Chapter: 19「ありがとう金狼さん」片づけを終えた金狼さんに俺は頭を下げた。お礼はちゃんと言わないとさ。「着替えなきゃいけないから帰るけど大丈夫か?」そんな俺に金狼さんが聞いてくる。それは怪我のこと?それとも昨夜の涙のこと?「大丈夫。金狼さんの作ってくれた美味しいオムライスのおかげでメッチャ元気出たから」ニカって笑って答えた。だってこれは嘘じゃないもん。「そうか、ならいい」俺の言葉を聞きソファに掛けてあった上着を取り袖を通す。「あっ、金狼さん煙草いる?俺さ、あんまり吸わないから余ってるんだけど…いるならもらって帰ってよ」俺はふと煙草の存在を思い出して聞いてみた。金狼さんは意味が分からずキョトンとした顔で俺を見た。「あー、親がさ買ってくれるんだけど、俺ってそんなに吸わないしさ」俺は言葉を濁しながら説明をする。親が自主的に買っておいておくだけ。自分で買ってくれと頼んだわけじゃない。それに俺は止められている。翔太は絶対に吸わないから聞いてない。酒はばかすか飲むけどさ。「もらっても大丈夫ならもらっていくがいいのか?」金狼さんは俺の事情を深く追求することなくいってくれる。やっぱり優しいね金狼さんって。「うん、大丈夫だからもらっていって」俺はリビングにあるテレビの棚の中から煙草を取り出し部屋の中を探し紙袋を見つけてそれに入れた。「はい、ごめんね。金狼さんが吸う銘柄じゃないけど」そのまま金狼さんに渡した。「イヤ、そこまで拘ってるわけじゃないから、もらえるだけで十分だ。本当にいいのか?」金狼さんはそれを受け取りながらも確認するように聞いてくるから俺は頷いた。翔太に止められてるっていうのもあるけど、今は煙草を吸うのをやめてるから。「うん。あっ、金狼さん時間が無くなるよ」俺は時計を見て告げる。まだ6時過ぎだけど、ここから金狼さんの所までどれだけ時間が掛かるのかわからないし、一応この人、生徒会長やってる人だもん。俺みたいに遅刻はまずいでしょ。俺の言葉にそうだなとか言いながら金狼さんは玄関に行く。「金狼さん、昨夜から色々と本当にありがとね」彼の後追い、靴を履く彼に向かってもう一度、お礼を告げた。金狼さんは少しだけ考えるポーズを取り、徐に俺の腕を引くとキスをしてきた。触れるだけの優しいキス。あまりにも突然の事で頭が真っ白になった。「昨夜のお礼ってこと
Last Updated: 2025-09-07
Chapter: 18「んっ」俺が目を覚ますとそこはベッドの上。金狼さんの姿はなかった。「あのまま寝ちゃったんだ俺…」身体を起こし呟く。いつも以上に寝れた気もする。色々と金狼さんに迷惑かけちゃったなぁ。ちゃんとお礼を言わないと…。俺はベッドから降りて部屋を出ようと扉を開けて疑問に思う。下から漂う美味しそうな香り。この家には俺しかいないはずなのになんで?疑問に思いながら1階に降りてキッチンに入って驚いた。「金狼さん!帰ったんじゃないの?」だってキッチンで金狼さんがご飯を作ってるんだもん。俺の声に気付いた金狼さんが振り返り「勝手に作らせてもらった。その手だと料理とかできないだろうと思ってな。オムライスは食べれるか?」俺のケガのことを思って言ってくれる。「大好き!うわぁ~、金狼さんに作ってもらえるなんて俺って幸せじゃん!」ニカって笑いながら椅子に座れば、金狼さんは俺の前に皿を置き「あまり味に自信がないけどな」同じように椅子に座る。「いただきま~す」俺はスプーンを持ち金狼さんが作ってくれたオムライスを食べ始めた。が、動きが止まってしまった。「不味かったか?」心配気に金狼さんが聞いてくる。俺は思いっきり首を横に振った。「ちょっ、なんですかあなた!この美味しさは!!」思いっきり突っ込みを入れてしまった。冗談じゃなくて、金狼さんが作ってくれたオムライスは凄く美味しかったんだ。「それはよかった。久し振りに作ったからな、自信がなかったんだ」クスリと笑って金狼さんも食べ始めた。「ん~美味し~幸せぇ~」俺はいつもだったら残すのに、今日は普通に食べていた。でもね、金狼さん。美味しいのは料理だけのせいじゃないんだよ。金狼さんと一緒に食べてるからなんだよ。誰かと一緒に食べてるから、だから美味しんだよ。「あっ、そういえば昨夜のあいつらどうしたの?」ふと、思い出したことを聞いてみる。場合によっちゃ翔太に報告しないといけなし。「ん?あぁ、あのバカどもな。全員、動けなくなるまでボコった」金狼さんはそんな爆弾発言をしてくれた。「えっ?ボコってくれたの?ありがとう、ごめんね迷惑かけて」俺がドジって招いた失敗だったんだけどね。「あぁいう奴らは気に入らないからな。それに、蒼華が被害にあってるんだ、見逃すわけがない」金狼さんがはっきりと言い切った。なんか嬉し
Last Updated: 2025-09-03
