LOGIN子供のころからずっとダンスをしてきた僕。でも僕には誰にも言えないトラウマがあった。そんな僕がアイドルオタクになった。ある日、大好きなアイドルのダンスメンバーのオーディションが開かれることになった。僕は意を決してそれに応募することにした。結果がこわいけどね…
View More僕の名前は
それは今、大人気のアイドルグループ『AGIA』だ!
AGIAがデビューしたときから僕は彼らのことを見続けてきた。知らないことはない!って言っても過言じゃないほど僕等は彼らのことを熟知している。それだけ僕は彼らに夢中で、彼らのCDやDVDは必ず買っているし、コンサートも毎回、見に行っている。ファンクラブにも入会してて、会員番号はNo,5と一桁だったりする。
それほどまでに僕は彼らに夢中なんだ。
本当のことを言えば彼らのリーダーである、
「夏葵!大ニュースよ、大ニュース!」
食堂の片隅にあるテーブルに腰かけて休憩をしていた僕に駆け寄ってきたのは同級生のー数日後-
オーディションの一次審査の結果が郵送されてきた。僕は緊張して震える手で封筒を開けて中身を見る。結果は合格。やった、書類審査は無事に通過できたみたいだ。
次は実技。ダンスの審査だ。それは2週間後。曲は決められている。AGIAの楽曲だ。僕はどの曲も踊れるんだ。だって、DVDを見て覚えたからね。自分らしさをアピールする人が多いだろうから曲を決めないと…。 2週間後、僕は審査会場に来ていた。会場にはやっぱり結構な人が来ていた。僕は受付を済ませて、受け取った番号札を服につけて、順番を待つことにした。周りにいる人はみんな緊張してるのか表情が硬くなってるし、ソワソワしてる人もいる。 結局、今日この日の為に僕が選んだ曲は華やかな曲ではなく、バラードを選んだ。なぜかというと、お気に入りの曲だから。しかも、智さんのソロパートで智さんの透き通るような声がキレイに聞こえるんだ。時間になり、オーディションが始まった。次々と呼ばれていく。
「108番、早川夏葵さん。入ってください」 順番が来て、名前を呼ばれたので部屋に入って驚いた。審査員と一緒にAGIAのメンバーが全員そろっていたから。普通、ここで緊張して失敗とかしてダメになっちゃう人が多いんだろうね。でも僕は反対。かえってやる気が出るんだ。本番に強いタイプ。「早川夏葵です。よろしくお願いします」
僕は目の前にいる審査員とAGIAのみんなに深々と頭を下げた。そして、司会者の合図で僕が選曲した曲が静かに流れ始めた。僕はこの時間だけ、指先まで集中して曲に合わせて身体を動かしていく。ステージで歌うAGIAの姿を想像しながら…。 曲が終わり僕の動きも止まる。「ありがとうございました」
僕は目の前にいる審査員たちに頭を下げて、部屋を出た。やるだけのことはやったから悔いはない。うん、たった数分だったけど、すごく楽しかった。最終結果は2週間後。
それまで僕はソワソワしながら待つことになるんだろうな。貴方の傍で僕は踊ってみたい…
ー次の日ー練習が終わった後で、智さんたちAGIAのメンバーと、事務所の男の人、畠山さんと一緒に僕が借りているアパートに来ていた。智さんが気を利かせて、畠山さんに頼んで、事務所の車を出してもらったんだ。「てか、夏葵お前、荷物少なくないか?」僕の部屋に入って開口一番に言われた言葉。「えっと、多分、少ないと思います。荷物を持ってきてないんで…」そう、僕の荷物はもともと他の場所にあるのだ。ここに引っ越ししてくる前のアパートって意味じゃなくて、元々の僕の住んでいる実家にという意味だ。実家といっても海外なので、すぐに取りに行くということは無理だけどさ。「はっ?持ってきてないって?」「引っ越す前の家にってこと?」僕の言葉に竜生さんたちが驚いた顔をする。「あーっ、違います。前に住んでた場所の荷物は全部ここにありますよ。それ以外の荷物はここには置いてないってだけです」自分のことを誰かに話してるわけじゃないので、ここ以外の場所に荷物があると言えばますます驚いた顔になる。「やっぱり、業者を呼ぶ必要はなかったみたいだな。