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再会と新たな絆

作者: 吟色
last update 最終更新日: 2025-08-17 09:28:12
砦の廊下を進みながら、私は心臓の音が聞こえそうなほど緊張していた。

カイルはここにいる。

でも、どの部屋にいるのかしら。

「あちらから声が聞こえます」

ソフィアが耳を澄ませて言った。

確かに、奥の方から人の話し声が聞こえる。

私たちは慎重に近づいた。

角を曲がると、大きな扉があった。

その隙間から、光が漏れている。

「中を覗いてみましょう」

私はそっと扉の隙間から中を見た。

広い部屋に、数人の男性がいる。

そして——

「カイル!」

心の中で叫んだ。

彼がいた。椅子に座らされて、手足を縛られている。

でも、無事そうで安心した。

「どうですか?」

ソフィアが小声で尋ねた。

「います」

私も小声で答えた。

「でも、縛られています」

「何人ぐらい?」

「五人ほど」

多すぎる。私たちだけでは、どうすることもできない。

でも、諦めるわけにはいかない。

「作戦を考えましょう」

ソフィアが提案した。

「何か、気を引く方法を」

気を引く方法……

そうだ、指輪の力を使えばいいのね。

「少し待ってください」

私は指輪を見つめた。

「心を静めて、石に意識を集中」

母の教えを思い出しながら、深呼吸する。

石がほんのり温かくなってきた。

「見せて……」

小さく呟いた。

「この部屋の構造を」

頭の中に映像が浮かんだ。

部屋の見取り図のようなもの。

扉は一つだけじゃない。

裏口があった。

「ソフィア」

「はい」

「裏口があります」

「本当ですか?」

「ええ。向こう側に回れば、別の入口があるはずです」

「分かりました」

私たちは裏口を探しに向かった。

指輪で見た通り、確かに小さな扉があった。

「ここですね」

「はい」

私はそっと扉を開けた。

幸い、音はしなかった。

部屋の中が見える。

カイルが、私たちに背を向けて座っている。

男性たちは、カイルの正面にいるようだった。

私たちの存在には気づいていない。

「どうしましょう?」

ソフィアが困った顔をした。

「五人は多すぎます」

確かに、正面から戦うのは無理ね。

でも、別の方法がある。

指輪の力を使って、彼らの注意を逸らすのよ。

「私が何かします」

「何を?」

「指輪の力で、幻影を見せるんです」

「そんなことができるのです
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