Chapter: 17「…っ…ここは?」目を覚ませば見慣れぬ天井。消毒臭い場所。「病院だ」その声に驚き飛び起きた。そこには金狼さんの姿があった。「えっと…どうして?」思わず聞いちゃった。「お前が帰るときに変な奴らが付いていったからな。気になって追いかけて行ったらこの様だ。俺がもう少し早く気が付いて追い付けらたら良かったんだけどな」金狼さんは少しだけ渋い顔をして教えてくれた。そうなんだ…「ありがとう。俺って帰ってもいいの?」取り合えずどうしていいかわかんないから聞いてみた。「ん?あぁ、殴られた頭は検査して異常がないから大丈夫だ。ただ、右腕はヒビが入ってる。2週間ぐらいで治るからそこまでは酷いケガじゃない。それと、母親が来るぞ。連絡したから」金狼さんの説明に固まった。おふくろが来る?俺のせいで?「…っ…行かなきゃ…」俺は急いでベッドから飛び降りると病室を抜け出してロビーに向かう。「蒼樹、大丈夫なの?」あぁ、遅かった。もう来たのか…「うん、掠り傷だから…。ごめん急がしいのに…」俺はお袋から視線を逸らし謝る。俺と視線が合うのを嫌がる人たちだから…。おふくろはカバンから茶色い封筒を取り出し「これ、お父さんから。今回は振り込みに行けないからって。お金払ってくるわね」俺に渡してナースステーションの方へと行ってしまう。俺は封筒をポッケの中にしまった。やっぱり、こんな時でも俺のことをちゃんと見ようとしないんだな…「帰りましょうか」手続きを終えて戻ってきたお袋が聞いてくる。俺は気付かれないように握り拳を作り「俺は一人で大丈夫だから。あの人が待ってるんだろ?もう、あの人の所に戻っていいよ」小さく息を吐き答える。「でも…いいの?」本当にいいのかと聞いてくるから「ほら、俺は彼が付いててくれるから大丈夫。だから行ってあげなって」俺は後ろの方で様子を見てる金狼さんを指さして答えた。「ごめんね、じゃぁ行くわね」「うん、気を付けて。ありがとう」俺の言葉を聞き、おふくろは急いで病院を出ていった。これでいい。やっぱり…俺を俺としてみないんだね…俺は…必要とされてないんだね…「ごめん金狼さん。ありがとう。帰ろっか?」俺は振り返ると精一杯の作り笑いをして金狼さんに声を掛けた。病院にまで付き合ってくれたんだもん。ちゃんと帰るって声を掛けないと失礼だしね。
Last Updated: 2025-08-31
Chapter: 16「一人暮らしってすっげぇ~」 なんてチャラけてみる。一人の家の中じゃ虚しいだけ。はぁ~逢いたいなぁ。「ん?誰に?」 ふと浮かんだ感情に自分で疑問に思う。一体、誰に逢いたいというのか?「わっかんねぇ」 俺はその感情を無理やりねじ込み自分の部屋へと入った。カバンを机の上に置き溜め息をつき、着替えを済ませて、机の引き出しを漁り新品のノートを探し出す。 「さてと、翔太にコピーさせてもらったノートを書きますかねぇっと」 血でダメにしたノートを開き、自分のノートから書き移せる場所を全部、書き移してからコピーした場所を書いていった。で、やっぱり俺は夜の公園でいつもの場所にいた。 「な~にやってんだ俺…」 自分で自分の行動がわからない。今日の俺は理解不能だ。ただ、淡い期待を抱いてここにいた。 「また、いるのか?」 そんな言葉が飛んでくる。声だけでわかる、金狼さんだ。 「そういう金狼さんもね」 俺が皮肉めいた言葉を返せばククッて笑われてしまった。なんだかこの人といると自分のペースを乱されっぱなしだよホントに。 「俺は散歩だ」 金狼さんはそのまま隣に座った。カチッてジッポの音がしたから金狼さんを見たら煙草に火をつけてた。まぁ、自分もたまに吸うから気にしないからいいけどさぁ。俺は無言のままゴロッと横になり金狼さんの脚に頭を乗せた。所謂、膝枕。自分でもなんでこんな行動に出たのかは謎。金狼さんも文句を言わないから俺はそのまま空を見上げた。 「すっげぇ~。星がキレ~」 こんなにキレイに輝く星空を見たのなんて久し振りかも。金狼さんの細くて長い指が俺の髪の毛を梳いていく。それが気持ちいい。 「傷は大丈夫か?」 不意に聞かれた。 「ん、大丈夫」 俺は目を閉じ答えた。このまま眠りたいな。 「そうか」 金狼さんのホッとした声。俺はそれで我に返った。 「ごめん、帰る。後、明日はここに来ないから」 甘えたらいけない。自分に言い聞かせ立ち上がる。そう、俺が甘えちゃいけない人だから…。 「気をつけろよ」 金狼さんの返事を聞かずに歩き出してる俺に告げてくる。 「女じゃないから大丈夫。じゃぁねぇ」 俺は振り返らずに答えて公園を出る。公園を出て少しして妙な気配に気が付いた。後ろをつけて来てるやつらがいるなって。「俺に何の用だ?」 ある程度の広
Last Updated: 2025-08-31
Chapter: 15授業が終わりHRも終わって帰るだけってなったとき「織田ちょっと付き合え」 俺はやっぱり担任の吉田に呼び出された。行き場所は俺御用達の生徒指導室。ホントめんどくさい。 「なんですか?」 俺は椅子に座って聞いてみる。聞かなくてもわかってるけどさぁ。 「最近、家庭の方はどうなんだ?」 この人、相変わらず直球なんだよね。 「変わらないですよ。冷めたものは冷めたまま。俺のことなんてほかりっぱなしだし」 俺は嘘を見繕うことなく素直に答える。この人に嘘を言っても仕方ないことだし。俺の家庭の事情を一番知ってるのは教師の中でこの人だけだしね。まぁ、理事長とか、校長とかにも話はいってるけどさ。「原因はそれか?」 ホントにストレートだし。こういうところが他の生徒に人気があるんだよねこの人。 「自覚がないんでわかりません。先生、俺ね本当に記憶がないのよ。これをやったときのさ」 手首を見せて何度目かの説明をする。 「最近、両親とは会ってるのか?」 この人嫌い。人の傷抉りすぎ。