子供のころからずっとダンスをしてきた僕。でも僕には誰にも言えないトラウマがあった。そんな僕がアイドルオタクになった。ある日、大好きなアイドルのダンスメンバーのオーディションが開かれることになった。僕は意を決してそれに応募することにした。結果がこわいけどね…
View More僕の名前は早瀬夏葵。今年二十歳になる大学生だ。そんな僕は今あることに夢中。
それは今、大人気のアイドルグループ『AGIA』だ!
AGIAがデビューしたときから僕は彼らのことを見続けてきた。知らないことはない!って言っても過言じゃないほど僕等は彼らのことを熟知している。それだけ僕は彼らに夢中で、彼らのCDやDVDは必ず買っているし、コンサートも毎回、見に行っている。ファンクラブにも入会してて、会員番号はNo,5と一桁だったりする。
それほどまでに僕は彼らに夢中なんだ。
本当のことを言えば彼らのリーダーである、小野田智さんに恋をしている。うん、最近、自分でも気が付いた。僕はアイドルに恋をしている。しかも同じ男の人に。本当に報われない恋をしている。
アイドルと一般人、しかも同性。叶うはずのない恋。でも僕はいいんだ。彼らを見ていられれば…。「夏葵!大ニュースよ、大ニュース!」
食堂の片隅にあるテーブルに腰かけて休憩をしていた僕に駆け寄ってきたのは同級生の夏川美玖だ。 「どうしたの?」 彼女もまたAGIAの大ファンだったりする。 「これよこれ!」 彼女が少し興奮気味に取り出したのはAGIAのバックダンサーのオーディションの申込用紙だった。 「あっ、これ…家にある。で?大ニュースって?」 彼女に聞いてみたら僕は思いっきり叩かれた。 「このバカんちぃ!受けちゃいなよ!夏葵ならバッチリじゃん!」 あぁ、そういうことか。 「うん、受ける気でもう記入しておいてあるよ」 僕は叩かれた頭を撫でながら答えた。美玖に叩かれるのは痛いんだよね。 「なんださすが夏葵。情報が早いなぁ。受かるといいね」 美玖は自分で叩いた僕の頭を撫でながら言ってくれる。 「ん~。どうだろうね?ダンスには少し自信はあるけど、結構な人が集まるだろうから難しいだろうね」 本当に少しなら僕はダンスには自信がある。子供の頃からバレエやダンスは習っていた。今もダンスだけは続けているのだ。 「それこそ、夏葵に腕の見せ所じゃん。頑張れ!じゃぁ、またね」 美玖は言うだけ言って去っていった。相変わらず台風のような人だ。僕も次の講義を受けるために場所を移動した。ー数日後-
オーディションの一次審査の結果が郵送されてきた。僕は緊張して震える手で封筒を開けて中身を見る。結果は合格。やった、書類審査は無事に通過できたみたいだ。
次は実技。ダンスの審査だ。それは2週間後。曲は決められている。AGIAの楽曲だ。僕はどの曲も踊れるんだ。だって、DVDを見て覚えたからね。自分らしさをアピールする人が多いだろうから曲を決めないと…。 2週間後、僕は審査会場に来ていた。会場にはやっぱり結構な人が来ていた。僕は受付を済ませて、受け取った番号札を服につけて、順番を待つことにした。周りにいる人はみんな緊張してるのか表情が硬くなってるし、ソワソワしてる人もいる。 結局、今日この日の為に僕が選んだ曲は華やかな曲ではなく、バラードを選んだ。なぜかというと、お気に入りの曲だから。しかも、智さんのソロパートで智さんの透き通るような声がキレイに聞こえるんだ。時間になり、オーディションが始まった。次々と呼ばれていく。
「108番、早川夏葵さん。入ってください」 順番が来て、名前を呼ばれたので部屋に入って驚いた。審査員と一緒にAGIAのメンバーが全員そろっていたから。普通、ここで緊張して失敗とかしてダメになっちゃう人が多いんだろうね。でも僕は反対。かえってやる気が出るんだ。本番に強いタイプ。「早川夏葵です。よろしくお願いします」
僕は目の前にいる審査員とAGIAのみんなに深々と頭を下げた。そして、司会者の合図で僕が選曲した曲が静かに流れ始めた。僕はこの時間だけ、指先まで集中して曲に合わせて身体を動かしていく。ステージで歌うAGIAの姿を想像しながら…。 曲が終わり僕の動きも止まる。「ありがとうございました」
