Chapter: 39家に着くと速攻でシャワーを浴びました。だって気持ちわりぃんだもん。ベタベタしててさ。腰にタオルを巻いた格好で出てきた俺はそのまま部屋に行った。だってねぇ、帰ってそのまま風呂場に直行しちゃったから着替えがないのよね。部屋に入って時計を見たら5時だった。 「寝る時間ねぇし」 文句ひとつつきそのまま制服へと着替えることにした。リビングに入りソファの上にカバンと上着を置くとキッチンに行き冷蔵庫の扉を開けた。冷蔵庫の中身を見てしばらく考えてから 「オムレツでも作るか」 材料を取り出し、色々と準備して作り始めた。「一人で食べるのは味気ないねぇ」 なんて言いながら椅子に座って食べ始める。味なんてわかりゃしない。食べれればいい。 「拓ちゃんのオムライスが恋しぃ」 自分で作ったオムレツを口にして思い出したのは拓ちゃんの作ってくれたオムライス。 「ホント…一人じゃ味気ないねぇ」 パンをちぎりながら呟いた。こんなことを口にしたって戻ってこないんだけどさ。冷めたものは冷めたまま。このまま壊れていくんだろうな。永遠に冷めたままで…。俺は何の価値もないままに終わりを告げていくんだろうな…。それならそれでいい。楽な方を選ばせて…。「御馳走様でしたぁ」 俺は食べ終えて食器を片付けていく。一人暮らしが長いとこういうのも慣れちゃうよねぇ。 「あっ、洗濯物もしないと…。ついでに回してっちゃお~っと」 俺は洗面所に行き、洗濯機の中に洗濯物をほおりこむと洗剤と柔軟剤を入れてボタンを押した。帰ってきたら干すだけの状態だしこれで良し。 「後は、何かやらないといけないことあったけ?ゴミは明日だし…買い出し?」 ブツブツと言いながらキッチンに戻って来てもう一度、冷蔵庫を開けて中身を確認した。 「まだ大丈夫か」 自分が食べるだけなら必要な食材は十分にある。なくなるのはパンぐらいか…。米もまだあるし…。ん~、完全に主夫してるね俺。まぁ、しょうがないんだけどさ。「うわ、時間だ」 ご飯食べてからゴソゴソとやってたらバスが来る時間になってた。
Last Updated: 2025-12-06
Chapter: 38 家庭崩壊夜、俺は久し振りに公園ではなく夜の煌びやかな街へと彷徨い歩いていた。俺を待っていたであろう人物たちが次々と声をかけてくる。「蒼華さん、今夜は私と」「いいえ、私と」「俺たちとも遊ぼうぜ」蒼華の掟。それは相手をするのは一度だけ。だからそれを守れる者しか選ばない。必要以上に迫られるのも面倒だしね。遊び相手なら一度だけでいい。俺はどこにも根をつけない彷徨う蒼い華。だから相手をするのは一度だけでいい。自分で言うのもなんだけど、俺の記憶力は半端なくいい。だから一度、相手をした人物の顔はちゃんと覚えてる。だからそういうのは全部省いていくんだ。だから今夜もそうやって相手を選び彷徨っていた。抱いて、抱かれて、後腐れなく別れて…それが蒼華の俺…彷徨う蒼い華の俺…彷徨う夜の蒼い華…ある程度、遊び歩いて俺は小さく息を吐く。誰かにつけられてる。さっきから気付いてたんだけどね。「めんどくさぁ」俺は家とは反対の方向へと歩いていく。そんな俺の後をゾロゾロと着いてくる。翔ちゃんの言ってた成り上がりの不良グループか。あぁ、翔太に気をつけろって忠告受けなのになぁ。まぁ、しょうがないかぁ。俺はなにも知らないふりをして歩いていく。目的の場所まで…ふむ、ここならいいか。俺が行きついた場所は今は使われていない工場の跡地。ここなら誰にも見られることはないでしょ。まぁ、余計な心配はかけたくないし。あいつらの目的はわかってることだしね。別に初めてじゃないからいいんだけどね。前にもあったことだし。その後で思いっきりぶっ潰してやったけどさ。夜の連中が黙っちゃいない。ZEAが黙っちゃいないのさ。蒼華を守るZEAの連中がね。「そろそろ出てきたらどう?俺になんの用さ」俺は立ち止まって振り返り聞いてみる。その声に反応するようにゾロゾロと数人の男たちが出てくる。「あんたが蒼華なんだろ?俺たちも相手してくれよ」ニヤニヤとしながら言ってくる。あぁ、ホントめんどくさぁ「俺は高いよ?それでもいいならいいけど?好きにしなよ」ホントにめんどくさぁ。好きにしろよ。犯したきゃやりなよ。別にかまわねぇよ。別にこれが初めてってわけでもないしさ。「へぇ、じゃぁ楽しませてもらうぜ」リーダーの男がニヤニヤとしながら男たちに目配せをする。「好きにすれば?」答えるのも面倒だ。男たちは俺の言葉を聞くと我
Last Updated: 2025-12-05
