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4-4.レイカ、夜間窓口業務になじむ

last update Dernière mise à jour: 2025-03-30 18:00:58

 空気入れ変えよ。バスケのユニホーム干してあるや。こーやって並んでるのを見るのはやっぱツライな。欠番があるのなんて、ウチのコーコーぐらいじゃないかな。バスケのゼッケンなんて野球とかと意味違うのにね。

4番と7番と9番ない。

ヒマワリ。

シオネ。

ココロ。

三人があのシーズンに付けてたゼッケン。忘れらんないよ。

 これ見るとあの事件のこと思い出しちゃうね。ウチらが高校三年の一学期、梅雨が始まったばっかのころ起こった女バス連続失踪事件のこと。

一番最初は、ヒマワリがいなくなった。

地区大会の練習でいつもより帰りが遅くなって、六道辻で一緒に帰った子とバイバイしたあと、いなくなっちゃった。ヒマワリのパパから捜索願いが出て、近くの池とか森の中とかも町の人総出で探したけど、見つかんなかった。

それからすぐに続けてシオネが、

梅雨が明けるころココロが行方不明になった。

あたしは、女バスのマネージャーってこともあったけど、

ヒマワリは、ミワちゃんもだけど、ちっさいころから家を行き来してよく遊んだ幼馴染だった。

ココロは家が近所だったからよく一緒に帰ってた。

シオネにはみんなには内緒の練習手伝ってもらってた。

だから、みんながいなくなって本当につらかった。

 事件の後、ヘンタイに攫われたとか、カミカクシだとか、悪霊の仕業とかいろいろ言われたけど、結局誰一人見つからなかったから、いつの間にか事件はうやむやになってって、なんでかヒマワリのパパ達も捜索願い取り下げちゃてて。しまいには三人一緒に都会に家出したんだとか、そんな子は初めからいなかったとかいう大人まで現れたりして。そういうことにもウチらみんながキズついた。

 ウチはこの町が超嫌いになってたから、高校卒業するとすぐに都会に出ようって、実はミワちゃん誘ったんだけど、ミワちゃん卒業式の時に言ったんだ、

「ヒマワリを待ってる」

 って。ミワちゃんすごい強いと思った。でもウチはダメだった。はやく忘れたかったもん。

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    【レイカ】 駅前広場、すごい人だかり。なんだろ。〈本年度のヴァンパイアお揃いコーデコンテスト優勝者はーーー〉〈デゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥル。ジャーーー〉 司会者、口で言ってる。予算のカンケーってやつ?〈天伴連町、ブラック・キャリエッタ姉妹の御二方でした〉 大歓声。あ、さっきの紫と赤のタイツの二人だ。まー順当だろーね、あの二人なら。〈それでは、記念品の授与と優勝イベントのほうを行いたいと思います〉 おー、金のすり鉢&スリコギ棒だ。高そー。大歓声と大拍手。パチパチパチっと。〈次はイベントのほうに移りたいと思います。あ、商品はこっちに預りますので。優勝者のお二人は、前の処刑台のほうにどうぞ。もちょっと前に。そう、そこです。用意があるので少々お待ちください。いいですか? 準備OK?〉「レイカ行くよ」「見て行かないの?」「ウチはいいわ」「あたしもいい」 なら、ウチもいいけど。すごい歓声。「ゴリゴリ! 殺せ! ゴリゴリ! 殺せ! ゴリゴリ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」 地面揺れてる? 【ヒビキ】 うわ、地響きしてる。周りの人たち殺気だってるよ。「ねーさん!」「なに?」「興奮するっすね!」 カワイ、お前も何気に辻っ子だな。【レイカ】 セイラは? 後ろ振り返ったら、舞台の上の二人が真っ赤な絵の具を浴びせかけられてた。セイラ、そんなところにしゃがんでると踏みつぶされちゃうよ。どうしたの? セイラ。息、上がっちゃってる。過呼吸? セイラ身体弱いのにあんな刺激の強いの見るから。大丈夫? 立てる? 行こ。キャリエッタ姉妹の念動力が地獄を呼ぶ前に。なんてね。……セイラ、なんで泣いてるの? うわ! 何あれ。ひどスギ。 【ヒビキ】 あと10分で12時か。あのイベント過激すぎだった。ペンキかけるだけでよくない? 斬首いらないよ。司会者が血まみれのマネキンの首を両脇に抱え

