Chapter: 12ー次の日ー練習が終わった後で、智さんたちAGIAのメンバーと、事務所の男の人、畠山さんと一緒に僕が借りているアパートに来ていた。智さんが気を利かせて、畠山さんに頼んで、事務所の車を出してもらったんだ。「てか、夏葵お前、荷物少なくないか?」僕の部屋に入って開口一番に言われた言葉。「えっと、多分、少ないと思います。荷物を持ってきてないんで…」そう、僕の荷物はもともと他の場所にあるのだ。ここに引っ越ししてくる前のアパートって意味じゃなくて、元々の僕の住んでいる実家にという意味だ。実家といっても海外なので、すぐに取りに行くということは無理だけどさ。「はっ?持ってきてないって?」「引っ越す前の家にってこと?」僕の言葉に竜生さんたちが驚いた顔をする。「あーっ、違います。前に住んでた場所の荷物は全部ここにありますよ。それ以外の荷物はここには置いてないってだけです」自分のことを誰かに話してるわけじゃないので、ここ以外の場所に荷物があると言えばますます驚いた顔になる。「やっぱり、業者を呼ぶ必要はなかったみたいだな。なら、さっさと運んでここを片付けて引き渡せるようにしよう」なんて、智さんが言うから「りょうか~い」「だな」なんてみんなが返事をして、さっさと数少ない僕の荷物を運び出していった。えっと、僕がやらなきゃいけないのに、僕が手を出す前にAGIAのみんなが動いちゃって僕はただそこにいるだけの人状態だった。「よし、荷物は出したから掃除するぞ」総指揮官になってる智さんの掛け声でまたしてもみんなが動いちゃって僕が手を出す暇がない。でもただ突っ立てるわけじゃないよ僕も。ちゃんと掃除はしましたよ。智さんたちが来て、僕の家の荷物を出して、掃除が終わったの時間は2時間半ぐらいだった。あれ?もっとかかると思ったのに?早いよみんな。「じゃぁ、この部屋の手続きは責任もって事務所の方でやってもらうってことで、ヤマさん、鍵は預けとくから事務所に戻ったらよろしく」いつの間にか家の鍵を持っていた智さんが畠山さんと話してた。「了解。樋口主任に渡してやってもうよ」「あの、すみません。僕の事なのにお願いしちゃって」僕はそんな2人に謝った。だって悪いから…。「いいってことよ。元をただせば事務所の責任なんだからな。よし、このまま智の家に行けばいんだよな」畠山さんはそう
Last Updated: 2025-10-10
Chapter: 11ダンスレッスンをしながら部屋探しって本当に大変だと思う。特に僕の場合は土地勘が全くないから、どこをどう探せばいいのか見当もつかない。だけど、探さないと困るからチラシとか雑誌とかを見ながらめぼしい場所を探してたんだ。自分なりに一生懸命探してたんだよ本当に。「みんな集まれ、話がある」ダンスレッスン中に先生がみんなを呼ぶ。僕たちは個人練習をしてる最中だったのをやめて先生の元へと集まればAGIAのみんなが来ていた。「よし、集まったな。みんなに発表することがあるそうだ」先生が言えば、智さんと竜生さんが前に出てくる。「お前たちバックダンサーの発表兼お披露目の日程が決まったぞ」智さんのその言葉に僕たちがざわつく。ついに決まったんだと…。「バックダンサーをファンの子たちに紹介するのは3ヶ月後から始まる俺たちのコンサートになった」竜生さんの言葉にますます騒がしくなる僕たち。「静かに!まだ、コンサートの内容が決まってないから、ちゃんと決まるまではみんなは今まで通り練習に励んでで欲しい」「はい!」智さんの言葉に僕たちは返事をした。「よし、5分後にまた練習始めるからな」「はい!」先生の言葉に返事をして、僕たちはまた個人レッスンへと別れた。といっても、さっきの発表の後だからみんなで雑談をしていた。うん、みんな緊張してたんだよね。ついにAGIAのバックダンサーとして発表してもらえるんだって少しだけ騒いでた。この後、普通に練習が再開されて、僕たちはそっちに集中したんだ。だって、本番で失敗したら意味がないからさ。僕は休憩中、一人で雑誌を見ながら部屋探しをしてた。だって、急いで探さないと時間がないんだ。期限は着々と迫って来てるんだ。だから、休憩中の間もこうして雑誌を見てめぼしいところを探してるんだ。以前の僕だったら住めればいいって感じで探してたけど、今はちょっと、やっぱりね、バックダンサーになるわけだから適当じゃダメかなって思ったんだ。でも、この周辺の地理がわからないから中々決めれないんだ。だからと言って他の人に相談っていうのもできなくて、結局ずっと一人で雑誌と睨めっこしてるんだよね。無情にも退去期日が近づいてきた。そろそろ本当にどうにかしないとヤバいのに僕はまだ決められずにいた。「夏葵?」集中して雑誌を見ていたら急に後ろから声を掛けられて「うわぁ
Last Updated: 2025-08-17
