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第9話

Author: 匿名
朱音は激しく体を揺さぶられ、薄れゆく意識を取り戻した。

冷たい手錠をはめられた両手を見つめる彼女の瞳には、悲しみも喜びも浮かんでいなかった。

部屋では数人の取調官が東と話し込んでおり、麗奈と桂子は部屋の隅に身を縮め、いつものように威張ることもできずにおとなしくしていた。

話が終わると、担当者たちは外へ出て待機した。

東は朱音に歩み寄り、その体を抱きしめて耳元で囁いた。

「朱音、先方とは話をつけた。お前が素直に罪を認め、追加の賠償金も支払ったから、松本工場長たちも厳しい処分は求めないと言ってくれたよ。反省室で3日過ごすだけでいい。

出てくる日は、ちょうど俺たちが式を挙げる日だ。その時は新しい服を着て、家族みんなで仲よく暮らそう。怪我も診てもらった。3日くらいなら問題ないし、反省室にいれば安静にできるさ」

その言葉を聞いても、朱音の瞳は少しも動かなかった。

目の前にいる男の恥知らずな本性は、初めからこうだったのだ。それを見抜けなかった自分を、朱音はただ深く憎んだ。かつて本気で東を愛していたことさえ、今の彼女には許しがたい事実だった。

取調官に引かれて庭を出ようとした時、朱音は不意に立ち止まり、振り返って東に問いかけた。

「東、私と結婚すると約束した日、あなたが誓ったことを覚えてる?」

その言葉に、東は息を呑んで言葉に詰まった。

あの日、朱音に大学進学の機会を麗奈へ譲らせるため、東は彼女と結婚すると約束し、一生守り続けるとも誓ったのだ。あの時は、確かに本心だった。だが、今は……

東が何か言い訳をしようとした時には、朱音はすでに連れていかれた後だった。

誰もいなくなった庭には、継ぎ当てだらけの古い服が数着、寂しげに風に揺れている。中でも、真っ二つに切り裂かれたあの服はきれいに洗われていたが、切れたものが元に戻ることはない。いくら縫い合わせても、醜い縫い目が残るだけだった。

調査室で記録を読み終えた担当者は、朱音を見て深くため息をついた。

「松本工場長の証言によると、君は班長を務めていた頃、技術も管理能力も非常に優れていたそうじゃないか。それなのに、どうして目先の金に目がくらんで、防寒着を横流しするような真似をしたんだ?」

朱音は反論しなかった。

唇が微かに震え、心臓が異常な速さで脈打っており、声を出すことさえできなかった。額には細かな冷や汗が浮かんでいる。

薄暗い照明の下で、担当者は朱音のそんな異変に気づくこともなく、そのまま彼女を反省室へ入れた。

重い鉄の扉が閉まり、深い闇が朱音を包み込んだ。

突然、心臓を引き裂かれるような激痛が走り、朱音は口から何度も大量の血を吐き出した。だが、冷たい密室でそれに気づく者は誰もいなかった。

3日後。

妙な胸騒ぎを抑えきれないまま、東は朱音が拘束されている施設へ向かった。

この日のために、流行の新しい服を何着も買い、真新しいツル印の高級自転車も用意した。これだけ贈れば、きっと朱音も許してくれるはずだ。東は心の中で何度もそう言い聞かせ、ようやく落ち着きを取り戻した。

東は麗奈がすり寄ってくる手を振りほどき、自分の服装を整えた。拒絶された麗奈は嫉妬を滲ませ、拳を強く握りしめながら、胸の内で朱音を口汚く罵り続けた。

2人の後ろを歩く桂子も、不満そうにぶつぶつと文句を言っている。

「ずいぶん大層なお迎えだね。反省室から出てくるだけなのに、私たち3人を揃って迎えに来させるなんてさ」

東が苛立たしげに一喝すると、桂子は渋々口を閉ざした。

やがて、施設の奥から職員が出てきた。

東は急いで歩み寄り、声をかけた。

「結城朱音を迎えに来ました」

職員たちは顔を見合わせると、重く沈んだ口調で告げた。

「笹川さん、残念ですが……結城朱音さんは鈍器で激しく殴られたにもかかわらず、適切な治療を受けていませんでした。そのため容体が急変し、係の者が気づいてすぐ病院へ搬送しましたが、死亡が確認されました」

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