Chapter: 37「織田は食べないのか?」 突然、後ろから声を掛けられた。 「うわぁ、びっくり。拓ちゃんいたの?俺ね、お昼は食べれないの。原因不明の病気なんだ。お昼に食べると全部、戻しちゃうんだよね」 俺は振り返ってその理由を口にする。自分の事を人に話すなんて翔太以外に初めてだね。 「そうなのか…。手、出してみろ」 深く追求することもなく、言われたとおりに手を差し出せばコロンって飴が幾つか掌に転がった。 「拓ちゃん?」 意味がわからなくて聞いてみたら 「生徒会のお茶菓子の飴だ。これぐらいなら大丈夫だろ?」 拓ちゃんは説明してくれた。持ち歩いてるんだ。飴なら大丈夫だからコクリと頷いたら 「じゃぁな」 拓ちゃんは俺の頭を撫でて行ってしまった。 「もしかして俺のため?まさかね」 その背を見送ってからふと浮かんだ疑問に頭を振り考えるのをやめた。だって、俺がお昼食べれないことを教えたのは今日が本当に初めてだったから。 「偶然だよね」 俺は掌の飴をポケットにしまい教室へと戻った。自分の席に座り机の上にもらった飴を置く。 「優しいね。拓ちゃんも、金狼さんも…」 俺は机の上に置いた飴を一つ取り封を開けて口の中に含んだ。ほんのり飴の甘さが口の中を支配していく。俺はそのまま机にうつ伏して目を閉じた。「蒼樹、起きろ。蒼樹」 そんな声とともに軽く肩を揺すられて目を覚ました。 「ん~、なに?」 目を擦りながら聞いてみれば 「何じゃねぇって。授業が全部終わった。帰るだろ?」 翔太が苦笑を浮かべて教えてくれた。 「あっ、ホントだ。また寝てたよ俺。翔ちゃんノートまた貸してね」 翔太に言われて壁にかかってる時計を見て呟く。ホントに授業態度が悪いよね俺。 「これだからムカつくんだよお前。寝てるくせに頭がいいなんてよ。反則だ。それに強いし。お前に一個も勝てねぇよ俺」 翔太が呟きのように言ってくる。 「ん?妬み?僻み?だってしょうがないじゃん。俺にはその方法しかなかったんだもん」 翔太の言葉に今度は俺が苦笑を浮かべた。 「わかってるよ。そんなことぐらい。ただの愚痴だ。で?今夜はどうするんだ?」 俺の頭を撫でながら聞いてくるその言葉に俺は少し考える。 「ん~。彷徨い華?」 疑問形で答えるけど、それだけで翔太にはちゃんと伝わるからいい。 「あっそ。復活って
Last Updated: 2025-12-04
Chapter: 36毎度のことながら怒涛の如くテストも終わり答案用紙が返された。そして、毎回恒例の順位表が廊下に貼りだされていた。「やっぱお前ってムカつく」順位表を見て翔太が呟く。「なんで?」言わんとすることはわかってるけど、つい聞き返しちゃった。「あの結果だよ!なんでお前あんなに成績がいいわけ?普段、授業はサボるは、話は聞いてないは、寝てるはってしてるヤツがよ!」張り出された紙を指さし言われた。「イヤ、ほら、翔ちゃんだっていいじゃん?」俺は翔太も人のこと言えないだろって意味を込めて言い返した。実際そうだしさ。「お前ねぇ、普段から真面目に勉強してねぇ不真面目なやつがクラスでトップの成績で、しかも学年で2位ってどうよ?ふざけてるだろ?」翔太が溜め息交じりに言ってくる。うん、耳が痛いなそれ。貼りだされた紙には各クラスの順位と学年順位が記されているのだ。俺はクラスで1位で学年で2位。勿論、学年トップは拓ちゃんだ。「そういう翔ちゃんはどうよ?クラス2位で学年で5位じゃないさ。人のこと言えないじゃん」俺は大袈裟に溜め息をついた。「アホ!俺は真面目に授業を受けてんの!お前と違って授業態度はいい方なの!」翔太は俺の首を絞めながら言ってくる。{あはは。だってさ、俺のはこれしかなかったんだもん…まぁ、全部が無意味だってわかってるけどさ」俺はやんわりと翔太の手を放す。そう、俺には勉強もテストの順位も無意味なもの。「お前、嫌みだ」ポツリと翔太が呟く。俺の家庭の状況を一番、よく知ってるからね翔ちゃんは…。「だって事実じゃん。翔太は知ってるでしょ?どんなに頑張ったところで俺には全部、無意味なんだってこと…」俺は苦笑を浮かべるしかできない。「だから余計にムカつくんだよ。お前の頭のよさとかは知ってるしわかってるけどムカつくんだよ」翔太がまだいう。俺は本当に苦笑を浮かべてることだけしかできない。「でも、拓ちゃんて本当にすごいね。全教科、満点だなんて。さすが、特Aクラスで生徒会長だけあるね」俺は貼りだされている拓ちゃんの成績を見て呟いた。「あいつは常連だからな。ってお前もか。毎回、上位にいるんだし。ってかいつからお前そんな呼び方するようになったんだ?」あっ、翔太に突っ込まれた。スルーしといてくれればいいのに。「ん?この間のチュー事件の後から。会長呼びが気に入ら
Last Updated: 2025-11-06
Chapter: 35ピッ、ピピピッ「ん?んん??」 携帯のアラームに気が付き寝惚けたまま目を開けると目の前にキレイな拓ちゃんの顔があってビックリした。 「そうか、昨夜…」 俺は昨夜のことを思いだしジッと拓ちゃんの顔を見た。 「相変わらずキレイだねぇ。拓ちゃん朝だよ」 そう声をかけてみたら、ギュって抱きしめられた。 「た、拓真。時間、着替えに行かないと…」 俺はゴソゴソと動いて抵抗を試みた。 「そうだな、一度帰らないとな」 あっさりと俺を離し拓ちゃんが身体を起こした。 「ありがとうね、拓ちゃん」 俺は彼に向かって呟いた。いつの間にか傍にいてほしい時に俺の傍にいてくれるようになった人。俺が本気で好きになってしまった人…「気にするな。また学校でな」 拓ちゃんは小さく笑い俺の頭を撫でた。 「ん」 ちゃんと返事が出来なかった。寂しいっておもちゃったんだ。 「じゃぁ、帰るな」 拓ちゃんはベッドから降りると自分の持ってきた小物をポケットの中にしまっていく。俺も拓ちゃんを見送るためにベッドからおりて、玄関まで見送る。 「じゃぁ、遅刻するなよ」 拓ちゃんは俺の頭を一撫でしてから帰っていった。ありがとね。本当にありがとう。ほんのひと時でも俺は幸せだよ。