로그인王子に執着した癇癪持ちの子といわれ、王城で虐げられていた妖精・ナノリアは、誰にも助けられずひっそりと命を落とした。 ——その体の中に入ったのは、まったく別の「私」 そんな中、冷酷無慈悲と噂される摂政殿下・ブレイクから妖精の力を借りたいと告げられる。 役に立てるか不安に思いながらも、王城よりはましだと考えて一歩を踏み出す。 領地までついて行った私を待っていたのは——あたたかい公爵領の人達。 私を子供扱いして、噂とは全然違う優しい眼差しのブレイク。 めちゃくちゃスバダリな摂政殿下が、傷ついたナノリアを甘やかしてくれる話。
더 보기目が覚めるとそこが別世界のように思う事ってあるだろうか。
それもはっきりと、夢うつつではなくて現実味を帯びた感覚がある場合。 例えば……異世界に転生した、とか? ありえない。 ただ寝ぼけているだけと言われた方が信憑性がある。 でも。胸にぽっかりと穴が開いたみたい。
何かすごくすごく、大切なことを忘れているような……。 私は胸を押さえた。 泣いてたんだっけ。頬に涙の跡が濡れている。不思議な感覚だ。私は確かにこの景色を知っている。毎日見る、いつもの私の部屋。
昔イギリスに旅行に行ったときに見たお城の中みたいな一室だ。 石の壁、豪華な壁絵、それから……大きなベッドに寝てる、私。 ——ん? イギリスって何だっけ。 そこまで考えてから、ふと思考が止まる。 喉が乾燥しているのに気付いた。 「こほ……ちょっと埃っぽいな」 この部屋はあまり衛生的ではないらしい。叩けば埃が出てきそうだし、実際目を凝らすとあちこちに埃や汚れも見える。 こんな汚いところで生活してたんだ、私。——できていたっけ? 広さはあるけれど、家具はほとんどない。 どうしようかと思って、視線を落とした。今はくすんだ白いワンピースを着ている。 今日はジャージじゃないんだ。——ジャージ? 違和感にまた目が留まった。 私の手、指……こんなに細くて白かったっけ。 それより、とにかく背中が痒い。たまらなく痒くて、ついぼりぼりと掻きむしってしまう。 蚊に噛まれたかな。やだ、不衛生だからダニとか? 触れた背中に、ごり、と物体の感触がある。何かが背中に、付いている? 怖くなって動きが止まる。——こぶ? 薄くて、何だかさらさらしていて……。 掻いた所からボロボロと何かが剥がれ落ちる感触があった。 「ひいっ……」 恐ろしくなって私は手を止めた。 そうだ、鏡! 部屋の中の鏡に走り寄る。 「これ……私? 私よね」 うん、私だ。 ナノリアの顔だ——ナノリア? 私の名前……。 可愛らしい見た目をしている。光の加減によっては青色にも見える白銀の髪はふわふわしていて、瞳は深い藍色。まだ幼い顔立ちをして、頼りなく華奢な身体をしている。 見慣れているようで見慣れない。 自分のようで、自分でないような。 何を言ってるかわからないけど、違和感がひどい。 そして気になった背中を鏡に映すと、そこには青くて小さい、蝶の羽みたいなのが付いていた。 羽……。しかも私は、これの動かし方を知っているのだ。微かにぱたぱたと動かせる。 じっと鏡に向き直って、これはやっぱり夢なのかなと思い始めた時。 「ああ、間に合わなかったか……」 背後からのその声に、びっくりして振り返る。 目の前に、一人の男の人が立っていた。こちらも恐ろしく美しい容貌だ。金の長い髪は足元まで伸びており、輝くような金の眼が私を見ている。完璧すぎて彫刻のように冷たくも感じる。 「だ……っ! ど、どちらさま!?」 輝かんばかりの美貌のその人は、唐突に、つ……と涙を流した。 透明な涙が頬を伝う。綺麗な人は泣き顔も美しいんだな——て、そうではなく。 「あ、あの……」 「可哀想な子……結局、消えてしまったのか」 私を見ながら不穏な事を言われる。 「消え……?」 その人はゆっくりと瞬きをした。長い睫毛が濡れている。 とにかく悲しみに暮れている目の前の人を放っては置けない。 「あの……元気出してください」 えと、ハンカチ……ないな。部屋を探せばあるだろうか。かび臭そうだけどいいかな。 そんなことを思って見渡していると、その人はやっと少しだけ笑った。笑うと冷たい雰囲気がなくなる。 「優しい子が「え、誰?」 思わず聞き返したら、パウラは補足してもう一度言ってくれた。