共有

第400話

作者: レイシ大好き
張り詰めた空気の中、初芽が突然口を開いた。

「おじさん、おばさん、ご迷惑をおかけして本当にすみません。全部、私のせいです」

「すぐに出ていきます。自分の立場くらいはわかってますから」

その言葉を聞いた瞬間、加津也は突然取り乱した。

「ダメだ!」

だが初芽は彼の制止を聞かず、加津也をすり抜けようとした。

それを見た加津也は、初芽の手を強く握り、離そうとしなかった。

それは彼にとって、初めての焦りだった。

今手を離してしまったら、初芽はもう戻ってこない。

そんな気がしてならなかった。

諦めきれなかった。

ただ恋を貫こうとしてるだけなのに、これのどこが悪い?

西山家の両親は黙って、息子の手元をじっと見つめていた。

母親は冷や汗をかきながら緊張していた。

まさか父親の目の前で、息子がこんなにも強気に出るとは思わなかった。

加津也は一体、何を考えているのか?

西山グループの後継者としての地位、もういらないのか?

母親は内心、非常に不安だった。

もしこの件が原因で、加津也が会社を継げなくなったら。

その先、彼はどう生きていくつもりなのか?

この巨大な西山グループを、誰に託せばいいのか?

考えれば考えるほど、母親の頭は痛んだ。

この子はいったい、どうしてこんなにも変わってしまったのだろう?

以前は、こんな反抗など決してしなかったのに。

父親は加津也を見ながら、鼻で笑った。

「お前、本気で思ってるのか?西山グループを離れたお前が、何の価値があるんだ」

「ここまで言っても、まだわからないのか」

「俺は......」

父親の一言が、まるで夢から覚めるように彼の目を覚ました。

そうだ。

たとえ自分が継がなくても、代わりはいくらでもいる。

自分だけが唯一の選択肢じゃない。

こんなくだらないことで拗れて、一体誰に何を見せようとしているんだ?

その瞬間、加津也の心に迷いが生まれた。

母親はさらに畳みかけた。

「加津也、よく考えて。お父さんの言う通りよ。一人の女性のためにそこまでする価値、ある?バカな真似はしないで!」

初芽は唇を強く噛みしめていた。

自分でもどれだけの力で感情を抑えていたのか、わからない。

もしも加津也が今も手を握っていなかったら、彼女はとっくにこの場を飛び出していた。

加津也には責任感が欠けている。
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第402話

    だからこそ、彼は初芽にちゃんと謝ろうと思った。一度だけでもチャンスをくれれば、必ず償う。金でも他のことでも、なんだって構わない。しかし、どれだけ電話をかけても、相手は一向に出ようとしなかった。その瞬間、加津也は完全に混乱し始めた。最初はただの演技だと思っていた。初芽が自分から「出ていく」なんてことのも、ただのポーズだと。だが、時間が経つにつれて、何かがおかしいと気づき始めた。初芽は......本気で自分と別れるつもりなのか?そうでなければ、なぜずっと電話を無視する?一体どういうことだ。加津也の額には、じわじわと汗が浮かんでいた。このとき彼は、本当の意味で焦り始めた。この時間一緒に過ごしてきて、彼ははっきりと自覚した。初芽なしでは、生きていけない体になっていた。彼女を失うことは、命を取られるのと同じだ。これまでのことを思えば、今や初芽の存在は、紗雪以上の重みを持っていた。加津也は拳をぎゅっと握りしめた。何があっても、絶対に初芽を手放さない。絶対に、自分の手のひらの中から逃げさせない!......初芽が西山家を出たとき、一瞬だけ、どこへ行こうかと迷った。だがすぐに思い直した。自分の手元には十分なお金がある、どこにでも行ける。ここ数日、加津也はなぜか異常に優しかった。暇さえあればお金を振り込んできた。そのことを思い出すと、初芽は心の中で笑いが止まらなかった。西山家を出るのも、最初から計画のうち。今の加津也は、彼女に夢中だ。彼女には確信があった。加津也は必ず自分を探しに来る。今日の出来事も、すべてはそのため。この男はただ、会社と女の間で迷っていただけ。どちらを選ぶべきか決めかねていた。だったら、彼女が背中を押してやる。どうせ最終的には、彼は戻ってくる。初芽には、それだけの自信があった。ブーッ、ブーッ......案の定、加津也から電話がかかってきた。初芽は赤い唇を吊り上げ、加津也という名前が画面で何度も点滅しているのを見つめた。スマホのバイブは止まる気配を見せない。だが、彼女にそれを取るつもりはなかった。今は、あの男に罪悪感を感じさせる時だ。天下と女、どちらを取るか。この問題には、昔から完璧な答えなんて