Chapter: 10結局、この日の僕はせっかく熱が下がったのにもかかわらず、智さんたちAGIAの前で大泣きをしてしまい、また熱がぶり返したということで、退院は許可してもらったけど、これ以上無理はさせれないということで、自宅待機ということになった。勿論、ずっと付き添ってくれていたAGIAのみんなは仕事があるので、僕を家まで送ってから各々の仕事へと向かった。僕は次の日からまたダンスレッスンに参加すことになった。「おっ、ちゃんと出てこれたな」ダンススタジオに入ってきたAGIAのメンバーが僕の姿を見つけてホッとした表情を浮かべ、智さんが安心したようにいった。「はい、ご心配とご迷惑をおかけしました。昨日1日ゆっくりと休んだんですっかり良くなりました。皆さんありがとうございました」僕はAGIAのみんなに頭を下げた。勿論、ダンスメンバーや先生たちにはAGIAのみんなが来る前に謝っておいたんだ。「俺は自分でやりたいように動いただけだから迷惑だとは思ってない」って、智さんにはまた言われちゃったけどね。この日から僕の練習は本格的に開始された。AGIAのメンバーを交えて、他のメンバーとのフォーメーションとかも練習して、すべての動作を頭と身体に叩き込んだ。大丈夫、まだ鈍ってはないし、記憶力もあの日のままだ。まだ僕は大丈夫、ちゃんと踊れる。僕は智さんたちAGIAのメンバーに必要だといわれたダンスをもっと磨くために、彼らの後ろでサイコーのパフォーマンスができるように一人での練習も本格的に開始した。僕たちのお披露目会はまだまだ先だから、今は練習をして、AGIAの曲とダンスを覚えるんだ。AGIAの曲とダンスは覚えてるけど、あれはAGIAのメンバーだけのダンスだから、ダンスメンバーが入ったダンスはまだまだ練習しないとダメなんだ。ダンスメンバーたちとの練習と個人練習を繰り返す日々を1ヶ月ぐらい過ごしたころ、とある連絡が来て僕は愕然としてしまった。それはアパートの退去連絡。行き成りすぎるし、意味が分からなくて、慌てて事務所に問い合わせた。今住んでるアパートはこっちに来るときに事務所の人が手続してくれたやつだもん。「ごめんなさい、夏葵くん。確認をしたら、事務処理をした子のミスで2ヶ月での契約になってたみたいなの。急いで再契約ができないか問い合わせてみたんだけど、ダメだったの。でも、1週間の猶
Last Updated: 2025-08-05
Chapter: 09このまま幸せに浸っていたいとか、ずっと握ってたいとか思ったけど、僕は起きたとアピールするように、そっと弱い力で握られている手を握り返してみた。「んっ」ピクリと動きゆっくりと顔を上げて僕を見た。そして 「おはよう、気分はどうだ?」 小さく笑った。テレビで見ていたような笑みじゃない笑みに僕の心臓がドキリとはねた。 「おはようございます。大分、落ち着いてます」 うん、これは嘘じゃない。 「熱はどうだ?」 「えっ?ちょっ」 そんなこと言いながら智さんの額が僕の額に当てられた。 目の前に智さんのカッコいい顔がって…。心臓が止まっちゃう…。 「うん、熱も大丈夫そうだな」 クシャリと僕の髪を撫でて笑う。 「ご心配とご迷惑をおかけしました。ホントに…最初から僕は智さんに迷惑ばっかりかけてますね」 自分で言って自分の胸にグサリと言葉が突き刺さる。 「俺は別に迷惑だとか思ってない。そもそも、俺は自分がしたいと思ったことをそのまま実行してるだけだ。こうやってお前の傍にいて世話をするのもな」 まるで余計なことは考えるなと言わんばかりにまた頭を撫でられる。 「でも…僕は…」 僕は自分が思っている以上に過去のことを拘ってるみたいだ。 「なぁ、夏葵。お前が子供の頃に負った傷はお前にしかその傷の痛みはわからない。だから残念だが俺にはお前のその傷の痛みを知ることができない。だけど、そんなお前にハッキリと言えることがある」 智さんが静かにいう言葉を聞き頷く。 「俺はお前のダンスが好きだ。あのオーディションの時の踊りを見て、お前のダンスに惚れた。だから俺はお前にこのままダンスを続けてほしい。俺たちの、イヤ、俺の後ろで踊ってほしい。早瀬夏葵の本当のダンスをもっと見せてほしい。ってまぁ、これは俺のわがままだけどな」 ハッキリと言い切る智さんの言葉に自然と涙が零れ落ちた。ダンスが好きだと言われたこと、自分が必要だと言われたこと、その言葉が僕の中に溶けていく。 「泣くなよ。俺、お前を泣かせてばっかじゃん」 なんて言いながら涙を流す僕を抱きしめてくれる。まるであやすようにポンポンと背中を叩かれ、それが余計に涙を誘う。 「…っ…ごめ…僕…うれ…しぃ…ダン…ス…好き…で…」 「あぁ、もう我慢しなくていい。お前の実力を隠さずに見せつけてやればいい。それを誰も責めないし
Last Updated: 2025-08-02
Chapter: 08真夜中、ふと目を覚ませばそこにはいるはずのない人物がいた。「なんで?」だってここは病院で、今夜、僕は入院だって…「事務所にも病院にもちゃんと許可は取ってある。心配だったんだよ。熱を出した原因は俺にもあるからな」渋い顔をして答える智さんに「違うよ。熱を出したのは僕自身のせいだから、智さんがせいじゃないよ」雨の中に飛び出したのは僕だし、熱を出したのも僕のせい。「本当は弱ってる今のお前に聞くのは反則だってわかってるんだが、お前はジュニア時代にダンスに関することで何かあって、それが原因で頑なに実力を出そうとしない。違うか?」智さんの言葉が胸に突き刺さる。やっぱり気づかれてたんだって…「これを話せばあなたはどう思うんでしょうね…僕は…」一番知られたくない人に知られてしまう。