俺は部屋に戻るとクローゼットの中から制服を取り出して着替えた。カバンには、昨日持って帰ったきた教科書とノートを入れてから部屋を出てキッチンへと向かう。教科書はまたロッカーいき。 「あっ、缶忘れた」 キッチンの机の上にカバンとブレザーを置くともう一度、自室へと戻り机の上に置いてある缶を持って戻ってきた。飲みかけの缶は中身を捨てて、飲んでない方はもう一度、冷蔵庫の中にしまった。そのついでに朝食のための食材を取り出す。 「あんまり食べたくはないんだけど…ハムエッグぐらいは食べれるかな」 一人呟いてハムエッグを作りながらパンを焼いていく。本当は一人で食べるご飯なんて味気がない。だけど、食べないとヤバいからね俺の場合。これ以上痩せてったら翔ちゃんに何を言われることやら…。俺は自分で作ったご飯をイヤイヤながら食べて、ブレザーに袖を通しカバンを持って家を出た。乗り込むバスはいつもと同じ時間のバス。流れていく街並みをバスに揺られて眺めていた。バスに揺られていつものように学園の前のバス停でおり、いつものように門の
Last Updated: 2025-11-05
Chapter: 34「泊ってく?」 俺は自分の口から出てきた言葉に驚いた。金狼さんも驚いたようだ。 「あっ、やっ、無理にって言わないよ」 俺は慌てて弁解した。だって明日はテストだしね。そんな場合じゃないよね。 「いいのか?」 金狼さんは驚いたままで聞き返してきた。 「あ、うん。金狼さんがそれでいいならの話だけどね」 俺は門を開けながら答えた。だって無理強いは出来ないもん。 「お前が迷惑じゃないなら泊ってくが…」 金狼さんが苦笑を浮かべる。 「俺は平気。じゃぁ、上がって。俺のベッドだから狭いけどそこは我慢してね」 俺は家の鍵を開けて金狼さんを招き入れた。あっ、これで2回目かも…「お邪魔します」 金狼さんは靴を脱ぎ上がった。俺も鍵を閉めて靴を脱ぐ。 「ビール飲む?って酒類しかストックがない…」 なんて聞いてみる。 「イヤ、いい」 金狼さんは小さく笑った。 「じゃぁ、部屋いこ」 俺は金狼さんの返事を聞いて自分の部屋へと向かった。部屋の中に入り俺は盛大に溜め息をついた。 「ビール出しっぱだし…」 机の上に置かれっぱなしになって冷めてしまったビールの缶がふたつ。しかも片方は飲みかけ…。 「お前いつから寝てたんだ?」 なんて聞かれた。 「えっと…帰ってすぐに風呂入って寝たから4時ぐらいかな?」 俺は逆算しながら答えたら笑われてしまった。 「ちょ…笑いすぎだからね」 俺この人に笑われっぱなしだよ。 「やっぱり猫だな」 なんてボソッと呟かれた。その呟きはしっかりと俺の耳にも届いたわけで… 「もっ、もう寝ます!!!」 俺はそれを誤魔化すように布団に潜りこんだ。ごめん…今はまだ…俺に勇気がないから…「俺の寝場所は?」 まだ笑いながら金狼さんが近づいてくる。 「あっ、電気消さなきゃ」 俺がそう言って起き上がるけど 「あぁ、消してくる」 金狼さんの早くて先に消されてしまった。薄暗くなった部屋の中、金狼さんが戻って来て俺の隣に潜り込む。恥ずかしくて、金狼さんに背中を向けてたんだけど 「蒼樹、こっち向けよ」 なんて急に耳元で名前を囁かれて俺の心臓は爆発寸前。 「っ、それ反則だからね!」 俺は熱くなった耳を押さえながら身体の向きを変えた。その途端にギュって抱きしめられた。煩いぐらい心臓がバクバクしてる。 「今は…今は何も言
Last Updated: 2025-11-02
Chapter: 12ー次の日ー練習が終わった後で、智さんたちAGIAのメンバーと、事務所の男の人、畠山さんと一緒に僕が借りているアパートに来ていた。智さんが気を利かせて、畠山さんに頼んで、事務所の車を出してもらったんだ。「てか、夏葵お前、荷物少なくないか?」僕の部屋に入って開口一番に言われた言葉。「えっと、多分、少ないと思います。荷物を持ってきてないんで…」そう、僕の荷物はもともと他の場所にあるのだ。ここに引っ越ししてくる前のアパートって意味じゃなくて、元々の僕の住んでいる実家にという意味だ。実家といっても海外なので、すぐに取りに行くということは無理だけどさ。「はっ?持ってきてないって?」「引っ越す前の家にってこと?」僕の言葉に竜生さんたちが驚いた顔をする。「あーっ、違います。前に住んでた場所の荷物は全部ここにありますよ。それ以外の荷物はここには置いてないってだけです」自分のことを誰かに話してるわけじゃないので、ここ以外の場所に荷物があると言えばますます驚いた顔になる。「やっぱり、業者を呼ぶ必要はなかったみたいだな。なら、さっさと運んでここを片付けて引き渡せるようにしよう」なんて、智さんが言うから「りょうか~い」「だな」なんてみんなが返事をして、さっさと数少ない僕の荷物を運び出していった。えっと、僕がやらなきゃいけないのに、僕が手を出す前にAGIAのみんなが動いちゃって僕はただそこにいるだけの人状態だった。「よし、荷物は出したから掃除するぞ」総指揮官になってる智さんの掛け声でまたしてもみんなが動いちゃって僕が手を出す暇がない。でもただ突っ立てるわけじゃないよ僕も。ちゃんと掃除はしましたよ。智さんたちが来て、僕の家の荷物を出して、掃除が終わったの時間は2時間半ぐらいだった。あれ?もっとかかると思ったのに?早いよみんな。「じゃぁ、この部屋の手続きは責任もって事務所の方でやってもらうってことで、ヤマさん、鍵は預けとくから事務所に戻ったらよろしく」いつの間にか家の鍵を持っていた智さんが畠山さんと話してた。「了解。樋口主任に渡してやってもうよ」「あの、すみません。僕の事なのにお願いしちゃって」僕はそんな2人に謝った。だって悪いから…。「いいってことよ。元をただせば事務所の責任なんだからな。よし、このまま智の家に行けばいんだよな」畠山さんはそう
