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第962話

Author: レイシ大好き
署長は片手を上げた。

「どうせすぐに人が来る。そしたら、あの二人の問題も片がつくだろう」

「誰が来るんですか?」

警官は興味津々だった。

あの二人の戦闘力は、ほとんど闘犬レベルだ。

そんな連中を黙らせられる人間なんて本当にいるのか?

署長は頷く。

「もう家族に連絡してある。間もなく到着するはずだ。あっちの騒ぎは、とりあえず放っておけ」

「了解しました」

警官の声には、珍しく嬉しさがにじんでいた。

要するに、あの二人とかかわらなくて済むなら、それで十分なのだ。

彼らは本気で人を精神的に壊せるタイプで、同じ勤務でも日に日に消耗が激しくなる。

署長は手を振って、警官を下がらせた。

警官は頷き、「失礼します」と言って退室しながら、そっとドアを閉めた。

少しでも署長に静けさを与えようと気を利かせたのだ。

見ていればわかる。

この数日、署長はあの二人のことで頭を抱えっぱなしで、一気に十歳ほど老け込んだように見える。

ドアが閉まったのを確認すると、署長は椅子の背にもたれ、大きく息を吐いた。

あとは二人が来るのを待つだけだ。

ここに滞在されている間ずっと、胃が痛くて仕方なかった。

警察署全体が、彼らのせいで落ち着かない。

正直、犯人を取り押さえる方がまだ楽だ。

だが、もうすぐ終わる。

ようやく終わるのだ。

ほどなくして、美月と孝寛の二人が到着した。

二台の高級車が前後に並んで鳴り城警察署の前に停まる。

美月が車を降りたちょうどその時、孝寛も反対側から姿を見せた。

目が合った瞬間、空気に火花が散ったような気さえした。

美月は相手の黒い高級車をじろりと見やり、「あら、これはこれは」と皮肉を隠そうともせずに言い放った。

奇遇なことに、今日二人が乗ってきた車はブランドまで同じだった。

美月の表情は一段と険しくなり、視界に入るだけで不愉快そうだ。

だが孝寛は、まるで何も感じていないかのように、丁寧な物腰で応じた。

「二川会長、奇遇ですね。こちらでお会いするとは」

その言葉に、美月は思わず白目を剥きそうになった。

互いの目的など見ればわかるのに、「奇遇」などとよくも言えたものだ。

「図々しいにも程があるわね?」

今回はもう、完全に遠慮を捨てていた。

こういう厚顔無恥な人間には、容赦しないのが一番だ。

でなければ、さらに
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Comments (1)
goodnovel comment avatar
敬江
早くザマァ展開に進んで下さい。 警察署長の心理なんてハッキリ言ってどうでもいいし、それを長々と読みたくない。 展開がスローすぎて、もう少し内容をまとめた話が聞きたいです。 心理描写ばかりで、少しくどいです。
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