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束の間の幸せと忍び寄る影

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-11 09:40:33
その夜、騎士団の食堂は異例の賑わいを見せていた。

私たちを支持してくれる騎士たちが集まって、愛の勝利を祝ってくれている。

テーブルには、普段は食べられないような豪華な料理が並んでいた。

みんなが、自分の持ち寄りで準備してくれたもの。

「王女様、こちらをどうぞ」

エドワードが、美味しそうなワインを注いでくれた。

「ありがとう」

私は微笑んで受け取った。

「でも、こんなに豪華にしなくても……」

「いえいえ」

エドワードが首を振った。

「今日は特別な日です。愛が勝利した記念すべき日ですから」

愛が勝利した……そう言われると、改めて嬉しくなる。

「カイル様も、こちらへ」

別の騎士が、カイルを隣の席に案内してくれた。

彼は少し戸惑っているようだったけれど、素直に従った。

「みんな、ありがとう」

カイルが立ち上がって、騎士たちに向かって頭を下げた。

「俺たちのために、こんなに……」

「当然です」

年配の騎士が笑顔で答えた。

「あなたたちの愛は、我々にも勇気をくれました」

「勇気?」

私が首をかしげると、その騎士が説明してくれた。

「最近の騎士団は、規律ばかりで人間味がなくなっていました」

「そうそう」

別の騎士も頷いた。

「命令に従うだけの機械のようになってしまって」

みんな、同じことを感じていたのね。

「でも、あなたたちを見て思い出しました」

エドワードが真剣な顔で言った。

「騎士も人間だということを」

「愛することの大切さを」

「守るべきものがあることの意味を」

次々と声が上がった。

みんな、心から私たちを支持してくれている。

「ありがとう」

私は涙ぐんでしまった。

「こんなに温かく迎えてもらえて……」

「泣かないでください」

エドワードが慌てて言った。

「今日は喜びの日です」

「そうね」

私は涙を拭いて、微笑んだ。

「今日は、笑顔でいましょう」

「乾杯!」

誰かが声を上げた。

「愛の勝利に!」

「愛の勝利に!」

みんながグラスを掲げた。

ワインが美味しくて、心も軽やかになる。

でも、一番嬉しいのは、カイルが隣にいてくれること。

彼の笑顔を見ているだけで、幸せな気持ちになる。

「リア」

カイルが小声で話しかけてきた。

「少し外の空気を吸わないか?」

「いいわね」

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