31食目・親子でお料理

　ストゥリアとやらを寝かせている間、エリザさんは鼻歌をしながらお玉でアクをくすっていく。

　中に入ってるのは牛肉みたいな真っ赤な肉塊とそれぞれ人参、玉ねぎ、ブロッコリーみたいな特徴を持つ野菜だ。

「わあ……だんだんといい匂いがしてきちゃった……」

「アクが出なくなってきたら、モルテは最後まで弱火で放置、そしたらルシーちゃんのストゥリアに戻りましょうね」

　にこりと微笑むエリザさんは、それから10分くらいアクをとり続けた。

　アクの色がだんだんと白く細かくなっていって、「そろそろかしら」と蓋をすると魔法で火の勢いを弱めた。

「ずっと見てても、飽きないです……！」

「うふふ、そう？　じゃあそろそろストゥリアの様子を見ましょう！」

　エリザさんはボウルの蓋を取る。

　するとふわりと花のような、香り高い匂いが立ち込めた。

「わあ、いい匂い……！」

「ストゥリアに使われる粉は花から実になる時に、花の香りも一緒に込められてる感じなのよ。実を割るとルシーちゃんが捏ねたあの粉になるのよ」

「実の中にこの粉が詰まってるってことですか……！？」

「うふふ、そうよぉ」

　捏ねてる時は強力粉みたいなものかと思ったけど、どうやら異世界作物だったみたい。

　ちなみに人参っぽいものはヒトデの形をしていたし、玉ねぎの形をしたものは、にんにく味だった。

　『メモ』

　・ステロット……星型人参

　・ガリオン……玉ねぎ風にんにく

　・ストゥーナ……ストゥリアの原料。一応穀物でパンにも使われる（らしい）

　さて、ボウルに入っていたストゥリアは粉をまぶしたまな板に乗せられた。

　所謂打ち粉だ。

　そこへ見覚えのある棒が取り出されて、「これで伸ばしてちょうだい」と笑顔を向けられた。

　……これ、パンじゃないな、麺だ。

「丸形にします？四角にします？」

「とりあえず丸くていいわよお。薄く広げたら折りたたんで、を生地が柔らかくなるまでやってほしいわぁ」

「わかりました」

　エリザさんに言われるがまま、まずは丸いストゥリアに麺棒で潰す。

　横にしたまま潰すと、エリザさんは「こうするといいわよ」と軽く成形し直してもう一本あった短めの麺棒を生地の真ん中に突き立てた。

　そしてへこんだ中心から外側へと伸ばしていくのだけど、何度も作ってるんだろうな……すごく手慣れている。

「さ、やってみて」

　もう手を入れるつもりがないのかエリザさんは流し台に麺棒を突っ込んで、私はエリザさんの見様見真似で生地を伸ばしてみる。

　生地は意外と硬い。

　力がいる、根気がいる作業だ。

　（それを、あんな簡単にやるなんて……）

　料理初心者の自分とは違って、いとも簡単に道具や生地を操るエリザさんはすごいな。

　それとも料理に手慣れているからだろうか。

　どちらにしても、エリザさんを『すごい』と思うしかなかった。

　……私のお母さんも、それくらい料理してたのかな。

「いいと思うわ。そろそろ畳んで、もう一度伸ばしてみて」

「わかりました」

　エリザさんに言われながら、生地を畳んで再び伸ばしていく。

　じっと生地と私の手つきを見ていたエリザさんは何度か頷くと、鍋の方に近付いて蓋を取った。

「うん、うん……そろそろかしらね」

　小さく呟くエリザさんは野菜カゴに一つだけ残していた葉っぱを手に取ると、茎を握って葉の方だけを振りかけるように鍋に投入していく。

「お母さん、それはなに？」

「んー？これはね、ネーヴェって言って、この葉を入れることで風味に深みを与えるの。煮込み料理には定番の香辛料なのよ」

「へぇ……」

　料理にはあまり詳しくないけど、こっちで言うならローリエとかオレガノみたいなものかな？

　あ……お鍋から漂う香り、ちょっと変わったかも。

　ビーフシチューみたいな、お腹空いちゃう香りがする。

「うぅ、いい匂いがします！」

「あらまあ、ルシーちゃんったら。ストゥリアが完成したら仕上げをしましょうね」