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第929話

Author: レイシ大好き
だ初芽の心には特別な感情は湧かなかった。

一人で家にいた方が、むしろ気楽に過ごせる。

加津也がいると、かえって邪魔になるのだ。

それに、実際には生理なんて来ていない。

下手をすれば嘘がばれてしまう。

だから彼を行かせるのは不自然になる。

後で余計な説明をする羽目になるなんて、面倒すぎる。

「もういいから、早く帰って。買ってくれたものはちゃんと使うから」

初芽はそう言いながら、床に置かれた滋養品に目を向けた。

加津也はため息をつき、彼女の言葉に従うしかなかった。

大人同士なのだから、それぞれの独立した空間も必要だろう。

干渉しすぎれば、むしろ鬱陶しく思われてしまう。

ここは引くしかない――

そう思いながら、彼は何度も振り返りつつ去って行った。

去り際の胸中には、必ず紗雪に一矢報いてやるという思いが渦巻いていた。

二川グループに対しては、もう一切手加減はしない。

今の自分は、以前の自分とは違う。

実績さえ残せば、父もきっと初芽との関係を認めてくれるはずだ。

そんな風に心の中で自分を奮い立たせる加津也。

だが初芽にとって、彼はすでに扱いに困る駒にしか見えない。

何事にも首を突っ込み、以前とはまるで別人のよう。

まったく噛み合わない存在になっていた。

初芽はソファに身を投げ出し、深く沈み込む。

床に積まれた補品を見やりながら、細めた瞳の奥で静かに誓った。

次は、もう同じ過ちは繰り返さない。

彼と自分は本当に合わない。

このままでは、互いにとって良くない。

彼はただの踏み台に過ぎず、選ぶ権利など与えられるはずもない。

底辺にいた頃は気づかなかったが、上の景色を見慣れると、それがいかに心地よいかを知ってしまった。

付き合う人間も、触れる世界も、まるで別物だ。

だからこそ、初芽が望むのは「常に上にいること」。

決して誰かに支配される下の世界に戻ることではない。

加津也と一緒にいることなど、絶対に自分の行き着く先ではない。

そう心に定めると、初芽の瞳はさらに鋭さを増し、以前よりもずっと冷ややかな光を放っていた。

......

A国から帰国する飛行機の中。

緒莉は、隣に座る辰琉の姿を見て、不快感を隠せなかった。

彼は一応、人の手で身なりを整えられてはいた。

だが、その愚鈍な眼差しを見るだけで、胸の奥にざらつく
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