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-5.ヒビキも祭りに酔う

     で、いま冷たい手であたしの首ねっこ抑え込んでるのは誰かな?「ヒビキちゃん。人がワルイな。社長の差し金でいろいろ調べてるんだって? 予め言ってくれないと、こっちも準備あるからさ」 この声は町長。どうしてこんなところに?「言ったら極秘調査になりませんから」「おー、極秘調査ね。相変わらずヒビキちゃんは社長の裏仕事手伝ってるのね。でも、あんまりやりすぎると、この可愛い首どうかなっちゃうよ。ダメダメ、後ろ向くのはなし」 そーかよ、まずその手を放せよ。「おっと、どっかのバカみたく指へし折られるのは勘弁」 へし折る? ちょっとひねっただけじゃないの。会長が人のフトモモ触るから。「アタシのこの指はそう簡単には折れないけどね」 気味悪く節くれ立った指があたしの頬をなでた。長っが。触んな、きもい。爪伸びすぎだろ。(「町長? そうだよ。あいつもヴァンパイア。よそ者だけどね」) センプクさんの言ったことは本当だった。「こちとら辻っ子だ。お前らなんぞ怖くない」「あれ? なにいきってるの? 君の友だち殺したのアタシじゃないからね。恨み違いしないでよ」 何だと、ハナ毛。「あんたの指がきもいのはいいとして、腐った菜っ葉の匂いがしてるのはどうしてだ?」「おっと、いけない。ついつい本性出しちゃったよ。人に見られたら大変なことになる」 痛てて。押しやがった、転んじゃっただろ。ん? いない。町長が消えた。どこ行ったんだ? おおー、今頃震えが来た。止まんないよ。怖かった、すごく。 震えは止まったけど腰ぬけた。立ち上がれない。お、ちょうどいい。カワイだ。「おい、そこのセーネン」 そう、お前だよ、カワイ。ちょいちょい、こっちゃ来い。「カレー☆パンマンさんが何のご用でしょうか?」「ばか、あたしだよ。ヒビキ」「えー、ねーさんこんなところで何してるんすか?」「ちょっと転んで立てない。手を貸せ」 カワイに手を引いてもらってようやく立てた。立ち上がる時ふらついてカワイに寄り掛かったら、「ねーさん

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-4.ヒビキも祭りに酔う

     ヴァンパイア祭りになってから人の集まり増えたけど、こうやって人ごみの中に佇んでいると、ざわざわとした気持ちになって落ち着かなくなる。多分、この中にヴァンパイアが混じってるって知ってるからなんじゃないかな。さっきすれ違った紫と赤のペアーみたいなそれらしい格好じゃなくて、ごくあたり前の格好して。そいつが4年前にココロをあんな風にしちゃったんだ。 ココロが帰って来たってココロのパパから連絡もらった時は、本当にうれしくてココロんちに飛んで行った。帰ってきたのはずいぶん前だったって電話で言ってたのに、家に着いたら警察に連絡してないって言われて、初めてその時変だなって思った。 なぜかごめんなさい、ごめんなさいって言い続ける痩せ細ったココロのママに案内されて、台所の下の地下室に下りると、そこには猛獣を飼うような檻が設えられていて、中にうつろな目をした辻女の制服姿のココロが立ってた。 その時のココロを見て全て分かった。違うって。これはココロじゃないって。ココロは死んじゃったんだって。一時は、ココロをこんなにした奴が憎くて憎くて、怒りで狂い死にしそうになった。でも時間が過ぎると、やっぱりココロはそこにいて、あたしの名前を呼んでくれるし、黄色く濁った眼球、鋭い牙や爪、血管が赤黒く透けて見える白い肌をしていてもココロはココロだった。 あたしはどうしていいか分からなくなった。そして、毎日学校の帰りに冷たい地下室に籠ってココロと対面しているうちに、こうしてココロと一緒にいられることだけが大切なことに思えてきて、その他のことはウチらには関係ないって気持ちになった。 そうするうちにココロのママが2階のココロの部屋で首を吊って自殺して、ココロのパパがココロの食餌を調達しに出かけたまま帰ってこなくなり、最後はあたしがココロの面倒を見ることになったけど、それもこれも時間が過ぎただけのことで、あたしは何も感じなかった。 だって、死んでしまったココロが目の前にいるこの世界は、あたしにとっては、すべてが停止してしまったのと同じだったから。これからずっと何も変らない、そう思ってたから。