なら、さっさと運んでここを片付けて引き渡せるようにしよう」なんて、智さんが言うから「りょうか~い」「だな」なんてみんなが返事をして、さっさと数少ない僕の荷物を運び出していった。えっと、僕がやらなきゃいけないのに、僕が手を出す前にAGIAのみんなが動いちゃって僕はただそこにいるだけの人状態だった。「よし、荷物は出したから掃除するぞ」総指揮官になってる智さんの掛け声でまたしてもみんなが動いちゃって僕が手を出す暇がない。でもただ突っ立てるわけじゃないよ僕も。ちゃんと掃除はしましたよ。智さんたちが来て、僕の家の荷物を出して、掃除が終わったの時間は2時間半ぐらいだった。あれ?もっとかかると思ったのに?早いよみんな。「じゃぁ、この部屋の手続きは責任もって事務所の方でやってもらうってことで、ヤマさん、鍵は預けとくから事務所に戻ったらよろしく」いつの間にか家の鍵を持っていた智さんが畠山さんと話してた。「了解。樋口主任に渡してやってもうよ」「あの、すみません。僕の事なのにお願いしちゃって」僕はそんな2人に謝った。だって悪いから…。「いいってことよ。元をただせば事務所の責任なんだからな。よし、このまま智の家に行けばいんだよな」畠山さんはそう
ダンスレッスンをしながら部屋探しって本当に大変だと思う。特に僕の場合は土地勘が全くないから、どこをどう探せばいいのか見当もつかない。だけど、探さないと困るからチラシとか雑誌とかを見ながらめぼしい場所を探してたんだ。自分なりに一生懸命探してたんだよ本当に。「みんな集まれ、話がある」ダンスレッスン中に先生がみんなを呼ぶ。僕たちは個人練習をしてる最中だったのをやめて先生の元へと集まればAGIAのみんなが来ていた。「よし、集まったな。みんなに発表することがあるそうだ」先生が言えば、智さんと竜生さんが前に出てくる。「お前たちバックダンサーの発表兼お披露目の日程が決まったぞ」智さんのその言葉に僕たちがざわつく。ついに決まったんだと…。「バックダンサーをファンの子たちに紹介するのは3ヶ月後から始まる俺たちのコンサートになった」竜生さんの言葉にますます騒がしくなる僕たち。「静かに!まだ、コンサートの内容が決まってないから、ちゃんと決まるまではみんなは今まで通り練習に励んでで欲しい」「はい!」智さんの言葉に僕たちは返事をした。「よし、5分後にまた練習始めるからな」「はい!」先生の言葉に返事をして、僕たちはまた個人レッスンへと別れた。といっても、さっきの発表の後だからみんなで雑談をしていた。うん、みんな緊張してたんだよね。ついにAGIAのバックダンサーとして発表してもらえるんだって少しだけ騒いでた。この後、普通に練習が再開されて、僕たちはそっちに集中したんだ。だって、本番で失敗したら意味がないからさ。僕は休憩中、一人で雑誌を見ながら部屋探しをしてた。だって、急いで探さないと時間がないんだ。期限は着々と迫って来てるんだ。だから、休憩中の間もこうして雑誌を見てめぼしいところを探してるんだ。以前の僕だったら住めればいいって感じで探してたけど、今はちょっと、やっぱりね、バックダンサーになるわけだから適当じゃダメかなって思ったんだ。でも、この周辺の地理がわからないから中々決めれないんだ。だからと言って他の人に相談っていうのもできなくて、結局ずっと一人で雑誌と睨めっこしてるんだよね。無情にも退去期日が近づいてきた。そろそろ本当にどうにかしないとヤバいのに僕はまだ決められずにいた。「夏葵?」集中して雑誌を見ていたら急に後ろから声を掛けられて「うわぁ