僕は目の前にいる審査員たちに頭を下げて、部屋を出た。やるだけのことはやったから悔いはない。うん、たった数分だったけど、すごく楽しかった。最終結果は2週間後。
それまで僕はソワソワしながら待つことになるんだろうな。貴方の傍で僕は踊ってみたい…
智さんは僕の手を手を引きバスルームに連れてきた。 「風邪をひくと困るから温まるんだ」 有無を言わさぬ勢いで中に押し込むと行ってしまった。僕は抵抗することも、逃げ出すことも諦めて、言われたとおりにした。濡れて重くなった服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。 雨に濡れて冷えて震えていた身体が少しずつ温もりを取り戻していく。シャワーを止めて外に出れば、用意された服が置いてあった。僕はそれに着替えて、タオルで頭を拭きながらバスルームを出たら、壁に凭れた智さんがいた。 「あ、あの…」 どうしていいのか俯けば 「リビングで待ってろ。俺が戻る前に逃げるなよ」 智さんはそう言い残しバスルームに入っていった。僕は小さく息を吐きリビングへと行きソファの陰に隠れて座っていた。「なんで、そんなところに座ってるんだお前。珈琲で大丈夫か?」 シャワーを浴びて戻ってきた智さんが僕を見つけて聞いてくるから僕は小さく頷いた。智さんは僕が頷いたのを確認してからキッチンへと行った。暫くして珈琲の美味しそうな香りが部屋の中に漂う。カップを二つ持ち智さんが戻ってきて 「こっちに座れ」 テーブルにカップを置きながら言うので、僕は言われたとおりに座った。 「少しは落ち着いたか?」 智さんの言葉に首を振る。 「なんで逃げた?逃げることなかっただろ?」 行き成りそんなことを聞かれた。でも、誰もが思ったことだろう。 「僕が…あの場所に…いちゃダメだって…」 僕がいていい場所じゃない。過去の早瀬夏葵を知っている人物がいる場所にいちゃいけないんだ… 「ふざけるな!お前のダンスがあってこそ、あのメンバーが統一されるんだぞ!」 智さんが僕に怒鳴る。 「僕には…そんな力…ないです…」 智さんの言葉に僕は唇を噛み締め俯いた。買いかぶりすぎだよ。 「あのな、夏葵。お前があのメンバーの中で一番実力があるのは俺たちメンバーを含めて誰もがわかってるんだ。過去に何があったのかはわからないが、今必要としてるのはここにいる早瀬夏葵だ」 智さんが怒りながら説明をしてくれる。僕は唇が切れるんじゃないかってぐらい強く噛み締めた。僕は…僕は…「じゃぁ、なんでオーディションを受けた?俺たちをバカにするためか?」 その言葉に 「違う!僕は一緒に踊りたかった。あなたたちの、あなたの後ろで踊りたかったから受け
「どうですか?」 全部、踊り終えた後で聞いてみると 「ダメだな。お前、本気で踊ってないからな」 先生からではなく、智さんからだった。なんでわかるのかな?「そんなことないですよ?」 僕は智さんに反論してみた。 「いいや、お前の本気の踊りはそんなもんじゃねぇ。オーディションの時の踊りを見て言ってんだ。今のお前は本気を出してない。もう一度、今度は本気で踊れ」 智さんはハッキリという。その顔には少しだけ怒りが見えた。 「わかりました」 僕は溜め息をついた。あぁ、これで僕はまた昔と同じ過ちを犯すことになるんだね…先生がもう一度、曲を流してくれる。僕は全身に神経を張り巡らせ集中をする。そして、本気で踊りだす。第1一段階から第2段階まで…。曲が止まりシンと静まり返る室内。これでまた僕は非難されるんだんね。諦めにも似た感情を胸に溜め息をついた。「すっげぇ、これがあの早瀬夏葵のマジもんの踊りかよ」そんな声があがった。あの早瀬夏葵?どういう意味?僕の頭の中に疑問符が浮かぶ。 「ジュニア時代に有名になっただろ?」 ダンスメンバーの一人、山瀬さんに聞かれドキリと心臓が飛び跳ねた。 「どうして…それを…今更…なんで…」 あぁ、言葉がうまく話せれない…。