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第935話

Author: レイシ大好き
もし二人が今夜同じ部屋に泊まることになっていたら、それこそ自ら死地に飛び込むようなものだ。

おそらく夜のうちに、いつ命を落としたのかすら分からないだろう。

今の辰琉の様子を見て、緒莉は少し事情が分かった気がした。

この男の心の奥には、ただ暗い影が潜んでいるだけだ。

狂ったふりをしているのかどうかは、まだ判断できない。

しばらく様子を見てから、結論を出した方がいい。

緒莉はベッドに座り、足を組んでこれからの道を考え始めた。

このまま漫然と過ごすわけにはいかない。

そんなのは彼女らしくない。

もう十分に時間は経った。

自分が何を望んでいるか、本当はとうに分かっているはずだ。

ただ、導いてくれる人がいなければ、自分はきっとまた道を誤る。

本に書いてあったように、正しい方法を選ぶことは、歩く距離よりもずっと大事だ。

普通の人は一生を費やしても、才能ある者のスタート地点にすら届かない。

緒莉は鼻で笑った。

どうあっても紗雪と京弥、この二人のことは骨の髄まで刻まれていて、一生忘れない。

この人生、まだ望みはある。

今回の件が片付いたら、自分を監獄に追い込んだ連中は絶対に許さない。

この広い世界で、人を探すことなど容易い。

ましてや、名の知れた二人ならなおさらだ。

――

二川グループ。

ロビー。

紗雪は建物の外に立ち、自分の服装や今日の化粧を無意識に整えていた。

これまでなら、そんなことを気にすることなどなかったのに。

だが今は、家族と一か月ぶりに顔を合わせる場だ。

少しは身なりに気を遣わなければならない。

それに、ネット上には彼女を支持してくれる人たちも多い。

だからこそ、イメージを大事にする必要があった。

その様子を見て事情を理解した京弥は、心の中で思わず苦笑した。

こんな紗雪は初めてだし、これほど明るく笑う顔も見たことがない。

やはり仕事をしている時の方が彼女は生き生きするらしい。

いや、正しく言えば、自分の好きなことが彼女に新しい希望と力を与えているのだ。

その点は、京弥も心から敬服していた。

紗雪は何をするにしても、欲しいと思ったものは必ず手に入れる。

ただし、正規の手段で。

支度を終えた紗雪は、笑みを浮かべて振り返り、京弥に問いかけた。

「どうかな?変なところ、ないよね?」

彼女はまだ少し緊張
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