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第11話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第348話
静雄の顔色はますます険しくなった。わずか数日入院しただけで、会社がここまで大きく変わってしまうとは思ってもみなかった。彼は部屋の中を行ったり来たりしながら、怒りに燃えた。心のどこかで、この件には深雪が絡んでいると感じていた。夜、静雄が家に戻ると、芽衣がソファに座ってテレビを見ていた。「お帰りなさい」芽衣は立ち上がって迎え、心配そうに尋ねた。「今日はどう？ 少しは良くなった？」「まあ」静雄は淡々と答えた。頭の中は会社のことばかりで、芽衣にかまっている余裕はなかった。「今日ね、会社のことを少し耳にしたの......」芽衣は探るように言った。「あまり順調じゃないみたい」「うん」静雄は気のない返事をした。「聞いた話だと、深雪が裏で動いてるらしいわ」芽衣はおそるおそる続けた。「今は延浩と手を組んで、松原商事のシェアを奪おうとしてるみたい」静雄の顔が険しくなった。「あいつ、よくも！」「静雄、そんなに怒らないで。体に障るわ」芽衣は慌ててなだめた。「私が力になるから、一緒に対抗しましょう」静雄は何も答えず、ただソファに腰を下ろし、沈思に沈んだ。一方そのころ、深雪の会社は勢いよく発展していた。彼女は毎日、足が地に着かないほど忙しかったが、その顔には常に自信に満ちた笑みが浮かんでいた。「最近ほんとに頑張りすぎだよ」遥太は彼女を見て、少し心配そうに言った。「休まなきゃだめだ」「大丈夫、若いから持つわ」深雪は笑って答えた。「今は会社の発展にとって大事な時期、気を抜けないの」「そういえば、静雄が退院したって聞いたよ」遥太は何気なさそうに口にした。「ふうん」深雪は淡々と返事をした。特に関心を示すこともなかった。「彼、このところ気分がすごく沈んでて、会社もめちゃくちゃみたいだ」遥太は続けた。「それは彼自身の問題よ」深雪は言った。「私たちは自分の仕事をしっかりやればいい」「その通りだな」遥太はうなずいた。「外のことに振り回されちゃいけない」夜、延浩が深雪の住まいを訪ねてきた。「ご飯を持ってきたよ」延浩は笑顔で言った。「最近頑張ってるから、ちゃんと栄養を取らなきゃ」「ありがとう」深雪は夜食を受け取り、胸に温かさが広がった。「最近どう？」延浩は心配そうに尋ねた。「顔色があまりよくないけど」「平気よ、ちょっと
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第347話
週末、延浩は深雪を連れて墓地へ寧々に会いに行った。「寧々、ママが会いに来たよ」深雪は墓碑の前にしゃがみ込み、そっと写真に触れながら、止めどなく涙を流した。延浩は横に立ち、黙って深雪を見つめ、胸の奥が締めつけられるような痛みに満たされた。彼は静かに深雪の肩を抱き、言葉のない慰めを送った。二人は墓地で長い時間を過ごし、夕陽が沈むころになってようやく名残惜しそうに立ち去った。帰り道、二人が病院の前を通りかかると、廊下を散歩している静雄と芽衣の姿が目に入った。静雄の顔色はまだ少し青白いものの、ずいぶん元気を取り戻していた。芽衣は彼のそばに寄り添い、二人はとても親密そうに見えた。深雪はその光景を目にして、胸の内が複雑にかき乱された。自分でもわからない。悲しいのか、それとも安堵なのか。延浩は深雪の変化に気づき、彼女の手をぎゅっと握りしめた。静雄もまた、深雪と延浩に気づいた。ほんの一瞬、立ち尽くし、心の奥底から説明のつかない切なさが込み上げてきた。なぜなのかわからない。もう深雪を愛していないはずなのに、彼女が他の男と一緒にいるのを見ると、どうしようもなく不快になる。芽衣も静雄の異変に気づき、表情を変えずに彼の手を強く握りしめた。その目には一瞬、冷たい光が走った。一方、大介は会社に戻り、財務資料の整理に取りかかった。すると、最近の会社の損失が大きく、いくつかの帳簿に不審な点があることに気づいた。誰かが裏で不正を働いているのではないかと彼は疑った。延浩は深雪を連れて海辺へ気分転換に出かけた。二人は砂浜を歩き、海風に吹かれながら会話を交わしていた。「最近は元気か？」延浩は気遣わしげに尋ねた。「ええ」深雪は微笑んだ。「そっちは？傷はまだ痛む？」「もう痛くない」延浩は答えた。「君が看病してくれたおかげだ」「君にはたくさん助けてもらったんだから、互いに支え合うのは当然よ」深雪は言った。延浩は深雪を見つめ、心の中が愛おしさで満ちていった。もし、このまま彼女のそばにいられるなら、それだけで十分だと思った。一方、静雄の病状は快方に向かい、退院した。しかし、彼の気持ちはますます沈み込み、まるで世界から見放されたように孤独で無力だった。芽衣は表向きは静雄を気遣いながらも、内心ではより大きな陰謀を巡らせて