まぁ、心配してくれてるのはわかってるんだけどさ。 「会ってませんよ。会うわけないでしょ。帰ってこないんですよあの人たち。ねぇ、もういいでしょ?帰らしてよ」 俺は帰りたくて、聞いてみる。吉田は溜め息をつき 「無理はするなよ。ちゃんと相談に来い。帰っていいぞ」 俺を解放してくれる。 「無理なんてしてないっすよ。ただ、今の現状に慣れただけですよ。じゃぁ、さいなら」 俺は立ち上がり逃げるように指導室を出た。教室に戻れば翔太が待っててくれた。「おまたへ」 本を読んでる翔太に声をかければ 「おう、どっか寄ってくか?」 読んでた本をしまい、俺のカバンを一緒に持って傍に来た。 「んー、いいや。どっかに寄りたい気分じゃないし。あっ、でもコピーはしたい」 俺は自分のカバンを受け取り少し考えて答えた。ホント…みんな心配しすぎだよ…俺は大丈夫なんだから…俺なら大丈夫なんだから心配しないで…じゃなきゃ俺が崩れ落ちるから…「わかった。近所のコンビニでいいのか?」 「うん」 俺の言葉にそれ以上深くは聞いてこずに翔太が言うから俺は小さく頷いた。 二人で学校を後にして近所のコンビニによって俺は翔太のノートをコピーさせてもらった。「どうする?」 コンビニを出てから翔太が聞いてくるか
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 14「金城がなんの用だったんだ?」俺が教室に戻り自分の席に座ったら翔太が聞いてきた。「ん?傷の具合を聞いてきただけだよ。翔ちゃんノート貸して」俺と会長さんに接点ないから聞いたんだよね。俺が会長さんが金狼さんだって言ってないから翔太は知らないし、身体にあるキスマークを付けたのが会長だって言ってないしね。「コピーした方が早くね?お前のノート真っ赤だぜ?」翔太は机からノートを取り出しそんなことを言ってくる。そんなに酷いのか?なんて思いながら自分のノートを取り出し中身を見て溜め息をついて閉じた。翔太の言う通り真っ赤に染まりすでに固まり始めていた。「なんでこんなことしたんだ俺?」翔太のノートをかじりながらブツブツ言えば「ちょ、おま、人のノートを食うな」翔太が慌ててノートを取り返した。本当に原因がわからない。「てっ!」突然襲う痛みに小さな悲鳴があがる。「考えすぎ」翔太にデコピンされた。その場所をさすりながら「痛い。考えてはないけど、自分で気になっただけ。翔ちゃん昼飯は?」時計を見て聞いてみる。時刻はとっくに昼休憩の半分を過ぎていた。「あぁ、もう食った。お前が金城と行ってる間に食った。パンを買って来てたからさ」翔太はもう済ませたと教えてくれた。なるほど。だからこの時間にここにいるんだと納得した。「お前は?まだダメなのか?」反対に聞き返されたや。「吐くけどそれでもいい?」その言葉に俺は真面目に答えた。「ダメなわけな。薬は?」溜め息交じりに聞かれた。「あっ、飲んでねぇ。まぁいいや。時間ねぇし、絶対に飲めってやつじゃないもん」その言葉にポケットの中の存在を思い出す。気休めの薬。飲まなきゃそれでもいい薬。だから今日は飲まない。「お前ってやつは…。あっ、そういえば|正輝《まさき》さんが会いに来いって言ってたぞ」翔太は呆れながらも突然、思い出したのか教えてくれる。「あーそうなんだ。明日の夜に行くって言っといて。今夜は気分じゃねぇもん」本当はしばらくの間、誰とも関わり合いたくないんだ。「了解。メンバーも会いたがってるぞ」翔太はついでとばかりに言ってくる。うん、まぁ、最近メンバーとも会ってないからいつかは言われるだろうなって思ってたけどね。「うぃ、そのうちね。今は誰とも関わり合いたくないのよ。だからいつもの場所だし俺」それだけで翔
Last Updated: 2025-08-20
Chapter: 第24話「あれ?ここは?」目が覚めて、ここがどこだか分らなかった。「起きたのか、寝てて起きないから寮に連れて帰ってきた」そんな言葉が飛んできて驚いて飛び起きたら、メガネをかけた状態で、机に向き合ってたのか椅子に座ったままで大我がこっちを見てた。「あれ?俺またそんなに寝てたのか?」目を冷やしながら寝ちゃったのは自覚してるけど、そこまで寝てるとは思わなかったんだ。「まぁ、動かしても起きないぐらいには深く寝てたな」大我の言葉に項垂れた。またしても俺はそこまで深く寝てたのかって…。「大我は何やってんの?」俺が寝てる間に何やってるのかなって気になったんだ。別に深い意味はない。「ん?あぁ、仕事。見るか?」なんて言いながら大我は椅子を動かし、ベッドの傍まで来た。その手に持ってるものを見せてもらいポカーンってしちゃった。「唯斗を養うためには仕事しないとな」なんて、言いながら意地悪い顔で笑う。それでもそんな顔もカッコいいとか、げせぬ。「これデザイン画?」数枚ある絵を見て聞けば「そう。あの話し合いの後で頼まれたやつ。唯斗が寝てるから今のうちにって思って描いてた」なんて言いながら違う紙も渡されてそれ見てびっくり。なんかかわいいイラストが沢山描いてあるやつだった。「これも仕事?」イラストは鉛筆で描かれてるやつだけど、もしかしたらって思ったんだ。「こういうの唯斗好きだろ?」なんて聞かれて素直に頷いた。大我が描いてた可愛いイラストは確かに俺が好きなタイプのやつだったからだ。