これ以上は思い出させないで欲しい。 「ストップ。その話はやめてやれ。夏葵が本気で嫌がってる」 助け舟を出してくれたのは他でもない智さんだった。それでも僕はその場にしゃがみ込み耳を抑え込む。もう思い出したくない。パン!突然大きな音がして僕は驚く。自分の世界に入り込んだ僕の目の前で智さんが手を叩いたのだ。 「あっ、ごめんんさい…ごめんなさい…もぉ…もぉ…しないから…」 僕はそのまま逃げだした。 「あっ、ちょっ」 「夏葵!」 後ろで呼ぶ声が聞こえたけど、僕はそれすらも無視して逃げだした。嫌だ、嫌だ、嫌だ、僕を追い込まないで、嫌だ、嫌だ、もぉ、嫌だ、もぉ、踊らないから、僕を追い込まないで、嫌だ、僕はスタジオを飛び出すとそのまま外へと走り出した。外はいつの間にか激しい雨が降り出していた。僕はそんなことも気にする余裕はなくて、逃げるように走り続けた。もぉ…ダメだ…「待て!夏葵!」 そんな声と共に力強く腕を掴まれた。驚いて振り返れば、そこには同じようにずぶ濡れになった智さんがいた。 「
僕がみんなの練習に参加した初日からトラブルが発生した。原因は僕以外のメンバーがもう、第2段階の練習に入っていたからだ。 「困ったな」 それが先生の第一声だった。確かに1か月以上も間があいていれば練習は先に進むだろう。 「あの…僕のいなかった時の分のダンスを見せてください」 僕はそうお願いしてみる。 「それは構わないがどうするつもりだ?」 反対に聞き返された。わかってたことだけど。 「一度だけでいいんです。全部を見せてください。それと、一週間だけ時間をください。それまでに完璧に覚えてきます」 無理を承知でお願いをする。 「そんなの無理だ」 僕の言葉に誰もが驚く。 「大丈夫です。僕のわがままですが、どうかお願いします」 僕はもう一度頭を下げた。誰もが無理だと、無謀だと口々に言う。だけど、しばらくの沈黙の後で 「わかった。本当に一度だけだからな」 先生が諦めたのかそういってくれる。 「はい、お願いします」 僕は返事をしてもう一度頭を下げた。先生の合図で、本来僕が覚えなくてはならない場所に担当の人が入り、全員そろってのダンスが披露された。本当はこんな手は使いたくなかった。本当に…こんな手は…。でも、せっかく合格したんだ。なにがなんでも残ってやる。 ダンスには自信があった。子供の頃からやっていたおかげで一度見れば大抵の振り付けを覚えることができる。ダンスに関しての記憶力はすごくいい。だから無理を承知の上で言ったのだ。僕は自分のパートの振りを頭に叩き込む。大丈夫、勘は鈍ってない。「これでいいのか?」 全てのダンスを見せ終えた後で先生が聞いてくる。 「はい、ありがとうございます」 僕は頭を下げた。頭の中で覚えた振り付けを刻み込む。 「じゃぁ、一度みんなで合わせるぞ」 先生の声でみんなが集まり曲に合わせて踊りだす。でも、僕はまだ踊れないふりをする。所々ミスをしながら、覚えきれていないと間違えながら…。ごめんね、みんな…僕は何度も心の中で謝りながら踊る。 「ストップ。夏葵は個人練習。みんなはこのまま続けるぞ」 先生の言葉に僕は一人離れて練習を始める。ごめんね、本当はもう踊れるんだ。でもそれじゃぁ、みんなに反感をかう。もう昔のようにはなりたくないんだ…。だから僕は適当にみんなのレベルに合わせた…。何時間も練習を繰り返す。そ
二次審査からハラハラドキドキと胸をときめかせながら僕は結果が来るのを待っていた。結果を待つ時ってすっごいプレッシャーだよね。 でも、来る日も来る日も郵便受けを見ながら溜め息をついた。なかなか結果が来ない。落ちたのかな?それなら仕方がないよね。 「さてと、今日は何を見ようかなぁ~」 なんてブツブツ言いながら僕はアパートの自室に戻ろうと階段を上がろうとした。 「なぁ、君さ、君が早瀬夏葵くんであってるよな?」 階段を一段上がり始めたたら急に後ろから声を掛けられた。人がいたことに気が付かない僕って一体…。 「えっと、そうですけど、なんですか?」 あまりにも不自然で怪しい彼に疑問を持ちつつも答える。 