こんな辛い思いをするなら初めっからオーディションなんて受けなければよかった…僕はずっと隠していたことをすべて話した。子供の頃に何があったのかを、なぜ本当の実力を出さないのか。否、出せないのか…。出せない理由もすべて正直に話した。今も自分の中に燻ぶってる思い、恐怖、不安も…知られることの恐怖、非難されることの恐怖を…「ちょ…おい…夏葵!」隠してきたこと、過去に起こったことをすべて智さんに話した直後、僕はまた意識を手放した。それだけ僕にとって過去の出来事は精神的にストレスになっているのだと思う。自分を追い込むぐらいには…「智どうするんだ?」「なっちゃん大丈夫かな?」「夏葵のダンス好きなんだけどな」「でも、これ完全にトラウマになってるだろ」「だとしても今のAGIAのバックダンサーには夏葵が必要だ。夏葵のあのダンスが…」夢現で聞こえてき
Last Updated: 2025-08-01
Chapter: 07「おい、いつまでも休憩してんなよ」 そんな声で我に返った。自分の考えに没頭しすぎてたみたいだ。 「す…すみません」 僕は慌てて立ち上がり謝った。あぁ、やっぱりここでも同じことが起きるんだろうか?「謝んなって。踊り教えてくれよ」 そんなことを言われて、僕は驚きのあまりポカンと相手の顔を見る。相手の名前がわからない。そもそも、ここに来てからちゃんと挨拶してもらってない気がする。名前は教えてもらったけど、それから色々とあったから、一人一人挨拶する時間がなかったんだ。 「やっぱり覚えてないか…。俺は|羽住明《はずみあきら》。子供の頃に一緒のチームで踊ったことあるんだけど覚えてね?」 もう一度ちゃんと自己紹介をしてくれるけど、思い出すことができない。あの時の記憶は固く閉ざされていて、一緒にいたダンスの仲間の顔も名前も思い出せないでいた。嫌でも記憶に残っているのはみんなからの非難と親たちからの心ともない言葉たち。 「あ~、そっか。まぁいいや。昔のことなんて今更どうでもいいし。それよりダンスを教えてくれよ」 もう一度、羽住くんから言われる。 「えっ?でも…僕が教えるより先生に聞いた方が…」 その言葉に僕は躊躇う。人に教えるのは苦手なんだ…。 「その先生が今いねぇんだって。それにお前の実力は知ってるし、お前の教え方がうまいのもわかってる」 過去の僕を知っているからなのか、羽住くんは教えてくれという。戸惑いながら部屋の中を見渡せば、確かに先生がいなくて、みんな個人レッスンをしていた。 「少しだけでいいなら…」 僕はこれ以上断るのもと思い、タオルを置いて立ち上がる。本当に苦手なんだけどなぁ…。 「どうしてもここがうまくいかねぇんだって」 羽住くんはそういいながら問題の場所を踊りだす。 「右腕をもう少し内側に持ってきて、足ははねるようにした方がいいと思う」 そのダンスを見て羽住くんの悪い場所を告げれば 「こうか?」 彼はすぐに直してくる。 「うん、そう」 僕はもう一度、確認して頷いた。やっぱり経験者だから覚えはいいし、ちゃんと一度で直してくる。僕は彼らに追いつけるんだろうか?彼らに勝ち続けていられるのだろうか?「よし、もう一度みんなで通して踊るぞ」 先生が戻って来ていう。僕は不安を胸に抱えたまま所定の場所についた。みんながポジショ
Last Updated: 2025-07-31
Chapter: 29翔太にいたってはなにやってんだこいつって呆れ顔で見てた。 「ふふふ、おはようのチュー。会長さんの唇げっちゅー」 なんて俺は唇に人差し指を当てて笑う。 「それで?気はすんだのか?」 そんなことを聞いてくる。普段の会長さんじゃ考えられない言葉に驚いた。おぉ? 「う~んとぉ。じゃぁじゃぁ、抱き着き~」 俺はおふざけしてま~すって感じに抱き着いた。勿論その場にいたみんなは固まったままなんだけどね。だって堅物で有名な生徒会長様にこんなことをしてるんだもん。しかも気が付いてるヤツいないんじゃない?あっ、翔太は除外ね。会長の腕がしっかりと俺の腰に回されてるのに…。「もういいだろ?時間になるぞ?」 会長さんは呟き俺の頭を撫でる。 「ふふふ、ありがとうね会長さん」 俺は素直に会長さんから離れた。その言葉に固まっていたみんなが呪文呪縛が解けたように我に返り動き始める。会長さんはもう一度、俺の頭を撫でて自分の教室に入っていった。「お前って命知らずだな」 ボソッと翔太が呟く。 「かもね。それも楽しくていいでしょ?」 俺は小さく笑い翔太と一緒に教室へと入る。 「で?なんであんなことしたんだ?」 席に着くなり翔太からの質問攻め。 「イヤ、なんとなく?」 本当になんとなく。 「なんとなくって…。お前あれは敵に回したぞ…」 翔太が溜め息をつく。 「あ~。かもしれないね。でもいいんじゃない?それも楽しくて」 きっと、会長さんを好きな連中を敵に回したんだろうな。 「ホント、お前の行動は意味不明だな相変わらず」 翔太が呆れてる。 「うん、俺も自分でそう思うよ」 俺は素直に頷いた。学校にいるときの俺は何時もこんな感じ。自分の行動だって自分で理解できてないときがほとんどだ。それは本当の自分を押し隠して偽りの自分を演じてるからかもしれないのだけど。こうして、俺と会長さんのキス騒動はやっぱり2限目が終わる頃には全学年に広まっていた。相変わらずはえぇんだよ!!! 「ありゃりゃ。やっぱりこうなるのね」 俺は目の前の連中を見て呟く。何がと言われれば…只今俺の前には数人の生徒が激怒してます。理由?言わなくてもわかるでしょ?会長さんとのチューよチュー。「どうしてあんなことしたんですか!」 「金城さんになんてことするんですか!」 「ふざけたことす