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第401話

    実は、初芽が彼の代わりに決断したわけじゃない。決めたのは、彼自身だった。初芽が去った後、加津也もようやく自分の本心に気づいた。「ふん。家柄も後ろ盾もない女なんて、何をそんなに気にする必要があるというのだ」そう吐き捨てると、西山父は加津也を無視してそのまま書斎に戻っていった。西山母の顔にも、いつものような美しさと気品が戻り、まるで何事もなかったかのように軽やかな様子を見せていた。「ほら、もう行っちゃったんだから、いつまでそこに突っ立ってるつもり?」西山母は呆れたように目を回した。この子、一体誰に似たのかしら。少なくとも自分には似てない。何かあるとすぐに引いてしまう、その性格が情けない。たしかに自分は、会社を選んでほしいとは思っていたけど、さっきの彼の煮え切らない態度は、どちらも手に入れようとしているのが見え見えだった。そんな優柔不断な男、たとえ我が子でも好きになれない。むしろ、もし本気で一つに決めていたら、少しは見直していたかもしれない。加津也は母の言葉を聞いて、さらに胸が苦しくなった。初芽を追いかけたい衝動を必死に押さえ込みながら、西山母を見つめ、歯を食いしばって言った。「全部......全部お前らのせいだ」「無理やり決断を迫らなければ、俺と初芽が別れることなんてなかった!」「へえ、じゃあ追いかけてきたら?」西山母は腕を組み、じっと息子を見据えた。「会社を捨てる覚悟があるなら、お父さんには私から話してあげる」「その代わり、今後あなたが何をしようが、西山家とは一切関係ない」「外で西山家の若様なんて名前を使って偉そうにすることも、もう許さないわ」喜ぶ暇もなく、加津也の退路はその言葉ですべて断たれた。今の目標は、ただ一つ。西山家を継ぐこと。会社さえ手に入れれば、初芽のことなんて......そのときになれば誰も口出しできない。「わかったよ、母さん......」加津也は頭を下げ、屈服したような声でそう言った。けれど西山母は、その態度の裏にある思惑をしっかりと見抜いていた。自分の腹を痛めて産んだ子だ。何を考えているかなんて、母親にはすぐにわかる。「もういいから。仕事に戻りなさい。そこに立ってるだけで邪魔」そう言って、西山母は立ち上がり、息子の脇を通