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第346話
「どんな噂だ？」静雄は眉をひそめて尋ねた。「その......社長の命が長くないんじゃないかって......」株主は言いにくそうに答えた。「馬鹿げてる！」静雄は怒声を上げた。「俺は元気だ！」「そうですか、それなら安心しました」株主は慌てて取り繕った。「ですが、会社の安定のためにも、できるだけ早く復帰していただきたいのです」「分かった。なるべく早く戻る」静雄は冷たく答えた。怒りで顔を真っ青にしながら、携帯をベッドに投げ捨てた。一体誰がこんな根も葉もない噂を社内に広めたのか！？天井を見上げながら横たわっていると、会社のことが複雑に絡み合った糸のように頭を乱していく。その横で芽衣はリンゴを剥きながら、間を持たせるように声をかけた。「静雄、もう何日も寝てるけど、退院はいつになりそう？」その声は羽毛のように柔らかく、くすぐるように静雄の胸をかすめた。「医者は、あと数日は様子を見るってさ」気力もなく答える静雄。今はただ一人静かにしていたい。「でも、会社のことはどうするの？あなたがいないと、色々滞ってしまうわ」芽衣は何気ないふうを装って言った。「大介が処理してる」静雄は目を閉じ、何も考えたくなかった。「でもね、最近会社の業績があまり良くないって聞いたの。株主たちも不満を持ってるみたい」心配そうに告げるその声には、わずかな企みが滲んでいた。静雄ははっと目を見開き、身を起こした。「どういうことだ？株主たちが何か言っているのか？」「私も人づてに聞いただけよ......。どうも、あなたの体調を心配して、経営に支障が出るんじゃないかって......」静雄の顔はみるみる暗く沈んでいった。まさか自分の入院が、ここまでの波紋を呼ぶとは。「分かった」彼は冷たく言い放った。計画は、もう半分成功した。一方その頃、延浩は数人の松原商事の株主と会食していた。「江口社長もご存じでしょう。松原社長は体調が思わしくなく、会社の仕事が滞っているんです」「そうなんです、江口社長。あなたの業界での評判は誰もが知るところ。お力添えいただければ、感謝してもしきれません」延浩は穏やかに笑い、「ご安心ください。私もできる限り尽力します」と答えた。その頃、深雪の会社は順調に成長を遂げており、彼女は日々多忙を
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第345話
「静雄、どうしたの？どうしてこんなにきつくするの？」「もう俺を煩わせるな」芽衣の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。まさか静雄がこんなに冷酷になるとは思っていなかったのだ。彼女は泣きながら病室を飛び出していった。大介はその背中を見送り、深く息をついた。ベッドに近づき、静雄に声をかけた。「社長、どうか落ち着いてください。芽衣様もあなたを心配しているのです」腹は少し空いていたが、何を口にしても味がしない。苛立ちのあまり静雄は怒鳴った。「お前も出ていけ！」大介は思わず目を白黒させた。これまでずっと仕えてきて、功績がなくても苦労は山ほどしてきた。それなのに、この仕打ち。心底冷え込む思いだった。「......分かりました。どうぞごゆっくりお休みください」そう言って病室を出ると、静かにドアを閉めた。静雄はベッドに横たわり、閉じられるドアの音を聞きながら、胸に虚しさが広がっていった。病気のとき、いつもそばで甲斐甲斐しく看病してくれた深雪を思い出した。今の自分の周りには、本気で気にかけてくれる人間は誰一人いない。大介を追い払ったことを少し後悔した。だが、後悔したところで何になる。もう取り返しはつかないのだ。その頃、延浩は静雄が入院したという噂を耳にし、胸に不安がよぎった。心配しているのは静雄ではなく、深雪のことだ。彼は深雪の住まいを訪ね、台所で忙しく立ち働く姿を目にした。「深雪、何をしてる？」「ご飯を作ってるの」深雪は振り返って笑った。「お腹空いたでしょ？すぐできるから」「腹は減ってないよ」延浩は言った。「静雄が入院したって。君は......」「私は大丈夫」深雪は彼の言葉を遮った。「私には関係ないわ」軽やかに笑ってみせると、まるで心にかけていないようだった。「さあ、早く手を洗って。ご飯にしましょ」「......ああ」延浩はうなずき、手を洗いに向かった。二人は一緒に食事をし、その後ソファで寄り添いながらテレビを見た。一方、芽衣はどうにも収まらない気持ちを抱え、ささやかな仕返しを思いついた。会社に戻ると、静雄の体調について根も葉もない噂を広め始めたのだ。「聞いた？社長、入院したらしいわよ」「うん。胃から出血したんだって」「実は前から身体はボロボロだったら
