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第518話

Author: レイシ大好き
こんな言葉、自分で言っておきながら、良才自身もあまり信じてはいなかった。

ただ、検査結果に異常がなかったからこそ、こうして大言壮語するしかなかったのだ。

幸いにも、辰琉たちにはまだ分別がありそうで、それが救いだった。

そうでなければ、この件は到底ごまかしきれなかっただろう。

良才の言葉を聞いた医療チームの面々は、お互いに顔を見合わせた。

何も言わなかったが、内心では彼の言うことにも一理あると感じていた。

医局を出たあと、医療チームは何度も確認しながらも、どうやって京弥に報告すればいいのか分からず困っていた。

彼らにとっても、このような症例は初めての経験だった。

紗雪の病室の前を行ったり来たりしながら、誰もが言葉に詰まり、重苦しい空気が流れていた。

そのとき、中から音を聞いた京弥がドアを開け、5人がその場で立ち尽くしているのを目にした。

彼は眉をひそめ、威圧的な声音で言った。

「そこで突っ立って、何をしている?」

「椎名様、これは......」

一同は目を合わせるばかりで、誰も口を開こうとしなかった。

彼らの煮え切らない様子を見て、京弥はすでに察していた。

「お前たちでも解決策が思いつかなかった?」

五人は互いに顔を見合わせ、最後には恥ずかしそうに俯いた。

京弥の厳しい問いに、どう返せばよいのか分からなかった。

「椎名様、実はこういったケースは私たちも初めてでして......正直、手の施しようがない状況です」

別の一人も追随して言った。

「はい。検査結果も見ましたが、確かに異常はありませんでした」

「他に手段が思い当たらないんです......」

その言葉を聞いて、京弥は心底うんざりしたように言った。

「病院を変えろ」

五人は顔を見合わせた後、先ほど良才が言っていたことを思い出し、それを伝えた。

「実は、木村先生の言っていたことにも一理あるかと思います」

「現在の夫人の状態は不安定ですし、無理に移動させることで頭部や身体に負担がかかる可能性があります。現段階では、この病院で経過観察を続けるのが最善かと......」

京弥は眉をひそめた。

「だったら観察しろよ。お前たちはそのためにいるんじゃないのか?」

「無能どもが」

そう吐き捨てると、彼は袖を振って病室に戻った。

紗雪の穏やかな横顔を見つめながら、胸の奥に深
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