「なんで知ってんの?ホントに…」毎度毎度、大我には驚かされっぱなしだよ。「どっかの誰かさんが教えてくれてるくせに自分で忘れてるんでね」なんて耳が痛いことを言ってくれた。そう、本当に自棄を起こしてた頃の俺は大我に甘えると記憶が無くなってたんだ。甘えたということ自体を忘れるぐらいには軽く記憶喪失になっていた。最近ではというか、大我とちゃんと付き合うようになってからは、大我が印をつけてくれているのと、自分自身が覚えていられるようにはなっている。3回に1回程度だけどさ。それでも覚えていられるようになった分だけ偉くない?って思うけど、肝心なことを忘れることがあるから大我には呆れられるんだ。「でも、大我って本当に俺が知らない間にやってたんだ」大我の実家で聞いたときは驚いたけど、こうして本当
Last Updated: 2025-09-09
Chapter: 第23話「気付かないわけないだろ。俺は唯斗と一緒にいる時間が多いから、そういうのにはちゃんと気付いてる」大我の言葉にそうだよなって妙に納得しちゃった。大我は俺が自分でも気が付いてない自分の変化に気付くぐらいには俺のことを見てくれてたんだった。俺が自棄を起こしてるあの時からずっと…俺を守るかのように見てくれていたんだった。「でも、俺、大我と遊びに行きたいって思ってるからな」これだけはちゃんと伝えておかないとダメだよな。「わかってる。だからあのイベントの約束しただろ?」って、笑いながら言われちゃったよ。「うん、絶対だからな」俺は念押ししといた。だってあれは本気で行きたいって思ったイベントだから。青い世界が見たいって思ったんだ。「わかってる。ちゃんと連れて行くから楽しみにしてろ」笑いながら頭を撫でられた。なんだか恥ずかしいけど、嬉しかったんだ。大我がちゃんと約束を守ってくれるってわかったから。「ゆいの場合は幼少期の出来事が原因で、行きたいのに行きたくないって思うんだと思うんだよな」なんて、大我から出てきた言葉に驚いた。「なんで、知ってんのぉ~。俺がいつも葛藤してるやつを…」そこまで気づかれてるなんて思わないじゃん普通さぁ。ホントに大我さんは一体どこまで俺のこと知ってるんですかね?「ん~、中学の頃に自棄起こしてる唯斗くんがポツリポツリと話してくれたからなぁ。まぁ、本人は全くそんなこと覚えてないんですけどね」なんて、やっぱりな言葉が返って来て俺はガックリと項垂れた。「やっぱり俺って色々とやらかしてるんだ…」こうやって改めて聞くと、俺って一体どれだけ大我に迷惑かけてたんだろうって思う。「まぁ、色々とな。甘えて記憶を失くすぐらいだし、色々とやらかしてるな」なんて言われれば、俺は一体どれだけのことを大我にやらかして来たんだろうか?って思う。「覚えてないならそれでいい。それだけ唯斗は俺を必要としてくれてたってことなんだからな」一人で自分の考えに浸ってたらぐしゃって大我に頭を撫でられて我に返った。「そうやって大我が甘やかすから俺が抜け出せなくなったんだからな」少しだけ膨れて言えば「今度からはみんなが甘やかすことになるから覚悟しろよ」なんて恐ろしいことを言われた。「えぇ~!!それは怖いよ」本気で怖いと思った。これ以上、甘やかされたら本気
Last Updated: 2025-09-07
Chapter: 第22話「唯斗を嫁にもらうんだ、唯斗の件に関しては自分で片付けるのは当たり前だろ?それに、あんな奴らが来るような場所に置いておきたくはない。どうせあと1年であの施設を出ることになるんだったら今抜けても構わないだろ」その言葉にはやっぱり大我の怒りが込められてるって感じた。「でも…大我は本当にそれでいいの?その…俺で本当にいいの?」大我の気持ちを信じてないわけじゃない。信じてるからこそ、俺は大我に捨てられるのが怖い。大我の優しさが無くなったら俺は死ぬ。大我に裏切られたら俺は間違いなく二度と人を信じることができなくなる。それこそ廃人になるぐらいにはダメになるだろう。「俺は言ったはずだぞ。唯斗が自分の番だって気付いた時から唯斗を手に入れる気でいたって。俺は唯斗を捨てないし、裏切らない。だから、唯斗がみきママとまさパパの養子になったら、俺と結婚しよう。俺と本当の家族になろう」真面目な顔で俺を見て大我が言う言葉を俺は信じられない思いで聞いていた。自然と涙が零れ落ちた。嫌だとかじゃなくて、嬉しくて涙が零れ落ちた。「…っ…はっ…はい…」だから俺は泣きながら大我の言葉に返事をした。俺はこれからも大我の傍にいたい。大我と一緒にいたいんだ。自棄を起こした俺をずっと支えて来てくれた大我が好きで、大我の優しさが嬉しくて、もっと甘えていたくて、俺の番は大我ただ一人だから、これからも一緒に生きていきたい。「ゆいの涙腺はぶっ壊れたままだなぁ。まぁ、今のは俺が泣かしたんだけど…」小さく笑いながら大我が優しい手つきで頭を撫でていく。「あー、すみません。俺の涙腺がぶっ壊れたままで話し進まないですよね…」鼻をズビズビ言わせながら謝ったら「イヤ、大体の話は終わってるから大丈夫だ」って大我があっさり言うから驚いた。「へっ?いつの間に?」いつの間に終わったんだろうか?「今までの流れで終わってないわけないだろ?ゆいが養子に入って、あの夫婦にはこっちから縁を切るって決めただろ?」大我が説明してくれて頷くけど、「でも、あの人たちはお金を返せって…」一番の問題が残ってると思う。これどうするんだろう?「俺が払うけど?」って、またしても大我があっさりと言ってのけた。「イヤイヤイヤ、大我さん、一人で払える額じゃないんじゃないの?」俺は三枝さんと話をしてないから金額がいくらかはわからない