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第400話

    張り詰めた空気の中、初芽が突然口を開いた。「おじさん、おばさん、ご迷惑をおかけして本当にすみません。全部、私のせいです」「すぐに出ていきます。自分の立場くらいはわかってますから」その言葉を聞いた瞬間、加津也は突然取り乱した。「ダメだ!」だが初芽は彼の制止を聞かず、加津也をすり抜けようとした。それを見た加津也は、初芽の手を強く握り、離そうとしなかった。それは彼にとって、初めての焦りだった。今手を離してしまったら、初芽はもう戻ってこない。そんな気がしてならなかった。諦めきれなかった。ただ恋を貫こうとしてるだけなのに、これのどこが悪い?西山家の両親は黙って、息子の手元をじっと見つめていた。母親は冷や汗をかきながら緊張していた。まさか父親の目の前で、息子がこんなにも強気に出るとは思わなかった。加津也は一体、何を考えているのか?西山グループの後継者としての地位、もういらないのか?母親は内心、非常に不安だった。もしこの件が原因で、加津也が会社を継げなくなったら。その先、彼はどう生きていくつもりなのか?この巨大な西山グループを、誰に託せばいいのか?考えれば考えるほど、母親の頭は痛んだ。この子はいったい、どうしてこんなにも変わってしまったのだろう?以前は、こんな反抗など決してしなかったのに。父親は加津也を見ながら、鼻で笑った。「お前、本気で思ってるのか?西山グループを離れたお前が、何の価値があるんだ」「ここまで言っても、まだわからないのか」「俺は......」父親の一言が、まるで夢から覚めるように彼の目を覚ました。そうだ。たとえ自分が継がなくても、代わりはいくらでもいる。自分だけが唯一の選択肢じゃない。こんなくだらないことで拗れて、一体誰に何を見せようとしているんだ?その瞬間、加津也の心に迷いが生まれた。母親はさらに畳みかけた。「加津也、よく考えて。お父さんの言う通りよ。一人の女性のためにそこまでする価値、ある?バカな真似はしないで!」初芽は唇を強く噛みしめていた。自分でもどれだけの力で感情を抑えていたのか、わからない。もしも加津也が今も手を握っていなかったら、彼女はとっくにこの場を飛び出していた。加津也には責任感が欠けている。

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第399話

    まさか、家族の方を捨てるつもりなのか?「わ......忘れてない」加津也は父の顔色を見ることさえできなかった。外での名誉や地位は、すべて西山グループが与えてくれたもの。それは彼自身もよく分かっている。西山グループがなければ、自分は何者でもない。初芽は彼の言葉を聞いて、唇の端に苦笑を浮かべた。そうだ。最初から分かっていたはずだった。加津也が、西山家から得た名誉を捨てられるわけがない。今の彼のすべては、西山家がもたらしたものだ。西山グループと西山家を失えば、彼は何の価値もない。加津也が母親の方を見ると、やはり厳しい顔をしていた。その表情に、彼はますます自分が間違っていたと感じた。視線の隅で初芽を見ると、彼女の目尻は赤く染まっていた。その光景に、彼の心は強く揺さぶられた。初芽は自分がどん底にいた時も、ずっと傍にいてくれた女性だ。そんな彼女を、どうして両親の言葉だけで手放せるというのか?愛する人と一緒にいることが、そんなに悪いことなのか?西山父は鼻で笑い、「忘れてない?じゃあ、なぜその女と一緒にいるんだ」と冷たく言い放った。「自分が何を間違えたか、分かっているのか?」西山母も説得するように口を開いた。「加津也、お父さんの言うことを聞きなさい。その女とは縁を切るのよ」「彼女はうちにふさわしくないのよ。でも、心配しなくていいわ、お母さんがちゃんと相応しい女性を選んであげるから。どんなタイプでも揃ってるわよ!」初芽は唇をきつく噛み締めた。この瞬間、自分の尊厳が地面に叩きつけられたように感じた。まさか、目の前でここまで言われるとは思っていなかった。もし本当にこれから加津也と一緒になったとしても、祝福されることはないだろう。それどころか、陰でどれだけ言われることか。そもそも、最初は西山家の金と権力が目当てだったはず。でも今となっては、そんな思いさえ虚しく思える。これまで自分が耐えてきたことに、何の意味があったのかと。「父さん!」突然、加津也が大きな声を上げた。その場にいた全員が驚き、初芽も思わず顔を上げた。彼が何を言おうとしているのか、分からなかった。加津也は拳を固く握りしめ、首筋に青筋が浮かぶほどだった。「父さん、初芽は俺の愛する人なん

