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第6羽:生徒会長とエンドロール(下)

last update publish date: 2026-04-12 23:58:51

キヨミの目が見開かれる。頭の中が真っ白になる。

アズサはゆっくり顔を離し、キヨミの瞳をまっすぐ見つめた。その瞳は宝石のように輝いていた。

「私たち、恋人同士にならない?」

映画のストーリー以上にわけのわからない展開に、キヨミは何も答えられない。ただ熱く残る唇の感触を、どう受け止めれば良いのかわからない。

アズサは満足げに微笑むと、再びキヨミの肩を引き寄せ、もう一度、深く長いキスをする。アズサの舌が口の中に侵入し、キヨミの舌に絡んでくる。大人のキスだ。経験したことがないわけではない。ただ、その日初めて会話を交わした者同士でやってよい行為なのか。

とっさにキヨミはアズサの体を押しのけた。唇が離れ、「おっと」とアズサの口から漏れる。

「なぁに? 嫌だった?」

アズサはニヤニヤしている。キヨミの心臓は、ドクンドクンと大きく脈打っている。何も答えられない。

「黙っちゃって。嫌だった……にしては、判断遅すぎかな」

アズサのツッコミは正しい。一緒に映画観て、1度キスをし、2度目でようやく拒絶。まるでずっと思考が麻痺していて、ようやく我に返ったようだ。仮にその通りだとしても、そんなことを言い訳にはできない。

「まぁ、何も反応がないのも困るけどね。お人形さんなのかなとか思っちゃった」

アズサはそう続けた。お人形さん。褒めてるのか、バカにしているのか。

「どうして私なんですか?」

キヨミはようやく言葉を返す。アズサは「どうしてって……うーんと、可愛いと思ったから?」と答える。

「他にも、いるんですか?」

質問を重ねると、一瞬キョトンとしたアズサだったが、

「他にも……あ、他にも恋人いるのかってこと? やばっ、今の誘い方、そんなにチャラかった?」

チャラい。確かに、ポップに表現するならそうだ。普通、いきなりキスはしてこない。それも、2度も。

「まぁ、最近まで付き合ってはいたけど、今はフリーだよ。君は? もしかしてすでに付き合っている人とかいた? ええと……イチノセキヨミちゃん、だよね」

名前……まだ、名乗っていなかったハズだが。そうか、破られたノートに書いてあったのを見ていたのだろう。

「いえ……いないですけど。ただ、同性の恋人なんて持ったことないですし……しかもそれが、フカミ先輩なんて……」

「あれ、フカミって……私の苗字、名乗ったっけ」

「だ、誰でも知ってますよ、うちの高校の生徒なら……有名人ですし」

「有名人……へー、何か私、そんな目立ってたんだぁ。照れますなぁ」

ポリポリと頭をかくアズサ。まさか自覚していなかったとは。案外、そういうものなのかもしれない。大勢の生徒から慕われている彼女だが、そんな自分のカリスマ性には無頓着なのだろう。

「まぁ、そんな“苗字+先輩”なんて、仰々しい呼び方しなくていいよ。恋人になるんだから、下の名前で呼んで。“アズサ”って」

「え、えと、恋人って……本気で言ってるんですかっ」

急にたどたどしくなるキヨミ。常に冷静沈着なのが彼女の特質なのに、アズサの前では本来の自分でいられなくなる。完全に取り乱している。ただそれは、もうすでにアズサに心を奪われているということなのかもしれない。

再びアズサが顔を近づけてくる。だが、目はもう笑っていない。

「キヨミ……そんな風に戸惑ってくれる様子もカワイイけど、今のはちょっと失礼かも。冗談でベロチューなんてするような人間じゃないから、私。告白するときは常に本気よ。本気であなたのハートに狙い定めちゃってる」

恥ずかしげもなく、そう口にする。確かに冗談で言っているような雰囲気ではない。ただ、そんな彼女が“怖い”と感じたのも事実だ。再び黙るキヨミ。

と、その様子を察したのか、

「あら、ごめんなさい……私ったら、一方的すぎよね。もし、今の告白がキヨミにとって迷惑なら、ちゃんと言って。私、無理強いはしたくないから。前の恋人だって、私が束縛しすぎてダメになっちゃったし……」

急にしおらしくなるアズサ。少し憧れのようなものも抱いていた先輩だった、それは間違いない。だがそんな先輩から、ノートを破られたり、一緒に映画を観せられたり、キスされたり、恋人にならないと告白されたり……わけがわからない。

ただ、“わかりたい”という気持ちが湧いたのは事実だ。アズサの気持ちに興味が湧いた。なぜ彼女がキヨミに急に声をかけ、かれたのか。

“可愛いと思ったから”なんて、恐らく嘘ではないだろうが、本当の理由はきっと他にもあるはずで、きっと彼女自身もまだ言語化できていないのだろう。

そして何より、キヨミ自身がアズサに惹かれ始めている。それを恋愛感情と呼んでしまっていいのかはわからない。ただ、キスの感触は……2回目の大人のキスも含めて、嫌じゃなかった。むしろ、もっと深く交わりたいとすら思った。

ジワリ、と、下腹部に違和感があった。まさか、濡れている……性的な興奮を覚えている? 言葉にするより、体の反応の方がいつも正直すぎて、恥ずかしくなる。

「迷惑じゃ……ないです。ただ、私なんかで良いのかって。まだ私、先輩のこと知らないし。できれば、もっとお互いを知り合ってからの方が……」

「ええ!? 迷惑じゃないの? なんだ、よかったー! ビックリした、嫌われちゃたのかと思った。あははははは!」

急に笑い出すアズサ。ジェットコースターのように感情が変化する。まるでつかみどころがない。だが、ますます興味が湧いた。

「あ、じゃあさ、恋人になることを前提に、まずは友達から始めよう」

アズサの提案に、キヨミはようやくこくりとうなずき、同意を示した。友達からなら……だが、すでにショーツはじゅくじゅくと湿り始めている。恋人になるという提案に抵抗を示した自分の方が、その言動とは異なる体の反応を示していた。

その晩、キヨミはベッドの中で、アズサのことを想いながら自慰に興じてしまった。彼女の舌がキヨミの口の中に侵入し、舌と舌を絡めた、あの一瞬の出来事を思い出しながら。

「くっ……うっ、はっ……!」

噴き出した体液が、あらかじめ敷いていたタオルを湿らせていく。こんなに感じたことが、これまであっただろうかと、思い出してみる。中学時代の、留学生男子との情事を。そしてまだ記憶に新しい、とある社会人男性との記憶も。あれだって、1回きりの出来事だ。

そして、もう一つ……何か忘れているような気がする。

「あれ、何だっけ……」

声に出てしまう。思い出せない。最も大切だと思っていたものが。アズサの舌の感触で、上書きされてしまっているような。

もうすでに、アズサのことしか考えられなくなっている。

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