結局、この日の僕はせっかく熱が下がったのにもかかわらず、智さんたちAGIAの前で大泣きをしてしまい、また熱がぶり返したということで、退院は許可してもらったけど、これ以上無理はさせれないということで、自宅待機ということになった。勿論、ずっと付き添ってくれていたAGIAのみんなは仕事があるので、僕を家まで送ってから各々の仕事へと向かった。僕は次の日からまたダンスレッスンに参加すことになった。「おっ、ちゃんと出てこれたな」ダンススタジオに入ってきたAGIAのメンバーが僕の姿を見つけてホッとした表情を浮かべ、智さんが安心したようにいった。「はい、ご心配とご迷惑をおかけしました。昨日1日ゆっくりと休んだんですっかり良くなりました。皆さんありがとうございました」僕はAGIAのみんなに頭を下げた。勿論、ダンスメンバーや先生たちにはAGIAのみんなが来る前に謝っておいたんだ。「俺は自分でやりたいように動いただけだから迷惑だとは思ってない」って、智さんにはまた言われちゃったけどね。この日から僕の練習は本格的に開始された。AGIAのメンバーを交えて、他のメンバーとのフォーメーションとかも練習して、すべての動作を頭と身体に叩き込んだ。大丈夫、まだ鈍ってはないし、記憶力もあの日のままだ。まだ僕は大丈夫、ちゃんと踊れる。僕は智さんたちAGIAのメンバーに必要だといわれたダンスをもっと磨くために、彼らの後ろでサイコーのパフォーマンスができるように一人での練習も本格的に開始した。僕たちのお披露目会はまだまだ先だから、今は練習をして、AGIAの曲とダンスを覚えるんだ。AGIAの曲とダンスは覚えてるけど、あれはAGIAのメンバーだけのダンスだから、ダンスメンバーが入ったダンスはまだまだ練習しないとダメなんだ。ダンスメンバーたちとの練習と個人練習を繰り返す日々を1ヶ月ぐらい過ごしたころ、とある連絡が来て僕は愕然としてしまった。それはアパートの退去連絡。行き成りすぎるし、意味が分からなくて、慌てて事務所に問い合わせた。今住んでるアパートはこっちに来るときに事務所の人が手続してくれたやつだもん。「ごめんなさい、夏葵くん。確認をしたら、事務処理をした子のミスで2ヶ月での契約になってたみたいなの。急いで再契約ができないか問い合わせてみたんだけど、ダメだったの。でも、1週間の猶
このまま幸せに浸っていたいとか、ずっと握ってたいとか思ったけど、僕は起きたとアピールするように、そっと弱い力で握られている手を握り返してみた。「んっ」ピクリと動きゆっくりと顔を上げて僕を見た。そして 「おはよう、気分はどうだ?」 小さく笑った。テレビで見ていたような笑みじゃない笑みに僕の心臓がドキリとはねた。 「おはようございます。大分、落ち着いてます」 うん、これは嘘じゃない。 「熱はどうだ?」 「えっ?ちょっ」 そんなこと言いながら智さんの額が僕の額に当てられた。 目の前に智さんのカッコいい顔がって…。心臓が止まっちゃう…。 「うん、熱も大丈夫そうだな」 クシャリと僕の髪を撫でて笑う。 「ご心配とご迷惑をおかけしました。ホントに…最初から僕は智さんに迷惑ばっかりかけてますね」 自分で言って自分の胸にグサリと言葉が突き刺さる。 「俺は別に迷惑だとか思ってない。そもそも、俺は自分がしたいと思ったことをそのまま実行してるだけだ。こうやってお前の傍にいて世話をするのもな」 まるで余計なことは考えるなと言わんばかりにまた頭を撫でられる。 「でも…僕は…」 僕は自分が思っている以上に過去のことを拘ってるみたいだ。 「なぁ、夏葵。お前が子供の頃に負った傷はお前にしかその傷の痛みはわからない。だから残念だが俺にはお前のその傷の痛みを知ることができない。だけど、そんなお前にハッキリと言えることがある」 智さんが静かにいう言葉を聞き頷く。 「俺はお前のダンスが好きだ。あのオーディションの時の踊りを見て、お前のダンスに惚れた。だから俺はお前にこのままダンスを続けてほしい。俺たちの、イヤ、俺の後ろで踊ってほしい。早瀬夏葵の本当のダンスをもっと見せてほしい。ってまぁ、これは俺のわがままだけどな」 ハッキリと言い切る智さんの言葉に自然と涙が零れ落ちた。ダンスが好きだと言われたこと、自分が必要だと言われたこと、その言葉が僕の中に溶けていく。 「泣くなよ。俺、お前を泣かせてばっかじゃん」 なんて言いながら涙を流す僕を抱きしめてくれる。まるであやすようにポンポンと背中を叩かれ、それが余計に涙を誘う。 「…っ…ごめ…僕…うれ…しぃ…ダン…ス…好き…で…」 「あぁ、もう我慢しなくていい。お前の実力を隠さずに見せつけてやればいい。それを誰も責めないし