Last Updated: 2025-09-03
Chapter: 第21話「あっ、あのさ、変なことを聞いてもいい?」実はずっと気になってることがあったんだ。「えぇ、いいわよ」「何かあった?」俺の問いかけにゆきママとみきママが答えてくれた。「えっと…実は今回の話が出てからずっと気になってたんだけど…大我が俺を養える力があるってどういうこと?」そう、寮にいたときも、ここに来た時も、大我は平然とそんなことを言ったんだ。でも、俺自身が堕ちてたから詳しい理由とか聞けずに今までいたわけで…。みきママたちの養子になるって決めてから、妙に安心して自分に少し余裕ができた分だけ大我のあの言葉が気になったんだ。今更って言われたらあれだけど…「あー、そのことね。それ、嘘じゃないわよ」「そうね、今回の件は本当に大ちゃんが自分で片付けちゃう気でいたんだし」2人のママはケラケラ笑いなが教えてくれるけど答えになってません。だからジッと大我を見たら小さく笑われた。「どういうこと?」ジッと大我を見たら「それはねゆいちゃん。大ちゃんが私たちの会社のモデル兼デザイナーだからよ」「それに、大ちゃんはイラストの方も仕事してたわよね」ゆきママとみきママから飛んできた言葉に俺はあんぐりと口を開けて固まってしまった。「ゆいちゃん、はいこれ」「最近のはこれだな」って、尚パパとまさパパが雑誌を開いて見せてくれた。そこに写っていたのは見間違うはずもなく、大我の後ろ姿だった。って、劉くんも一緒なんですけど!「えっ?うそ、いつの間に?どうやって?」そう、大我がいつこれを撮影出来てるのかが知りたかった。そんな時間ないはずなんだ。寮にいるわけだし、俺が傍にいるから出歩いてないし…。「唯斗が発情して一人で部屋に籠ってるときとか?こっそりと寮を抜け出したりとか?後は寝てる唯斗を誘拐したときとか?」なんて、大我の口から出てきた言葉にびっくりした。全然気が付かなかった。「えっ?でも俺発情ん時も大我のこと呼んでるよね?普通に来てくれてるじゃん」そうなんだよ。一人でこもってても大我を呼ぶときがあるんだ。そういう時でも大我は普通に来てくれるんだけど…。一体いつどうやって抜け出して戻って来てるんだ?「普通に行くな。だけど、唯斗の場合は俺が傍にいると発情の時はいつもより深い眠りに落ちるだろ?それこそ何時間も起きないぐらいには…」大我のその言葉にあって思った。確かに今の
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 第20話「唯斗の場合、審査が必要ない理由は唯斗自身の問題と内藤夫妻が関係してる」大我が俺の手をギュッと握りながら話始めた。「さっきも唯斗の施設で育った経緯を話したんだけど、内藤夫妻が唯斗の里親を辞退した直後に、唯斗はショックで、一時期、酷く体調を壊したんだ。その時から唯斗は里親候補をすべて拒絶。里親になりたいという夫婦をことごとく拒絶して、里親募集を辞めざる終えなかったんだ。一度ならず二度も捨てられるという経験をした唯斗の心がもつわけがない。だから、唯斗は里親募集をしている子供たちの中に名を連ねることもなく、中学から今の学園の寮に入寮してるわけなんだ」大我は一旦、話をするのをやめて、心配げに俺を見る。俺はギュッと大我の手を握り返し、小さく頷いた。続きを話してもいいよという意味を込めて。「で、なんで審査が必要ないのかという理由は、唯斗が認めた人物じゃなきゃなれないから。唯斗と三枝さんは定期的に連絡を取り合ってて、里親のことに関してもざっくりと話をしてたんだ。もし、里親になってくれる人が現れて、唯斗がその人を気に入って家族になりたいと思ったら、施設での細かい審査はしないでもいいと三枝さんが特別に許可を取ってくれたんだ。勿論、簡単な審査はある。施設の方針もあるからな。だけど、三枝さんは唯斗が幸せになれる家族なら、ということで大幅に免除してくれることになってる。これは唯斗だけの話だからな」最後はちゃんとクギを刺すところが大我らしい。「でも、やっぱり審査はあるのよね?」大我の話を聞き確認の意味を込めてゆきママが聞いてくる。「あぁ、簡単なやつだけどな」「それって大ちゃんは内容を知ってるの?」大我の言葉にみきママが確認してる。「まぁ、大体は?唯斗が覚えてる内容だけな。だけど、俺はそこは口出さないから、4人が三枝さんと話をして、聞かないと意味がないことだからな」みきママの言葉に大我がはっきりと言い切る。うん、俺が覚えてる内容って、名前とか個人的なもの、だけど、ちゃんとそれが証明できないと里親にはなれない。でも、ゆきママたちもみきママたちも大丈夫だって俺は確信してる。だって、俺が本気で家族になりたいって思ってる人たちだもん。「それはそうよね。里親になるのはみきたちだから、2人にはちゃんと審査は受けてもらわないとね」「じゃないと、唯斗くんはずっと親なしになって
Last Updated: 2025-08-14