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-3.ヒビキも祭りに酔う

     三社祭。日中は暑かったけど、夕方になっていい感じに涼しくなってきた。シラベたちに一緒にって誘われたけど、仕事って断った。これも一応仕事だし。一人でぶらぶらしてるのは運営委員会が決めた変なルールに反すると思って、せめてってこのお面買ったけど大丈夫かな。ピロシキに目鼻つけたようなやつだった。これ、違くないか? 夜店のどぶづけの中見たら、「辻沢ダイゴ」ばっかり残ってるし、ラベルシール、瓶からはがれて水の中で泳いじゃってる。やっぱプロダクトの急ごしらえは禁物だ。「ママー、このミルクおえー」「だから変なの買わないのっていったでしょ。いらないなら捨てちゃいなさい」「ぼく。泣くな」 お、いなせなおニーさん登場。さらしにハチマキ、似あってるね。「このラムネと交換してあげるよ。いいや、お金はいらないよ、ママさん」「すみません。ダイキ、ありがとう言いなさい」「ありがとー」「いいって、こんなまずいもん押しつけやがるから、みんなが迷惑してらーね」 社長に見せらんない。おニーさん、ノボリに八つ当たりしなくても、あーあ。あとで買戻し要求されるの覚悟しとこ。 |陽物《チンコ》神輿にでっかく「辻川雄一朗をよろしく!」。町長の名前、思った以上に映《バ》えるね。電飾派手にして正解だった。それより、チンコの神輿、今年初めてなのに、皆さんに受け入れてもらえたのはありがたいな。「ねーちゃん。恥ずかしがんなって。毎晩、旦那のにまたがってんだろー」「乗りなれてるじゃねーの、あねさん。さすがベテランだね」「うるさいね。うちのやつは3年前から、使い物になんないよ」「おーい、旦那さんよー。頑張んないと捨てられちゃうよー」「いいよ、いいよ、持って帰っちゃって。それは奥さん専用だ」 それにしても、今年年女じゃなくてよかった。誰が言いだしたのか、年女はあれにまたがるもんだって。絶対社長に、「なに? ヒビキ年女なの、じゃ乗れ!」 って言われて、先頭切って乗る羽目になってた。あんなのに乗せられたら乙女一生の不覚だったよ。

