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3.インベントリ

Penulis: 空空 空
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-19 18:04:10

「さて、そしてここからが……もう少し面白い話だ」

 鹿間さんが表情を変えて言う。

そうしてこの部屋に入った時からあったソファーの上のバッグから銀色の腕輪を取り出した。

鹿間さんの腕に装着されているものと同じものだ。

「これ、なんだか分かるか?」

「インベントリ……」

 鹿間さんは俺の返答にニヤリと笑う。

「ハハ、そうだな。ま通称だけど。正式名称は……あー、ボクも覚えてないや。まあそれはいいとして……こいつは明日からの七日間、今日を含めるなら八日間君のものだ。あぁもちろん、正式にクリーナーになればずっと君のものになるよ」

「こ、これが……本物の……」

 絶対高価なものだろうに、鹿間さんは無造作に俺に手渡す。

見た目よりだいぶ軽量で、そのせいで逆に取り落としそうになってしまった。

「そう、それが本物のインベントリ。ダンジョンの空間歪曲・拡張現象を応用してのいわば四次元バッグだ。まだ謎の多い技術が使われてるから一般には出回ってない。クリーナーにだけ支給されるものだ」

「こういう場面で持ち帰って売っちゃう人とかいないんですか?」

「ハハハ、面白いこと聞くな。実はな……ウチじゃないんだが一回そんな感じのことが起きたみたいでな、それ以来この場で装着してもらうことになってる。一回装着したらこっちでしか外せないからな。あ、だから……どこに着けるかはよく考えろよ? どのくらいの直径まで対応してるか気になるとか言って頭にはめたらそのまま外せなくなったやつとかいるからな」

「えぇ……」

「……ちなみにそいつはウチで起きた話だ。しかも現役。流石にいったん外そうかって話になったんだが、案外気に入ったみたいでそのままだ」

「えぇ…………」

 とりあえずここで装着するようになっているみたいだから、無難に利き腕の右腕にはめる。

接続部をロックしてからしばらくすると自動で輪が収縮し、ぴったりのサイズになった。

その仕組みも含めて、謎の多い装置だ。

「っていうか、やっぱり鹿間さんもクリーナーだったんですね」

「ん? ああ……そうだな。ダンジョンについての説明をせにゃならんのだから、よく知ってる当事者に任せるのが適任だろう? 因みに、ボクもこう見えてC級ね」

「こう見えてって……鹿間さん見た目からしてだいぶ強そうですよ……」

「ハハハハ、まぁな。けど結局は筋肉つけてもダンジョンでの強さはスキルやステータス……おっと、ちょうどいいそのインベントリの別の機能についても話そうか。C級とかB級とかいう等級が何を目安に着けられてるかもわかるしな」

「別の……機能?」

 インベントリという名で呼ばれるくらいなのだからいわゆる「インベントリ」としての役割があるのは分かるのだが、こんな腕はにそんなに機能を詰め込めるものなのだろうか?

「まぁ聞いてくれよ。このインベントリにはレベルシステムというのがある」

「レベル……システム……?」

「ああ。なに、難しいことじゃないさ。この腕輪は覚醒したスキルも含めて装着者の能力値を評価する。そして数値化する。それがステータスだ」

「な、なんか……ゲームみたいですね……」

「だってわかりやすいだろ? それに……実際にゲームみたいな世界に飛び込んでいくわけだしな。まぁそれ故の問題というのもあるんだが……」

 鹿間さんはそういって少し唸るように難しい表情を浮かべる。

しかし「それはまぁいいか……」と流して説明を続けた。

「で、ここから等級とかにつながる話になるわけだが……そのステータスの各数値を参照して総合力とでもいうべきか……それを今度はレベルという形で表現するんだ。10レベルまでがE級、20レベルまでがD級……そして21から49レベルまでがC級だ」

「あ……C級の範囲はちょっと特殊なんですね……」

「まぁそうだな。範囲が他より広いからC級内での実力差も結構あるし、人数も一番多い等級だ。そしてB級、こいつが50レベルから60レベルまでの範囲の等級だ。ここまでくればかなりの実力者……A級までいけばほとんど怪物だ。A級は61レベル以上な。レベルアップで昇級できるのはここまでだ」

