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森の中で誓う新たな絆

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-18 09:00:00
森の中で私たちは、ようやく安全な場所を見つけた。

小さな泉のそばに、岩が円を描くように並んでいる。

「ここで休みましょう」

カイルが提案した。

「追手も、ここまでは来ないでしょう」

私たちは岩に座った。

三人でやっと揃った。

でも、これは終わりじゃない。

始まりなのね。

「ソフィア」

私は彼女を見つめた。

「本当にありがとう」

「いえ、私こそ」

ソフィアが微笑んだ。

「あなたのおかげで、勇気をもらいました」

「勇気?」

「愛を諦めない勇気を」

ソフィアが空を見上げた。

「私にも、愛する人がいたのです」

「今でも愛してるの?」

「はい」

ソフィアが頷いた。

「でも、諦めて修道院に入りました」

「なぜ?」

「身分の違いがあったから」

またその理由ね。

「でも、あなたたちを見ていて思ったのです」

ソフィアが私たちを見つめた。

「愛は、諦めるものじゃないって」

「その通りよ」

私は強く言った。

「愛は、戦い抜くものよ」

「リア……」

カイルが私の手を取った。

「君と出会えて本当によかった」

「私もよ」

この手の温かさ。

失いかけたけれど、また取り戻せた。

「でも、これからどうしよう」

現実的な問題が待っている。

「まず、安全な場所を見つけないと」

カイルが言った。

「ここは一時的にはいいけれど」

「どこか心当たりは?」

「実は……」

ソフィアが思い出したような顔をした。

「私の故郷に、隠れ家があります」

「隠れ家?」

「昔、母が恋人と使っていた場所です」

母の恋人……愛のための隠れ家ね。

「そこなら安全?」

「はい。誰も知らない場所です」

「行ってみましょう」

私は立ち上がった。

「でも、その前に……」

私は指輪を見つめた。

砦で使った時より、石の輝きが強くなっているような気がする。

「指輪の力で、敵の動きを見てみたい」

「危険じゃないか?」

カイルが心配そうに言った。

「さっき使ったばかりだろう」

「大丈夫よ」

私は彼を安心させるように微笑んだ。

「少しだけ」

「俺がそばにいる」

カイルが私の隣に座った。

「何かあったら、すぐに止める」

ソフィアも心配そうに見守っている。

私は深呼吸して、指輪に意識を集中した。

「心を静めて、石に意識を
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