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第608話

Author: レイシ大好き
「おばさん、今日はこれ以上長居しません。帰って荷物をまとめて、飛行機のチケットを調べますね」

そう言って立ち上がる清那に、美月も一緒に立ち上がり、何度も何度も念を押した。

「そう。でも清那、絶対に無理はしないで。安全が一番大事なのよ」

清那は真剣にうなずいた。

「はい、わかってます」

そう言い終えると、清那はそのまま振り返り、家を後にした。

出発前には、「必ず連絡を入れますから」と、美月に約束していった。

それはまさに美月の望んでいたことでもあり、心の中で「やっぱり清那でよかった」と思った。

やはり、こういうことは信頼できる人に任せるのが一番。

そうすれば、万一の心配もしなくて済む。

美月は玄関口に立って、清那の背中を見送りながら、心の奥に込み上げてくる感慨に静かに浸っていた。

「みんな、大きくなったのね」

もう、あの頃の何も分からない子どもたちではない。

今はそれぞれの場所で、大人としての役目を果たしている。

それでもなぜか、美月の胸には少し複雑な思いが残っていた。

その背後で、伊藤がいちごをお盆にのせて立っていた。

表情はどこか読み取れない曖昧なものだった。

もちろん彼も、美月と清那のやりとりを全部聞いていた。

そのときは何も違和感を覚えなかったが、今振り返ってみると、妙な点が多すぎる。

美月は、遠回しに清那を海外に向かわせたのではないか?

本来なら、家の人間を派遣してもいいはずだ。

それなのに、どうして彼女は、わざわざ一人の若い女の子に任せたのか。

もしあとから清那が真実に気づいてしまったら、あの子の純粋な気持ちが傷つくのではないか?

伊藤の心には、静かに不安が芽生えていた。

以前はまったく気づかなかった。

美月が、こんなにも策略深い人だったとは。

それとも、今まで自分の前では決してその面を見せなかっただけなのだろうか?

いや、よく考えれば納得のいく話だ。

もし美月に深い思慮がなければ、二川家はとっくに周囲の強者たちに食い尽くされていたはずだ。

今もこうして二川グループが残っていること自体、その証明と言える。

それは決して偶然ではない。

一方その頃、上の階からその一部始終を見ていた緒莉は、心の中でこっそりと笑みを浮かべていた。

母親が何か特別な手段を使ってくるのではと警戒していたが、まさか、送り出
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