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心機一転!引越をしよう。②

Author: 藍沢咲良
last update publish date: 2026-09-04 15:27:25

「ふーん。いくら?」

「20万」

「ソッカー。ジャ、オサキシツレイシマス」

勝ち誇った顔をする大原理紗。

棒読みでその場を去る私。

視線を逸らして肩を振るわせる環。

頬をひくひくさせながら掲示物を見る日菜ちゃん。

早く!立ち去るのよ!

表情が崩れるその前に!

ああダメ!口角が上がる!

耐えろ!私の表情筋!

エレベーターに駆け込む。

大きく息を吐く。

他に人がいなくて良かった。

環と日菜ちゃんとのグループLINEに通知が入った。

『……深月さん、ちょ、さっきの給湯室さw』

『なに』

『絶対ちょっと狙ったでしょ。お財布には気をつけてってw』

『…………うっすら?』

『うっすらどころじゃないですって。大原さん、一瞬固まってましたよ!』

『でも持ち直したね。元彼が会社?作るって?』

『そう。司が独立だってよw』

『20万て……wその4分の3、深月先輩に来るやつですよw』

『引越資金キタねw』

『ありがたい限りです』

『腹筋崩壊し過ぎて仕事進みません(泣)』

『がんばれ日菜ちゃん!キミならできる!』

再び表情筋崩壊。

腹筋も絶賛崩壊中。

いかんいかん、顔、戻さなきゃ。

エレベーターが1階に到着。

ドアの向こうには、昼休みにはる兄ぃと一緒にいた久世さんがいた。

私が「ビズ・デブ……?」って言ってたのは聞こえてないはず……!

あの時こっちを見た気がするけど、きっと気のせい、大丈夫!

「おつかれさまです」

「おつかれさまです」

営業スマイルで久世さんの横を通り抜けた。

アオバ賃貸パートナーズの看板のあるビル。
その1階の店舗の前で、私は立ち止まった。

来店予約ってしないといけないのかな?
スマホの店だと最近必須だけど、不動産屋はどうなんだろう?

いいや。ダメならダメと言われるだろう。
さあ、いざ!
私の新居よ、出でよ!

ガラス戸の自動ドアが開いた。
涼しげな冷房の空気に包まれる。
視界の先には、芸能人でもおかしくない美男美女がカウンターやデスクで仕事をしていた。

何この店舗。
本社ビルの店舗だから?
顔採用とかあるのかなこの店。
どちらにしろ、目の保養!
大原理紗と········にやられたメンタルが回復していくのがよくわかる。

うん、この店来て良かった!

「いらっしゃいませ。お部屋、お探しですか?」
「はい」

……耐えた。耐えたよ?
食い気味に答えず、クールな客を演じた私、今日の主演女優賞ね?

「そちら、おかけください。承ります。速水です」

はいイケメーン!
その隣に座って他の客の相手をしてる男性も、奥で難しい顔してPCパチパチしてる人も、イケメーン!

いいね、この店。
美の塊。
即いい部屋が見つかりそうな予感!

「できるだけ早く入居したくて。この、部屋なんですが」
スクショした画面を速水さんに見せた。

「お調べしますね」

速水さんがPCのキーボードを打つ。
大きめの手。長い指。
うん、いいね。私好みの手。

「あ……申し訳ありません。この部屋は本日入居が決まってしまったようです」

……何ですと?

「他に似たような物件を探してみますね。ご希望の条件をお伺いしても?」

あの部屋で私の第二の人生が始まるはずだったのにな。
この申し訳なさそうな困り顔の営業スマイルに免じて許してやるか。

「その……できるだけ早く引越ししたいんです。元彼に鍵を複製されてるかもしれなくて」
速水さんは目を見開くと、すぐに真剣な表情に戻った。

「それは一大事ですね。まず、即日入居可、最寄りの駅は……先程の物件と同じ山王駅でよろしいですか?」
「はい。それから、セキュリティがしっかりしてて、2階以上のお部屋で、できれば角部屋だとありがたいです。あと、駅から近いところで」

速水さんが条件を入力していく。
私が条件を追加するたびに眉が寄っていったのは気のせいだろう。

「うーん……現在空いているお部屋で、角部屋っていうのが現在見当たらないですね」
「じゃあ、角部屋でなくてもいいです」

角部屋の方がトラブルは少なそうだけど。
仕方ないよね。

「うーん……こちらは退去予定の物件で、ご入居可能になるのが一か月先ですね……」


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