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-2.レイカは祭りに酔う

     あそこの二人は、控え目に牙付けて口に血のりシール貼ってるだけだけど、さっきすれ違った二人組なんか、全身ヴァンパイアコスプレだった。紫と赤の全身タイツ着てマントつけて。気合入ってんなーって、注目の的だった。二人ともスタイルよかったし。  ウチらジモティーは夜店で買ったヴァンパイアのお面、頭に乗っけておしまい。あー、そうね。あそこにもいるけど、沿線のJKは、制服にヴァンパイアメークってのが流行りみたい。お揃いコーデ、メンドーだからだと思うけど。けっこー、かわいい。スカートの丈つめて、ブットい足晒して。 ヒ! ちっさいおばーちゃんたち。チョー怖い。 「なんか、今年の志野婦の神輿、ちん(ピー)の形してるんだって」(ナナミ、ファール) 「やめてよー。ナナミ」 「セイラ、お前。何ぶりってんだ?」 「ないわ、辻沢の祭りは女祭りだよ」 「山椒の木の寄木造りって書いてある」 「レイカ、お前はどこの人だ。さっきからパンフばっか見て」  ケッコー面白いよ。 「山椒の木ってのは最悪だね。宮木野さんとこNGのはずなのに」 「どぃうこと?」 「宮木野さんは山椒の木の元で死んだから、神社に山椒は持ち込めないことになってる」  ふーん。そーいえば、役場の宮木野さんも山椒の木の下に寝転がってた。 「年女があの神輿に跨がるってパンフに書いてある。豊作祈願だって」  ちん(ピー)に女の子が乗るって、恥ずい。(レイカ、ファール1。反省) 「セイラ、今年、年女でなくてよかった」 「そーだねー。セイラは乗せらんないね」 「ミワちゃんは?」 「あたしは、別に気にしない」 「ちん(ピー)にのったミワの姿って、ワラエル」(ナナミ、ファール2) 「ウケル。そん時は、ナナミも同乗してるから。同い年、二人とも笑」 「レイカもそん時は年女だろ。ママハイ仕込みが」 「ほっとけや」  って、ナナミ、ヤマハイ仕込みでなくってママハイって言ってたんだ。ママの言うことハイハイ聞くって意味か。ウチ、そんなでもなかったよ。とくにコーコーの頃は。ナナミにテクニカルファールみとこ(ナナミ、ファール

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-1.レイカは祭りに酔う

     今夜は三社祭です。ミワちゃんとナナミとセイラと来てる。カリンも誘ったけど仕事だって、こんな日に。かなりブラック、カリンの会社。ミワちゃんの黄色地に白い花柄の浴衣キレー。ナナミ、相変わらず肩幅広っろ。その浴衣おとーさんの? 渋すぎでしょ。セイラはいったいいつからそーいう趣味になった? ゴスロリ浴衣って。でもアンガイ似あっててカワイイ。ウチはママの拝借。ちょっとオトナな感じの赤地に黒い縦じまの浴衣。高倉さんにママの浴衣出してって頼んだら着付けまでしてくれた。《《おはしょり》》長すぎて腰紐高くしてるのは内緒。 三社祭は宮木野神社と志野婦神社のお祭り。二社しか参加しないのに三社っていうのは、カゲ社といって数揃えを入れてるから。二より三の方が縁起いいしょ。でも、三つ目は青墓の杜にむかーしあった青墓神社のことって言う人もいる。ホントのところは分かんない。ウチは俗説の、宮木野さんと志野婦さんの双子の姉妹の他にもう一人男の兄弟がいて、三社ってのが好き。 ウチは8年ぶりの三社祭。もとは4年ごとのお祭りで、ちょうど4年前にはあの事件があって中止になってた。でも、ミワちゃんたちは毎年参加だって。ヒマワリのパパが商店街振興を掲げて町長に当選してすぐの仕事が、三社祭を毎年開催に変えたこと。無理っていわれてたことを共催企業を募ることで実現したって。これはお祭りのパンフの受け売り。「ヤオマンの提灯と、三社祭の提灯、半々って感じ」「ほんとだー。んっぐぐ」「レイカ、お前、その腐れ牛乳好きだな。何本目だ?」「3本目。おいしーよ。あれ? なんて名前なんだっけ。ラベルない」「辻沢ダイゴ。あのノボリに書いてある」「ダンス・飲・ザ・辻沢ダイゴ!」「ほれ、レイカ。踊れ!」「あ、かっぽれ、かっぽれ」「なにそれ?」「知らない」 あぶな、人にぶつかりそーになった。あんなでっかいヴァンパイアの被り物二人でしてたら邪魔でしょに。てか、周りヴァンパイアだらけ。 宮木野さんと志野婦さんの双子姉妹がヴァンパイアって言い伝えをもとに、女の人はヴァンパイアの格好をして参加するように呼びかけてるんだって。二人一組でね。お揃いヴァンパイアコーデってやつ。

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