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第78話

Penulis: またり鈴春
last update Terakhir Diperbarui: 2025-05-28 08:42:35

 どうぞ――とココアを出した私に、玲央さんは間髪入れずにこんなことを言った。

「皇羽が Ign:s のメンバーとして正式にデビューする」

「……え」

 それは思っても見なかった話で、一気に頭が真っ白になる。

 皇羽さんがデビュー?

 アイドルになるってこと?

 何それ、まさかの冗談じゃ――と僅かな望みをかけて口を開きかけた私に、玲央さんは淡々と告げた。

「会社からの通達だ。誰も覆せない。ただ唯一、皇羽だけが渋っている。マネージャーとメンバーが、いま必死に宥めているよ」

「……玲央さんはどうなんですか?」

「俺?」

「嫌じゃないんですか?」

 発作も出ず体力が続く限りは歌って踊れる皇羽さん。発作が出そうになったらステージを降りるしかない玲央さん。羨ましい代わってくれと、玲央さんが悲しくなる時間が増えるのではないか? そんなことを思った。

「俺は……」

 私の問いに、玲央さんは閉口する。無言でマグカップを手に取り、ふーと水面を僅かに波立たせた。次にコクリと静かに喉仏が上下する。

 とんでもなく綺麗な所作だ。まるでどこかの王子様みたい。

 そして、この王子様みたいな顔を、皇羽さんも持っている。歌も歌える、ダンスも踊れる。ルックスも申し分ないほど完璧――

 アイドルになりうる条件をすべて満たした、完璧な人。

 それが皇羽さんなんだ。

 むしろ、アイドルにならない理由がない。アイドルになるべくして生まれた人なのでは?と、そんなことさえ思う。

 だけど、拍手喝さいというわけにはいかない。玲央さんの気持ちだって大事にしたい。

 玲央さん、あなたは〝アイドルになる皇羽さんのこと〟をどう思っているの?

 すると玲央さんがカップを置く。

 そして思ったよりも明るい口調でこう言った。

「俺は大歓迎だよ。これでやっと正式に戦うことができるからね」

「戦う? 誰と?」

「もちろん皇羽とだよ」

 訳が分からなくて、首を傾げる。

 すると玲央さんは「俺はね」と笑いながら話した。

「そろそろハッキリさせたかったんだ。俺と皇羽、どっちが本物のアイドルなのかって」

「本物って、どういう……」

「白黒つけたかった。ただ、それだけだよ」

 コクリと、またココアを口に運ぶ。

 笑っていた口は、いつの間にか真一文字に閉まっていて。少しずつ、悔しそうな表情へ変わっていく。

 そして次の瞬間。

 とんでも
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    ◇ どうぞ――とココアを出した私に、玲央さんは間髪入れずにこんなことを言った。「皇羽が Ign:s のメンバーとして正式にデビューする」「……え」 それは思っても見なかった話で、一気に頭が真っ白になる。 皇羽さんがデビュー? アイドルになるってこと? 何それ、まさかの冗談じゃ――と僅かな望みをかけて口を開きかけた私に、玲央さんは淡々と告げた。「会社からの通達だ。誰も覆せない。ただ唯一、皇羽だけが渋っている。マネージャーとメンバーが、いま必死に宥めているよ」「……玲央さんはどうなんですか?」「俺?」「嫌じゃないんですか?」 発作も出ず体力が続く限りは歌って踊れる皇羽さん。発作が出そうになったらステージを降りるしかない玲央さん。羨ましい代わってくれと、玲央さんが悲しくなる時間が増えるのではないか? そんなことを思った。「俺は……」 私の問いに、玲央さんは閉口する。無言でマグカップを手に取り、ふーと水面を僅かに波立たせた。次にコクリと静かに喉仏が上下する。 とんでもなく綺麗な所作だ。まるでどこかの王子様みたい。 そして、この王子様みたいな顔を、皇羽さんも持っている。歌も歌える、ダンスも踊れる。ルックスも申し分ないほど完璧―― アイドルになりうる条件をすべて満たした、完璧な人。 それが皇羽さんなんだ。 むしろ、アイドルにならない理由がない。アイドルになるべくして生まれた人なのでは?と、そんなことさえ思う。 だけど、拍手喝さいというわけにはいかない。玲央さんの気持ちだって大事にしたい。 玲央さん、あなたは〝アイドルになる皇羽さんのこと〟をどう思っているの?  すると玲央さんがカップを置く。 そして思ったよりも明るい口調でこう言った。「俺は大歓迎だよ。これでやっと正式に戦うことができるからね」「戦う? 誰と?」「もちろん皇羽とだよ」 訳が分からなくて、首を傾げる。 すると玲央さんは「俺はね」と笑いながら話した。「そろそろハッキリさせたかったんだ。俺と皇羽、どっちが本物のアイドルなのかって」「本物って、どういう……」「白黒つけたかった。ただ、それだけだよ」 コクリと、またココアを口に運ぶ。 笑っていた口は、いつの間にか真一文字に閉まっていて。少しずつ、悔しそうな表情へ変わっていく。 そして次の瞬間。 とんでも

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