が落ち着いてから、直樹は私に電話をかけたが、応答はなかった。続けて3回かけても出ないのを見て、莉奈は喜びを隠し、彼の胸に顔を寄せたまま探るように尋ねる。

「咲さん、そんなに怒ってるのかな。明日の式に来てくれなかったらどうしよう。赤ちゃんもいるのに……ひと言、ごめんって送っておいたら?」

直樹の目は落ち着かなげに泳いでいたが、口では強がりを崩さなかった。

「なんで俺が謝るんだよ。悪いのはあいつだろ。ここで謝ったら、つけあがるだけだ。

大丈夫だって。あいつがどれだけ俺に惚れてるか、お前も知ってるだろ?

明日は結婚式だし、今さら別れるなんて言えるわけないさ。どうせ新居で頭でも冷やしてるんだろ」

まるで自分に言い聞かせるような口ぶりだった。

けれど、直樹の予想は外れていた。

私が向かったのは空港だった。その頃にはもう飛行機に乗り込み、出発を待っていた。行き先はどこでもよかった。

カウンターでいちばん早く出発する便を尋ね、その場で航空券を買ったのだ。

午前3時20分。飛行機を降りると、メッセージが2件届いていた。

1件は探偵からだった。

【朝倉さん、すべて手配が整いました】

もう1件は、直樹から。

【さっきは少し言いすぎた。早く休めよ。明日の朝、新居へ迎えに行く】

どちらにも返事をせず、私は空港近くのホテルに入った。まぶたを開けているのさえつらくて、ベッドに横になるなり頭から布団をかぶり、そのまま眠りに落ちた。

朝7時、高瀬家では支度が整い、花婿に付き添う友人たちが賑やかに出発をせかしていた。

直樹だけは、いつまでも返信のないメッセージを眺め、不安を拭えずにいる。傍らの莉奈が気遣うように声をかけた。

「直樹、どうしたの?顔色が悪いわ。咲さんから、まだ返事が来ないの?」

首を横に振った直樹は、ふと莉奈のドレスに目を留め、眉をひそめた。純白の生地が光を受けてきらめいている。よく似合ってはいたが、これでは花嫁より目立ってしまう。

「莉奈、着替えてきてくれないか。今日は俺と咲の結婚式なんだし、その格好はちょっと……」

莉奈はうつむき、傷ついたような顔をした。いつものようにそうしていれば、直樹も折れると思ったのだろう。けれど、今度は友人たちが黙っていなかった。

「莉奈さん、そのドレスはさすがにまずいですよ。白は花嫁の色でしょう。それに、今日は新郎のお母さんとして出席するんですから、もう少し控えめな服にしたほうが……」

「そうですよ。今日は直樹と咲さんの式なんですから、花嫁より目立つのはまずいですって」

「取材も何社か入ってますし、直樹と腕を組むのもやめたほうが。写真を撮られて変な噂になったら、高瀬家の評判に関わりますよ」

口々にたしなめられても、直樹は上の空で庇おうとしない。莉奈は不満を押し殺して控えめな服に着替え、迎えの車に同乗した。

新居へ向かう途中、直樹の秘書から電話が入った。

「社長、警備員から聞いたのですが、午前2時か3時頃、大勢の人が新居の飾り付けに来たそうです。咲様からのご依頼だと言っていたようですし、咲様も新居にいらっしゃるのではないでしょうか」

直樹はようやく胸をなでおろし、口元に安堵の笑みを浮かべた。

ところが、いざ着いてみると、邸宅はひっそりと静まり返り、祝いの飾りすら見当たらなかった。結婚式当日の華やいだ気配など、どこにもない。

直樹は戸惑いながらも、警備員の話を思い出して無理に笑顔を作り、威勢よく手を振った。

「よし、花嫁を迎えに行くぞ!」

玄関には誰の姿もなく、半開きの扉は軽く押すだけで開いた。付き添いの友人たちも、そのままぞろぞろと中へ入る。

途端に、並べられた大型のクラッカーが立て続けに弾けた。

無数の写真が、花火のように宙へ広がる。抱き合う姿、キスを交わす姿、そればかりかベッドで肌を重ねる直樹と莉奈まで、鮮明に写し出された写真が雪のように降り注いだ。

直樹はその場に凍りつき、一瞬で顔から血の気を失った。

足元へ舞い落ちた1枚には、父の葬儀会場の控室で、夢中になって莉奈と口づけを交わす自分が写っている。その下に、小さな文字が添えられていた。

【直樹へ。お義母さんとのご結婚、おめでとう!】

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