Last Updated: 2025-10-10
Chapter: 11ダンスレッスンをしながら部屋探しって本当に大変だと思う。特に僕の場合は土地勘が全くないから、どこをどう探せばいいのか見当もつかない。だけど、探さないと困るからチラシとか雑誌とかを見ながらめぼしい場所を探してたんだ。自分なりに一生懸命探してたんだよ本当に。「みんな集まれ、話がある」ダンスレッスン中に先生がみんなを呼ぶ。僕たちは個人練習をしてる最中だったのをやめて先生の元へと集まればAGIAのみんなが来ていた。「よし、集まったな。みんなに発表することがあるそうだ」先生が言えば、智さんと竜生さんが前に出てくる。「お前たちバックダンサーの発表兼お披露目の日程が決まったぞ」智さんのその言葉に僕たちがざわつく。ついに決まったんだと…。「バックダンサーをファンの子たちに紹介するのは3ヶ月後から始まる俺たちのコンサートになった」竜生さんの言葉にますます騒がしくなる僕たち。「静かに!まだ、コンサートの内容が決まってないから、ちゃんと決まるまではみんなは今まで通り練習に励んでで欲しい」「はい!」智さんの言葉に僕たちは返事をした。「よし、5分後にまた練習始めるからな」「はい!」先生の言葉に返事をして、僕たちはまた個人レッスンへと別れた。といっても、さっきの発表の後だからみんなで雑談をしていた。うん、みんな緊張してたんだよね。ついにAGIAのバックダンサーとして発表してもらえるんだって少しだけ騒いでた。この後、普通に練習が再開されて、僕たちはそっちに集中したんだ。だって、本番で失敗したら意味がないからさ。僕は休憩中、一人で雑誌を見ながら部屋探しをしてた。だって、急いで探さないと時間がないんだ。期限は着々と迫って来てるんだ。だから、休憩中の間もこうして雑誌を見てめぼしいところを探してるんだ。以前の僕だったら住めればいいって感じで探してたけど、今はちょっと、やっぱりね、バックダンサーになるわけだから適当じゃダメかなって思ったんだ。でも、この周辺の地理がわからないから中々決めれないんだ。だからと言って他の人に相談っていうのもできなくて、結局ずっと一人で雑誌と睨めっこしてるんだよね。無情にも退去期日が近づいてきた。そろそろ本当にどうにかしないとヤバいのに僕はまだ決められずにいた。「夏葵?」集中して雑誌を見ていたら急に後ろから声を掛けられて「うわぁ
Last Updated: 2025-08-17
Chapter: 10結局、この日の僕はせっかく熱が下がったのにもかかわらず、智さんたちAGIAの前で大泣きをしてしまい、また熱がぶり返したということで、退院は許可してもらったけど、これ以上無理はさせれないということで、自宅待機ということになった。勿論、ずっと付き添ってくれていたAGIAのみんなは仕事があるので、僕を家まで送ってから各々の仕事へと向かった。僕は次の日からまたダンスレッスンに参加すことになった。「おっ、ちゃんと出てこれたな」ダンススタジオに入ってきたAGIAのメンバーが僕の姿を見つけてホッとした表情を浮かべ、智さんが安心したようにいった。「はい、ご心配とご迷惑をおかけしました。昨日1日ゆっくりと休んだんですっかり良くなりました。皆さんありがとうございました」僕はAGIAのみんなに頭を下げた。勿論、ダンスメンバーや先生たちにはAGIAのみんなが来る前に謝っておいたんだ。「俺は自分でやりたいように動いただけだから迷惑だとは思ってない」って、智さんにはまた言われちゃったけどね。この日から僕の練習は本格的に開始された。AGIAのメンバーを交えて、他のメンバーとのフォーメーションとかも練習して、すべての動作を頭と身体に叩き込んだ。大丈夫、まだ鈍ってはないし、記憶力もあの日のままだ。まだ僕は大丈夫、ちゃんと踊れる。僕は智さんたちAGIAのメンバーに必要だといわれたダンスをもっと磨くために、彼らの後ろでサイコーのパフォーマンスができるように一人での練習も本格的に開始した。僕たちのお披露目会はまだまだ先だから、今は練習をして、AGIAの曲とダンスを覚えるんだ。AGIAの曲とダンスは覚えてるけど、あれはAGIAのメンバーだけのダンスだから、ダンスメンバーが入ったダンスはまだまだ練習しないとダメなんだ。ダンスメンバーたちとの練習と個人練習を繰り返す日々を1ヶ月ぐらい過ごしたころ、とある連絡が来て僕は愕然としてしまった。それはアパートの退去連絡。行き成りすぎるし、意味が分からなくて、慌てて事務所に問い合わせた。今住んでるアパートはこっちに来るときに事務所の人が手続してくれたやつだもん。「ごめんなさい、夏葵くん。確認をしたら、事務処理をした子のミスで2ヶ月での契約になってたみたいなの。急いで再契約ができないか問い合わせてみたんだけど、ダメだったの。でも、1週間の猶
