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第449話

Author: レイシ大好き
どれだけ厚かましいだろうと、美月が追い払おうとしているのはさすがに察した。

「わかりました、ではゆっくり休めてください。今度またお時間のある時に伺います」

美月は「うん」とだけ答え、それ以上何も言わなかった。

辰琉が目的を持って来ていたと知ってから、彼女の興味は一気に失せてしまったのだ。

「送っていきなさい、緒莉」

緒莉は嬉しそうに返事をして、辰琉と一緒に玄関へと向かった。

家を出ると、辰琉は我慢できずに口を開いた。

「緒莉、あの人は一体どういう意味だ」

「ふーん、今さら本性出すんだ?家の中じゃ『お義母さん』って連呼してたくせに」

緒莉の皮肉混じりの言葉に、辰琉の顔色は一気に曇った。

「そんな言い方しなくてもいいだろ?」

辰琉は拳を握りしめながら言った。

「ちゃんと話し合おう?」

緒莉はあっさりと頷いた。

「わかった。じゃあ教えてよ。なんで安東家はそんなに急いで私を結婚させたがるの?」

最初の言葉に喜びを見せた辰琉だったが、後半の問いかけを聞いた瞬間、表情はすぐさま曇った。

「さっき中で、ちゃんと説明しただろ?」

辰琉は少し苛立ちを見せながら言った。

「いつまでもその話を引きずるつもりだ」

緒莉は笑い声を漏らしたが、それはまるで冷笑のようで、目にはあからさまな嘲りが浮かんでいた。

「辰琉こそ、いつまで結婚の話を引きずるつもり?」

緒莉の鋭い視線に、辰琉は言葉を失った。

彼の家が結婚を急がせる本当の理由だけは、絶対に緒莉に知られてはいけなかった。

知られてしまえば、すべてが水の泡になるからだ。

辰琉は深く息を吸って、気持ちを整えた。

「緒莉、もう一度お義母さんとちゃんと話してみてくれ。安東家は、できるだけ早く式を挙げたいんだ」

そう言って緒莉の手首を掴み、抱き寄せようとしたが、

緒莉はすっと身をかわした。

「触らないで」

辰琉はバツの悪そうな顔をしながら、仕方なく手を離した。

「わかったわかった」

「とにかくちゃんと考えてみてくれ。俺はただ、君と一緒にいたいだけだ。もう緒莉と、離れたくないんだ」

緒莉はその言葉には乗らず、冷静に言い返した。

「もういいから、帰って。私も戻るよ」

何度も否定され、辰琉の顔色はますます悪くなったが、これ以上食い下がることもできず、車で帰っていった。

「わかったよ。じゃあ
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