Chapter: 第19話「ゆいちゃんも落ち着いたことだから今後のことを決めようか?」ひとしきり大泣きして、やっと落ち着いたところでゆきママが聞いてくる。「ゆいちゃんのお世話になった施設の方に出向いて、ゆいちゃんと私たちの養子縁組のことを先に片づけた方がいいわね」俺が頷いたのを見てからみきママが話し始めた。大我の家の家族会議はゆきママとみきママが議長になるみたいだ。「内藤夫妻の件に関しては三枝さんに2週間待つように伝えてある。俺たちも相談したいからってことで」大我って本当にそういうの手際がいいなって思う。というか神尾家はっていった方がいいのかも。「なら、ゆいちゃんから、三枝さんに連絡入れてもらって、養子縁組の件を先に済ませましょう。それが終わってから諸々片付けましょうか」大我の言葉を聞きゆきママがみきママに確認をしてる。「そうね、大ちゃんが時間を作ってくれてるから、その間にゆいちゃんの養子の件を片付けてから、話をしましょうか」みきママも頷いてる。「施設に行くときに、元両親と言い張る二人がもし施設の近くにいたら、ゆいちゃんはどうする?」ゆきママが俺にそう聞いてきた。そうだ、養子縁組のことを言いに行くなら俺もいた方が話が早いもんな。今回のことを片付けるためには俺も行かないと…。「無理に話すことはないんだけど、待ち伏せをされてたりってこともあるからね」みきママも心配そうにしてる。「あの…あのさ…大我は一緒に…」俺は大我につい聞いてしまう。一緒に行ってくれるかどうかを…。「俺は行く気でいたんだが…ダメだったか?」俺の問いに大我が反対に聞き返してきた。「ううん。ダメじゃない。一緒に行って欲しいって思った。俺の問題だけど、俺よりも大我の方がわかってるし…一緒にいてくれた方が心強い。あの2人に言いたいことがあるから…」そう、もし、あの2人に会う機会があるのなら、ハッキリと言ってやりたいと思った。
Last Updated: 2025-08-10
Chapter: 11ダンスレッスンをしながら部屋探しって本当に大変だと思う。特に僕の場合は土地勘が全くないから、どこをどう探せばいいのか見当もつかない。だけど、探さないと困るからチラシとか雑誌とかを見ながらめぼしい場所を探してたんだ。自分なりに一生懸命探してたんだよ本当に。「みんな集まれ、話がある」ダンスレッスン中に先生がみんなを呼ぶ。僕たちは個人練習をしてる最中だったのをやめて先生の元へと集まればAGIAのみんなが来ていた。「よし、集まったな。みんなに発表することがあるそうだ」先生が言えば、智さんと竜生さんが前に出てくる。「お前たちバックダンサーの発表兼お披露目の日程が決まったぞ」智さんのその言葉に僕たちがざわつく。ついに決まったんだと…。「バックダンサーをファンの子たちに紹介するのは3ヶ月後から始まる俺たちのコンサートになった」竜生さんの言葉にますます騒がしくなる僕たち。「静かに!まだ、コンサートの内容が決まってないから、ちゃんと決まるまではみんなは今まで通り練習に励んでで欲しい」「はい!」智さんの言葉に僕たちは返事をした。「よし、5分後にまた練習始めるからな」「はい!」先生の言葉に返事をして、僕たちはまた個人レッスンへと別れた。といっても、さっきの発表の後だからみんなで雑談をしていた。うん、みんな緊張してたんだよね。ついにAGIAのバックダンサーとして発表してもらえるんだって少しだけ騒いでた。この後、普通に練習が再開されて、僕たちはそっちに集中したんだ。だって、本番で失敗したら意味がないからさ。僕は休憩中、一人で雑誌を見ながら部屋探しをしてた。だって、急いで探さないと時間がないんだ。期限は着々と迫って来てるんだ。だから、休憩中の間もこうして雑誌を見てめぼしいところを探してるんだ。以前の僕だったら住めればいいって感じで探してたけど、今はちょっと、やっぱりね、バックダンサーになるわけだから適当じゃダメかなって思ったんだ。でも、この周辺の地理がわからないから中々決めれないんだ。だからと言って他の人に相談っていうのもできなくて、結局ずっと一人で雑誌と睨めっこしてるんだよね。無情にも退去期日が近づいてきた。そろそろ本当にどうにかしないとヤバいのに僕はまだ決められずにいた。「夏葵?」集中して雑誌を見ていたら急に後ろから声を掛けられて「うわぁ
Last Updated: 2025-08-17
Chapter: 10結局、この日の僕はせっかく熱が下がったのにもかかわらず、智さんたちAGIAの前で大泣きをしてしまい、また熱がぶり返したということで、退院は許可してもらったけど、これ以上無理はさせれないということで、自宅待機ということになった。勿論、ずっと付き添ってくれていたAGIAのみんなは仕事があるので、僕を家まで送ってから各々の仕事へと向かった。僕は次の日からまたダンスレッスンに参加すことになった。「おっ、ちゃんと出てこれたな」ダンススタジオに入ってきたAGIAのメンバーが僕の姿を見つけてホッとした表情を浮かべ、智さんが安心したようにいった。「はい、ご心配とご迷惑をおかけしました。昨日1日ゆっくりと休んだんですっかり良くなりました。皆さんありがとうございました」僕はAGIAのみんなに頭を下げた。勿論、ダンスメンバーや先生たちにはAGIAのみんなが来る前に謝っておいたんだ。