「王子殿下です。アディノス王子殿下。ナノリア様ご執心の」「やめて。執心してないから」 正確には私は、していない。「何の用?」「聞いてませんけど、聞いてきましょうか?」「普通聞くものじゃないの?」 取次ぎってそういう者じゃないのか。 パウラがさあ、と首を傾げた。「だってナノリア様は用件を聞いたことなんてなかったので」 そうか、好きな人が来たらすぐさま招き入れてたか。 いや、それでもさ。普段、まったく交流のないレディーの部屋に来るんだから、向こうから用件を言ってしかるべきでは。 コンコン、とノックの音が響く。待ちきれなくて催促のノック。「あ、来ちゃいましたね」「え、なに、はやいはやい」「いつもより遅いからですよ多分。いつも、はーい! って走っていくじゃないですか」 はーい、の所を高い声で再現された。ちょっと悪意を感じる。 それは置いておいて。 私は、王子には特に会いたくもない。それよりお昼ご飯が食べたい。 断ったら駄目だろうか。まだこの体に入って昨日の今日だし、因縁の相手にはもう少し馴染んでから会いたい。 いや、次期国王だし、無碍にしたらだめなんだろうか。 そんなことを考えていたら。「開けろ」 若い男の声が響く。——アディノスの声だ。 条件反射で体に緊張が走った。 そしてこの部屋の主人の同意の全くないままに、扉は開かれた。 侍従に開けさせたのだろうが、入って来たのはアディノス一人だった。 こちらを見て、あからさまに眉を寄せる。「いるなら早く開けろよ」 すっごい、偉そう。 そのまま遠慮もなく入ってくると、部屋の中にある椅子にどかりと座った。 ものすごく久し振りに見たような、映画の中の人に会ったような、不思議な感覚だ。 確かに目鼻立ちは整った
パウラが持ってきてくれた朝食は、固くて黒いパンと具のないスープだけ。 質素だけど弱った胃腸にはちょうどいい。 「いただきます」 部屋にはパウラも出て行って誰もいないから、手を合わせて、気楽に食事にすることができた。 スープにパンを浸しながらゆっくりと食べ進める。 ダイニングに行けば、アディノスと同じく王族に出される朝食が出てくる。アディノスは嫌そうな顔をしたが、かといって粗末な食事を横に並べるわけにもいかないし、何よりドローネの遺言がある。 しかし、部屋で食べる時は人目が減るから一気にレベルが下がって……多分これは使用人の残り物だな。 まあ、食べられるなら何でもいい。 モグモグと口を動かしながら周りを見渡した。 あまり味はないので、ごくごくとスープで流し込んで、私は立ち上がった。 本当に薄汚れた部屋だ。それほど広い部屋ではない。 物も全然ないから掃除も楽そうなのに、一切されている様子がない。 「よし。まずは、掃除ね」 呼び鈴でパウラに来てもらって食器を返して、雑巾とバケツの水をお願いした。 パウラは怪訝そうな顔を隠しもしなかった。 「はあ……雑巾?」 声音も表情もひどいものだったが、それでも言う事を聞いて持ってきてくれた。 よくよく観察すると、態度がそっけないのは性格なんじゃないかな。言葉に棘を感じてたけど、そこに悪意はなさそうで、私の事は別に嫌っていないようだ。 ただ、感情の幅が狭くて、淡々とした人なんだろう。 お礼を言ってから、私は袖をめくった。 さあ、大掃除だ。*** 私の家は田舎にある大きなお寺だった。 父はそこの住職で、子供は私一人。 古くから続くお寺だから檀家さんの高齢化はすさまじかったけど、その数は結構たくさん抱えていたから寺を畳むこともできなくて。 子供の時から父の読経を聞きながら育ったし、寺は継ぐつもりで一応仏教系の大学に進学した。 進学したものの——頭を坊主にする踏ん切りがつかなかった。いや、宗派としては何も剃る必要はないのだけど、何しろ田舎だから、檀家さんたちの手前一度は剃った方がいいんじゃないかと言われて。 大学卒業間近22の夏。ひたすら迷って迷って、いよいよ、もう逃げだすか? なんて考えながら眠りについて——その後の記憶がない。
