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第19話

Author: レイシ大好き
広い肩幅に引き締まった腰、流れるような筋肉のライン。スーツ越しでも彼の鍛え抜かれた体つきがわかる。

紗雪はふと清那の言葉を思い出した。

「うちの従兄のスタイル、顔、そしてまたスタイル......普通の男じゃ到底敵わないんだから!」

今こうして目の当たりにすると、清那の言っていたことは決して誇張ではなかった。

「何を考えてるんだ?」

京弥が朝食をテーブルに運び、彼女の向かいに座る。

紗雪は我に返り、慌てて首を振った。

「ううん。何でもない」

「飲め」

京弥は温めたミルクを差し出した。

「冷めないうちに」

紗雪はミルクを受け取り、一口飲みながら別のことを考えていた。

こっそり京弥を盗み見る。

心の中で密かに思う――この男、意外と魅力的かも。

温かいミルクが喉を滑り落ちる。

だが心の中には、別の思いが渦巻いていた。

結婚してすぐ、こうして男と朝食を共にするのは初めてだった。

たとえ三年間加津也と付き合っていても、彼の家に泊まったことすらなかった。

それなのに、今は意外にも心地よく感じている。

京弥が作った目玉焼きは絶妙な焼き加減だった。

黄身は黄金色に輝き、白身の縁は少しカリッとしている。

紗雪はパンを一口かじった。

ふんわりとしていて、ほのかに小麦の香りが広がる。

「美味しい?」

京弥が優しい眼差しで尋ねる。

「うん」

紗雪は頷き、思わず口元がほころんだ。

「気に入ったなら、これからも作ってあげる」

そう言いながら、京弥はナプキンを取り、紗雪の口元についたパンくずをそっと拭った。

紗雪の頬がほんのりと赤くなり、鼓動が速くなる。

朝食を終えたあと、京弥はテーブルを片付け、紗雪はソファに座って外の景色を眺めていた。

窓の外には車が行き交い、都市の喧騒が広がっている。

「今日の予定は?」

皿を洗い終えた京弥が、彼女の隣に腰を下ろした。

「まだ決めてない」

紗雪は彼の方を向く。

「京弥さんは?」

「君を買い物に連れて行きたい。それと、新居に必要なものも揃えようと思ってる」

そう言いながら、京弥は彼女の肩を引き寄せた。

「どう?」

「いいよ」

紗雪は頷いた。

ほどなくして、二人は車で近くのショッピングモールへ向かった。

紗雪は買い物にあまり興味がなかったが、京弥は終始楽しそうだった。

彼は紗雪
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