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第344話
「疲れた。少し休みたい」静雄は目を閉じ、退室命令を下した。芽衣は涙を拭い、仕方なく名残惜しそうに何度も振り返りながら病室を後にした。大介が戻ってきたときには、芽衣の姿はもうなかった。ベッドに横たわる静雄を見て、彼は心の中でため息をついた。会社の仕事だけでも手一杯なのに、さらに静雄の世話までさせられるとは、まったくついていない。「大介、どこへ行ってた？ずいぶん遅かったな」静雄は目を開け、じろりと見て問いかけた。「食べ物を買いに行ってました」大介は持っていたテイクアウトのおかゆをベッド脇に置いた。「先生から、当面は流動食しかダメだと言われましたので、おかゆを買ってきました」静雄は一瞥して眉をひそめた。「こんなの食えるか。まずすぎる」「何がよろしいですか？買いに行きます」大介は辛抱強く尋ねた。「俺は......」静雄は言いかけ、ふと昔を思い出した。病気のとき、いつも深雪がそばで看病してくれていた。あの頃は彼女の作る料理を好んではいなかったが、実際は香ばしく、美味しかったのだ。「やっぱり、もういい。食べない」静雄は苛立たしげに吐き捨てた。「召し上がらなければ体に障ります」大介は諫めた。「それなら、芽衣様に持ってきてもらいましょうか？」「彼女自身も体が弱いんだ。呼びつけたところで、余計に気が滅入るだけだろ」思わぬ言葉に、大介は一瞬言葉を失った。まさか静雄が芽衣についてそんなことを口にするなんて。「怒らないでください。水を持ってきますね」そう言って背を向けかけたとき、静雄が彼女を呼び止めた。「芽衣を呼んでこい！」「え？」大介は面食らった。「先ほど、ご自分で休ませろと......」「さっさと芽衣を呼んでこい！」大介は内心で何回もこの男を殺そうとしたが、部下として従うしかなかった。それにしても、この男は深雪の髪の毛一本にも及ばない。結局大介は再び電話をかけ、芽衣を呼び戻した。電話を受けた芽衣は心の中で得意げに笑った。やっぱり、静雄は私なしでは生きられない。わざと時間をかけ、悠然と病室へ戻った。「静雄、私を呼んだの？」部屋に入ると、ベッドに横たわる静雄の顔は陰鬱だった。「どこへ行ってた？なぜこんなに遅い！」「私は......」芽衣は言
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第343話
深雪は優しい表情を浮かべる延浩を見つめ、胸の奥に温かいものが広がった。もし自分がもっと早く延浩に出会えていたら、どんなによかっただろう。でも、このような考えはあまりにも単純だ。だからこそ、いま自分にできるのは、目の前の人を大切にし、延浩と共に生活を楽しむことだ。買い物を済ませて家に戻ると、延浩はキッチンに立ち、料理を始めた。深雪はリビングのソファに腰を下ろし、忙しそうな延浩の姿を見つめて幸福感に包まれた。時おりこうして延浩と一緒に、穏やかで平凡な日々を過ごす、それだけで十分幸せなのだと彼女は思った。その頃、静雄は自宅に戻り、冷え切った部屋の空気に苛立ちを覚えていた。かつて深雪がいた頃は、家の中は常に清潔で、どこか温もりがあった。だが今は冷え冷えとした空間に、死んだような気配しかなかった。ソファに腰を下ろした静雄は、初めて自分の選択を疑った。芽衣と一緒になると決めたのは、果たして正しかったのか、それとも間違いだったのか。酒席では、グラスが行き交い、賑やかな声が飛び交っている。静雄はにこやかな笑顔を貼りつけ、そつなく応じていたが、心の中はとうにうんざりしていた。「松原社長、このプロジェクト、ぜひご贔屓に！」腹の出た中年男がグラスを掲げ、愛想笑いを浮かべて近づいてきた。「鈴木社長の会社に実力があるなら、優先的に考えますよ」静雄は杯を軽く合わせ、そっけなく答えた。「それはありがたい！」中年男は一気に飲み干し、満面の笑みを浮かべた。静雄も一口含んだが、胃がかき回されるように痛み、冷や汗がにじんだ。それでも必死に平静を装い、人々の間を立ち回った。どれほど時間が経ったのか、胃を鷲掴みにされたような激痛に、静雄はついに耐え切れなくなった。視界が真っ暗になり、そのまま床に崩れ落ちた。「松原社長！松原社長！」周囲が一斉にどよめき、場は騒然となった。騒ぎを聞きつけた大介は慌てて人波をかき分け、倒れた静雄を見て顔色を変えた。「救急車を呼べ！」叫びながら身をかがめ、容態を確認した。病院には消毒剤の匂いが漂い、静雄は蒼白な顔でベッドに横たわり、苦痛に眉を寄せていた。胃出血だった。入院治療が必要だと医師は告げた。「ご家族の方はいらっしゃいますか？」看護師が支払い伝票を手に近