Last Updated: 2025-08-05
Chapter: 09このまま幸せに浸っていたいとか、ずっと握ってたいとか思ったけど、僕は起きたとアピールするように、そっと弱い力で握られている手を握り返してみた。「んっ」ピクリと動きゆっくりと顔を上げて僕を見た。そして 「おはよう、気分はどうだ?」 小さく笑った。テレビで見ていたような笑みじゃない笑みに僕の心臓がドキリとはねた。 「おはようございます。大分、落ち着いてます」 うん、これは嘘じゃない。 「熱はどうだ?」 「えっ?ちょっ」 そんなこと言いながら智さんの額が僕の額に当てられた。 目の前に智さんのカッコいい顔がって…。心臓が止まっちゃう…。 「うん、熱も大丈夫そうだな」 クシャリと僕の髪を撫でて笑う。 「ご心配とご迷惑をおかけしました。ホントに…最初から僕は智さんに迷惑ばっかりかけてますね」 自分で言って自分の胸にグサリと言葉が突き刺さる。 「俺は別に迷惑だとか思ってない。そもそも、俺は自分がしたいと思ったことをそのまま実行してるだけだ。こうやってお前の傍にいて世話をするのもな」 まるで余計なことは考えるなと言わんばかりにまた頭を撫でられる。 「でも…僕は…」 僕は自分が思っている以上に過去のことを拘ってるみたいだ。 「なぁ、夏葵。お前が子供の頃に負った傷はお前にしかその傷の痛みはわからない。だから残念だが俺にはお前のその傷の痛みを知ることができない。だけど、そんなお前にハッキリと言えることがある」 智さんが静かにいう言葉を聞き頷く。 「俺はお前のダンスが好きだ。あのオーディションの時の踊りを見て、お前のダンスに惚れた。だから俺はお前にこのままダンスを続けてほしい。俺たちの、イヤ、俺の後ろで踊ってほしい。早瀬夏葵の本当のダンスをもっと見せてほしい。ってまぁ、これは俺のわがままだけどな」 ハッキリと言い切る智さんの言葉に自然と涙が零れ落ちた。ダンスが好きだと言われたこと、自分が必要だと言われたこと、その言葉が僕の中に溶けていく。 「泣くなよ。俺、お前を泣かせてばっかじゃん」 なんて言いながら涙を流す僕を抱きしめてくれる。まるであやすようにポンポンと背中を叩かれ、それが余計に涙を誘う。 「…っ…ごめ…僕…うれ…しぃ…ダン…ス…好き…で…」 「あぁ、もう我慢しなくていい。お前の実力を隠さずに見せつけてやればいい。それを誰も責めないし
Last Updated: 2025-08-02
Chapter: 08真夜中、ふと目を覚ませばそこにはいるはずのない人物がいた。「なんで?」だってここは病院で、今夜、僕は入院だって…「事務所にも病院にもちゃんと許可は取ってある。心配だったんだよ。熱を出した原因は俺にもあるからな」渋い顔をして答える智さんに「違うよ。熱を出したのは僕自身のせいだから、智さんがせいじゃないよ」雨の中に飛び出したのは僕だし、熱を出したのも僕のせい。「本当は弱ってる今のお前に聞くのは反則だってわかってるんだが、お前はジュニア時代にダンスに関することで何かあって、それが原因で頑なに実力を出そうとしない。違うか?」智さんの言葉が胸に突き刺さる。やっぱり気づかれてたんだって…「これを話せばあなたはどう思うんでしょうね…僕は…」一番知られたくない人に知られてしまう。こんな辛い思いをするなら初めっからオーディションなんて受けなければよかった…僕はずっと隠していたことをすべて話した。子供の頃に何があったのかを、なぜ本当の実力を出さないのか。否、出せないのか…。出せない理由もすべて正直に話した。今も自分の中に燻ぶってる思い、恐怖、不安も…知られることの恐怖、非難されることの恐怖を…「ちょ…おい…夏葵!」隠してきたこと、過去に起こったことをすべて智さんに話した直後、僕はまた意識を手放した。それだけ僕にとって過去の出来事は精神的にストレスになっているのだと思う。自分を追い込むぐらいには…「智どうするんだ?」「なっちゃん大丈夫かな?」「夏葵のダンス好きなんだけどな」「でも、これ完全にトラウマになってるだろ」「だとしても今のAGIAのバックダンサーには夏葵が必要だ。夏葵のあのダンスが…」夢現で聞こえてき
Last Updated: 2025-08-01
Chapter: 07「おい、いつまでも休憩してんなよ」 そんな声で我に返った。自分の考えに没頭しすぎてたみたいだ。 「す…すみません」 僕は慌てて立ち上がり謝った。あぁ、やっぱりここでも同じことが起きるんだろうか?「謝んなって。踊り教えてくれよ」 そんなことを言われて、僕は驚きのあまりポカンと相手の顔を見る。相手の名前がわからない。そもそも、ここに来てからちゃんと挨拶してもらってない気がする。名前は教えてもらったけど、それから色々とあったから、一人一人挨拶する時間がなかったんだ。 「やっぱり覚えてないか…。俺は|羽住明《はずみあきら》。子供の頃に一緒のチームで踊ったことあるんだけど覚えてね?」 もう一度ちゃんと自己紹介をしてくれるけど、思い出すことができない。あの時の記憶は固く閉ざされていて、一緒にいたダンスの仲間の顔も名前も思い出せないでいた。嫌でも記憶に残っているのはみんなからの非難と親たちからの心ともない言葉たち。 「あ~、そっか。まぁいいや。