 レベルという概念まで出るとなると、ますますゲームじみてくる。

研修だというのに何の話を聞いているのだろうという気持ちにすらなって来た。

「っていうか、これより上もあるんですか?」

 さっきの言い回しだとまるでA級より上があるかのような感じだ。

俺の質問に鹿間さんは深く頷く。

「ああ。ここからさらに高難易度のダンジョンをいくつも攻略したり、大きな功績をあげた者はS級クリーナーとして認定される」

「S……級……」

「日本国内ではまだ一人だけだ。ダンジョンもクリーナーと同じように等級で難易度が評価されるんだが……なんでもS級ダンジョンを何度も一人で踏破しているらしい。いつも基本的に一人で攻略に向かうらしいから、S級だってのに誰も名前と顔すら知らないんだ。どんな奴か知ってるのはそいつを抱えてる協会か、あるいは他企業だけだろうな」

 あんまり上澄みの話をされると、こうして実際クリーナーになろうとしてみてもやっぱり違う世界の話のように聞こえる。

というかまぁ流石にそこまでの器じゃないか、俺は……。

ここで「いやそれでもわからんだろ!」とか思うほど自惚れちゃいない。

「さ、レベルについてもステータスについても話したな。じゃあ次に知っておいてもらわにゃならんのが……」

 黙って鹿間さんの言葉を待つ。

鹿間さんは少し表情を変え、姿勢を正した。

それだけで空気がガラッと変わる。

「ダンジョンクリーナーはこの人間社会においては少し異質だ。乱暴な言い方をすれば人間の枠からは少し外れることになる。ダンジョンに対処するための重要な人材でありながら、野放しにしてはいけない者達でもある」

「は、はい……」

「だから、だ。そのインベントリには協会に位置情報を共有するようになっている。ダンジョン外でのスキル使用は基本的に認められていないし、もし使ったらすぐにインベントリから情報が行って協会から調査がある。場合によっては身柄も拘束する。まぁもしなれたらの話にはなるんだが、自分がどういう立場の人間になるのかということは肝に銘じておいてくれ」

「はい……!」

 俺の返事を受けて、鹿間さんの表情がまた軟化する。

そして肩を鳴らしてから笑った。

「ハハ、ここら辺の話をすると一定数の人たちはその時点で辞退するんだけど、君にその確認は不要そうだな」

「まぁ位置情報をつかまれたからといって特に俺がどうってこともないだろうし……」

「ま、協会が個人情報を悪用することはないから安心してくれ。ボクの話すべきことは大体話させてもらったよ。最後にこれを渡しておこう」

 そう言って鹿間さんはまたソファーのバッグから何かを取り出す。

そうして手渡されたのは、一枚のカードだった。

真っ白なそれには俺の名前だけがプリントされている。

「これは……?」

「会員カードみたいなものさ。あ、研修中はケースに入れて首から下げてもらうからなくさないでね。君が正式にクリーナーになれば、そのカードに等級が印字される。今はまだ何もないからブランクカードだ。身分証明に使えて……あと戦績もそのカードに記録されることになる。何級のダンジョンを何回攻略したとか、何人で攻略したとか……そういうのがスコアとして記録されるんだ。ウチにあるカードリーダーでそういう情報はみられるから」

「なる、ほど……」

 ひとまずなくしてはまずいものだというのでさっさとしまっておくことにする。

そこでふと、ちょっとした好奇心が湧く。

「このカードってインベントリにしまっても?」

「……。うん。ダメとは言わないけど……おすすめはしないかな。まだよく分かってない技術だから」

「なるほど」

 インベントリにしまうのはやめておくことにした。

「それじゃ水瀬君、挑むダンジョンと指導クリーナーさんが決まったら連絡するから……。これから一週間、頑張ってね」

「……! はい! ありがとうございます!」

 思えばこんなに多くの言葉を他人と交わしたのは久しぶりだ。

俺の中で人と会うことのハードルが無駄に上がっているというのもあるだろうけど。

でも少なくとも、俺は今日やっと一歩目を踏み出せた気がするのだ。

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