真夜中、ふと目を覚ませばそこにはいるはずのない人物がいた。「なんで?」だってここは病院で、今夜、僕は入院だって…「事務所にも病院にもちゃんと許可は取ってある。心配だったんだよ。熱を出した原因は俺にもあるからな」渋い顔をして答える智さんに「違うよ。熱を出したのは僕自身のせいだから、智さんがせいじゃないよ」雨の中に飛び出したのは僕だし、熱を出したのも僕のせい。「本当は弱ってる今のお前に聞くのは反則だってわかってるんだが、お前はジュニア時代にダンスに関することで何かあって、それが原因で頑なに実力を出そうとしない。違うか?」智さんの言葉が胸に突き刺さる。やっぱり気づかれてたんだって…「これを話せばあなたはどう思うんでしょうね…僕は…」一番知られたくない人に知られてしまう。こんな辛い思いをするなら初めっからオーディションなんて受けなければよかった…僕はずっと隠していたことをすべて話した。子供の頃に何があったのかを、なぜ本当の実力を出さないのか。否、出せないのか…。出せない理由もすべて正直に話した。今も自分の中に燻ぶってる思い、恐怖、不安も…知られることの恐怖、非難されることの恐怖を…「ちょ…おい…夏葵!」隠してきたこと、過去に起こったことをすべて智さんに話した直後、僕はまた意識を手放した。それだけ僕にとって過去の出来事は精神的にストレスになっているのだと思う。自分を追い込むぐらいには…「智どうするんだ?」「なっちゃん大丈夫かな?」「夏葵のダンス好きなんだけどな」「でも、これ完全にトラウマになってるだろ」「だとしても今のAGIAのバックダンサーには夏葵が必要だ。夏葵のあのダンスが…」夢現で聞こえてき
「おい、いつまでも休憩してんなよ」 そんな声で我に返った。自分の考えに没頭しすぎてたみたいだ。 「す…すみません」 僕は慌てて立ち上がり謝った。あぁ、やっぱりここでも同じことが起きるんだろうか?「謝んなって。踊り教えてくれよ」 そんなことを言われて、僕は驚きのあまりポカンと相手の顔を見る。相手の名前がわからない。そもそも、ここに来てからちゃんと挨拶してもらってない気がする。名前は教えてもらったけど、それから色々とあったから、一人一人挨拶する時間がなかったんだ。 「やっぱり覚えてないか…。俺は羽住明。子供の頃に一緒のチームで踊ったことあるんだけど覚えてね?」 もう一度ちゃんと自己紹介をしてくれるけど、思い出すことができない。あの時の記憶は固く閉ざされていて、一緒にいたダンスの仲間の顔も名前も思い出せないでいた。嫌でも記憶に残っているのはみんなからの非難と親たちからの心ともない言葉たち。 「あ~、そっか。まぁいいや。昔のことなんて今更どうでもいいし。それよりダンスを教えてくれよ」 もう一度、羽住くんから言われる。 「えっ?でも…僕が教えるより先生に聞いた方が…」 その言葉に僕は躊躇う。人に教えるのは苦手なんだ…。 「その先生が今いねぇんだって。それにお前の実力は知ってるし、お前の教え方がうまいのもわかってる」 過去の僕を知っているからなのか、羽住くんは教えてくれという。戸惑いながら部屋の中を見渡せば、確かに先生がいなくて、みんな個人レッスンをしていた。 「少しだけでいいなら…」 僕はこれ以上断るのもと思い、タオルを置いて立ち上がる。本当に苦手なんだけどなぁ…。 「どうしてもここがうまくいかねぇんだって」 羽住くんはそういいながら問題の場所を踊りだす。 「右腕をもう少し内側に持ってきて、足ははねるようにした方がいいと思う」 そのダンスを見て羽住くんの悪い場所を告げれば 「こうか?」 彼はすぐに直してくる。 「うん、そう」 僕はもう一度、確認して頷いた。やっぱり経験者だから覚えはいいし、ちゃんと一度で直してくる。僕は彼らに追いつけるんだろうか?彼らに勝ち続けていられるのだろうか?「よし、もう一度みんなで通して踊るぞ」 先生が戻って来ていう。僕は不安を胸に抱えたまま所定の場所についた。みんながポジショ
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