「俺は自分でやりたいように動いただけだから迷惑だとは思ってない」って、智さんにはまた言われちゃったけどね。この日から僕の練習は本格的に開始された。AGIAのメンバーを交えて、他のメンバーとのフォーメーションとかも練習して、すべての動作を頭と身体に叩き込んだ。大丈夫、まだ鈍ってはないし、記憶力もあの日のままだ。まだ僕は大丈夫、ちゃんと踊れる。僕は智さんたちAGIAのメンバーに必要だといわれたダンスをもっと磨くために、彼らの後ろでサイコーのパフォーマンスができるように一人での練習も本格的に開始した。僕たちのお披露目会はまだまだ先だから、今は練習をして、AGIAの曲とダンスを覚えるんだ。AGIAの曲とダンスは覚えてるけど、あれはAGIAのメンバーだけのダンスだから、ダンスメンバーが入ったダンスはまだまだ練習しないとダメなんだ。ダンスメンバーたちとの練習と個人練習を繰り返す日々を1ヶ月ぐらい過ごしたころ、とある連絡が来て僕は愕然としてしまった。それはアパートの退去連絡。行き成りすぎるし、意味が分からなくて、慌てて事務所に問い合わせた。今住んでるアパートはこっちに来るときに事務所の人が手続してくれたやつだもん。「ごめんなさい、夏葵くん。確認をしたら、事務処理をした子のミスで2ヶ月での契約になってたみたいなの。急いで再契約ができないか問い合わせてみたんだけど、ダメだったの。でも、1週間の猶
Last Updated: 2025-08-05
Chapter: 09このまま幸せに浸っていたいとか、ずっと握ってたいとか思ったけど、僕は起きたとアピールするように、そっと弱い力で握られている手を握り返してみた。「んっ」ピクリと動きゆっくりと顔を上げて僕を見た。そして 「おはよう、気分はどうだ?」 小さく笑った。テレビで見ていたような笑みじゃない笑みに僕の心臓がドキリとはねた。 「おはようございます。大分、落ち着いてます」 うん、これは嘘じゃない。 「熱はどうだ?」 「えっ?ちょっ」 そんなこと言いながら智さんの額が僕の額に当てられた。 目の前に智さんのカッコいい顔がって…。心臓が止まっちゃう…。 「うん、熱も大丈夫そうだな」 クシャリと僕の髪を撫でて笑う。 「ご心配とご迷惑をおかけしました。ホントに…最初から僕は智さんに迷惑ばっかりかけてますね」 自分で言って自分の胸にグサリと言葉が突き刺さる。 「俺は別に迷惑だとか思ってない。そもそも、俺は自分がしたいと思ったことをそのまま実行してるだけだ。こうやってお前の傍にいて世話をするのもな」 まるで余計なことは考えるなと言わんばかりにまた頭を撫でられる。 「でも…僕は…」 僕は自分が思っている以上に過去のことを拘ってるみたいだ。 「なぁ、夏葵。お前が子供の頃に負った傷はお前にしかその傷の痛みはわからない。だから残念だが俺にはお前のその傷の痛みを知ることができない。だけど、そんなお前にハッキリと言えることがある」 智さんが静かにいう言葉を聞き頷く。 「俺はお前のダンスが好きだ。あのオーディションの時の踊りを見て、お前のダンスに惚れた。だから俺はお前にこのままダンスを続けてほしい。俺たちの、イヤ、俺の後ろで踊ってほしい。早瀬夏葵の本当のダンスをもっと見せてほしい。ってまぁ、これは俺のわがままだけどな」 ハッキリと言い切る智さんの言葉に自然と涙が零れ落ちた。ダンスが好きだと言われたこと、自分が必要だと言われたこと、その言葉が僕の中に溶けていく。 「泣くなよ。俺、お前を泣かせてばっかじゃん」 なんて言いながら涙を流す僕を抱きしめてくれる。まるであやすようにポンポンと背中を叩かれ、それが余計に涙を誘う。 「…っ…ごめ…僕…うれ…しぃ…ダン…ス…好き…で…」 「あぁ、もう我慢しなくていい。お前の実力を隠さずに見せつけてやればいい。それを誰も責めないし
Last Updated: 2025-08-02
Chapter: 08真夜中、ふと目を覚ませばそこにはいるはずのない人物がいた。「なんで?」だってここは病院で、今夜、僕は入院だって…「事務所にも病院にもちゃんと許可は取ってある。心配だったんだよ。熱を出した原因は俺にもあるからな」渋い顔をして答える智さんに「違うよ。熱を出したのは僕自身のせいだから、智さんがせいじゃないよ」雨の中に飛び出したのは僕だし、熱を出したのも僕のせい。「本当は弱ってる今のお前に聞くのは反則だってわかってるんだが、お前はジュニア時代にダンスに関することで何かあって、それが原因で頑なに実力を出そうとしない。違うか?」智さんの言葉が胸に突き刺さる。やっぱり気づかれてたんだって…「これを話せばあなたはどう思うんでしょうね…僕は…」一番知られたくない人に知られてしまう。こんな辛い思いをするなら初めっからオーディションなんて受けなければよかった…僕はずっと隠していたことをすべて話した。子供の頃に何があったのかを、なぜ本当の実力を出さないのか。否、出せないのか…。出せない理由もすべて正直に話した。今も自分の中に燻ぶってる思い、恐怖、不安も…知られることの恐怖、非難されることの恐怖を…「ちょ…おい…夏葵!」隠してきたこと、過去に起こったことをすべて智さんに話した直後、僕はまた意識を手放した。それだけ僕にとって過去の出来事は精神的にストレスになっているのだと思う。自分を追い込むぐらいには…「智どうするんだ?」「なっちゃん大丈夫かな?」「夏葵のダンス好きなんだけどな」「でも、これ完全にトラウマになってるだろ」「だとしても今のAGIAのバックダンサーには夏葵が必要だ。夏葵のあのダンスが…」夢現で聞こえてき