Last Updated: 2025-10-15
Chapter: 28 テスト俺はいつものようにバスで学園に来てノロノロと歩いていく。 「そ~お~き~」 そんな声と共に後ろから翔太に抱き着かれた。 「おわぁ。どったの?」 俺は翔太の顔を見て聞いてみた。明らかに調子悪そうだったんだもん。 「二日酔い。昨夜さ、お前が帰った後でみんなに散々飲まされた」 翔太は俺から離れ頭を軽く振りながら教えてくれた。 「あはは。翔ちゃんが二日酔いになるぐらいだから相当だねぇ」 翔太はすっげぇ酒には強い。豪酒と言ってもいいぐらいだ。俺も同じぐらい強いけど翔太には負ける。そんな翔太を二日酔いに追い込むんだから流石メンバーだ。侮れない大人たち!! 「お前なぁ、ビール、チューハイ、ジン、ウォッカ、テキーラ、ウイスキーって店に置いてある酒を全種類もってこられてみろ、さすがに潰れるぞ?」 翔太は指折り数えながら苦笑を浮かべる。 「でも、それを断らないんだから翔ちゃんったらやっさしぃ~」 翔太はさメンバー思いなんだよね。だから年下だけどメンバーに慕われてるんだよね。俺たちはメンバーにしてみたら弟のようなもんだけどさ。だけど、頭として、翔太がちゃんとしてるからメンバーに信頼されてるんだよね。 「しばらく酒はいい」 ポツリ翔太が呟く。でも、明日か明後日にはまた飲んでるよこの人。いつもだもん翔太とメンバーのやり取りって。 「薬は?飲んだの?」 二日酔いになってるってことは頭痛が酷いんじゃないのかな?だからちゃんと飲んだのか聞いてみた。 「ん?あぁ、ちゃんと飲んだ。まだ効いてこねぇんだけどな」 翔太はそう答えてくれた。ならいいか。俺と違って翔太はそういうのちゃんと飲むもんね。俺たちはそのまま昇降口に向かい靴を履き替えて教室へと向かう。「お前さ、俺ってそんなに頼りないか?」 突然、翔太が聞いてくる。 「へっ?何が?」 俺は意味が分からなかった。何のことだろうか? 「目、腫れてる。俺じゃ役に立たないのか?」 俺はマジマジと俺を見て、目元をなぞっていく。 「もぉ~翔ちゃんったらぁ~だ~い好き~」 俺は思いっきり翔太に抱き着いた。 「きしょいわ!はぐらかしやがって」 翔太はそんな俺の頭をぐしゃっと撫でた。 「イヤだなぁ~俺、翔太には十分甘えてますよ~」 これ本当。でも…本
Last Updated: 2025-10-13
Chapter: 27「金狼さん、今度テストでしょ?テストんとき俺さ絶対に夜は出歩かないんだよね。だからさ、よかったら携帯の番号教えて?」 俺はダメもとで聞いてみた。 「携帯は?今あるのか?」 金狼さんは俺の携帯が壊れてるのを知ってるから、今持ってるのかを聞いてくる。 「はい、さっき買い替えてきたから」 俺は慌てて携帯を取り出し金狼さんに差し出す。金狼さんは俺の携帯を受け取ると自部分のを取り出して、なんの躊躇もなく俺の携帯に金狼さんの番号とアドレスが登録された。勿論、彼の携帯には俺のが登録された。 「いいの?俺が知っちゃってもいいの?」 自分で聞いておきながら戻ってきた携帯を見て心配で聞いちゃった。 「あぁ、かまわない。どうせ聞こうと思ってたからな」 なんて返事が返ってきて、驚いて彼を見上げた。金狼さんの方が背が高いから仕方ないよね?「えっ?どうして?」 ポカーンてしながら聞いちゃったよ。なんで金狼さんが俺の番号を知りたがるんだろう?「心配だから。ほら、帰るぞ」 なんて言われてしまった。金狼さんが俺を心配?なんかすごく嬉しい。金狼さんはんだポカンとしてる俺の手を掴むと歩き出した。 「うえぇぇ~!!」 突然すぎて変な声出しちゃった。ちょっと金狼さん?「帰るっつただろ?今夜は家まで送る」 うわぁ、なんですかこのエスコートは!! 「あ…ありがとう…」 俺は素直にお礼を言った。ありがとう金狼さん。ただの気まぐれでも今の俺にはすごく幸せな時間だよ…結局、俺は公園からずっと金狼さんに手を繋がれたままで家に帰って来た。 「ありがとう金狼さん。ごめんね」 俺がそう告げたら金狼さんが眉を顰め 「ありがとうは素直に受け取るが、ごめんは聞かない。これからもずっとお前からのごめんだけは聞かない」 なんて言いきられちゃった。俺はどうしていいのか困った。だって、こんなことを言われるなんて思ってなかったんだもん。 「じゃ…じゃぁ、ありがとう金狼さん
Last Updated: 2025-10-13