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第398話

    加津也はコクリと頷いた。「ありがとう」目には涙が浮かんでいて、本当に初芽の言葉に心を動かされたようだった。初芽はそんな様子を見て、少し軽蔑の表情を浮かべた。以前は気づかなかったけど、この男って思ったよりも騙されやすいんじゃない?ただ適当に何句か言っただけで、ここまで感動してくれるなんて......本当に面白い。初芽はお腹を軽くさすりながら、甘えるように言った。「お腹すいちゃった。一緒にご飯行こうよ」「ああ」加津也はすぐに立ち上がり、優しく初芽の頬にキスを落とし、そのまま洗面所へと彼女を連れて行った。こんなふうに扱われるのは、初芽にとって初めてのことだった。ちょっと戸惑うくらいに。というのも、以前紗雪がいた頃は、表向きは彼女に強気な態度をとっていても、裏ではこんなふうに優しく扱われたことはなかった。むしろ、今の加津也の態度は、まるで初芽と紗雪を比べているかのように思える。だから初芽は、加津也が本当に自分を愛しているわけではないと、いつも疑っていた。ただの比較対象にされてるだけじゃないかと。だからこそ、初芽は彼に本気の愛など期待せず、お金だけを目当てにしているのだった。二人が身支度を整えて階下に降りると、なんと西山父と西山母に鉢合わせしてしまった。二人とも、かなり機嫌の悪そうな顔をしている。この光景を見た瞬間、加津也は嫌な予感がして、心臓がドクンと鳴った。反射的に初芽の前に立ち、気まずそうに口を開いた。「父さん、母さん......どうして家に?」初芽は加津也の反応を見て、目を細めたが、最後まで何も言わなかった。やっぱり、自分は人に見せられない存在なんだ......ただ西山家にいるだけで、彼はこんなにも焦るなんて。だったら、最初からなんでここに連れてきたの?そんなこと、彼自身が一番分かってたはずなのに。でも初芽は、結局何も言わずに黙っていた。彼がどうやってこの状況を乗り切るのか、見てやろうじゃない。「ふん、隠さなくてもいい。お前があの女を家に連れてきたことくらい、とっくに分かってる」西山父は冷ややかな目で加津也を睨み、初芽に一度も視線を向けようとしなかった。最初はただの遊び相手だと思っていたが、こうして家にまで連れてくるということは、もしかして本気な

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第397話

    ただ、心の中では少し悔しさが残っていた。それに加えて、父親から何度も警告されていることもあって、今の加津也は正直、軽はずみな行動には出られなかった。どうしても、紗雪の背後には別の誰かがついている気がしてならない。そうでなければ、彼女が今の地位まで登りつめることなんてできないはずだ。何しろ、二川グループと彼の西山グループの実力はほぼ互角で、もし差があるとすれば、特定のプロジェクトで二川が少し優位に立つ程度だった。そんなことを思いながらも、加津也は初芽の問いにどう答えるべきか分からずにいた。初芽は彼の迷いに気づいていたが、それでも心の中では、何とかして彼を焚きつけて紗雪に立ち向かわせたいと考えていた。それができれば、大きく時間を節約できる。彼女自身の成長のために、もっと自分に時間とエネルギーを使いたかった。何にせよ、彼女と紗雪の間にある確執は、簡単に終わらせられるものではなかった。少し考えた末、加津也は説明を始めた。「今のうちの状況は君も知ってるだろう。親父の監視が厳しくて、ちょっとでも変な動きをしたらすぐにバレる。しばらくは大人しくしておいた方がいいんだ」加津也は初芽の表情をずっと観察していたが、彼女は特に大きな反応を見せることもなく、ずっと穏やかな顔をしていた。だが彼の見えないところで、初芽の指先は掌に深く食い込むほど力が入っていた。この男はいつもこうだ。言い訳ばかりで、どんなときも自分のことしか考えない。紗雪にあそこまでされても、まだ未練がましく思い続けている。挙句の果てには、父親を言い訳に使って逃げようとするなんて......本当に情けない。「分かった。気持ちは理解してるよ」初芽はさらに柔らかく微笑んで見せた。まるで何一つ怒っていないように。その健気な姿に、加津也の男としての自尊心は大いに満たされた。彼は初芽をぎゅっと胸に抱きしめ、満足げに笑みを浮かべた。こんなに自分を頼ってくれる女がいるなんて、まるで宝物を拾った気分だった。「安心して。もう少し時間が経ったら、必ず紗雪を懲らしめてやるから」初芽は気遣うように言った。「無理しないで。私はただ、ちょっと腹が立っただけ。彼女にあんなことされて、加津也が何も言わずに耐えてるのがつらくて。でも、加津也がいいならそれでい

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status