Last Updated: 2025-08-01
Chapter: 07「おい、いつまでも休憩してんなよ」 そんな声で我に返った。自分の考えに没頭しすぎてたみたいだ。 「す…すみません」 僕は慌てて立ち上がり謝った。あぁ、やっぱりここでも同じことが起きるんだろうか?「謝んなって。踊り教えてくれよ」 そんなことを言われて、僕は驚きのあまりポカンと相手の顔を見る。相手の名前がわからない。そもそも、ここに来てからちゃんと挨拶してもらってない気がする。名前は教えてもらったけど、それから色々とあったから、一人一人挨拶する時間がなかったんだ。 「やっぱり覚えてないか…。俺は|羽住明《はずみあきら》。子供の頃に一緒のチームで踊ったことあるんだけど覚えてね?」 もう一度ちゃんと自己紹介をしてくれるけど、思い出すことができない。あの時の記憶は固く閉ざされていて、一緒にいたダンスの仲間の顔も名前も思い出せないでいた。嫌でも記憶に残っているのはみんなからの非難と親たちからの心ともない言葉たち。 「あ~、そっか。まぁいいや。昔のことなんて今更どうでもいいし。それよりダンスを教えてくれよ」 もう一度、羽住くんから言われる。 「えっ?でも…僕が教えるより先生に聞いた方が…」 その言葉に僕は躊躇う。人に教えるのは苦手なんだ…。 「その先生が今いねぇんだって。それにお前の実力は知ってるし、お前の教え方がうまいのもわかってる」 過去の僕を知っているからなのか、羽住くんは教えてくれという。戸惑いながら部屋の中を見渡せば、確かに先生がいなくて、みんな個人レッスンをしていた。 「少しだけでいいなら…」 僕はこれ以上断るのもと思い、タオルを置いて立ち上がる。本当に苦手なんだけどなぁ…。 「どうしてもここがうまくいかねぇんだって」 羽住くんはそういいながら問題の場所を踊りだす。 「右腕をもう少し内側に持ってきて、足ははねるようにした方がいいと思う」 そのダンスを見て羽住くんの悪い場所を告げれば 「こうか?」 彼はすぐに直してくる。 「うん、そう」 僕はもう一度、確認して頷いた。やっぱり経験者だから覚えはいいし、ちゃんと一度で直してくる。僕は彼らに追いつけるんだろうか?彼らに勝ち続けていられるのだろうか?「よし、もう一度みんなで通して踊るぞ」 先生が戻って来ていう。僕は不安を胸に抱えたまま所定の場所についた。みんながポジショ
Last Updated: 2025-07-31
Chapter: 06僕は本当に智さんに家まで送ってもらった。ボーっと夢心地だったけど部屋の中に入って我に返った。「あぁぁ…ぼ…僕は…僕はなんてことを…」練習中に逃げ出すし、智さんの家にあがるし…「これ…全部智さんの服だし…」自分が着ている服を見て気が可笑しくなりそうだった。「これじゃぁ、まるで智さんに抱きしめてもらってるみたいじゃないかぁ~!!」僕は一人で騒いでいた。だって、だってしょうがないよ。僕は智さんが好きなんだ。憧れがいつしか恋愛感情に代わってたんだ。床の上をゴロゴロと転がり火照った顔を手で扇ぎながら気持ちを変えようとしたけどダメだった。今夜は興奮しすぎて寝れないかも…。「認めてもらえてるのかな?」ふとそんなことを考えてしまった。智さんがあんなことを言ってくれたから認めてもらってるのかなって。「実力…本当の実力出してもいいのかな?」本当の実力。あの時からずっと隠し続けてきた実力。オーディションの時ですら、半分の実力しか出して無かった。怖かったんだ。本当に怖かったんだ。昔のことを蒸し返されるのが怖くて、実力を隠した。「あ…カバン、スタジオに置きっぱなしで帰ってきちゃった…」今更だけど、ダンススタジオに荷物を置きっぱなしで帰ってきたのを思い出した。大丈夫かな?って思うけど、貴重品と呼べるようなものはたいして入ってないからいいか。「明日でいいや」一人で興奮してた分だけ時間が過ぎるのが早くて、寝ないと明日が辛くなるから、ベッドに潜り込み荷物は明日でいいやって結論づけて、今夜は寝ることにした。朝起きていつものように準備して出かけようとしたらチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう?って不思議に思いながら玄関の扉を開けたら智さんがいた。「えっ?な、なんで?」自分でもスッゴイ間抜けな言葉が出てきた。いや、そもそも何故こんな朝から智さんがここにいるのか?っていうのがわからないんですけど?「逃げられると困るからな。行くぞ」僕の間抜けな問いにしっかりと答えてくれる智さん。逃げないけど、イヤ今は逃げるかも。だって智さんが目の前にいるのっておかしくない?AGIAのメンバーの家じゃなくて、バックダンサーである僕の家に来るのおかしいと思うんです。「すみません。逃げる気はなかったんですけど…」僕は智さんを待たせるわけにはいかないから、慌てて荷物を持って外に出て鍵を
Last Updated: 2025-07-29