かなり経ってから一人のメイドが部屋を訪れる。 私の担当のメイド——パウラ。愛想というものをどこかに置き忘れたんじゃないかっていうくらいそっけない人で、記憶にある限り笑ったところを見たことが無い。 ナノリアはこの人が苦手だった。怒っても怒鳴っても、淡々と仕事をこなす彼女が、何を考えているかわからなくて。その内ほとんど会話をすることもなくなっていた。 まあ、毒があるかもしれないと噂される私の世話を担当してるっていう時点で、普通のメイドではないのかもしれない。 「お呼びですか」 「支度をお願い」 はいとも言わずにパウラは去っていって、水と着替えを持ってきてくれた。 ナノリアは寝込んでいたから、1週間ぶりくらいに呼んだことになる。 それでも一切の質問もない。特に私の体調とかは気にならないみたいだ。——いいけどね。 私は顔を洗って着替えて、化粧台の前に座った。 身支度はいつも一人でしていたから、ブラシを取って髪を梳く。その間にパウラがベッドを整えて——ぶほっ、すごい埃が立ってる。やめてくれ。 息を止めて髪を整えた。 服は質素な暗い色の、着古したドレスだった。背中に少し切れ込みが入っていて、そこから羽を出している。格好としては、これで十分だ。 「隠さないんですか」 「え?」 いつの間にか側まで来ている。パウラの視線は私の背中にあった。 「その、羽です」 「ああ……」 この羽から毒の鱗粉が出ているのではと言われていたから、人前ではいつも包帯で巻いたり、荷物を背負うように何かで包んだりしていた。 でも、この10年誰も病気になってないんだから、そんなのは何の根拠もない。発言力のある王妃から出た妄言に皆従っているだけだ。 この羽はものすごく敏感で、当たると剥き出しの神経に触れるみたいになる。それを包むなんて……それだけでイライラしてしまいそう。 「いいのあれは。痛いから」 「でも……」 パウラの表情が初めて戸惑ったように動いた。 羽の鱗粉よりこの部屋の埃の方がよっぽど害になると思うんだけど。そうは思っていないようだ。 私は肩をすくめて見せた。 「窮屈なの。耐え難いほどにね」 「は、あ……」 「心配しなくても、羽の粉で健康を害したりはしないはずよ? 気になるなら窓を開けて換気して」 「あとで暴
徐々に蘇ってくる記憶を思い起こしながら、私は相変わらず窓の外を見つめていた。 ——そう、ナノリアは愛情深く育てられていた。 途中までは。 国王ドローネの温かい抱擁は今でも覚えている。王妃サフィアも優しく、一人息子のアディノスと兄妹のように育てられた。——4歳までは。「……………」 日はもう既に高く昇り、朝ご飯のいい香りが漂って来る。 まだこの部屋に来る人はいない。——いや、呼ばない限りここには誰も来ない。 あれほど眩しかった日々が、嘘だったかのように色を失っていった。幸せだった記憶さえ、消えそうなほどに。 ——そう、あの日を境にナノリアの世界は一変した。 ナノリアが4つになった時、国王ドローネが、病に伏した。 国政の場で突然倒れたと聞いて、ナノリアは慌てて駆け付けた。 いつもなら素通りするはずの扉は固く閉ざされ、ナノリアを中に入れてはくれなかった。「へいかは……へいか!」「お入り頂くわけにはいきません。姫様、お戻りください」 いつもは挨拶を交わす近衛が今日は立ちはだかり、頑として退いてくれない。 心配でたまらないのにどうしようもなくて、ナノリアはその場にへたり込んだ。「どうして……」「陛下は病に侵されておる。原因不明のな」 聞き慣れた王妃サフィアの声。でも、これまで聞いたことが無いくらい冷たい声だった。 青い顔をしていた。袖には血が付いている。——ドローネは吐血して倒れたと聞いた、それだろうか。「おうひさま、へいかは……ご、ごぶじで」「今は、まだ」「あいたい——」「ならぬ!!」 びくりと肩が震えた。 サフィアのこんな大きな声も、初めて聞いた。「これまでロフェリア王国は精霊の加護により盤石であった。——そなたが来るまでは!」「え」「国王が謎の病に倒れるなど、ありえなかった。昨日までお元気でいらしたというのに」 それは、その言い方だとまるで。「陛下に何かしたのではあるまいな」「え……?」 言っている言葉の意味が分からなくて、ナノリアはただサフィアの顔を見た。サフィアはハンカチで口と鼻を覆っていた。「聞けば蛾の羽には、毒の鱗粉なるものがあるらしいではないか」「でも。でも、わたし……」 サフィアが近衛に厳しい視線を向けた。「連れてゆけ。ナノリアを部屋より出すな」「おうひさま……!」