昔のことなんて今更どうでもいいし。それよりダンスを教えてくれよ」 もう一度、羽住くんから言われる。 「えっ?でも…僕が教えるより先生に聞いた方が…」 その言葉に僕は躊躇う。人に教えるのは苦手なんだ…。 「その先生が今いねぇんだって。それにお前の実力は知ってるし、お前の教え方がうまいのもわかってる」 過去の僕を知っているからなのか、羽住くんは教えてくれという。戸惑いながら部屋の中を見渡せば、確かに先生がいなくて、みんな個人レッスンをしていた。 「少しだけでいいなら…」 僕はこれ以上断るのもと思い、タオルを置いて立ち上がる。本当に苦手なんだけどなぁ…。 「どうしてもここがうまくいかねぇんだって」 羽住くんはそういいながら問題の場所を踊りだす。 「右腕をもう少し内側に持ってきて、足ははねるようにした方がいいと思う」 そのダンスを見て羽住くんの悪い場所を告げれば 「こうか?」 彼はすぐに直してくる。 「うん、そう」 僕はもう一度、確認して頷いた。やっぱり経験者だから覚えはいいし、ちゃんと一度で直してくる。僕は彼らに追いつけるんだろうか?彼らに勝ち続けていられるのだろうか?「よし、もう一度みんなで通して踊るぞ」 先生が戻って来ていう。僕は不安を胸に抱えたまま所定の場所についた。みんながポジショ
Last Updated: 2025-07-31
Chapter: 第39話「劉を送らななきゃいけないからもう行くけど一人で大丈夫?」こうちゃんが俺を心配して聞いてくる。「はい、大丈夫です。今、すごく落ち着てるから一人で大我を待ってられるんで」うん、これは嘘じゃない。昨日までは酷い状態だったけど、今の俺はすごく落ち着ている。「わかった、ゆいちゃんのその言葉を信じるよ。でも、何かあったらちゃんと大ちゃんに連絡するんだよ」少しだけ心配性なこうちゃん。まぁ、俺が酷い状態になるの知ってるからなんだけどね。「うん、大丈夫。劉くん行ってらっしゃい、頑張ってね」俺は劉くんと同じ目線になって声を掛けた。「うん、また今度、大ちゃんと一緒に遊びに来てね」劉くんは大きく頷く。「勿論、大我にお願いして一緒に遊びに行くよ」俺が劉くんの言葉に返事をするとこうちゃんは劉くんを学校に送って行くために帰っていった。シンとなる部屋の中。不思議と落ち着いていた。この場所に来た時は酷い状態で、涙腺だって壊れてたのに、昨夜、夢を見て、朝起きてこうちゃんたちと一緒にいただけで、不思議と落ち着いている。「こうちゃんが片付けもやってくれたからすることないんだよな」そう、こうちゃんがご飯の準備も片付けも全部やってくれたからすることがない。しかも丁寧にお昼のご飯まで作っていってくれたのだ。俺も大我も自分でできるの知ってるはずなのにね。でも、ありがたい。「うん、することないし、大我が帰ってくるまでベッドでゴロゴロしてよう」そう思いながら俺はまたベッドに逆戻り。ベッドのサイドボードに大我が読んでる本が置いてあった。「これ、俺が読んでみたかったやつじゃん」本の題名が俺が読んでみたいと思っていたやつだった。それを手に取りしおりの場所を確認したら、一番最後に挟まっていて、そこは筆者のあとがきの場所だった。「あれ?」そのあとがきを読んで顔が熱くなった。「…これ…ダメだろ…」あとがきはまるで恋文のようなもの。読んだ読者がどう感じるかはその人にもよるが…。俺にはそれが盛大に愛の告白に感じた。「よし、最初から読もう」あとがきにしおりが挟んであるってことは大我は読み終えてるはずだからと、俺は解釈してその本をはじめから読むことにした。そうしてる間に大我が帰ってくるだろうなって思ったんだ。「…はぁ…」集中して、本を全部読み終えてしまった。本を抱きしめ天井を見上
Last Updated: 2025-12-04
Chapter: 第38話「っ、たい、が、っ、」俺は大我に抱き着きまたしても大泣きをし始めた。泣き始めたら止まらない。本当に今の俺は涙腺がぶっ壊れすぎてるらしい。「ホントに涙腺ぶっ壊れてるな。あんまり泣くと目が腫れるんだけどな後でちゃんと冷やすか」俺の頭を撫でながら大我がいうけど、本当に止まらないんだ涙が。「っ、だって、とま、ん、ない」大我の服を掴み訴えてみる。「唯斗には悲しいことも嬉しいことも両方一度に起きて、頭ん中がキャパオーバーしてんだろうな」なんて言いながら撫でられていく頭は気持ちがいい。「んっ、もぉ、考え、らんない、」今の俺は本当に何も考えられない状態だったりする。「今は考えなくてもいい。だけど、また、実家にはいかないといけないから、そん時はしっかりしないとな」小さく笑いながら額にキスをくれる。まるでそれが、何かの呪文のようになって泣いてるにもかかわらず俺は眠たくなってくる。「もう少し、寝ればいい」大我のそんな優しい言葉に俺は頷き、誘われるままに泣きながら再び眠りの中へと誘われていった。夢を見た。大我と俺と…そして、まだ見ぬ大我と俺の子供。それだけじゃない、両親たちと、ヒロさんたち。家族で楽しく過ごしている夢を見た。笑いあって、時にはケンカして、涙を流し、そしてまた笑い合う。そんな優しい夢を見た。凄く心満たされた優しい夢だった。「んっ」ふわふわと夢の中に堕ちていた意識が戻ってきた。ボーっとする頭のまま周りを見渡せば大我の姿はなかった。