Chapter: 26「お前なぁ、暇つぶしで毎日あの場所に来るか?なんかあるんじゃねぇの?ちゃんとした理由が…」 俺の呟きに翔太が反論した。 「ん~わかんない。利用されてるだけでもいいや。今は傍にいられるだけで幸せだもん」 そういった俺に 「こんのおバカ!」 翔太に必殺デコピンをおみまいしてくれた。 「いったぁ~」 痛い。翔太のデコピンは地味に痛いんだよ。しかも後から痛みが増してくるというヤツ。 「お前さぁ、悪い方に考えすぎ」 翔太はそういうけど俺にはわからない。 「だってわかんないじゃん。俺はあの人の事なにも知らないもん。噂での彼しか…」 夜の街での噂の彼の事しか知らない。同じ年で同じ学校だっていうのも知らなかったんだし…。 「だぁ~!お前ってやつは!噂は噂。毎日、直接あの人と逢ってんだろ?だったら本人に聞けばいいじゃねぇか」 呆れ顔で翔太が言う。 「翔ちゃん、俺はね…怖いんだ。だから…知らないままでいい。これ以上は…嫌だよ俺」 俺の言葉に翔太がハッとする。そして 「ホント…くじ運悪すぎ…」 俺の頭を撫で呟いた。俺は夜に咲く華。蒼い蒼い華。誰にも媚びを売らない華。どこにも根をつけない華。彷徨う蒼い華。「翔ちゃん帰る」 俺は立ち上がり呟く。 「送ってくか?」 翔太がそう言ってくれたけど 「うぅん、いいや。歩きたい気分だから…また誘ってよ。まーくん携帯ありがと」 歩きたかったから断った。そして、まーくんに預けておいた携帯を受け取る。 「みんなもまた俺と遊んでねぇ~」 そして、みんなにそう言い残し店を出た。あっ、因みに支払いはZEAのメンバーで誰が出すかじゃんけんするからいつも払ってない。自分の分だけでも出すっていうんだけど、俺と翔太は未成年で一番年下だからっていう理由で却下されてるんだよね。大人になったらちゃんと払う約束だけは俺も翔太もしてるからね。一人になって溜め息をつく。煌びやかな街は俺には似合わない。俺は自然とまた溜め息
Last Updated: 2025-10-13
Chapter: 25「お前どんだけくじ運悪いんだよ。でもよ、あの人はなんで毎晩お前の所に来るんだ?」俺の頭を撫でながら聞いてくる「ん~、それがわかんない。俺さ、初めて抱かれた日にさ、もう逢わないというか逢うつもりがなかったからバイバイって言ったんだよね。あの人だって夜の掟は嫌というほど知ってるはずだし。そしたらバイバイじゃなくてまたなって言われたんだよね。なんで?」俺はつい翔太に聞いちゃった。「イヤ、それは俺に聞かれてもわかんねぇけどさ。なんか不思議な人だな」俺に聞かれた翔太が苦笑を浮かべた。だよね。本人じゃないんだもんわかんないよね。「うん。不思議な人だよね。なんか俺の心を見透かされてる感じ。あの人の前だと自分のペース乱されっぱなしよ俺」俺はグラスに残ってる酒を飲み干した。「この蒼華をねぇ。やっぱり一度は逢ってみてぇなぁ」翔太が感心してる。「いくら翔太でもあの場所に来たら殺すよ?」半分は冗談で半分は本気でいう。あの場所は俺の逃げ場所だから…「わかってるよ。だから行ってねぇだろ?それに、俺がやり合ったら勝てねぇのわかってんだろ?ずっと負けっぱなしだよ、クソッ」翔太が溜め息をつく。実は翔太よりも俺の方が強いのをメンバー全員が知っている。でも、俺を頭にしなかったのは翔太が止めたのと、俺自身が拒んだから。俺は人の上に立つような人間じゃない。上に立って仲間を従えるなんてガラじゃないんだよね。俺は一緒にはいるけど、あれこれとまとめたり指示したりするのは苦手だからできないんだ。「…なぁ…翔太」俺はマジマジと翔太の横顔を見る。「ん?」酒を飲みながら俺の方を見返してくれる。「俺と寝てどうだった?」つい、昔のことを聞いてしまった。「ぶっ!」翔太は盛大に飲みかけの酒を吹き出した。あっ、直球すぎたかな?実は俺の初めての相手は翔太だったりする。あの時の俺は恋愛感情とか深い感情はなくて、あったのは唯の好奇心だけ。だから俺たちは今でもこうして後腐れなくやっていられてる。でも、本当は知ってるし、気付いてた。あの頃の翔太は恋愛感情で俺の事が好きだったというのを…。そてして、俺が寂しがっていたるを翔太が気付いていたのも…「ねぇ、どうだった?」もう一度、同じ質問をしてみる。翔太の顔が見る見る間に真っ赤に染まっていく。普段そんなに顔に出ないのにね。「お前なぁ、よかっ
Last Updated: 2025-10-12
Chapter: 24「終わったか?」俺が椅子に座るとマスターの|正輝《まさき》さんがウイスキーの入ったグラスを置いてくれた。普通は未成年に酒は出さないよ。でもこの人は違うんだ。ZEAのメンバーが一緒だと平気で俺や翔太に酒を出してくれる。「うん。あっ、正輝さん、データチョーだい。携帯壊れて新しくしたから」俺はお願いしてみる。「はぁ?お前、暗記してるだろうが。自分で登録し直せ」なんてあっさり却下されました。実際に暗記してるもん。「ちぇ~。いいもん。あっ、まーくんデータチョーだい」俺はまーくんに向かって携帯を投げた。「了解。全員分を登録していいんだよね?」まーくんは投げた携帯をキャッチして確認の意味で聞いてくるから俺は頷いた。残りは学校の連中か。それ以外の個人は自分で入れるしかないけど。「大丈夫か?」不意に翔太が聞いてきた。「ん~、ダメかも。死にそう…。いい加減に開放して欲しいよ」俺は溜め息をついた。「そろそろ潮時なんじゃね?」翔太も溜め息をついた。「多分ね、近いと思う」翔太の言葉に俺は同意した。そうなったら俺はどうするんだろう?本当…どうなるんだろう?このまま壊れていくのかな?