「話がしたい。少しいいか?」 なんて言われるけどはっきり言って怪しい。キャップも深くかぶってるしマスクもしてるから顔も見えないし、服装も黒で統一されているから怪しい人物そのものだ。まぁ、いいか。 「えっと、部屋そこなんで」 階段の所で話をしていると他の住人の迷惑になるしと思い、僕は怪しい彼を連れて自分の部屋に入った。彼をリビングで、待っていてもらい僕は珈琲を淹れてテーブルの上に置いた。彼と向き合う形で床に座り 「あの、話って何ですか?」 なんの話があるのかを聞いてみた。 「一つ聞きたい。俺たちのオーディションを受けたのは遊びだったのか?だから練習にも来ないのか?」 その言葉には苛立ちが込められていた。でも、その言葉を聞きなんのことだと思った。 「あの、オーディションって何のことですか?僕が受けたのはAGIAのバックダンサーのオーディションで、二次審査の結果が届いてないんで…合否もわからないですし…だから顔を出さないとか言われても意味が分からないんですが…」 頭の中で疑問符がいっぱい浮かんでる。それにこの人は誰だろう? 「はぁ?結果が来てない?マジで?」 驚きながら聞かれたから僕は何度も頷く。それにあれから1ヶ月以上は経ってるわけで… 「あの…今更なんですが…どちら様でしょうか?」 意味が分からないまま、僕は目の前の彼が誰なのかを聞いた。今更なんだけどね。 「あっ、悪い。俺は小野田智だ。君が受けたオーディション、AGIAのリーダーだ。本当に結果が来てないのか?」 変装を解いた彼の姿はまさに僕が恋をしているAGIAの小野田智さん本人だっ
僕の名前は早瀬夏葵。今年二十歳になる大学生だ。そんな僕は今あることに夢中。それは今、大人気のアイドルグループ『AGIA』だ!AGIAがデビューしたときから僕は彼らのことを見続けてきた。知らないことはない!って言っても過言じゃないほど僕等は彼らのことを熟知している。それだけ僕は彼らに夢中で、彼らのCDやDVDは必ず買っているし、コンサートも毎回、見に行っている。ファンクラブにも入会してて、会員番号はNo,5と一桁だったりする。それほどまでに僕は彼らに夢中なんだ。本当のことを言えば彼らのリーダーである、小野田智さんに恋をしている。うん、最近、自分でも気が付いた。僕はアイドルに恋をしている。しかも同じ男の人に。本当に報われない恋をしている。 アイドルと一般人、しかも同性。叶うはずのない恋。でも僕はいいんだ。彼らを見ていられれば…。「夏葵!大ニュースよ、大ニュース!」 食堂の片隅にあるテーブルに腰かけて休憩をしていた僕に駆け寄ってきたのは同級生の夏川美玖だ。 「どうしたの?」 彼女もまたAGIAの大ファンだったりする。 「これよこれ!」 彼女が少し興奮気味に取り出したのはAGIAのバックダンサーのオーディションの申込用紙だった。 「あっ、これ…家にある。で?大ニュースって?」 彼女に聞いてみたら僕は思いっきり叩かれた。 「このバカんちぃ!受けちゃいなよ!夏葵ならバッチリじゃん!」 あぁ、そういうことか。 「うん、受ける気でもう記入しておいてあるよ」 僕は叩かれた頭を撫でながら答えた。美玖に叩かれるのは痛いんだよね。 「なんださすが夏葵。情報が早いなぁ。受かるといいね」 美玖は自分で叩いた僕の頭を撫でながら言ってくれる。 「ん~。どうだろうね?ダンスには少し自信はあるけど、結構な人が集まるだろうから難しいだろうね」 本当に少しなら僕はダンスには自信がある。子供の頃からバレエやダンスは習っていた。今もダンスだけは続けているのだ。 「それこそ、夏葵に腕の見せ所じゃん。頑張れ!じゃぁ、またね」 美玖は言うだけ言って去っていった。相変わらず台風のような人だ。僕も次の講義を受けるために場所を移動した。ー数日後-オーディションの一次審査の結果が郵送されてきた。僕は緊張して震える手で封筒を開けて中身を見る。結果は合格。やった、書類審査は無
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