自分の隣の温もりはなく、布団も冷たくなっている。いつ抜け出したのだろうか?ボーっとしたまま身体を起こし、部屋の中を見渡すが、やっぱり大我はいない。俺は溜め息をつきベッドから降りて部屋を出た。「あっ、ゆいちゃんおはよー」そんな言葉と共に足に抱き着かれた。「へっ?なんで、劉くんが?」ビックリした。この場所にいるはずのない劉くんがいることに。「おはよう、起きたゆいちゃん」そう声を掛けられた方を見ればこうちゃんがお皿をテーブルに置いてる所だった。「おはようございます。なんで2人がここに?」劉くんを抱き上げながら聞いてれば「大ちゃんね、お仕事行っちゃったのー。だからね僕が来たんだよぉ」ニコニコと笑いながら劉くんが教えてくれた。「そっかぁ、ありがとう劉くん」「ごめんね、本当はゆいちゃんとゆっくり話し
Last Updated: 2025-11-24
Chapter: 第37話「んっ」ふわふわと闇の中に堕ちていた意識がゆっくりと浮上してきた。薄っすらと片目だけを開けて部屋の中を確認すればまだ暗かった。この部屋ってこんなに暗かったっけ?なんて思いながら時間を確認しようとゴロって横を向いたら、隣に大我の姿はなかった。いつもだったら、一人で寂しいとか、置いていかれたのかなとか、不安な気持ちが湧くんだけど不思議と今の俺は落ち着いていた。とりあえずベッドから降りようかと思い身体を起こして気が付いた。最小限の明るさにしながら机で何かをやってる大我の後ろ姿を見つけた。極力音をたてないようにと気を使いながら作業をしてるのかもしれない。「たい、が」その背に声を掛けたけど、思ってる以上に自分の声は掠れて小さかった。集中して作業してる大我には届かないかもしれない。そう思い、俺はベッドから降りて傍に行こうと動いた。「起きたのか、悪い起こしたか?」俺が動いたことで、ギシリとベッドが軋み、その音に気が付いた大我が振り返った。「だい、じょぉ、ぶ、目が、覚めた、から」ベッドに座り答えれば、「取り合えず、唯斗はこれを飲んでくれ」そういいながら差し出されたのはスポーツドリンクと水のペットボトルだった。その理由は考えなくてもわかる。さっきまでバカみたいに大泣きしてたからだ。俺はそれを受け取り飲んだ。スポーツドリンクは全部飲み、水は半分残した。「今何時なんだ?」水分を補給した分だけ咽喉が潤って普通に話せるようになった。「今か、今は午前3時を少し回ったところだな」俺の問いに大我が机の上にある携帯を見て教えてくれた。「大我は寝てないのか?」もしそうなら、悪いことをしたなって思う。「いや、ちゃんと寝た。さっきまで一緒に寝てたんだ。で、目が覚めたらちょっと描きたいって思う絵が浮かんできたから、それを描いてた。完成したら唯斗にも見せるからな」小さく笑いながら言われた言葉に俺は大きく頷いた。「起きるにはまだ早い時間だし、もう少し寝るか?」大我の言葉に考えこむ。確かに起きるにはまだ早い時間だ。だけど、泣き疲れて寝てた分だけ眠気がない。さて、どうしたものか?って考えこんでたら「ゴロゴロしながら話でもするか?」って聞かれて「うん、話がしたい」俺は大きく頷いた。「わかった。なら布団の中に入ってゴロゴロしながら話そう」大我は俺の頭を撫でてから布
Last Updated: 2025-11-23
Chapter: 第36話俺は自分でもドン引きするぐらい、床に大我を押し倒したままで、大泣きをした。それはもう、身体の水分という水分が無くなるんじゃないかっていうぐらいには大泣きをした。大我に抱き着いて泣いたせいで、俺の涙と鼻水で大我の服はドロドロのグチャグチャで見るも無残なほどビッショリと濡れていた。着てる大我はきっと気持ちが悪いかもしれない。って後から思った。俺が大泣きをしてる間、大我はずっと無言で抱きしめていてくれた。俺がひとしきり大泣きして落ち着いてきたら大我の大きな手はゆっくりと頭を、背中を撫でていく。それは凄く優しい。トクリトクリと規則正しい大我の心臓の音が心地よくて、酷く安心できて、子守歌のように聞こえてきた。「んっ、あ、れ?」 自分でも驚くほど間抜けな声が出た。自分の置かれてる状況がよくわからない。さっきまで床に大我を押し倒して大泣きしてたはずなのに、今の俺はベッドの上で大我に抱きしめられていた。いつ移動したんだろうか?ソロッと大我の顔を見れば、大我はメガネをかけて本を読んでいた。俺が寝落ちしたからきっと服を着替えて、ベッドに寝せたんだと思う。だって、大我は本を読みながら、時折、俺の頭を撫でていく。本当は俺が起きたのに気が付いてると思うんだ。でも、何も言わないのは大我の優しだ。俺が自分から声を掛けない限り大我はずっとこのままだ。大我は昔から変わらないな…必要なこと以外はムリに聞いてこない。それが嬉しくて、ありがたくて、ついつい甘えすぎちゃうんだよな。でも、それが俺には本当に心地いんだ。 「たい、が」 大我の名を呼んだら思いっきり掠れた。でも、大我からの返事はなくて、代わりに頭を撫でられた。それは別に大我が俺を無視してるってわけじゃなくて、無理に話さなくてもいいと態度で示してくれてるだけ。俺が大泣きをしたときは大概、感情の起伏が激しくて、自分でもどうしよもなくなることのが大きいから、大我は無理に聞き出そうとかはしない。その時の流れにまま俺に接してくれる。それは俺が自棄を起こしていた時からの習慣だ。大我は傍にいて甘やかしてくれるけど必要以上に踏み込むことはしない。本当にそういうところは変わらない。そりゃ、以前はそれが寂しいとか思ったけど、付き合うようになってからそれでいいと思う自分がいる。それの距離感が俺と大我にちょうどいいと思うんだ。それは俺が他人に興味