暫くお互いに無言で飲んでた。「…翔太…俺さ…マジでヤバいかも…」ポツリと俺は呟いた。「はっ?何が?」行き成りすぎて意味が分からんとばかりに翔太が驚く。俺はカウンターにうつ伏し「んっ、なんかさ…マジで惚れちゃったかも…ヤバいくらい…」そう続けた。翔太の目が驚きで丸くなる。「はぁ?ちょっと待て、一体、誰に?ってかいつの間に??」うん、そうだよね。行き成りだし、誰だかわかんないよね。「うん、金狼さんに…惚れちゃったかも…」視線だけ翔太に向けた。「はぁぁ?ちょっと待て、お前あの人と一体どんだけ逢ってんだよ。いつの間に??」翔太が相手を聞き驚く。まぁ、一言も話してないから当たり前なんだけどさ。「ん、実はさ…ここの所ずっと毎日あの人と逢ってた。例の公園でさ…」だから俺は本当のことを話した。こんな話は学校じゃ話せないから…「毎日って…じゃぁ昨夜もか?」驚いたままで翔太が聞いてくる。「うん。でもさ、俺が怖くて逃げた。傍にいるのが辛くて…そしたらこの有様ですよ」俺はグラスを傾け、ケガをした右腕を見せる。「だから、何もしなくていいって言ったわけだ」翔太の
Last Updated: 2025-10-12
Chapter: 第33話「大丈夫ですか聖くん」 溜め息をついた俺を心配そうに見ながら三枝さんが聞いてきた。 「はいって言いたいんですけど、やっぱりダメですね」 この施設にいた間、ずっと俺の事を気にしてくれていた三枝さんだからこそ、嘘を言ってみバレてしまう。だからこそ、俺は嘘をつかずに本当のことを口にした。 「やはり、あの人に会うのはダメみたいですね。神尾さんたちも申し訳ありませんでした。まさか、あの方がここに押しかけてくるとは思ってもみなかったので…」 三枝さんは大我たちに頭を下げた。 「頭を上げてください、予期せぬ訪問だったのは見ていてわかりました。それに、面倒ごとは早く片付けた方が我々にとっても、唯斗くんにとってもいいですからね」 そんな三枝さんにまさパパが答えてる。あっ、そうかって思った。一応、俺はまさパパの子供になったんだからだよなって。 「あの、三枝さん」 俺は少しだけ考えてから三枝さんを呼んだ。今日で、この施設を抜けるんだ、だからちゃんと大丈夫だということを伝えておかないと。 「はい?どうしました?」 不思議そうな顔をして返事をしてくれた。 「三枝さんにちゃんと伝えておきたいことがあるんです」 なんで、この場所にこんなにも人が一緒に来てるのかを、なんで俺が自分で里親を連れてきたかを…。 「はい、何でしょう」 三枝さんは俺の向かい側に座り聞く体勢になってくれた。 「実は、ちゃんと紹介してなかったんで、今ちゃんと紹介させてください。中学の時からずっと俺を支えて来てくれた神尾大我くんです。そして、後ろの4人が彼の両親たちです」 今更だなって笑われるかもしれないけど、ちゃんと紹介したかったんだ。 「4人ともご両親だったのですか?でも、聖くんの里親になったのは?」 三枝さんが驚いた顔を見せた。 「えっと、大我の産みのご両親と、育てのご両親で、俺の里親になってくれたのは育てのご両親です」 自分で考えながら説明するけどなんか怪しい気がする。だから大我の方を見て助けを求めちゃった。 「今の説明であってるんだけどな。右が俺を生んでくれた両親。左が俺を育ててくれた両親。育ての両親の子供が亡くなって、母が体調を崩したので、上に一人兄がいるので俺が養子という形で預けられてたんですよ。なので、唯斗を養子にしたのは育ての両親の方です」 俺の説明をもう少しだけ
Last Updated: 2025-10-20
Chapter: 第32話「その子があんたたちの子供だっていうなら、金返せよ!」内藤さんはわなわなと拳を震わせながら怒鳴った。「…っ…もぉ…もうウンザリだ!」俺はその言葉を聞き大我に抱き着いたままで怒鳴っていた。俺が怒鳴ったことで、内藤さんがビクッて身体を震わせた。「あなたたちの身勝手にこれ以上、俺を振り回さないでくれ!」俺は内藤さんを睨みつけながら言い切った。もう、これ以上この人たちに振り回されたくない。「なっ、なっ」内藤さんは言葉にならないのか、驚いたままだ。「…たい、が…」俺は大我を見上げた。内藤さんを黙らせるのも、追い返す方法も大我がもってるはずだから…。「よく言ったな唯斗。三枝さん、ここで全て終わらせてもいいですか?」俺の頭を撫でてから三枝さんに向き合う大我。やっぱり全部終わらせる気でここに来てたんだ。「はい、大丈夫です。神尾さんたちにお任せしますので…」大我の言葉に快く承諾してくれた。「唯斗に払った金を返せっていうなら熨斗付けて返してやるよ。だけど、二度と唯斗にはかかわらせない。連絡も取らせない」大我がハッキリと言い切った。その言葉を聞きなおパパがドンッとテーブルの上にカバンを置いた。「唯斗があんたたち夫婦に捨てられてから今日までの養育費をキッチリ計算して、倍にした金額が入ってる。今後、二度と唯斗に関わらないための手切れ金だと思ってくれればいい」冷たい目で内藤さんを睨みながら淡々とゆう大我の顔に表情がない。それだけ大我が怒ってるってことなんだと思う。「子供がそんな大金どうやって…。あぁ、親に出してもらったってことか」内藤さんが笑いながら言う。金額的にポンッと出せるような金額じゃない。だから親に出してもらったんだろうって思ったんだろうなって。そして、もしかしたら、これからも金目当てに連絡してくるんじゃないのかって不安がよぎった。「誰が、残念だけど、それは俺自身が稼いで貯めた金であって、一銭も両親たちからは出してもらってない。それに、唯斗は俺の家族だ、親に出してもらうわけがない」大我から事前に聞いていたとはいえ、本当に大我の貯金から出したんだって俺は驚いた。俺が社会人になったらちゃんと返さないと。でも、大我のことだから自分たちの子供のために使おうって言って貯めていきそうだけどね。「こんな大金をガキがどうやって…」内藤さんの言葉がどんどん
