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02

Author: 槇瀬光琉
last update Last Updated: 2025-07-20 20:55:15

二次審査からハラハラドキドキと胸をときめかせながら僕は結果が来るのを待っていた。結果を待つ時ってすっごいプレッシャーだよね。

でも、来る日も来る日も郵便受けを見ながら溜め息をついた。なかなか結果が来ない。落ちたのかな?それなら仕方がないよね。

「さてと、今日は何を見ようかなぁ~」

なんてブツブツ言いながら僕はアパートの自室に戻ろうと階段を上がろうとした。

「なぁ、君さ、君が早瀬夏葵くんであってるよな?」

階段を一段上がり始めたたら急に後ろから声を掛けられた。人がいたことに気が付かない僕って一体…。

「えっと、そうですけど、なんですか?」

あまりにも不自然で怪しい彼に疑問を持ちつつも答える。

「話がしたい。少しいいか?」

なんて言われるけどはっきり言って怪しい。キャップも深くかぶってるしマスクもしてるから顔も見えないし、服装も黒で統一されているから怪しい人物そのものだ。まぁ、いいか。

「えっと、部屋そこなんで」

階段の所で話をしていると他の住人の迷惑になるしと思い、僕は怪しい彼を連れて自分の部屋に入った。彼をリビングで、待っていてもらい僕は珈琲を淹れてテーブルの上に置いた。彼と向き合う形で床に座り

「あの、話って何ですか?」

なんの話があるのかを聞いてみた。

「一つ聞きたい。俺たちのオーディションを受けたのは遊びだったのか?だから練習にも来ないのか?」

その言葉には苛立ちが込められていた。でも、その言葉を聞きなんのことだと思った。

「あの、オーディションって何のことですか?僕が受けたのはAGIAのバックダンサーのオーディションで、二次審査の結果が届いてないんで…合否もわからないですし…だから顔を出さないとか言われても意味が分からないんですが…」

頭の中で疑問符がいっぱい浮かんでる。それにこの人は誰だろう?

「はぁ?結果が来てない?マジで?」

驚きながら聞かれたから僕は何度も頷く。それにあれから1ヶ月以上は経ってるわけで…

「あの…今更なんですが…どちら様でしょうか?」

意味が分からないまま、僕は目の前の彼が誰なのかを聞いた。今更なんだけどね。

「あっ、悪い。俺は小野田智だ。君が受けたオーディション、AGIAのリーダーだ。本当に結果が来てないのか?」

変装を解いた彼の姿はまさに僕が恋をしているAGIAの小野田智さん本人だった。

嘘、なんで家にいんの?

「えっ?あっ、はい。来てません」

本当になんでここにいんの?

今の状況が意味不明すぎて頭の中がパニックになってきた。

「電話!」

智さんは突然叫び、どこかに電話をかけ始めた。電話をしながらなんか怒鳴ってる。そもそもこの場所にいることの方が夢なんじゃないだろうか?

「えっと、夏葵くん、実は君ね合格してるんだ。なんか事務所の手違いで連絡が届かなかったらしい。って聞いてるか?」

電話を終えた智さんが教えてくれた。

えっ?合格?僕が?

「えっ?あ、あの、冗談じゃなくて?」

信じられなくてつい聞き返してしまった。

「そう、合格。だから明日から練習に合流できるか?」

いまだに信じ切れてない僕に智さんが苦笑を浮かべてる。僕は智さんの言葉が信じられなくて自分の頬を抓ってみた。

「痛い…ってことは智さんは本物?しかも合格?本当ですか?」

抓った頬が痛いから夢じゃないのはわかるけど、次々と起こることが信じられない。大体、ここに智さん本人が来たことが信じられないのに。

「本当だって、信じられないだろうけど。で、俺たちのバックダンサーの話は受けてくれるのか?」

苦笑したままの智さんに聞かれて

「はい、ぜひ僕にやらせてください!お願いします!」

勢い良く頭を下げた。こんなチャンス逃すわけにはいかないよね。

「こちらこそよろしく。明日から練習に参加はできるか?事務所での手続きとかもあるけど」

少しだけ不安そうに聞かれた。

「大丈夫です。あの…なんで智さんがここに来たんですか?」

僕は返事をしつつも一番気になっていたことを聞いてみた。

「気に入らなかったから。オーディションを受けて合格までしてるのに練習に一度も出てこないから俺たちを舐めてんのか!って思ったからな。バカにしてるのかって文句を言いに来たら結果が届いてないんだもんな。そりゃ練習にも来ないわけだ」

智さんは半ば呆れながら教えてくれた。本当は僕がちゃんと問い合わせればよかったことなんだろうけどね…

「あっ、智さん今夜はどうするんですか?明日も仕事なんですよね?」

僕はAGIAが忙しいことを思いだし聞いてみた。

「あぁ、そうだった。一緒に引き連れていくつもりで下に車を待たせたままだ」

なんて智さんが言うから

「急いで準備します!」

僕は急いで準備をした。ダンスレッスン用の服とかを…

そして僕は智さんに連れられて『AGIA』の所属する事務所まで行くこととなった。

事務所につけば、そのまま社長室まで連れて行かれて、結果の遅れや今後の活動などの説明をされて事務的手続きも済ませた。

『AGIA』は全国的に活動するため僕が住んでいる場所では一緒に活動することが難しいことが判明し、事務所が急遽、用意してくれたアパートに住むこととなった。そして、大学も辞めることにした。両立することができないからだ。昔から僕はそうだ。何かにかけて両立するということができない。だからどちらかを諦めてしまう。それに今の大学は特別入りたくて入ったわけじゃない。こんなこと言えば文句を言われそうだけどね。日本で生活するために入っただけの大学だったんだ。でも、『AGIA』のバックダンサーは僕の夢だから。だから諦めたくはない。

結局、僕が本格的に練習に参加できるようになったのはバックダンサーのメンバーが練習を始めてから1ヶ月半後のことだった。そして、やっぱり僕が一番年下だった。

僕の第2の人生が今ここから始まる。

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  • アイドルに恋をした僕   01

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