Last Updated: 2025-11-11
Chapter: 第35話「ゆい、もう少しだけ我慢できるか?」 電話を終えた大我がそう聞いてきて、ボーっとしてた俺は意味が分からず大我をジッと見た。 「あーっ、部屋を移動したいんだ。だから甘えるのはもう少し我慢できるか?」 大我はどう思っただろう。俺が何も答えないのを…。 「着替えを持って、発情が暴走したときに使った部屋に行きたいんだ、だから大丈夫か?」 ボーっとしてる俺の前に立ち、そっと頭を撫でていく。俺はその手にスリってすり寄りながらも小さく頷いた。大我が移動する理由は間違いなく俺にあるだろうから。 感情に左右されて俺のフェロモンが濃度を変える。それは大我に対して途轍もなく毒になるもの。今の俺は間違いなく自分の感情が抑えきれずに爆発する。大我に甘えたら自分でも制御できなくなるほどヒドク濃いフェロモンを発した状態で発情が始まるだろう。大我はそれを危惧して先手を打とうとしてるんだ。 「じゃぁ、薬と着替えを持って移動しよう」 頷いた俺に大我は笑いながら額にキスをくれた。それがあまりにも突然で、しかも自然な流れでやっていったから俺は驚いて額を押さえて大我を見ちゃった。 「唯斗が向こうの部屋まで我慢できるようにおまじない」 なんて、笑いながら頭を撫でてくれた。 「…逆効果…になりそうです…」 今しゃべると間違いなく俺は泣くかもしれない。そんな状態だった。だから声が思いっきり掠れた。 「だから、急いで準備していこう」 それをわかってるのか大我は急いで準備をしていく。でも俺は動けずその場所に留まったままだった。で、気が付いたら俺はいつの間にか部屋を移動してた。 「あれ?」 意味が分からなすぎて変な声が出た。 「もう、我慢しなくていいから」 俺の両頬を大きな手で包み視線を合わせながら大我に言われて 「っ、たい、がぁ」 俺は大我に抱き着いた。俺の勢いがよすぎて大我を床に押し倒すことになったけどそんなことを気にする余裕もなくて俺は大我に抱き着いたままで大泣きをした。 ショックだったんだ。内藤さんに言われた言葉、実の両親が金のために俺を連れ戻そうとしてること、どれも俺にはヒドク悲しい現実だった。 やっぱり俺は捨てられたんだって再確認した。再認識しざるおえなかった。俺はあの人たちにとって邪魔な存在だったんだ。最初からいらないやつだったんだ。そう考えたら止まら
Last Updated: 2025-11-06
Chapter: 第34話施設の入り口まで三枝さんが見送りに来てくれたから俺は 「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」 三枝さんに声をかけて外へと出た。このまま車に乗って送ってもらえばいいんだよなって思って大我に声を掛けようとして口を開いたとき 「ゆい、唯斗くんでしょ?」 「唯斗だよな?」 そんな声が聞こえた。声がした方を見れば男女二人がこっちへ駆け寄ろうとしていた。その瞬間、イヤな記憶が蘇ってきた。 あの、雨の降る日の出来事。車で転寝をしてる間にこの施設の前に捨てられた時の記憶。あの雨の夜の記憶が…。 「っ、ぁ、」 俺が大我を呼ぼうとするよりも早く俺の身体は大我の腕の中へと抱きしめられていた。 「大丈夫だ、大丈夫だから深呼吸をするんだ」 耳元で囁かれる言葉。自分がまた呼吸の仕方を忘れてるんだってことに気が付き、言われたとおりに深呼吸を繰り返した。 「なんですかあなたたちは?」 俺の異変に気が付いてゆきママが2人に声をかけた。 「あんたたちこそなんだ?」 「その子は私たちの子よ!返して!」 2人はゆきママの言葉に怒鳴り返してきた。 「知ってる人か?」 2人に聞こえるようにわざと大我が俺に聞いてくる。大我がまだ怒ったままだからこそ、わざとやってるんだって俺にはわかった。 「ごめん、俺にはわかんない」 だから俺もそれに答えた。知らない人だと。 「嘘よ、そう言えって言われてるのよね?」 「俺たちの事がわからないわけないだろ?」 2人が俺の掴みかかろうとするが、それを遮るようになおパパとまさパパが前に立ち、大我が俺を自分の後ろに隠す。 「本人が知らないと言ってるんだ」 「本当にわからなんだろ?」 パパたちの言葉に 「うるさい!お前たちには関係ないことだ。なぁ唯斗」 「そんなところにいないで母さんの所へいらっしゃい。帰りましょう」 2人がそんなことを言ってくるけど、俺にはその言葉は届かない。心に響かない。 「誰が誰の母で誰が誰の父だって?」 自分でも驚くほど低い声が出た。 「誰って俺が唯斗の父親じゃないか忘れたのか?」 「そうよ、私があなたの母親じゃない」 俺の言葉に2人が言い返してくるけど、 「5歳にも満たない自分の子供を雨が降る夜に捨てるような人が俺の両親だって?」 俺はそんな2人にそれが親だと言えるのかと聞いてみた
Last Updated: 2025-10-26