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ゾンビ溢れる世界、彼は幼馴染のために私の活路を絶った
ゾンビ溢れる世界、彼は幼馴染のために私の活路を絶った
Author: 春雨遊夢

第1話

Author: 春雨遊夢
ゾンビが蔓延る終末世界で、私の恋人は、撤退時間を遅らせろと喚いていた。

たった一人――彼の我儘な幼馴染を最後の救援ヘリに間に合わせるためだけに。

これは人類に残された最後の撤退作戦。私たち生存者チームにとって、唯一の活路だった。

彼女がいくら待っても現れないから、私はやむなく恋人を気絶させ、ヘリに担ぎ込む。

彼が執着した幼馴染は、やがて津波のように押し寄せたゾンビの群れにのまれ、絶命したと聞いた。

辛くも生き延びた私は、恋人と安全区域で束の間の平穏な日々を送る。

やがて私が安全区域の全権を掌握し、人類の存亡を懸けた反撃作戦を開始しようとしたその前夜――

恋人は私の飲み水に睡眠薬を盛り、蠢くゾンビの群れへと私を突き落とした。

何百、何千というゾンビに内臓を引きずり出される激痛の中、私の意識は途絶える。

城壁の上から、彼が冷たく笑う声が聞こえた。

「お前が自分勝手でなければ、穂香ちゃんにも生きるチャンスはあったんだ。

彼女が味わった苦しみを、お前もその身で味わえ。命で償うんだな!」

――そして、二度目の人生がスタート。私は恋人が、撤退を遅らせろと騒いでいたあの運命の日に戻れた。

……

「これが最後のチャンスだ!今すぐ出なければ、全員がここで死ぬぞ!」

隊員たちの切迫した声が響く。彼らは退路を塞いで立ちはだかる林優太(はやし ゆうた)を必死に説得している。

「穂香ちゃんがまだ来ていない!あと五分待つくらい、いいだろうが!」

優太は冷徹な表情を崩さず、その場を微動だにしなかった。

「あいつ一人のために、俺たちまで危険に晒すつもりか!林、いい加減にしろ!」

隊員たちの焦りは、すでに頂点に達していた。

見かねた一人が、優太を力尽くで引き離そうと駆け寄る。

だが次の瞬間、乾いた銃声が響き渡った。

弾丸が隊員たちの頭上を掠め、悲鳴が上がる。

「貴様、何を考えてるんだ!」

仲間たちの怒声に対し、優太は逆ギレしてみせた。

「そっちこそ卑怯者だ!恥を知れ!

穂香ちゃんが来るまで、誰もヘリには乗せん!仲間を見捨てる奴に、生きる資格なんてあるか!」

副隊長が困惑した表情で、私に視線を向ける。

「文乃さん、軍のヘリが間もなく離陸します。これ以上は、私たちも……」

私は皆をなだめるように微笑みかけると、優太の隣へ歩み寄り、そっと彼の肩に手を置いた。

「優太の言う通りだよ。私たちは誰一人見捨てない。それが、このチームの誓いでしょう?穂香が少し遅れたからといって、彼女を置いていくことはできないよ」

その言葉に、全員が息を呑んだ。私がそんなことを口にするとは、誰もが信じられないという面持ちだった。

「た、隊長……何を仰るのですか!林が恋人だからと、これみよがしに庇うなんて……」

「黙れ!」

優太が再び、威嚇するように空へ発砲する。

「文乃が決めたんだ。穂香ちゃんが来るまで待つと。なら文句を言うな!」

銃を持っていながら、さらに私の支持を得た優太は、勝ち誇ったように口の端を吊り上げた。そして、そっと私に寄り添い、優しく囁く。

「文乃、やっぱりお前は違うな。どんな時も、筋を通す」

私は微笑んで、彼の頭を撫でた。

「大切な友人である穂香を、見捨てるわけがないじゃない」

だが、優太は知らない。そもそも私には、このヘリに乗る必要などないということを。

ウイルス学の専門家である私には、電話一本で軍の専用機が迎えに来ることになっているのだ。

そして私のチームは――優太と清水穂香(しみず ほのか)という例外を除けば、全員が各分野におけるエリートだ。

前の人生で、実力不足の優太を連れて行こうなどとしなければ、私は仲間たちと安全な専用機で基地へ向かえたはずだったのに。

今度こそ、代償を払わせる。あんたたちの身勝手な判断が招いた、最悪の結末を。

心から慕う幼馴染――これまで何度もチームを危機に陥れたあの女と、共に地獄へ堕ちてもらう!

誰も反論できずにいるのを見て、優太はますます悦に入っている。

時間だけが刻一刻と過ぎていく。遠方からは、黒い津波のようなゾンビの群れが、すぐそこまで迫っていた。

その時、息を切らせた穂香がようやく姿を現したのだった。

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