Last Updated: 2025-10-15
Chapter: 第31話「来客中に突然、押しかけてくるなんて何事ですか。出て行ってください」突然、押しかけてきた人物に三枝さんが毅然と言い放つ。「俺だって大事な話があるって言ってるだろ。それに本人がここにいるみたいだから話は早いだろ」チロリと俺の方を見て怒鳴りながら言う男。出来れば逢いたくなかった人。「彼からは2週間待って欲しいとお願いがあったと伝えたはずですが?」三枝さんは男に向かって言い放つ。男が言葉を発する前に「三枝さん、その人の事情っていうのを話してもらうのはどうですか?」静かに告げる大我。その言葉には怒りが込められていた。「ですが…」一瞬だけ俺の方を見る三枝さん。わかってる、俺がこの場所にいるから追い出そうとしてるのを…。「大丈夫です。理由も知らずに一方的に金を返せと言われてもこっちは納得できませんからね。その人の事情というのをキッチリ聞かせてもらいましょうか」言葉の節々に怒りが込められている。それでも俺を撫でる手はいつものように温かくて優しい。「それなら、大我、唯斗の隣に座りなさい。あなたが聞く権利あるもの」いつもなら愛称で呼んでるのに、名前をちゃんと呼びながらみきママが場所を大我と変わった。俺の隣に座った大我はギュッと俺の手を握りしめてくれた。一緒に話を聞くから大丈夫だと言わんばかりに…。「わかりました。では、今回の件の理由を本人から説明していただきますね」三枝さんは溜め息をつき、本来の予定とは違うが、今回話さなくてはならないかったことについて、本人からの説明を聞くという形で話を進めることになった。「3ヶ月前に妻の病気が発覚したんだ。その治療には莫大の費用がかかることがわかって、まだ子供たちにも金ががかかるんだ。だから、君に出していた養育費を回収したいんだ」その言葉を聞き、大我の周りの空気が冷たくなった気がする。ううん、違う。この部屋の温度が下がったんだ。だって、俺以外のみんなが静かに怒ってるから…。「自分勝手だな」ポツリと大我が呟いた。「なっ、お前には関係ないことだろ。俺はこの子に言ってるんだ!」大我の呟きを拾った男、内藤さんが大我に怒鳴りながら俺を指さす。「俺に関係があるからこの場所にいるんだが?それに、唯斗は俺の家族だ」いつになく冷たい瞳で内藤さんを見て、俺の頭を撫でていく。「…っ…たい、がぁ…」言葉がうまく続かない。
Last Updated: 2025-10-13
Chapter: 第30話「では、書類の方を確認させていただきますね」俺が1人、考え事に没頭してる間にママとパパが書類を書き終えて、三枝さんが確認をしてた。「はい、では、こちらの書類の方も問題なく書いていただいたので、本日より、神尾さんご夫婦は正式に聖くんの里親とさせていただきますね。では、神尾さんご夫婦と聖くんに最終確認ですが、本日付で聖くんをこの施設から退所という形で手続きをしてもよろしいですか?」本当だったら、もっと色んな手続きとかあるはずなのに、三枝さんは俺の為に簡素化してくれてるんだなって、改めて思った。「ゆいちゃんはどうする?」「ゆいちゃんの気持ちで決めていいわよ」2人はあくまでも俺の気持ちを優先していいといってくれる。俺は小さく頷きながら大我を見た。俺だけの気持ちで動きたくないって思ったんだ。だって、この先は大我と一緒に決めていかなきゃいけないから…。「大丈夫だ、ゆいが決めていい」小さく笑いながら大我は俺に決めていいと言ってくれた。なら、俺の気持ちは一つだ。「退所で手続きをしてください」「わかりました。では、こちらの書類をお渡ししますね」俺の言葉に三枝さんは小さく返事をして、今度は違う書類を俺の前に出した。「これは?」俺はそれを見て聞いてみた。「聖くんご本人の退所手続きの同意書です。内容を読んで間違いがなければ署名捺印をしてくださいね聖くん」三枝さんは俺に説明をしてくれた。本当に準備がいいなって思う。里親だけじゃなくて、退所の手続きも一緒にサクサクやってくれるんだもん。もしかして、大我が話したのかな?なんて思う。俺は書類を読み、今日の日付と名前を書いた。「あっ、俺、印鑑もってない」まさか自分の印鑑が必要になるって思ってなかったから持ってない。「あぁ、ほら」俺の呟きに大我が差し出したのは俺の印鑑でした。この人も用意周到でした。「ありがとう」色々と聞きたいことはあるけど、それは帰ってからでいいやって思った。だって、ここで聞いたら話が長くなると思ったからさ。「これで大丈夫ですか?」俺は大我から受け取った印鑑を押し、三枝さんに渡した。「はい、確かに。では、聖唯斗くんは本日付で、神尾ご夫妻の里子になり本施設を退所ということで、手続きさせていただきます。控えを用意しますので、お待ちください」三枝さんはそれらを確認して、部屋を出ていった。
Last Updated: 2025-10-12
Chapter: 第29話1週間は早いもので、今日は大我たちと一緒に俺が育った施設へと行く日になってしまった。嫌なことは早く済ませたいとは思うけど、いざその日となると緊張するし、不安にもなる。「すごい顔になってる」施設に向かう車の中で大我に頬をつつかれた。「だって…大丈夫かなって不安なんだもん」隠してても大我にはバレるだろうから正直に話した。「そこまで心配する必要はないと思う」緊張して不安がってる俺に対して、大我はいつも以上に落ち着てる。えっ?これって大人の余裕ってやつ?「なんで大我ってそんなに平気なんだよぉ」だからついそんなことを聞いちゃったよ。「まぁ、色々と手は尽くしたんで…」なんてサラッととんでもないことを口にしたよねこの人。「なにそれ?どういうこと?」また俺の知らないところでなんかやったねこの人。「唯斗が心配するようなことはしてないって。話が円滑に進むようにちょっと手を出しただけだって」なんて言ってますけど、この人が手を出してちょっとじゃない気がする。「いや、本当に少しだけだって。あぁ、ほら、もう着くぞ」なんて、話を逸らされた。でも、本当に施設に着いちゃった。「おかえり、聖くん」施設の入り口で三枝さんが待っていてくれて挨拶してくれた。「お久しぶりです。ご無沙汰しててすみませんでした」俺はひとまず謝った。電話で連絡はしてるけど、こうしてこの場所に来るのは本当に久しぶりだったから。「いいえ、電話でお話しできてるので大丈夫ですよ。さぁ、ここで立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」俺たちはみんな三枝さんに案内されて、一番大きな応接室へと入った。「では、聖くんの里親の話を進めましょうか」俺とまさパパとみきママがソファに座って、大我となおパパとゆきママは後ろに立ってた。「お願いします」俺は三枝さんに頭を下げた。「大丈夫ですよ、聖くん。聖くんの里親になる方の条件はあの頃と変わってませんから」三枝さんが小さく笑う。「本当ですか?えっと、じゃぁ、俺が里親になってほしいと思った二人です」俺は隣に座っている二人を三枝さんに紹介した。「神尾さんですね。お二人の審査はすでに完了しております。ですから、手続きを済ませてしまいましょうか」三枝さんの言葉に俺もまさパパとみきママが声を上げた。「えっ?どういうこと?」「終わってるっていつ?」「私
Last Updated: 2025-10-08
Chapter: 第28話「んっ、あれ?」俺はどうやら大我を待ってる間に寝てたらしい。部屋の中が薄暗くなっていた。時計を見ようと動けば重しが乗ってて動けなかった。なんでだ?って思いながら重しの方を見たら大我が寝てた。「珍しい…大我が寝てる…」ポツリ呟いてみるけど、大我だって忙しかったんだから疲れてて当たり前だよなって思った。「いつもご苦労様」寝てる大我の頭を撫でようと手をのばせば、それは少し熱い大きな手に捕まった。「あれ?起きてる?」まさか捕まるなんて思わなかったから間抜けな声出しちゃったよ。「ゆっくり休めたか?」指先に小さなキスをしながら聞かれる。「うん、電話した後で横になったら今まで寝てた」だから、今日の自分の行動を報告したら笑われちゃったよ。理由はお昼からこの時間までずっと寝てたんだと自白したからだ。自分でも驚いてるんだ。まさかこんな時間まで寝てるなんて…。「ゆっくり休めたならいい。今度は寝すぎで寝れなくなりそうだけど」笑いながら言う大我の言葉に俺は頷いた。多分、寝すぎで寝れなくなりそうだもん。「飯はどうする?」俺の手を放して頭を撫でながら聞かれる言葉に考える。「あんまりお腹空いてないです」ずっと寝てただけだからお腹空いてないなって思って素直にそれを口にしたら苦笑されちゃったよ。「だろうと思った。食べずに寝直すか?」その言葉に「大我は?大我だって食べてないんだろ?」俺は大我も食べてないんだろうなって思って聞いてみた。「まぁ、食べてないな。ゆいが食べないならそれでいいかって思った」大我にしては珍しい返事が返ってきて驚いた。いつもだったらちゃんと食べろって言ってくるのに、今夜は大我も食べる気がないらしい。珍しいことがあるもんだ。なんて思っちゃった。「ん、じゃぁ、いらない。動いてないからお腹空いてないもん」そう、俺の場合は寝てばっかりだとお腹がすくことはなく、食べなくても平気だと思っている。発情してるときは特にそういう考えが強く、よく大我に怒られる。だから大半が強制的に大我にご飯を食べさせられるのだ。「わかった。ならシャワーだけでも浴びてこい」俺の言葉に反対することもなく、代わりにシャワーを浴びてこいというので「んっ、行ってくる。大我は?ここにいる?」身体を起こし聞いてみた。「あぁ、ここにいるから行って来い」同じように身体を起こ
Last Updated: 2025-10-02